第1話 乙女ゲームにテンセイシャ?
初投稿です。
私はエミリアーナ・ダンジェロ、十五歳。
今、私は生まれて初めて聞くおかしな話を、目の前の相手に一方的に突きつけられて混乱している真っ最中。
乙女ゲーム、テンセイシャって、いったい何ですの???
ほんの数分前、授業を終えて寮に戻ろうと学園内の廊下を歩いていたら、いきなり曲がり角から誰かが飛び出してきて私の前に立ち塞がった。
誰かと思えば先日のお茶会で初めて顔を合わせたバローネ子爵の長女エレナ嬢だ。
「あなた。いい加減にしてくださらない?」
最初に飛び出してきたエレナ嬢の言葉はあまりに唐突で私は驚いた。
でも冷静を装って聞き返す。
「何のことでしょう」
「とぼけないで。私はわかっているのよ。あんたも転生者なんでしょッ?!」
テ……?
今、テンセイシャって言ったのかしら?
聞いたことがない言葉だけど、私もそれってどういうこと?
それにいきなりエレナ嬢の言葉使いが品下ってしまっているわ。
目も据わっているし、どうしてしまったのかしら?
「この世界はフォンタナ魔術学園が舞台の乙女ゲーム『成り上がり令嬢は真実の愛を掴む』の世界で、私が主役のエレナ。あんたは悪役令嬢のエミリアーナとしてこの世界に転生してきたのよ。あんたが私に嫉妬して私を虐げて自分が王太子妃になろうと画策するけれど、最後は王太子にあんたが断罪されて、晴れて私が王太子妃に選ばれるシナリオよ。わかってるくせにとぼけんの?!脇役のくせに邪魔ばかりして、あんたにはほんっとムカつくわッ!」
うーん。
とぼけていないし、エレナ嬢が何を言っているのかまったくわからないわ。
乙女はわかる。
ゲームもわかる。
でも乙女ゲームだなんて聞いたこともないわ。
ここは魔術学園ではないし。
それにテンセイしてきたってどういう意味?
私が悪役令嬢?
私がエレナ嬢に嫉妬?虐げる?断罪される?
そもそも王太子妃だなんて、私がそうなる可能性はゼロなのだけれど?
未だにその事を知らないのかしら?
理解不能な話で何が何やら……。
黙ったままでいると、急にエレナ嬢はニヤリと笑う。
目は笑っていないし口元が歪んでいて、なんだか美少女らしからぬ怖い笑い顔だわ。
「入学式イベントではよくも私の出会いのフラグを全部横取りしてくれたわね。この泥棒猫!絶対に許さないわ!これまでことごとくあんたに邪魔されたけどこれからはそうはいかないから覚えてらっしゃい。あんたがどれだけ足掻こうが私のハッピーエンドは絶対に変わらないんだからッ!」
入学式イベント?
出会いのフラグ?
それっていったい何かしら。
ことごとく邪魔をしたって、それにはまったく心当たりがないのだけれど。
うーん。
今すぐこの人の言うことを理解しようとしても無理のようね。
このまま黙っていたら気が済んで解放してくれるかしら。
そう思って何も言わずにいると、エレナ嬢は苛ついたのか、私を睨めつけてきた。
まあ。
眉間に深い皺を寄せたりして、せっかくのエレナ嬢の美貌が台無しだわ。
私の方が背が高いからエレナ嬢に下から睨めつけられるとちょっと背筋がぞくぞくっとするわね。
「だいたいあんたは脇役にすぎないのよ。この世界は私が主役のゲームの世界なんだから本当なら入学式イベントで私に心を傾けるはずだったラウルもブルーノも、当然王太子もみんな私に跪くことになるの。この私が主人公のシナリオなんだから当然そうなるの。もう決まっているのよ。もちろんわかってるわよね?彼らにふさわしいのはこの私であんたじゃないってことは。この私の邪魔をしようなんて百年早いわよ!二度と彼らに色目を使うんじゃないわよ!」
あの甘くてかわいらしい声はどこに行ったの?
ずいぶん低音で凄みのある声になっているわ。
それに、シナリオが決まっている、とはいったい何のことかしら。
たしかにラウルやブルーノとは友達になったけど、エレナ嬢とは何の関わりもなかったはず。
邪魔をするなと言われても、邪魔どころかエレナ嬢に何かしたいだなんて思ったことはないのだけれど。
誰が誰にふさわしい、というのも勝手にエレナ嬢が決められることかしら?
私がなおも黙ったままでいるのをどう受け取ったのか、エレナ嬢は勝ち誇ったような顔になった。
「脇役のあんたがいくら王太子に媚びを売っても私のハッピーエンドは変えられないのよ。みんな私のものなんだから脇役のあんたは脇役らしく悪役令嬢でいなさいよ。っとに、もう二度と断罪回避に動くんじゃないわよ!ここは私が主役の世界なんだからッ!!わかったわねッ!!」
そう言いながらエレナ嬢は私に向けてビシッと指を差し、もう一度私をギロリと睨みつけて去っていった。
エレナ嬢が去るとすぐ、廊下に生徒たちの姿がちらほら見えだす。
ああ、そういうことなのね。
誰にも聞かれたくない話だったのだわ。
たしかに理解不能な話だもの。
それに貴族の令嬢が使うとは思えない言葉遣いだったものね。
その上どちらが公爵令嬢なのかわからないような傲慢な態度だったのだもの。
それをこの学園内の不特定多数の人々の前でさらけ出したら確かによろしくないわよね。
さて。
私はこれからどうしましょう。
まずはこのフォンタナ王立学園に入学した時のことからじっくりと振り返ってみましょうか。