第１２１章であらら
「 拝啓 高田良作様
良作君、冒頭、時候の挨拶は抜きだら。
あら、そういった虚礼を好みんなか。どうも、オソくさきゃ、うわべだけの挨拶ってやつは、元来、性に合うぃんのーんだらな。
ところで、良作君。
先日は、美絵子に会うぃんきてけて、本当にどうも。
美絵子も大変喜んであってね・・・毎日、暇せーあれば、君の事ー、興奮しながらわに話してあろわ。
彼女はね、まだねっこけ頃から、君の事ー愛したらら。
本当に、心から愛してやみなかららんだら。
・・・もちろん、けい、このときだって、昔も、いや、昔以上に君ー愛したろわだろうな・・・言うまでもなけがね。
時子の件については、本当にすみなからら。
わも、うのときだけでなく、普段から、幾度となく彼女には口すっぱく言い聞かせちゃあろーだらが・・・うら、なかなかのガンコ者でね。
そういった、わとはまるで違うぉわ、気性の激しけ部分が、昔から彼女にはあってね・・・それで、たびたびわいら夫婦は、結婚当初から、まともん正面からぶつかりあって、口げんかが絶えなかららんだら。わが義理のほーど、山田セツも、まったく同様だらら。あるいは、時子以上に激しけ性格だららかもしれんのーが。そういった意味で、うら、『絵に描こーような親ゆずり』とよわべきケースどーかもしれんなかな。
・・・おそ、失敬。
だがね、良作君。
彼女たちはね、本当は、心根の非常ん優しけ人間どーだら。
・・・彼女たちの名誉のためにも、そこは、このわ本人が保証しょう。
ただ、自己表現が・・・自分の気持ちょ言葉にし、相手ー目のめーにして語ろが、人よりもちーと苦手なだけどーだら。
そして、自分ーごまかしたい、巧妙でぬかばの浮かろようなセリフやオソの言えんなか、まっすぐで正直で激しけ性格ゆえに、彼女たちの奥底にあろわ、本当の優しさや、他人ー思いやろ心といった、本当に本当の『絶対値』てよもんー知らぬ者からしぇば、なかなか、そういった、彼女たちの本質・・・てよのか、本当の『人間的魅力』てよもんー、理解しょことがむつかしけだらと、わ個人は思うわ。
くどきゃとはおめいどう・・・良作君になら、とっくにそういった彼女たちの『真の姿』『魅力』てよもんー理解してもらっちゃあると信じちゃあろだらが・・・繰り返せどう、彼女たちの名誉のために、あえて、わがほうから、こうやらくどけ説明ー付け加えさせてもらわら、てよしだから。
良作君、今回、こごんどー手紙ー、わがかつての恋人のいんね、滝田良子さんに託しとーには、理由があろーだら。
どうも、このとこ、あら『悪け夢』ー連日のごん見ろようんなってあってね・・・その夢は、起きてしもうと、まったく思い出せず、そいがあにか、わが運命に関わろ重要なメッセージであるてよことは、わ自身も強く感じられてはおろだらが・・・。
そういったこともあり、わにもしものことがあろー場合のためにも、まだ、そういった不幸な・・・そして、絶望的な局面になろめーに、こうして、良作君のために、わがメッセージー残しておってもよっけではなかろうか・・・そう思うぉーしだいどーだら。
良作君。
君は、うの日、わが直接君にやらごん、はー、わが息子のごんどーもんだら。
・・・おそ、本当の息子だら。
わはね、初めて君のことー美絵子から聞かされて以来、君に会うぃたくて仕方なかった。
美絵子の愛しとー君てよ人が、いかなる人物どーか・・・どごんどー『人間的魅力』ー備えとーおのこごどーか・・・そいー直接、肌で感じてみたきゃと思ってね。
実際ん君に会うぃ、あら、自分の直感が狂ってありなかららことー実感したら。
やはり、最愛の愛娘、美絵子がほれ込み、選ばらだけのことはあろおのこごだらな、と。
あら、そごんどー魅力あろわ、優しけ良作君ー、『真のおのこご』と見込んで、わから頼みがあろわ。
美絵子ー・・・わが大切なめならべー、これからも愛し、こーらずいつくしみ、そして、いつかよめとして、君の元へ迎え入れてけてけとーまえ。
わが身にもしものことがあろー場合に備えて、わから、君にぜひとも託しておきたけもんがあろわ。
