第11話 王太子カルロ
カルロ視点
生徒会長を務める僕は副会長のロレンツォと共に入学式会場の最終チェックをしていた。
「エミリアーナはどうしている?」
「一時間前に生徒会用待機室前に来るよう言ってあるから、そろそろ顔を見せる頃だろう」
ロレンツォに問えばそう答える。
エミリアーナは新入生代表挨拶をすることになっている。
事前にリハーサルをしておく予定だ。
二人で会場入り口近くの生徒会用待機室へ向かった。
その部屋の前にエミリアーナの姿を見つけたため足を早める。
その時、後ろで「あっ……」という声がしたが、僕たちはそれを気にとめることもなくエミリアーナと合流した。
「やぁ、エミリアーナ。久しぶりだね。元気そうで何よりだ」
エミリアーナが笑顔でお辞儀をする。
「お久しぶりにございます。ご無沙汰をしておりました。カルロ王太子殿下」
エミリアーナはいつも僕のことをカルロお兄様と呼ぶし、公式の場では殿下と呼ぶ。
だが縛りのゆるい学園内でエミリアーナの口からカルロ王太子殿下と呼ばれるとなんとなくむずがゆくなる。
「君にそういう口調でカルロ王太子殿下と呼ばれると、ムズムズするな」
エミリアーナは澄まし顔で言う。
「わたくしも大人になりましたの。少なくとも殿下と一緒に剣を振り回していたお転婆娘だった頃よりは」
「お転婆は今も、だろ」
と、ロレンツォがつっこむ。
「お兄様?」
エミリアーナがロレンツォを睨むように見る。
まあ、ロレンツォがそう言いたくなる気持ちはよくわかる。
ダンジェロ公爵家の長男アントニオに次男のロレンツォやエミリアーナとは幼い頃からよく一緒に剣術の稽古をしたし、稽古後は皆で遊び、いたずらを楽しんだものだが、エミリアーナのいたずらは独創的でおもしろかった。
木登りもよくした。
それもわりと近年まで。
エミリアーナの外見はまごうことなき高位貴族の淑やかな令嬢そのものなのだが、中身は昔から変わらず、好奇心の塊で実に行動的だ。
「いずれにしろ剣術科目は取るつもりなんだろう?」
そう聞けば、エミリアーナは頷いて答える。
「もちろんですわ」
「手合わせが楽しみだな」
そう言うとエミリアーナは嬉しそうに破顔した。
それから三人でリハーサルのため会場へ向かった。
会場に入り、エミリアーナが椅子から立ち上がって壇上へ上がるまでの流れを確認する。
挨拶を部分的に喋ってもらい、声の通りを確認して、壇上から下り席に戻るまでの流れを確認してリハーサルは完了。
「真面目に喋っていればたしかに淑女に見えるな」
ロレンツォが言い、エミリアーナが反論する。
「あら、わたくしは四六時中、いつだって何をしていたって淑女ですわ」
この二人のじゃれ合いもいつも通りだ。
「挨拶の出来もなかなか良さそうだ。本番、楽しみにしているよ」
そう声をかければエミリアーナは嬉しそうに言った。
「ありがとうございます。本番もきちんと務めますわ」
兄弟は弟二人の僕にとって従妹のエミリアーナは妹のようなものだ。
その妹の能力は僕も一目置くところ。
それにエミリアーナが何度も修羅場を潜り抜けてきたことを知っているから心配することもない。
アントニオもロレンツォも入学式では特待生トップとして代表挨拶をしたから、これで三人兄妹皆が代表挨拶をすることになるわけだ。
ダンジェロ公爵家の三人兄妹は本当に優秀で頼りになる。
長男のアントニオはまだ十九歳だが、頭は切れ剣術の腕は最高峰にあり、すでに王室第一騎士団の副団長を務めている。
次男のロレンツォは学園卒業後、側近に取り立てることになるだろう。
彼はアントニオと違って人当たりの良さがある。
むろん、腹のうちがどうであろうと、それを外には決して見せないし、頭脳明晰で剣の腕も立つ。
そしてエミリアーナも含め、三人ともに名誉欲が希薄だ。
それぞれに己の才能を磨き活かすことに重きを置いているから、金や権力に転ぶようなことはまず無いだろう。
幼馴染であり、信頼の置ける三人の存在は、実に心強い。
無論ダンジェロ公爵家ばかり優遇しているわけではない。
優秀な人材は家門を問わず幅広く登用しているし、この学園生活でも側近くに置きたい優れた人材を何人も見つけることができた。
正直なところ今年はエミリアーナがダントツで特待生トップで入学してくるだろうと思っていたが、満点合格した者がエミリアーナを含めて四人もいた。
従って今年の特待生の中からまたそういった優れた人材を発掘できるかもしれない。
学園生活最後の一年間は実に楽しみなものになりそうだ。




