男の友情?
さて、学校初日があっさりと終わり、俺はまっすぐ家に帰る。このあたりは王都住みの利点だね。そういえば、リリアン様の家も王都にあるらしい。王都に家が建っているということは第三身分の中でも比較的裕福な方なのだろう。
もちろん、学園には王都の外からも生徒が集まるが、彼らは学園近くの寮に住んでいるようだ。
「ただいま帰りましたー」
屋敷に帰って雑に帰還のあいさつをすると、メイドからおかえりなさいませ、という具合の返事が返ってくる。ちなみにこのメイドの名前は知らない。
ここでメイドの名前をきちんと把握したりしているとなんだかできる君主のようでかっこいいかとも思ったのだが、急に名前を聞くと何かあるのではないかと邪推させてしまいそうで怖いので聞けずにいる。
いやほら、主人の家族が急に名前聞いてきたら、あれ?もしかして解雇されるかな?とか思ったりしない?俺だけか?
部屋に戻り、今日配られた選択授業の紙を眺める。
「応用魔法学、馬上武術、魔法錬金学……………いっぱいあるなぁ、ファンタジーっぽいのが」
あれだよな、こういうのって友達とかがいれば選択する授業合わせてみたりするんだよな……………友達……………ははっ。
悲しくなったのでやめよう。
明日から早速授業が始まるらしいので、とりあえず面白そうなものを適当に選ぶとしよう。
※
朝起きて学園の準備をしている時に、ふと思った。凄く普通に学園に通おうとしているが、俺って一応チートスキルを神直々に貰った転生者だよな………。いや、スキルの使い道が分からないから全く恩恵が感じられないんだけど。
そういえば勇者が召喚されるとか言ってたが、あれって具体的にいつ頃なんだろう。俺が転生してからかなり時間は立ったと思うのだが。
。ん?というか俺が貰ったスキルって『変態』だけじゃないじゃん。『鑑定』も立派なスキルだ。もう片方のインパクトが強くて忘れていた。いや、というか別に日常生活で使わないからな。存在を忘れていたって仕方がないだろう。うん。
よし、じゃあ今日はクラスメイトでも鑑定してみようかな。
学園に入り、教室の扉を開き軽く全体に目をやる。教室にはすでに何人か人がいたのだが、驚くほど名前がわからない。昨日一応の自己紹介はしたはずなのだが、どうやら俺はリリアン様以外の名前をすっかり忘れてしまったらしい。だが問題はない。何と言っても俺には『鑑定』がある。これにより相手の名前など一目瞭然なのだ!
「……………ふむ」
『鑑定』でざっと見まわした感じ、俺の母と同様スキルを持っていない人がほとんどのようだ。スキル持ちがレアなのか、それとも俺のクラスメイトが想定以上に無能なのか、真相はわからないが、ちょっぴりの優越感とともに座る席を探す。
リリアン様がいれば隣に座ったのだが……………いや、本当に隣に座ってよいのか?いや、異世界的距離感がまだよくわかっていないのだが、現代日本的なそれを参照するのであれば軽々に隣に座りに行くのはまずい気がする。
ならば男友達の隣にでも、と思ったのだが冷静に考えてみれば俺にはこの世界における男友達が皆無だ。……………これはまずいかもしれない。
「とりあえず、リリアン様はまだ来ていないようだしこの機会に男友達の一人や二人作ってみるか……………」
改めて教室を見渡すと、何とびっくりすでにいくつかグループが出来上がっている。なんだ?昨日の今日でもうコミュニティを形成してるのか?……………化け物か?いや、もともと知り合いだった線もあるのか……………?
いや、これは早急に声をかけに行かねば、そう、一人でいるやつのところに!!
