腰タオル
「う………うまい!しみる!しみわたる………っ!!」
ゴブリン討伐後、報酬としてもらったなけなしの金で近くの露店で売っていた串焼きを買った俺は、冒険者という職につけた喜びのはるか上をいく、食物をむさぼる喜びに打ち震えていた。
極限の空腹の末に食べる肉がこれほどまでにうまいとは………。
ぼろ布を腰に巻いただけのほとんど全裸の男が串に刺さっただけの焼いた肉を心底うまそうにむさぼる姿ははたから見れば不審者以外の何者でもないだろうが、そんなことが気にならない幸福に全身が包まれていた。
「……………ふぅ」
串焼きを食べ終わり、いまだに主張している若干の空腹感から串をしゃぶりながら町の適当なベンチに座り、一息つく。
冒険者になった。自分の意志なのか流れなのかは微妙なところだが、就職してしまった。ネックレスのように首から下げている、銅色で金属製の小さな板が冒険者の証拠らしい。この板には特に模様などはないが、これは俺が「星無し」、つまりギルドの最底辺ランクである証だそうだ。ギルドで功績をあげたり実力が認められたりすると星が増えていき、「三つ星」が最高ランクなのだそうだ。
あの優しいのか優しくないのかよくわからない少女や冒険者ギルド受付の男に聞いたところによると、シナイ王国とやらにあるこの町、「リーズ」には冒険者ギルドが北と南に一つずつ、合計2つありそれらは表立って争うことは無くとも決して良好な関係ではないのだと。まあ、アドバイスというか釘を刺されたな、これは。面倒を起こすなということだろう。ちなみに、俺の登録したギルドは北ギルドと呼ばれているらしい。
「さて、金も尽きたしもうひと働きするか」
とにもかくにも生きるには金を稼がないといけない。そう思い俺は再びギルドへと歩みだした。
※
冒険者ギルドに登録し、冒険者に就職してから早くも一か月が過ぎた。その間勤勉に、それはもう勤勉にギルドの任務をこなした。それにより俺の生活水準が向上し、なんと服は腰のぼろ布一枚から上下茶色っぽい雑な布の服に昇格し、安宿に泊まることができるようになった。貯金はないがあの絶望的な空腹もない。素晴らしいね。
その間、ちょくちょく俺の生まれた国であるフェニキア王国の情報を集めていたのだが、この町のやつらは他所の国なんてどうでもいいのか、単純に距離が遠いからなのか、あまり情報は集まらなかった。顔見知りのギルド職員だの、声のでかいおっさんだのの情報を統合したところ、どうもフェニキアは王都が襲撃されたせいで地方の領主だの商人だのが勝手に土地を統治し始めて混沌としているのだと。そんな話を聞いた俺だが、今すぐに生まれた故郷に戻ろう、という気にはならなかった。これが知り合いの不幸を直接認識して絶望してしまうのを防ぐ防衛反応なのか、俺が人の心を疑うレベルの薄情者でそもそも故郷の人間にあまり思い入れが無いのかはわからないが、なにはともあれ気が乗らないものは仕方ないので、別に故郷に帰る予定はない。
……………いや、少し訂正。父さんとプラナ先輩あたりには少し会いたいかもしれない。
「………よし、ギルド行くか」
謎の邪念がよぎった気がしたが、今日も今日とてギルドに行く。今日は少し難易度の高い任務に赴いてみるとしよう。
この一か月で慣れ切った道のりを歩み、ギルドの木製の扉を開ける。
「お、腰タオルじゃねぇか。今日もはえぇな」
「腰タオルって言うな。この立派な布の服が見えないのか?」
ギルドに入った瞬間、顔見知りの、体格のいい冒険者の男に声をかけられる。腰タオル、というのは俺のあだ名で、ギルドに登録してから1週間と少しの間腰のタオル1枚で過ごしていたらいつしかギルドのメンツからそう呼ばれるようになってしまった。まったくもって不名誉なことだ。
話しかけてきた男と軽いやり取りを交わした後、壁に掛けられた掲示板にはられた任務のうち、普段受ける者よりいくらか難易度の高い任務の書かれた板をはがし、顔なじみの職員がいるカウンターに赴く。
「よっ、今日はこれで頼む」
「ああ、任せろ………って、トロルの討伐?これは普段よりちょっと難易度高くねぇか?」
「まあな、そろそろちょっと任務の難易度をあげてみようかと思って」
「まあ、お前ならそろそろやってみてもいいかもなぁ。わかった、手続きしておく」
「さんきゅー」




