55.向き合わなければ真意は分からないが、向き合う前に撃ち殺されることもある。
「……」
場がしんと静まり返る。
少年たちによる三人同時攻撃が失敗に終わり、彼らが物言わぬ無数の肉片となって消えたからだ。
ゴロツキどもも思わず銃撃を止める。
八十人近くいた彼らもまた、三十人ほどに数を減らしていた。
「……」
場が動かない。
これは勝ったな。
「……」
さて、どうするか。
今のうちにゴロツキ連中を殲滅してしまうか。
いくら少年たちの気配を消す技術が秀逸とはいえ、俺とガイが捜索に全力を尽くせば居場所を特定するのは難しいことではない。
乱戦だからこそ、彼らは潜伏していられたのだ。
「おーい。おっちゃん」
「ん?」
などと考えていたら、ジンが樹上にいる俺に呼び掛けてきた。
木から降りて地上に立つ。
潜んでいる少年たちもゴロツキたちも動く気配はない。
俺たちの次の動きを待っているようだ。
「もう行っていいよ。
あとは俺とガイに任せてくれて大丈夫」
「!」
そういえば最初からそういう作戦だったな。
勢いに任せて動いていたらここまで数を減らしていた。
「……だが、ここまできたら全員で奴らを全滅させてから四人で進んだ方がいいのではないか?」
今さらこいつらに遅れを取ることも、ジンたちが負けることもないだろうが、先に進む戦力は多いに越したことはないと思うのだが。
「うーん。たぶんあのガキどもは出てこないよ。時間の無駄。
逃げに徹されたらさすがに時間かかるでしょ。
それに、おっちゃんの目的はこんなとこで手をこまねいてることじゃないでしょ」
「……それもそうだが」
とはいえ、ここまできて全く動く素振りを見せない少年たちの目的も気になる。
何か切り札を持っていて、俺たちの数が減ってから動く算段かもしれない。
「だーいじょうぶ。
俺たちを信用して任せてよっ」
「……いいんだな」
「もちっ」
笑顔でVサイン。
ジンには、奴らの狙いが分かっているのだろうか。
「……分かった」
信用するのもプロとして認めている証拠か。
ジンたちは信用に足る実力がある。
ここは任せるとしよう。
それにジンのこの反応。俺も何となく少年たちの目的が理解できた気がする。
「……ケビン」
「はーい。もう来てるっすよ」
名を呼べば、ケビンも事態を察して近付いてきていたようで、すぐに陰から姿を現した。
ガイだけはゴロツキどもを牽制してくれている。
「ジンたちに任せて先に進む。
お前は周辺を警戒しながら、いつでも撃てるようにはしておけ」
「了解です!」
「いくぞ」
敬礼するケビンとともに走り出す。
「いってらー」
ジンがへらへらと長い袖に隠れた手を振って見送る。
「……あとは頼む」
「ああ」
追い抜き際、ガイにも一言かけてから走り抜ける。
「くっ!」
ゴロツキどもが慌てて俺たちに銃を構えようとするが、
「やめときなー」
それを受けてジンが振っていた袖を勢いよく振り下ろす。
だらんと垂れた袖を突き破って、さまざまな銃砲刀剣類が突き出てきた。
袖からは刃のついた鞭のようなものも見える。
ガイは拾った岩を素手で砕いていた。
「いま動けば殺すよー」
「ひっ……」
二人に脅されてゴロツキどもは動けない。
少年たちも動く気配はない。
そうして、俺とケビンはそのままその場を離脱したのだった。
「……さて、と」
ジョセフとケビンが去ったあと、ジンは武器はそのままにくるりと振り向いた。
どこともつかない樹上を見上げている。
「もう出てきなよ」
「……」
ジンがそう呼び掛けると、少し離れた所の木から一人の少年が降り立った。
少年、といってもガイやマドカと同年代ほどの、『箱庭』の中では年長者にあたる少年だった。
どうやら彼が少年たちのリーダーのようだ。
「……で? どうするの?」
「……」
ジンが肩を竦めて尋ねると、少年はジンをじっと見つめた。
そして、
「……ふーん」
少年はおもむろに持っていた武器を全て地面に捨てて、両手を上に挙げた。
「降参だ。俺たちは投降する」
「……ふーむ」
ジンは顎に手を当てて少年の言葉の真意を探った。
「おいっ! どういうこった!」
「そうだ! ろくに手も出さねえで!」
それに対してゴロツキたちが抗議する。