「……………おっ」
いた。一人で座ってるやつ。よし、とりあえずちょっと話しかけて「おはようございます、シャイセンテ君ッ!」
「っ!…あ、リリアン……………さん?おはよう」
急に声をかけられて少々驚いたが、何とかあいさつを返す。
「こんなところに立って何をしていたんですか?」
「いや、せっかくだし友達でも作ろうかと思ったんだけど………みんなもうある程度は作り終えた感じなのかな?」
「友達!いいですね!!」
「え?」
そう言うと俺の手をぐいぐいと引いてちょうど一人でいた男子生徒に話しかける。
すごいな、想像を超えたコミュ力だ。これは異世界あるあるなのか?それとも第三身分あるあるなのか?いや、まさかリリアン様あるあるなのか?
「こんにちは、私はリリアンと申します。あなたの名前をお聞きしてもいいですか?」
返事は無い。ということは、こいつはリリアン様に声を掛けられたにもかかわらず無視をしやがったことになる。いったいどんな奴がそんな愚かな行為に及んだのかとそいつの顔を確認すると
「おぉう……」
昨日俺の中でリリアン様の次くらいには印象に残った、自己紹介キャンセルの男子であった。
さて、自己紹介キャンセル男子(仮)それは昨日、つまり入学式当日にクラスで行われた自己紹介をキャンセルしてさっさと帰ってしまった男子である。そして、ただいまリリアン様の自己紹介に無視をかましやがった奴でもある。
「あの………」
そんな態度に困惑を隠しきれないリリアン様。
まったく、中二病か何だか知らないが年頃の男子って奴は面倒なものである。ここは俺が一肌脱ごうではないか。というか、俺がどうにかしないと進まない気がしてきた。リリアン様は横で困り果ててしまっているし。
「ねえ、ちょっといいか「リン」」
「………え?」
りん?リン?………あ、もしかすると名前か?だとしたらレスポンスが遅すぎるだろうが、ハードディスクかな?というか、地味に俺が話すのにかぶせて自己紹介しやがったなこいつ。
「おおそうか、よろしくなリン君!」
なんだかムッとしたので、俺は元気にそう言って自己紹介キャンセル男子の隣にドカッと座る。ははは、迷惑そうな顔をするんじゃない。肩でも組んでやろうか?バックにリリアン様がついてる俺は無敵だぞ?
「さ、リリアン。君も隣に座ろうよ。俺たち友達だろ?」
「え?あ、うん!そうですね!」
そう言って隣に座るリリアン様を見てさらに顔を顰めるキャンセル男子。
「ところでさ、リン君の実家ってどのあたりにあるの?王都住み?それとも寮?」
「…………家などない。家族も……いない」
「え…………」
重ぇ……。マジかよ。急に重めな事情をカミングアウトされたのだが。
「それは………その、ごめん」
「いい……」
そして重くなる空気。
「え、えと……………じゃあ、リンさんは趣味とか得意なことって何ですか?私は魔法が得意で──」
そして空気をどうにかしようとするリリアン様。
「殺し」
「あ……」
再び凍る空気。とりあえず自己紹介をして会話を続けるとしよう。
「お、俺はシャイセンテだ。シャイって呼んでくれてもいいぞ。うん」
「…………」
うーんどうしよう。何と言うか、こう……すごく香ばしいというかなんというか。このまま普通に関わっていていいものだろうか?
そう思いちらりとリリアン様に目を向けるとちょうどこちらを向いていたらしいリリアン様と目が合った。
どうしよう。という念を目線に込めて見つめていると、リリアン様はコクリと頷き口を開く。
「リン君!これから友達としてよろしくお願いしますね!!」
どうやらリリアン様は仲を深める方向に決めたようだ。いや、おそらくそれ以前の問題だな。出会ってまだ本当に間もないが、性格のよろしくない俺と違いこの人は第一印象がちょっと危なそうだから距離をおいておこう、なんて思考にはならないタイプな気がする。
であるならば俺もついていこう。どちらにせよ今からすでに形成されつつあるグループに友達を作りに行くほど俺のコミュニケーション能力は高くない。多分。