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お転婆エミリアーナは好奇心のままにつき進む 〜私は悪役令嬢だそうですがヒロインにつきあっている暇はありません  作者: 帰り花


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第15話 稀有な目

入学式翌日。


いつも通り、私は早起きして稽古着に着替え、稽古用の剣を手にして訓練場へ向かった。


訓練場の一角に陣取って、素振り(すぶり)から始め、やがて仮想の敵に対する受けと攻撃を織り交ぜた剣技に移る。

前後左右、上下、死角、あらゆる方角からの攻撃を想定しての訓練だ。

幼い頃から欠かさず続けてきたこの稽古。

自分の手で自分を守れるようにするために叩き込まれた技の数々。


一通り剣技の稽古を終えて、ふと、この剣技の雛型を考えてくれた叔父のことを思い出した。



私は幼い頃、一時期父方の叔父が治める領地へ送られ、その叔父から剣術に加えて魔力をコントロールするための訓練を受けた。


その敬愛する父方の叔父は貿易都市カタラーニアの領主であるリベルト・マリーノ侯爵。

若い頃は自身も海の魔物討伐に出ていたそうだが、その役目は早々にガッティ子爵とその一族に任せて、カタラーニアの発展に尽力し続けてきた。

その甲斐あってカタラーニアの名は今や国外にもその名が轟くほどの発展を遂げている。


昨日初めて顔を合わせたブルーノはガッティ子爵の長男。

ガッティ子爵家の寄親がマリーノ侯爵家。

だから叔父はブルーノのことをある程度知っているだろう。


ただ、ガッティ子爵家はその役目柄、本拠を領地の本邸ではなくカタラーニアの別邸に置いている。

私が預けられていたのはカタラーニアにあるマリーノ侯爵家本邸ではなく、隣接するガッティ子爵領に近い場所にある別邸の方だった。


それに当時、私が叔父のマリーノ侯爵家別邸に滞在していることは公にされていなかった。

従って、私と近隣に住む子供たちとの交流もなかった。


昨日ブルーノの顔を見た時は見覚えがあるような気がしたけれど、近隣の子供たちと交流はなかったのだからブルーノとも会ってはいないはず。


幼い頃の私は『エミリオの冒険』という絵本がお気に入りだった。

主人公エミリオは黒髪に緑の瞳の活発な五歳の男の子。


私はその絵本を読みながら、エミリオと一緒に森の中の秘密の庭で木登り競争や騎士ごっこをしたり、森に分け入って探検したりする様をよく想像していた。


その想像上の森の中の秘密の庭の様子は、今でもありありと脳裏に思い浮かぶ。

それほどにあの頃の私は何度も何度も想像を巡らせたのだろう。


そう考えれば、主人公エミリオに似ている容姿のブルーノだから見たことがあるような気がしたのではないかしら。


あの頃のことは訓練の厳しさや家族や叔父夫婦に可愛がられたこと以外、あまりはっきりとは覚えていないけれど、きっとそういうことだと思う。




ところで、私が叔父のもとに預けられたのはなぜかと言うと。


私が剣術の稽古を始めたのは三歳半頃のこと。

その初めての稽古で、アントニオの素振りをじっと観察した私は、いきなり型もスピードもそっくり同じように真似てブンブン剣を振り始めてしまったそうだ。

その時のアントニオは七歳。

すでに剣術の天才と言われるほどの技量を持ち合わせていた。


三歳半の私が素振りとは言えそのアントニオと同じようにやり出したので、これは無意識に身体強化を使っているに違いない、とアントニオが気づいた。

それを聞いた父は私の稽古を見て、私がアントニオやロレンツォと同じようにやろうとして幼い体に見合わない多量の魔力を無意識に使ってしまっていることを見抜き、このままでは危険だと判断して早々に叔父のもとへ私を預け、魔力コントロールの術と剣術の手ほどきを頼んだのだ。


叔父自身、魔力量が膨大で子供の頃に魔力暴走を起こしたことがあり、そこから苦労して魔力をコントロールする術を身につけた人。

その経験を活かして、叔父は私に辛抱強く向き合ってくれた。


叔父の手ほどきによって、私はそれまで無意識に使っていた魔力を意識するところから始め、意識して使うことを覚え、さらに強弱をコントロールすることを覚えた。

そして剣術の稽古でも無意識に魔力を使うことはなくなったのだ。



幼い頃の私が父たちを驚かせたのはそれだけではなかった。


叔父のもとで訓練し始めた頃、私の目には属性による魔力の色の違いが見えていることに叔父が気づいた。

もともと他人の魔力が見えていることは家族も把握していたけれど、私の言動から属性の違いまで見分けているようだと気づいたそうだ。

それは父方の曾祖母が持っていた目と同じ能力だそう。


そして、それを知らされた父と母は思わず頭を抱えたそうだ。


その父曰く。


私の目には他人の魔力が見えているようだ、と気づいた時は、そういう能力を持つ者は稀ではあるが、過去に王家にもダンジェロ公爵家にも生まれているからそういうこともあろう、と受け入れた。


魔力量が桁外れに多いとわかった時は、そういう者は王家の血筋にたまに生まれるので、それがたまたま私だったのだ、と、これも受け入れることはできた。


ところが、さらに属性の違いを見分けるという稀有な目を持つことがわかったため、その能力や血筋、家柄のせいで利用されたり排除されるような危険性も、身代金目当て以外の誘拐の恐れも大幅に増してしまった。


ダンジェロ公爵家に久方ぶりに生まれた女子である娘には、女性としての幸せをたくさん与えてやりたいと思っていたが、その命には替えられない。


当初は自分の身をある程度守れるだけの護身術を身につけさせようと考えていたが、それどころではなくなったので本格的な剣術の稽古を許し、魔力をコントロールする術も叩き込むことになったのだ。


……と、父は私が六歳になった時に教えてくれた。


「お前にはたくさんのものが与えられている。でもそれは他者に向けて誇ることではない。これだけの力を持つ者の責任はとても大きい。これまで通り稽古に勉強に励み自分の持てる力を伸ばしていくこと。そしてその力を使うべきところに使うこと。その見極めは大事だ。それが力を与えられた者の果たすべき責任だ」


という戒めとともに。




私の目には他人の魔力が見えているし、魔力量は桁外れだ、と両親や兄たちが認識した時、私の家族は私を愛情で守ってくれた。


属性の違いを見分けるという稀有な目を持つことがわかった時はさらに守りを固めてくれた。


そして私自身にはその身を自分で守れる力をつけさせようと考え、そうしてくれた。


その最大の協力者である叔父も、魔力コントロールの術と剣術を教えることで私を守ってくれた。


叔父による魔力コントロール訓練が厳しいものだったことは否めない。


でも、叔父夫婦に愛され、時に母や兄たちが何週間か叔父の屋敷に滞在して存分に私を甘やかし、愛情を注いでくれた。

父も忙しい仕事の合間を縫ってできる限り顔を見せに来てくれた。

だから訓練に励み続けることができたし、魔力をコントロールする術をどうにか身につけることができた。


家族が私に注いでくれる愛情は、叔父のもとでの訓練を終えて領地に戻ってからも変わらなかった。



そう。


愛する家族が私を守ってくれたから、今の私がある。



私はあらためてそのことに思いを馳せた。


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