「ガイー」
「ふんっ!」
それに対し、ジンに呼び掛けられたガイが持っていたトゲ付き棍棒を力強く振るった。
「……っ!?」
棍棒が当たった木がバキバキと音をたてて崩れ落ちる。
「……少し黙ってて」
「……っ」
冷たく放たれたジンの言葉にゴロツキたちが静まり返る。
「……他の人たちもそうかな?」
ジンが呼び掛けると、
「……」
年長の少年の後ろに潜んでいた四人が姿を現した。
少年二人に少女二人。こちらはイブよりも少しだけ年上といったところ。
「……」
「……ふむふむ」
そして、同じように全員が武器を全て捨てて両手を上に挙げた。
「……なるほどね」
ジンは何となく彼らの背景を理解した。
「君らはボスに完全に支配されてはいないんだね」
「……そうだ」
「はじめからこうするつもりだった?」
「……ああ」
「……仲間を、見殺しにしてでも?」
「っ!」
ジンの冷たい目に少年が怯む。
感情をほとんど見せない少年が動揺するほどに、それは冷たく鋭い目だった。
「……答えろ」
ジンにとって仲間は何よりも大事だった。
幾度となく助けられてきたから。
だから、仲間が無惨に殺されていくところをただ傍観しているような輩をジンは嫌悪した。
「……あいつらは、駄目だ。
あいつらを世に放ったら駄目なんだ。
だから、ここで死んでもらうしか、なかった……。
でも、俺たちはもう殺したくなかった。だから……」
「……」
しかし、少年の痛むような表情と言葉を受けて認識を改める。
「……俺たちに攻撃してきた奴らはボスに忠実な兵隊、いや、信者に成り下がった連中だったってこと?」
「……そうだ」
「そっか……」
ジンはおおよそ理解した。
目の前に立つ少年たちはボスの命令に絶対的に従うフリをして、脱出する機会を窺っていた。一方で、先に死んでいった者たちは真にボスに従う者たちで、しかしボスの望む機械のような兵ではなく、ボスに心酔する信者のような存在だった。だから、もしもボスが死んで彼らが世に出たときに、彼ら自体が第二第三のボスになりかねない存在だったのだ、と。
「……おまえがリーダーで、でも指示を出すはずのリーダーが何も命令せずに潜み続けたから少年たちは動けなかったと。
動いた奴らは独断。痺れを切らした感じかな」
「そうだ……」
ボスに心酔する者たちならば、ボスからの命令を実行せずにいつまでも潜んでいるのは苦痛なはず。
だからリーダーたるこの少年はここにいる四人にだけ徹底して隠れるよう指示を出し、待ちきれずにジョセフたちに気配を漏らしてしまうであろう他の少年たちが殺されるのを待っていたのだ。
「……道理で、最後の三人もずいぶん急拵えな策だとは思ったよ」
ジンがため息を吐く。
十三人もの『箱庭』の人間がゴロツキどもを囮にして全力でコンビネーションを発揮すれば、下手したらジンたちは全滅していた。少なくとも無傷ではいられなかった。
しかし、彼らはいっこうに動かなかった。
ジンとジョセフはずっとそれを懸念していた。
その種がいま明かされたのだ。
「……投降、って言ったけど、どうするつもり?」
ジンはリーダーである彼の意向を尋ねた。
本来であれば依頼主であるジョセフの意向に沿って、彼らを問答無用で全員殺すべき。
それでも意見を聞いたのはジンの優しさに他ならない。
「俺を殺してくれて構わない。
だから他の奴らは見逃してくれ」
「……ふーん」
即答だった。
「……!?」
それを受けて、彼の後ろにいる少年少女たちは非常に驚いた表情をしている。
どうやらリーダーの独断のようだ。けれどもリーダーは最初からそれを言うことは決めていたようだ。
「……」
ジンは深く頭を下げる少年を見下ろす。
「……ねえ」
「?」
そして、その声が突如として柔らかく、優しくなる。
「よかったら君たち全員、俺らの所に来ない?」
「……え?」
きょとんとした顔を上げた少年は、年相応の少年のようだった。
「って言っても裏稼業だから、それなりにやることはやってもらう。
でも無理強いはしない。ま、仕事はちゃんとやってもらうけど。
金が貯まったら足を洗ってもいい。
どうかな?」
そう言ってジンは手を差しのべる。
「……っ」
