第2話 学園の寮に入る
私がフォンタナ王立学園の女子寮に入寮したのは、入学式の三日前のこと。
その日、王都にあるダンジェロ公爵家のタウンハウスから私は馬車に乗って学園へ向かった。
馬車を降り、校門を入って足を止め、あたりを見回す。
校舎へと延びる道は大きな馬車が二台並んで走ってもまだ余裕がありそうなほどに幅広く、整然と刈り込まれた丈の低い青々とした生垣が両側を彩っている。
そして道の向こう、正面には歴史を感じさせる堂々とした校舎が鎮座している。
ここで私は三年間、思う存分学ぶんだわ。
学びたい事はたくさんある。
三年間では足りないかもしれないほどに、ね。
フォンタナ王立学園は身分に拘わらず誰でも入ることができるが、そのためには必ず入学試験を受けて合格しなくてはならない。
もちろん親の地位もコネも資金力も通じないため実力で入学資格を勝ち取るしかない。
基礎学力検査で合格点を取れば一般生徒として入学でき、さらに厳しい試験による選抜を勝ち抜いた者は特待生として入学できる。
当然、入学できればあとは安泰ということはなく、一般生徒でも特待生でも学期毎の試験結果如何では退学処分もある。
厳しいのも当然、ここは一流の教師、設備、環境が整えられている王国随一の教育機関だから。
それに、ここには王国の各地から生徒が集まってくるから、きっと個性豊かな生徒たちと実のある交流ができるんじゃないかしら。
どんなお友達ができるかしら。
とっても楽しみだわ。
そんなことを考えながら、私は女子寮へと足を運んだ。
校舎より手前で右へ折れ、少し歩けば寮に到着する。
そこには男子寮と女子寮が並んで建っていた。
フォンタナ王立学園は全寮制。
私は特待生として入学したので、女子寮の最上階に個室を割り当てられている。
寮も校舎と同じく古びた感じだけれど、落ち着きのあるどっしりとした建物だ。
さっそく中に入り、入り口脇の管理人室にいる管理人に名前を告げ、入寮許可証を渡す。
私の部屋は最上階である五階の10号室。
最上階は特待生だけが出入りを許可されるフロアとなっていて、階段を上がるとフロアの前に魔石が嵌め込まれた認証用のドアがある。
私は管理人立ち会いのもと、そこで生体登録を済ませた。
今後は認証用のドアに手をかざすことで最上階の出入りが可能になる。
特待生は寮においても優遇されていて、割り当てられた自室で研究や実験をしても良いことになっている。
フロアへの立ち入りを制限することで機密保持もできる、ということかしら。
ありがたいわ。
薬草を持ち込んでポーションを作ったり、魔道具の設計をしたり、他にもいろいろしたいことはあるものね。
厳しい入学試験を突破して特待生として入学できて本当に良かった。
続けて自室のドアの生体登録も済ませる。
これで基本的に私以外の人はこの部屋に入れないようになった。
掃除や洗濯は寮付きの使用人が毎日してくれることになっているが、出入りする際はフロアと自室のドアの両方で毎回身体検査をするとのこと。
きちんと盗難防止や安全面における配慮がなされている。
これで入寮手続きは完了したので、私はさっそく自室に入った。
正面に広々とした窓。
その手前に大きくて頑丈そうな焦茶色の机と椅子が置かれている。
部屋の左側にはカーテンの仕切りがあって、その向こうにベッドが設えてあり、造り付けのクローゼットがある。
右側には机の横に本棚が設えてあり、入り口寄りの位置にはドアがあって、そこを開くとバスルームになっていた。
あら、バスタブだけじゃなくてシャワーもあるのね。
なんて素敵な造りなのかしら。
朝稽古のあと汗を流すのにちょうどいいわ。
私は三歳半からずっと剣術の稽古を続けている。
自分の身は自分で守れるように、との父の考えで、ある程度手ほどきを受けたあと、叔父のもとに預けられてひと通りの剣術を仕込まれ、その後は兄や従兄弟たちと共に剣術の稽古を続けて今に至る。
だから早朝の稽古を欠かすと調子が出ないと感じるほどに私の体になじんだ習慣だ。
部屋の真ん中に先に送っておいた荷物が置いてある。
私は真っ先に、許可を得て持ち込んだ稽古用の剣を取り出して状態を確認した。
それからさまざまな実験用の材料や器具、本などを取り出して机と本棚に並べ、剣、制服、外出着、稽古着、靴などはクローゼットに仕舞って片付け完了。
寮に入るのだから自分のことは自分でできるように、と、しばらく前から練習してきたのでそれほど時間はかからなかった。
あらためて部屋の中を見回し、自分の部屋らしくなったわ、と思う。
ここに根を下ろした、って感じがするわね。
さあ、そろそろお昼時。
お腹も空いたことだし、さっそく食堂に行きましょう。
お願いしてあることを確認しておきたいしね。
私は制服に着替え、寮を出た。