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6.正しい銀行強盗の倒し方

「しっかし、ボロい仕事だよなぁ。

ただ指示に従ってるだけで金儲けできるんだか……はふん!」


「まったくだぜ。

取られる額はデカイが、確実に金が手に入るから……ん? どうし……ぐっ!」



 2人の男が床に崩れ落ちる。


 俺とイブは裏口を見張っていた2人の男を気絶させた。

 イブがやったのを確認してから俺も男の首に手刀を落とす。

 倒れた時に音がたたないように介助しながら床に寝かせる。


「……」


 俺はイブに思い切り股間を蹴りあげられた男に黙祷を捧げてから2人を拘束した。


 しかし、気になる話もしていたな。


「……やはり、何かしらの組織から支援を受けているのか」


 指示に従っていると言っていたな。

 かなりの額を抜いている所からも情報屋の類いではなく、直接的に指示を出している上位組織のようだ。

 先ほどの奴が、警察が到着するタイミングが分かると言っていたのも気になる。


 遠隔で監視している奴がいるというのが本命だろうか。

 警察内部に密告者がいる、などという可能性は考えたくはないな。


「……どうする?

裏口は確保できた。

こっから出れるし、警察とかに言うこともできる」


 思考を進める俺にイブが尋ねてくる。

 単純に『銀狼』であるだけならそれでも構わないのだが、警察としての顔も持つ俺からしたら人質を見捨てて自分たちだけ逃げるのは好ましくない。

 それに、もし監視者とやらがいるのなら姿を見られるのは得策とは言えない。


「……いや、このまま奴らの数を減らし、完全に制圧する。

見張りを数名規模で配置してあるようだ。

出入り口を回り、まずはそいつらを潰すぞ」


「了解」


 俺がそう言って裏口に背を向けて歩き出せば、イブは素直にそれに従ってついてくる。

 イブは何か異論があれば提案してくるし、特になければ素直に従う。


 俺は行動指針に対して意味や理由を含めて説明する。

 相手が納得できなければどんな説明も無意味だからだ。

 今は緊急事態だから監視者の存在などの細かい説明は省いているが、事態が落ち着いて家に帰ったらイブに改めて説明するつもりだ。







「……奴ら、やはり完全に素人上がりだな」


「……なんで?」


 俺とイブは銀行内の廊下を慎重に歩きながら話していた。

 まだ次の見張りがいる場所まで少し歩く。

 声のトーンは落とさなければならないが、軽く話す程度なら問題ないだろう。


二人一組(ツーマンセル)で出入り口に見張りを置くのは悪くない。

だが、2人の距離が近すぎだ。

あれでは不意打ちされた時に2人とも一気にやられてしまう。

1人がやられた時にもう1人がそれに対処する。

そのための二人一組(ツーマンセル)だからな。

おそらくは上からの指示なんだろうが、きちんと理解していないのか、慣れてダレたのか。


完璧に組めたと思った策は現場のそんな油断であっさりと瓦解するものだ」


「……なるほど」


 イブがこくりと頷く。

 殺し屋としての学びならば、一度きちんと説明してイブがそれに納得すれば、こいつは二度とそのことを忘れない。

 教える側からすればじつにやりやすい。


 ……まあ、そうしなければ生きていけなかったのだろうが。


「……いる。2人」


「……ああ」


 イブの知らせに俺は思考を打ち切って顔を上げた。












「おらおらぁっ!

