身分制度ってありがち
教室の前で話しかけられた俺は少しの気恥ずかしさからできるだけ目立たないようにコソコソと端の方の席に着き、教師を待っていた。
我ながら大失敗だ。まさかあんなアニメや漫画のような状況を体験することになろうとは。
「あ、あの、さっきはごめんなさい。私、リリアンって言います!」
よろしく、と俺に声をかけるのは先ほど俺に話しかけた女子だ。まさか話しかけられるとは思っていなかったのだが、異世界人のコミュニケーション能力は高いのだろうか。現代日本であればおそらくこんなことにはならないだろう。
それはそれとして、せっかく話しかけてもらえたのだからできるだけ無難に返し、ぜひとも仲良くなろうではないか。いや、無難に返すだけで仲良くできるのか?一芸を差し込んでみるか?いやしかし
俺がそんな風に逡巡していると、ガラリと教室の扉が開かれる。
「あっ!先生が来たみたいですね!」
なんてリリアンが言ってくれる。いい子だ。今のところ俺は変人という第一印象を払拭できずにいるし、なんなら今さっきしてくれた自己紹介に対して何の言葉も返せていない不愛想な奴なのだが、それでもまだ話しかけてくれるらしい。…………いや、天使か?様付で呼んだ方がいいだろうか?
先生らしき人物が教室の教壇に立ったことでリリアン様との会話が打ち切られる。いや、会話と言っていいものだろうか。なんとさっきのやり取り?の際に俺が発した言葉は無い。驚きである。
うん、決めた。俺はとりあえず変にキャラは作らず、普通の俺でいくとしよう。実力を鑑みてのキャラ付けは俺が意外と弱かった場合に恥ずかしくなるし、なによりも変に考えるとリリアン様との会話の際に俺のレスポンスが遅くなってしまう。これは由々しき事態だ。
「さて、私が皆さんの担任となるウィロウだ。それでは早速この学園のシステムについて説明する」
そう言ってこの学園のシステムについて淡々と説明を始めたのは、真面目な女教師を全身で体現したかのような女性であった。そして、それに続く学園の説明を簡単にまとめるのであればこうだ。
まず、この学園ではそれぞれのクラスで担任が教えてくれる基礎的な科目と、自分で選んで学ぶ科目とがある。基本的に担任の授業に出ていれば卒業はできるが、せっかく学園に来たんだから自分の好きなものを適当に学べ、ということらしい。ちなみに選択する授業の方に定員等はなく、予約の必要も無いらしい。
そして早々に説明を終えた担任は選択する科目の書かれた紙を全員に配り終えると早々に帰ってしまった。今日はもう終わりらしい。
いつの場所、時代でも先生の話が短いことには一向にかまわないことだし、早速リリアン様に自己紹介でもしに行くとしよう。そう思い立ち上がったところで、一人の男が声を上げた。
「なあ、ここにいる皆は今後一緒に学ぶことが多くなるようだし、自己紹介でもしないか?」
目を向けるとさわやかな雰囲気を纏う金髪イケメン。その言動から簡単に想像できる。こいつはあれだ。どこにでも一人はいるコミュニケーション能力が高く何でもできるイケメンだ。羨ましい。
「自己紹介、か。実にくだらないな。」
そう言ってさっさと教室を出て行ってしまったのはまた別の男子。決して俺ではない。
俺はというと、立ち上がったばかりの椅子に再び深く腰掛け、まわりの出方を窺っている。すると適当に一人ずつ自己紹介を始めたので、俺も適当なタイミングで無難な自己紹介をする。
最初の自己紹介キャンセル男子を除けば、何の障害もなく一通り自己を紹介し終えたので、クラスメイト達は各々帰路につくなり親睦を深めるなりし始めた。そこで俺は当初の目的通りリリアン様のもとに向かう。
「やあ、さっきは名乗れなくてごめんね。俺はシャイセンテ。今日からよろしく」
「はい!よろしくお願いします!!」
俺が声をかけると人当たりのよさそうな笑みを浮かべながらそう答えるリリアン様。
「でも、良かったです。私が第三身分なのに馴れ馴れしく話しかけてしまったことで、気分を害してしまったのではないかと思っていたんです…………」
「ははっ、そんなこと気にしないよ」
そう言えばあったな。身分制度。たしかこの国では第一身分から第三身分まであって、第三身分は平民や農民、第二身分は騎士や貴族、といった具合だったか。現代日本の思想を持ち越している俺にとってはなじみ深いものではないが、一応は第二身分である俺の機嫌を損ねたと思っていたらしい。
まあ、そんな誤解もとけたようだしよかった。