それは少年が幾度となく求め、望んだ幻想だった。
ここから救いだしてくれる誰かを、何かを求めていた。
しかし、そんなものがあるはずもなく、毎日その手を血で染めた。
「……本当か?」
だから、にわかには信じられなかった。
そう言って仲間同士で殺し合わされることなど日常茶飯事だったから。
「もちもちー。
うちのボスは馬鹿だけど、まあ悪い奴じゃないから。あ、悪い奴ではあるのか」
ジンはからからと笑う。
裏表などなく、屈託のない笑顔で。
「……それでも、救いのなかった俺たちを囲ってくれるぐらいには馬鹿な男だから」
「……」
その言葉と表情には、えもいわれぬ説得力があった。
「それに、俺もいるしね」
「……」
そして、その言葉が決定打となった。
「……分かった。
よろしく、お願いします……」
「うん!」
再びリーダーが頭を下げる。
同じように後ろの四人も深く頭を下げていた。
そんな彼らの足元では、彼らからこぼれ落ちた雫が落ち葉を濡らしていた。
「おっさんたちはどうする?」
その様子を慈しむように見たあと、ジンはくるりと踵を返した。
呆然としていたゴロツキどもに視線を向ける。
「……っ!」
突然に話を振られ、男たちがビクリと体を揺らす。
ジンたちの恐怖がすっかり体に染み付いてしまったようだ。
足元に先ほどまで仲間だった男たちの死体が転がっているのだから当然だろう。
「……お、俺たちは……」
男たちは互いに顔を見合わせる。
ほとんどが初対面の男たちだったが、境遇は誰もが似た者たちだった。
こんな半端で危険な仕事で食いつなぐしか出来ない者たち。
組織に所属することさえ出来ず、同じような仲間たちと徒党を組んで悪さをするのが関の山。
「……殺さないでくれるなら、この仕事からは手を引く。あんたらには二度と関わらない。
また日陰で、こそこそ生きていくさ……」
やがて、男たちの中の一人が総意を代弁してから俯く。
他の男たちも彼と同じように俯いていた。
こちら側の世界で生きる以上、自分たちのような命は紙切れよりも軽い。
彼らはもう諦めていた。
あるいは、今回の仕事で大金を手にすればもしかしたら、と思っていた者もいただろう。
だが、やはり安い命だった。
弾除け。囮。
自分たちは金で釣られた愚かなゴロツキ……。
「じゃあさ、あんたらも俺らの所に来なよ」
「!?」
だから、ジンのその提案に彼らは心底驚いた顔を見せた。
「……本気で言っているのか?」
男たちは信じられなかった。
少年たちのように未来があるわけでもない。純粋でもない。
人には言えないようなことも数えきれないほどしてきた。
暴力と裏切りが常に隣り合わせで存在し、昼間に隣にいた奴が夜にはナイフを向けてくるような世界。
ジンの提案にはどんな裏があるのか。
男たちは猜疑心でしかその提案を勘案できずにいた。
「あー、あんたたちにはもっと明確に示した方がいいのか」
その様子を見たジンが言い方を変える。
「ここは今日なくなる。
ボスも組織も消滅する。
俺たちが潰すからね」
「……っ」
屈託なくそう言いきるジンだが、男たちはそれを納得せざるを得ないほどに、ジンたちの実力を目の当たりにしてきていた。
「この組織は国の奥底で、この国の裏の世界を牛耳ってきた。
それがなくなるってことは、近い将来裏の世界の覇権争いが始まるってこと。
ま、特安とか銀狼とかがいるから表立っては起こらないだろうけどね」
「……」
「それでさ。俺は、次にその覇権を握るのはウチのとこのボスがいいかなって思うんだよね。
あのおバカさんなら、こんなクソみたいな世界でも悪くはしないと思うからさ。まあ、まだ一番のトップではないけどね」
ジンは自分が彼らを連れて帰って、ロイがジンに文句を言っている所を想像してクスクスと笑った。
「……そいつを信用しろってのか?」
「そうじゃないよ」
「あん?」
見知らぬ相手を話だけで信じろというのは、彼らには無理な話だろう。
「人数が必要って話さ。
話し合いや取引にも力は必要だからね。
そんで、ウチのボスはちゃんと仕事をすればしっかり報酬をくれる。
ま、下手なことをやらかせばもちろん制裁されるけど、それはこっちの世界ならどこもそんなもんじゃん?