さっさとこいつに金を入れるんだよ!」


「ひ、ひいぃぃぃっ!」


 目出し帽の男に銃を突き付けられ、銀行員は焦りながら金庫から金を運んでいた。


「早くしろっつってんだろ!」


「ぎゃっ!」


 焦りと恐怖から手が震えてうまく金を運べない銀行員を男が銃の柄で殴り付ける。

 男はそれでも気が収まらなかったのか、さらに拳を振り上げるが、


「……余計な暴力は禁止だと言っただろう。

作業効率を落とすようなことはするな」


「あ、はい! すんません!」


 リーダー格と思われる男に注意され、男はすぐに振り上げた拳をおろした。


「……うぅ」


 殴られた銀行員はすがるような目をリーダーの男に向けるが、


「おまえも、あまりに作業効率を下げるようなら殺すぞ。

作業の邪魔だからな」


「……は、はいぃ」


 リーダーに冷たくそう言い放たれ、諦めたように震える手で金を運ぶ作業に戻った。

 その一連のやり取りを見ていた他の人々も理解する。

 人の命をモノとしか思っていないようなこの男に逆らってはいけないと。


「……」


 そんな中、ジョセフたちの対応をした受付の女性は騒ぎに乗じて、挙げていた手をそっと下ろして目的のものまで伸ばした。

 受付の内側。受付台の裏側に設置された緊急通報ボタン。


「……っ」


 女性は押し入ってきた強盗たちの目を盗んでそれに手をかけ、そして、ボタンを押した。


「……!」


 ボタンを押して女性は安堵する。

 これで、これで助けが来る。

 これで、ようやく恐怖から解放される、と。



 その時、リーダーの持つ無線が鳴る。


「……俺だ。ああ、ああ。

…………そうか」


 女性には無線からの声を聞き取ることが出来なかった。


「……残念だ」


 リーダーは無線から聞こえた声に頷くと、そっと顔を上げた。


「……え?」


 その視線の先に自分がいることが女性には信じられなかった。


 まさかまさかまさか。

 でも、タイミングが……。


 女性が冷や汗を流す顔をさらに青白くしていると、リーダーはすぅっと腰のホルスターからハンドガンを抜いた。


「……残念だよ」


 そして、静寂をつんざく乾いた発砲音が銀行内に響いたのだった。





 








「第一銀行から緊急通報だ!

至急、現場に向かう!」


 警察内は銀行からの緊急通報を受けて騒然としていた。


「か、管理官自らですか!?」


「ああ! 嫌な予感がする!

間違いなく連続銀行強盗の奴らだ!」


 昨今、巷を賑わせている連続銀行強盗犯。

 その対策班の班長を務めているのは長い黒髪が美しいつり目の女性だった。

 年の頃は30代後半といったところか。

 今は長い髪を後頭部の下の方でひとつ結びにしていた。


「管理官は作戦本部のトップですよ!

指示出してください!」


 管理官の女性のあとを追うのは彼女の助手を務めている男性。

 いつも現場に飛び出そうとしてしまう上司をなだめる役回りを担っている。


「集められるだけ集めて!

今度こそ奴らを逃がさないぞ!」


「わ、わかりました!」


 管理官の勢いに圧されるように男は指示を各人に伝える。

 すぐに集まった警官たちが現場へと急行していく。


 一通り指示を出し終えた管理官たちもまた、現場に急行しようと警察署内の入口に向かっていた。


「あ、お疲れ様でーす」


 そこに、別の事件の捜査をしていたケビンが通りかかる。


「……おまえは」


 管理官はケビンを見ると足を止めた。


「おい。おまえの相方はどうした?」


「えっ!? あ、えと、ジョセフ警部なら今日はオフっす」


 管理官に突然詰め寄られ、ケビンはビクビクしながらも何とか問いに返答した。


「ちっ。肝心な時にあいつはいつも……」


 管理官は口惜しそうに唇を噛んでいた。

 どうやら彼女はジョセフのことを知っているようだった。


「……まあいい。

ついでだ。おまえも来い。

手伝わせてやる」


「えっ!? 俺いまから事務仕事なんすけど!?」


 そして、襟元を掴まれたケビンは管理官に引きずられながら現場に向かうことになったのだった。













「……ふむ。やはりたいしたことはないな」


「ん。まあ余裕」


 俺たちは引き続き各出入り口を見張っていた男たちを気絶させ、拘束して回っていた。

 目出し帽を被っているので殺したりはしていない。

 俺もイブも一撃で相手を気絶させ、そのあとにしっかりと拘束していった。

 イブには抜け出せない拘束の仕方はすでに教えていた。

 仕上がりを確認したが、ちゃんと教えた通りに男たちを縛り上げていた。




 パァンッ!!



