最強ヤンデレとの血みどろな日常~やばい雰囲気の白髪美少女が転入してきたので、関わらないようにしたがどうやら遅かったようです~
「ふふ、ふふふ……」
月明りに照らされ、白髪の美少女は不気味に笑う。
顔や服には、べったりと派手に飛び散った血が付着している。
「これで、これで死んだ……死んだ!」
白髪の少女が跨っているのは、眼鏡をかけた十代の男。
虚ろな瞳をしており、胸には五本もの包丁が突き刺さっている。一本でも致命傷だというのに、五本も突き刺さっているところに少女の狂気を感じる。
「えへへ。しーんだ! しーんだ!!」
人一人を殺したというのに、楽しそうに声を弾ませる。
「……」
……まあ、死んでいないんだけど。
あ、どうも。
包丁を心臓に五本も刺された眼鏡こと不二宮耀です。いや、普通心臓を刺されたら死ぬだろうとツッコミが飛び交っているかもしれないけど、死なないんだ。
ちなみに、痛覚を遮断しているため痛みもない。
だって、心臓に包丁が五本も刺さっていたら痛みで絶叫して、失神するかもしれないからね。
さて、どうして俺は白髪の少女に包丁で刺されたり、心臓を刺されても生きているのか。
簡潔に言えば、彼女は歪んだ愛情を持っており、死なない人を愛したい。そして、それは人間じゃなくてもいい。
とにかく、自分が殺しても死なない存在ならばいい。
そして、その愛した存在を……殺したいんだそうだ。
完全にやばい子です。
そもそも、この子……愛野ルキナに、どうしてここまで好かれてしまったのか。それは、彼女の役職と俺の存在に大きく関わる。
実は俺、人間じゃないんだ。
地球とは別の世界である魔界からやってきた魔王である父と神社の巫女だった母から生まれた悪魔。俺も驚いたよ。母さんの尻に敷かれている父がまさか魔王だったとは。
まあ、魔王と言っても自称なので本当かどうかはわからないけど。
しかしながら、人間じゃないというのは本当だ。じゃなくちゃ、心臓を刺されても死なないなんて普通はないだろう。
ちなみに、どうして俺が死なないのかは……正直、俺にもわかりません。
最初、ルキナから縦に真っ二つにされた時、自分でも死んだと思った。しかし、俺は生きていた。それからだ。
ルキナから何度も殺されそうになったのは。
「よいしょっと」
「ひゃっ!?」
そろそろ美少女に跨れるという股間に刺激的な状況から逃れようと俺は心臓に包丁が五本刺さったままむくりと起き上がる。
それによりルキナは、可愛らしい声を上げて仰向けに倒れた。
「まったく、人が寝ている時に包丁をぶっ刺すとかどういう教育を受けてきたんだ」
「あ、死んでなかった」
「はい、死んでませんでした」
ルキナは、地球に潜む魔なる存在を討伐する退魔士。
しかも、世界最強と言われるほどの実力を持っているらしい。そんなルキナに、俺は狙われた。
普段は、世界中を飛び回って魔を倒しているらしいが、強大な魔が潜んでいるという情報で俺が住んでいる町にやって来たのだ。
「なんで死なないの?」
「いや、俺にもさっぱり」
「ねえ、どうやったら死ぬの?」
「さあ、俺にもわからないな」
「えい」
「あの、一本増やさないでくれますか?」
どこに隠し持っていたのか。無造作にもう一本包丁を俺の心臓に突き刺すルキナ。しかし、それでも俺は死なない。
「ルキナ」
「なぁに?」
「本当に俺のことを好きなのか?」
「うん! 大好き!!!」
わー、めちゃくちゃ眩しい笑顔だぁ。この笑顔は、確実に男を惚れさせる。いや、女でも墜ちてしまう超絶可愛い笑顔だ。
そこに、ストレートパンチの告白。
こんな状況じゃなければ、俺も惚れていただろう。
「じゃあ、殺そうとしないでくれますか?」
「やだ」
「どうしてそこまで殺そうとするんだ?」
「愛してるから」
「愛してるなら、殺さないでほしいんだけど……」
心臓に包丁を六本突き刺されたまま愛しているなんて言われても、どう反応したらいいか……。
とりあえず包丁を抜こう。
傷は、自然に回復するから大丈夫だと思うけど。服の方はだめだなこれ。あーあ、これで何着目だろうか。ダメになった服は。
「なあ」
「なに?」
「今、何を考えてる?」
包丁を抜いている俺のことをキラキラした目で見ているルキナ。俺は、嫌な予感がしたので一度止まって問いかけてみると。
「心臓を抜いたら、死ぬかな?」
「止めて頂けますか?」
「それとも握り潰した方が」
こんな物騒なことを考えるやばい娘だが、普通の人間としてはスペックは高い。
勉強もできるし、退魔士をしているため運動神経も化け物級。
更に、容姿も幼い見た目だが、完全に美少女。俺の通っている高校に転入してきたのだが、いったいどれほどの男子が惚れたか。
俺の場合は、直感でこいつやばいと感じたので関わらないようにしたけど……しかし、その時点でもう遅かった。すでに魔なる存在にいくつか目星をつけていたらしく、俺が狙われたのは結構すぐだった。
だったら、どうして転入してきたんだと。
上のものから君に敵う者はいない。
少し腰を落ち着かせてはどうだろうか? と言われたからだという。ルキナ自身も、女の子として恋をしてみたいと思っていたので丁度いいと思っていたようだ。
いや、君の恋はちょっとあれだと思うぞ? と彼女のことを聞いていた俺は思わず突っ込んだっけなぁ。
「今日も派手にやられているようだな、息子よ」
「父さん、居たのか」
息子が包丁で滅多刺しにされているというのに、助けないとは薄情な父親だ。自室の入口に背を預け、妙にかっこつけたような体勢で呟くちょび髭の男。
本来なら、父さんも魔なる者なのでルキナの討伐対象なのだが……まったく興味なしとばかりに血塗れの俺に抱き着いてこんなことを呟いている。
「ねえ、耀くん。どんな殺され方がいい?」
そんなどこに出かける? みたいな感じに言わないでほしいんですが。もう可愛らしい顔と仕草のミスマッチ具合よ。
「息子よ。それも愛だ。受け入れろ」
「だったら、父さんも受け入れてみるか?」
「俺は死ぬ。無理だ」
「そもそも耀くん以外の男には興味ないから。ちょび髭は邪魔」
「……」
あ、結構傷ついてる。まあこんな子だが、別に殺戮者ではないのだ。実際、俺にはこんな感じだが、日常生活はパーフェクト。
多少あれ? と思うところはあるけど。
「ともかくだ、ルキナ」
「ん?」
あー、可愛い。うん可愛い。その首を傾げる仕草マジで可愛い。可愛いけど……。
「今日は、お開きということで」
「……わかった。じゃあ、一緒寝よ?」
「いや、それは」
「だめ?」
「いい、です」
「やったぁ!」
月明りに照らされた彼女の笑顔は……本当に可愛かった。傍らに六本の包丁と血塗れじゃなければ完璧だったんだけどな。
狂気に満ちた愛情……現実じゃまずないよな……たぶん。