で、欲しいのはちゃんとやることやって、生きて帰ってくる仲間だ。
ウチは仲間を捨てたりしない。
そういう奴はウチのボスに殺される。
これからの覇権争いに向けて仲間を増やしたい。
それがこちら側のメリット。
そっちには十分な報酬を支払う。おまけにウチらが君らの後ろ盾になる。
それがそちら側のメリット。
ようは、互いに都合がいいから利用し合おうって話。
どう? 下手な美辞麗句よりも説得力あるでしょ?」
「……」
常に裏切られ、欺かれてきた彼らが信用するのは金だけ。
その上で、どちらにもメリットがあることを、彼らが必要であることを説明する。
命の軽い世界で生きてきたジンには、彼らの気持ちがよく分かっていた。
「……分かった。
よろしく、頼む」
「おっけー」
そうして、男たちもぺこりと会釈した。
「じゃー、とりあえず街まで戻って迎えを呼ぼう。
俺らはケビン兄ちゃんみたいにこんな森でも通じる連絡手段は持ってないからね」
ジンのもとに少年たちと男たちが集まる。
四十人規模の大所帯のため、まとめて迎えに来てもらう算段のようだ。ロイの組織ならば大型バスをすぐに動かすぐらいワケないだろう。
「しかし、俺たちには依頼がある」
だが、ガイがジョセフたちの進行方向を眺めながらジンを制止する。
ジョセフとイブを護るという依頼のためには、ここで引き返すのはナンセンスだと言いたいのだろう。
「仕方ないさ。
そろそろケビン兄ちゃんがお仲間を動かす頃。
こんな柄の悪い連中が何十人もいたら迎えが来る前に捕まっちゃう。
俺たちは特安とも警察とも面識があるから、見つかっても話を聞かれるぐらいで済む。
迎えが来るまではこいつらと一緒にいるしかない。
迎えに面通しをしないといけないしね」
それに対し、ジンがそう言って肩を竦めると、
「……分かった」
ガイはこくりと頷いて納得した。
二人とも、ジンは彼らと同行し、ガイだけがジョセフたちを追うという選択には至らない。
少年たちの言動が演技で、別行動をした瞬間にジンが殺される可能性がゼロではないため。
また、彼らは仕事中に別々に動くこと自体が滅多にない。
彼らは二人で一つ。
仕事の時は常に共に。
それが護り屋の理念だった。
「よーっし。じゃあ街まで行くぞー。オー!」
ジンは拳を空に掲げると、来た道を再びパタパタと歩き出す。
その後ろにはガイ。
それに続くようにして、少年たちと男たちも歩き出す。
「……」
「もー。皆ノリ悪いぞー」
黙ってついてくる少年たちと男たちに、ジンが前を向いたままプンプンと不満を漏らす。
振り返りはしない。
彼らがついてくることを信じているから。
仮に途中で抜ける者がいても、それがその者の選択ならそれでもいいと思っているから。
「……」
だが、誰一人欠けることなく彼らはついていく。
その背中についていくことが最良だと理解しているから。
ジンは背中でそれを感じて微かに微笑む。
「間に合うかどうか分かんないけど、彼らを迎えに引き渡したら戻ってこよーか。
もう終わってるかもだけど」
「ああ」
ジンはまだ知らない。
自分が数十人規模の兵を抱えた若頭となったことを。
そして今回の件をきっかけに、ロイが自分の組織のトップになった時に、ジンのことを自分の後継にしようと考え始めることを。
「警部ー。ジンたちは大丈夫っすかねー」
森を進みながら、ケビンが心配そうに振り返る。
自分の弟たちと年齢が近いからなのか、どうにもジンたちのことが心配なようだ。
「問題ないだろう。どうせもうあそこで戦闘は起こらない」
「へ? どういうことですか?」
ケビンは理解していないようだが、少年たちのリーダーはおそらく……ま、ジンに任せておけば大丈夫だろう。