「!!」


「……銃声」



 その時、銀行内に発砲音が響いた。

 この乾いた音。それでいて銃声にしては小さい音。

 M1911コルトガバメントか。


 サブマシンガンだけでなくハンドガンまで。

 だが、わりとメジャーな種類。

 入手経路はやはりたどりづらいか。


「……音、聞こえたの、受付の方……」


「……」


 イブがこちらを見上げてくる。

 いくら音が小さいとはいえ、銃声が響けば外の通行人に気付かれる可能性がある。

 侵入時に銃を撃たなかった連中がそんなリスクを侵してなお行った銃撃。


 誰かが抵抗したか、通報したか。あるいはそれに対する牽制か。


 いずれにせよ、いま様子を見に行くのは得策ではない。

 場が乱れている瞬間に飛び込むのはアリだとしても、今からではもう遅い。

 奴らはとっくに落ち着きを取り戻し、それどころか警戒心を高めているだろう。

 あるいは、俺たちのような潜伏者を炙り出すための罠の可能性もある。

 定期連絡の時間はまだのはずだから俺たちの存在は気付かれていないだろうが、可能性がある以上、考慮しないわけにはいかない。


 それはつまり、今は奴らの本陣に行くべきではないということだ。

 まだ制圧していない入口もある。

 まずはそいつらを片付けてから……。


「……私はジョセフに従う。

ジョセフの命令なら私はあっちには行かない」


「……」


 イブが拳を握りしめていた。


 さして関わりもないはずの人間の心配をしているのだろうか。

 しかしそれでも、それは殺し屋としてあるまじき判断だと思って自制しているのか。


 俺はイブの真意を図れずにいた。


 だが……、


「……受付に行くぞ」


「……えっ?」


 イブが驚いたような顔で見上げてきた。


「……もう露払いは十分だろう。

さっさと本陣を潰して終わらせる。

警察に連絡が入った可能性も高いからな。


……そう判断しただけだ」


「……了解……」


 イブは少しだけ首をかしげたが、深く追及せずに俺の言葉に従うことにしたようだった。

 納得していないのに俺の言葉を飲み込んだのは初めてだった。


 ……まあ、今はその方がありがたい。

 

 俺だって、自分の言動の意図を理解しきれていないのだからな……。



おまけ



 今日はいつもより忙しく感じる。

 近頃、銀行強盗が出るとかでまとめて引き出しておこうと考える人が多いからかしら。

 やだわ。

 ここにも来たらどうしましょう。

 まあでもきっと、こんな寂れた銀行よりも新しく出来た方に行くわよね。



 あら?

 今度のお客様はパパとかわいらしい娘さんね。


 なになに?

 娘のために口座を作ってあげたい、なんて、良いパパじゃない。


 ……え? 身分証が……あ、これは……そっか。


 ダメ、あんまり悲しそうな顔をしちゃダメよ。

 笑顔笑顔。


 あ、でもパパさんにはちょっと気付かれちゃったかな。


 

 ……ふふ、この子は飴玉に夢中みたいね。

 うちの子と同じぐらいかしら?


 こんなに小さいのに……。


 これから大変だろうけど頑張るのよ。

 優しそうな刑事さんと一緒だからきっと大丈夫よ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 六話目、見逃しておりました……! イブちゃん手際がいいですね( *´艸`) おまけの視点は例の受付の人でしょうか? すごく切なくなりました(ノ_<)
2022/08/11 21:12 退会済み
管理
[良い点] ジョセフとイブ、大活躍ですね。 しかし、残る強盗も、駆けつけてくる管理官も、一筋縄ではいかなさそうです。
[一言] 管理官イイ……( ˘ω˘ ) 気が強い女性すこすこのすこ( ˘ω˘ )
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