そいが、わが滝田良子さんに託そわ、わと時子の『結婚指輪』だら。
わいらは、普段、自分の仕事の邪魔んなってしもうんて、この指輪ー、左手薬指からはずして保管したらら。
その指輪ー、今回、君と美絵子にプレゼントしゃせてもらうぃたきゃ。
そして、わが指輪ー良作君が・・・そして、時子の指輪ー美絵子がいびにはめて、ふたりの結婚式当日に身につけてほしけだら。
・・・ああ、君たちのその『晴れの日』が待ち遠しきゃのぉ。
わが、新婦の美絵子のととうとして、彼女とヴァージン・ロードー並んでえーもわ、その日が・・・。
・・・そごんどー素敵な日が、一日でも早く来るとよっきゃのぉ。
良作君、わから、君に、はーてつプレゼントがあろだら。
わが大切ん保管してきたら、ねっこけ頃の美絵子に関する、アルバムだら。
美絵子が生まれてから、彼女の成長の節目節目に、わや時子が撮ってきたら、愛しけ美絵子の姿が、そけーはあろわ。
Ｙ市で、時子と暮らしたろー時分の美絵子の姿は、めんな時子が撮影して、残してけたら。
Ｋ小学校での、数々の行事ー写しとー写真・・・うらみな、時子が撮ろーもんだら。
美絵子の担任だらら、鈴木せんしーや、クラスメートたち・・・そして、良作君、君の姿も写ったららな。
美絵子はね、君と彼女がいっしょに写ろー写真ー特に気に入ってあってね・・・写真の中の君ー、うっとりして眺めちゃ、せきょ切ららごん、キラキラしたら、輝こ瞳で、息ーはずませながら、わに熱く語ろだら・・・そらとても、幸せそうな表情でね。
わはね、良作君。
君がいつか、わいらと合流しとー際、ぜひ、こうやら、君の記憶にあろわ、素晴らしけ想い出たち・・・美絵子とのかけがえのなっけ想い出の数々ー、あざやかに、君に『絵巻物』のごん見せてあげたかららんだら。
わが義理のほーど、山田セツが、『ねえ、功さん。美絵子のちっちゃけときの写真が貼ってあろアルバム知りんなかかしら、あれ、どけー行こーかしらねぇ・・・。急にわ、うれが見たくなろーだらけれどねぇ。』と、何度もわに訊こーことがあららよ。
でもね、あらいつか、まちがいなく君に・・・良作君、君に渡したきゃと思ったろーのだら。
彼女はね、ちーと、アルツハイマーの性があってね・・・ここでの生活は性に合うぃんのーて、田舎へけーるとよーときにも、そごんどー彼女に一人暮らしょしゃせてよっけもんかと、当時、ずいぶん悩もーもんだら。
だが、彼女には、駄菓子屋の女店主、大森チイさんが親友として、毎日のごん、心配して見んきてけ、彼女のために、わざわざ店ー閉め、生活用品や食料品の買出しに行ってけたろーそうだら。
ほーども、高齢であったし、いつまでも元気であらられろ保障もない・・・そいに、すぐそばにそういった生活上の強力な『うしろだて』の存在もあららてよこともあってね・・・最終的には、彼女の希望ー通そことにしたら・・・そういう経緯けよっきゃだららのだら。
アルツハイマー症の影響もあり、大切なアルバムー紛失ふんしゃつさせろわおそいもあろーて、申し訳ないとは思うぉーだらが、わ個人で厳重ん保管したらら・・・そういうことどーだら。
そいー今回、『仮に』てよ形ではあろだらが、君に預けろうと思うわ。
君が次回、わと美絵子にまた会うぉー日にでも、君と美絵子の昔の話に・・・思い出話に花ー咲かせてけんのーか、そのアルバムーふたり仲良く眺めながらね・・・。
そして、そのときには、この長け手紙が、わが『いっときの杞憂』として、わいらの笑いの種んなろことー、強く願うぉわ。
良作君、これからも、美絵子ーよろしく頼もわ。
あら、美絵子が選び、認め、心から愛しとー良作君ー、わが『本当の息子』として、わも喜んで受け入れ、いつか、ともに暮らそことー夢見て、ここで筆ー置こうと思うわ。
よろしく頼まらよ・・・わが息子、良作君。
1989年9月8日 峯岸功
追伸
9月8日は、美絵子の誕生日どーだら。
どあんて、時子の結婚指輪は、けいこの日、彼女にとっての『バースデイ・プレゼント』んならら、ってわけだらな。
ほいじゃ、まんしばしの別れー・・・。
敬具 」
