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賞金稼ぎ


 没収されていた小物や貴重品──金や通帳、携帯端末──等を受け取りこそこそと、しかし足早に警察署を出た。

 警官の誰もが俺をゴミを見るような目で見ていたが、流石に殺そうとしたり殴りかかってくるような奴はいなかった。

 いや、やろうと思って暴れていた警官もいたが、周りが必死に抑えていた。

 本当に警官には頭が下がる。

 こいつらの無能のお陰て何人も楽しめた上に死刑にもならずに済んだ。

 捕まったのだって警官が頑張ったからじゃない。

 たまたま運悪く留守中に俺の家に盗みに入った空き巣が、小心者で俺のお楽しみに気づきやがって、泥棒の癖に通報なんかしやがったせいだ。

 くそ。落ち着いたら絶対に殺してやる。

 まあしかしなんだ、裁判所にいた俺が殺った奴等の親族が追いかけてくる前に早くこの場を後にしようと、目立たない程度に小走りで駅へと足を踏み入れたがよくわからん。

 とりあえず何処に逃げたらいいんだ?

 拘留期間中世間の事は新聞のでしか知らなかった。

 新聞で読むのと実際に歩くのとでは色々と違いすぎる。

 携帯端末も返還はされたが、契約は切っているから今じゃただの置物だし、再契約するにも今の俺にそれが可能かすらわからん。

 何処でもいいから遠くに行くか?

 券売機に万券を突っ込みそれで行ける一番遠いボタンを選びホームを目指す。

 とりあえず、ついた先で軽く一杯ひっかけながら、自分が置かれている状況を確認でもしよう。

「おいおっさん!}

 ホームで電車の到着を待っていると、突然背後から若い男の声が聞こえ肩を掴まれた。

「は?」

 我ながら間抜けな声が出た。

 考え事をしていたというのもあるが、まさかこんなに早く親族共が追いつくなんて思ってもいなかった。

 そして、実際に声の主は親族どもじゃあなかった。

「お、やっべマジコイツじゃね?」

「ラッキーじゃん」

 振り向いた先にいたのは、まったくもって見知らぬ若い男が四人。

「いや、お前らだ──っっ!!?」

 衝撃が俺の左頬を襲った。

 掴まれた手を払いのけ訊ねた瞬間、真横にいた男が俺を殴りつけてきたのだ。

 拳を叩きこまれた所がジンジンと痛み口内に血の味が滲み出る。

 一体何故!?

 イヤあれか、もう初の平和喪失刑が執行されたとでもネットにでも出回ったのだろう。

 遺族から逃げる事ばかり考えて、関係ない糞共が遊び半分で俺を襲う可能性を考えてなかった。

「まて、待ってくれ!!」

 手を突き出し静止を要求するが、彼等は一方的に加害欲を満喫するように遊び半分で俺に蹴りを入れる。

「止めろ!止めてくれ!金を払う!俺を嬲るより金の方が良いだろ!?」

 勿論払うつもりなんてない。

 襲われる度に金を払っていたら、殺される前に餓死してしまう。

 奴等が気を抜いた瞬間逃げてやる。

「どーするしょー君。金くれるって?」

 太り気味の髪を汚い茶髪に染めた男が俺を蹴りながら誰かに尋ねた。

「おっさーん。いくらくれんの?」

 しょう君だろうか?

 少し背が高くがっしりとした体格のいい短髪の男がニヤニヤ笑いながら俺を覗き込む。

「いくらくれんのぉ?」

 コイツがリーダーか?

 隙を見て一発くれてやる。

「ご、五万ある。それで勘弁してくれないか?」

 それを聞いて男達はニタニタ笑いながら互いの顔を見合った。

 渡す瞬間がチャンスだ。

「ちょっと足りないよね~。あと三百万くらい?」

 男達は汚く、そう「ギャハハハハっ!」と表現するのがしっくりくる下品な笑い声を上げつつ俺を蹴った。

「ばっ!?三百万なんて常識的に考えて──」

 しょう君が一発いい蹴りを入れると、ポケットから画面の割れた携帯端末を取り出し俺に見せつけた。

 そこには俺の名前と顔、そして『生きてなら三百万、死んでいたら百万』と書かれていた。

「は?」

 意味が分からない。

 まさか夢でも見ているのかと思った。

 背後に流れる電車の音がそれに現実感を持たせる。

 いや、わかりたくなかった。

 このご時世に生死問わず(DEAD OR ALIVE)の賞金首なんてふざけた物があってたまるか!!

「おっさん三百万払える?」

 別の若い男が脅す様に俺に問いかける。

 が、俺にはそれよりこのネット情報の真偽の方が大事だ。

 よく見れば、出資者の名前に見覚えがある。

 俺が殺った女の苗字が幾つかあった。

 あのクズ共、俺が平和喪失刑になると予測して判決が出る前から用意してやがったなっっ!!

「おーい、話聞いてますかー?」

「ぐっ!?」

 声と同時に俺の鼻がへし曲がらん勢いで顔を蹴られた。

「人の話はちゃんと聞きましょうねー?」

 そう言いながら、今度は顔を押さえる俺の鳩尾に蹴りが入る。

「おげっ!!」

 今朝の朝食、ワカメ交じりの吐瀉物がツンとした匂いと共に吐き出され、俺の口と男の靴を汚す。

「うっわキタネー」

「おっさんクリーニング代払えやぁっっ!!!」

 俺のゲロが靴にかかった男が激怒して何度も何度も激しく俺を蹴った。

「じゃあ、持ってる五万クリーニング代で貰いますよ~」

「んで、それから三百万になりましょうねー」

「おじさんにはジンケンないんですよー」

 ゲラゲラ笑いながら何度も何度も蹴りを入れ続けるカス共。

『~三番線に列車が参ります~』

「警察っ!!」

 俺は精一杯の声で男達の背後を指さしながら叫んだ。

 男達は焦った様子ですぐに振り返る。

「あっ!?親父逃げんなぁっっ!!」

 隙をついて俺は奴等の足元を転がり、必死に四つん這いになってホームに転がり込んだ。

 そのままホームの真下、退避の為のスペースに身を隠した瞬間、背中を列車が掠めた。


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