第12話 エレナ、前世の記憶
エレナ視点
私は地方貴族バローネ子爵の長女、エレナ。
幼い頃から地元では唯一無二の美少女として有名な私。
お父様もお母様も私を溺愛している。
もちろんそれは私が世界で一番と言ってもいいほど美しいから。
当然、私の要求はいつも叶えてくれる。
欲しい物はすぐに手に入れてくれる。
欲しくなったら待つことなんてしたくないし、時間がかかれば私の機嫌が悪くなるし、遅すぎると癇癪を起こすことを知っているから、当然よね。
ただあの人が欲しい、という要求はお父様でも叶えられないみたい。
でも欲しいものは欲しいから、私は自分で手に入れに行くことにしたの。
欲しい人は誰かの恋人だろうが婚約者だろうが関係ないわ。
私の方が比べものにならないくらい美しいから、彼らが恋人や婚約者を捨てて私に心を移すのは当然よね。
私が悪いんじゃなくて、心を移した彼らが悪いに決まっているのに、なぜか私を責めてくる子が多いけど、それは私の責任じゃないわ。
魅力がない彼女たちの責任に決まってるわよね。
まあ、そうして手に入れてもすぐに飽きてしまって捨てちゃうことも確かにあるわ。
でももっと欲しい人が出てきたらそっちの方がいいに決まっているでしょう?
ただ、この私にふさわしい男は、この地方にそれほどたくさんいるわけじゃないのよね。
以前、私より高級なドレスを着ている地元の成金の娘が気に入らなくて、彼女の恋人をちょっとつついて手に入れたら、父親の成金がお父様のところに文句をつけにきたことがあったの。
お父様がどう対処したのかは知らないけれど、丸く収まったらしいわ。
でもその時お父様が、お前には田舎の男ではなく王都の洗練された貴族令息がふさわしい、王太子妃だって夢ではない、と私に言ったの。
まあ当然よね。
でもそのためにはもう少し勉強してフォンタナ王立学園に入るのが一番だ、あそこは国中から優れた者が集まるからお前なら選り取り見取りだ、なんて言うのよ。
私、お勉強は嫌い。
でもフォンタナ王立学園に入りさえすれば、あとはお勉強などしなくても、選り取り見取りの貴族令息の中から私にふさわしい地位が高くて裕福で美しい顔の人を選べば、もう私の未来は輝かしいものに確定よね。
いえ、それより王太子妃になる方がいいわね。
王太子が私を溺愛して、着飾るドレスに宝飾品をどっさり贈ってくれるでしょうし、家臣はみんな私の前にひれ伏し、命令はなんでも聞くの。
私はこの美貌にひたすら磨きをかけ続けるだけ。
悪くないじゃない。
だから、学園の卒業者を探して、私の虜にしてやってから試験の内容を詳しく教えてもらって、ちょっとだけお勉強して、フォンタナ王立学園の基礎学力検査を受けることにしたわ。
その検査試験が行われる日のこと。
学園の校門の前に立った私はいきなり過去の記憶を取り戻したの。
目の前にある校門は記憶にある門そのまま。
あの建物も、あの花壇も生垣も。
この道を歩いていくと生垣の陰から茶色の髪の男子生徒が飛び出してきてぶつかりそうになる……と思い出した瞬間、その通りの出来事が起きたわ。
その男子生徒は私を見て顔を赤くして大丈夫か、と気づかいながら丁寧に詫びを言ってきた。
それも記憶と同じ。
学園の校舎を見た瞬間、さらに思い出したわ。
ここは前世の私が大好きだった乙女ゲームの舞台そのものだ、ということを。
タイトルもストーリーもよくあるヤツって感じだったけど、ビジュアルがもう好みで好みでたまらなかったことも。
人物も背景もすべてが美しくて、うっとりしながらのめり込んでいたんだった。
そしてどんなシナリオだったのかまで思い出したわ。
私の一番好きなのは五人のイケメンに溺愛され、楽しく学園生活を満喫して、その中の一人、王太子と結ばれ王太子妃となるルート。
そういえば五人ともうっとりする美形で一人だけ選ぶなんてムリだから地位の高さで王太子に決めたんだったわ。
進めば進むほど豪華で美しい王宮や煌びやかなパーティーホールに美しいドレスなんかが出てくるから、それが見たかったのもあったのよね。
正装姿のイケメンたちはもうたまらない色気と美しさでゲームにないシーンまであれこれ妄想したりして。
つまり。
それが現実になるってことね!!
間違いないわ!!
私はそのゲームのヒロインとしてこの世界に転生してきたんだわ!!
私を虐げて恋路を邪魔するお約束の悪役令嬢も出てくるはず。
そして一番好きな王太子ルートを選べば、この世界で私は王太子妃になる。
その悪役令嬢を断罪して彼女に虐げられていた悲劇のヒロインの私が王太子の心を掴む、というわけ。
もう私の将来は約束されたも同然ね。
これから先のシナリオを知っているのは私だけなんだから。
それに私のこの美貌があれば間違いないわ。
これまでもそうだった。
目をつけた男を落とせなかったことなんか一度もなかったわ。
だからこれからもそうなるに決まってるわ。
当然よね。
私はこんなにも美しいんだから。
ええ、もちろん、試験には合格したわ。
フォンタナ王立学園に入学が決まったんだから、もう私は未来の王太子妃で決まりよ!