「それよりも、そろそろ特安と警察に連絡を入れておけ」
「あ、はいっす」
話題を切り替え、ゼットからアジトの場所が割れたと連絡があったと、ケビンに伝えさせる。
ケビンもすぐに切り替えてリュックから衛星電話を取り出した。
アジトは広大だ。
敵は一人も逃さず殲滅するつもりだが、出入り口がどれだけあるかも分からない。
俺たちだけではさすがに取り逃がす可能性が高い。
特安も警察も動きが早い。
俺たちがアジトに突入して万が一敵を取り逃がしても、そいつがこの自然保護区から出るまでには包囲網を完成させるだろう。
だが、邪魔はされたくない。
だから、このタイミングで連絡を入れるのだ。
「……はい。そんな感じで。
警察の方への連絡は頼みます。
俺の隊は現場近くにいるのでこのまま直行します。
もちろん先行なんてしませんよ。
じゃ、お願いします」
ケビンが電話を切る。
特安のケビン率いる部隊は演習の名目で近くの街に駐留させていた。
彼らにはゼットからの密命と説明していて、俺たちが侵入した街とは自然保護区を挟んで反対に位置する街に居てもらっている。
俺たちから逃げるようにして森を抜けるなら、敵はその街に出てくる可能性が高いからだ。
ボスの組織の人間なら、『箱庭』でなくとも強い可能性が高い。とはいえ、特安の部隊ならば逃亡者を対処するぐらいなら問題ないだろう。
「オッケーっす」
「ご苦労」
電話を切り、ケビンがリュックを背負い直す。
再び森を進む。
道はない。
ただ鬱蒼と生い茂る木々の間を縫うようにして前に進む。
遮蔽物が多い。
神経を研ぎ澄ませて生き物の気配を探りながら進む。
「……次は、どんな奴が出てきますかね」
ケビンの緊張感も増していく。
そろそろ次の敵が出てくることを予期しているのだろう。
「……俺がボスだったら、次はネームドレベルの奴を出すな」
「ネームド?」
「名前が知れてる奴ってことだ」
「あー、雑魚じゃないってことっすね」
「そうだ」
銀狼や壊し屋、解体屋、何でも屋カイト、護り屋ジン・ガイ兄弟のように、裏の世界でその名を轟かす連中。
ボスのいるアジトの本拠地の前に、ここで強いのを出して迎え撃つことは十分に考えられる。
数の次は、質だ。
「えーと、解体屋以外には、あとどんな有名人がいるんでしたっけ?」
「それは…………っ!」
その時、遥か遠くから放たれた殺気を鋭敏になった俺の感覚が捉えた。
それが向かう先は……ケビンの頭部。
「くそっ!」
俺は即座に地面を蹴った。
おまけ
「ぶえっくしょいっ!!」
「きゃっ!」
今日も今日とてローズの部屋に見舞いに来ていたロイが大きなくしゃみを飛ばし、ローズがそれに驚く。
「うぅ……」
「あらあら、誰かロイの噂でもしてるのね」
鼻をすするロイにローズがティッシュを差し出す。ずいぶん慣れたやり取りのようだ。
「……この感じ、ジンだな」
「くしゃみで個人まで特定できるとか怖ーい」
鼻をかみながらどこか上を見上げるロイにローズが両手を抱えて体を揺らす。
「またあいつが厄介事を持ってくるぞ。
あいつはすぐ猫でも何でも拾ってくるからな」
ロイの予感はほぼ的中していた。
拾ってくるのは猫ではなく、四十人規模の人間だが。
「それでも面倒見ちゃうんだから、貴方もたいがいよね」
「……うっせえ」
痛い所を突かれ、ロイが口を尖らせる。
「そういう所も素敵って言ってるの」
「……ローズ」
「ロイ……」
二人は見つめ合い、ゆっくりと顔を近付ける。
「……ねえ。せめて私が退室するまで待ってくれないかしら?」
「どわぁっ!?」
しかし、リザに声をかけられてロイが慌てて飛び退いた。
リザはローズの食器を片付けるために先ほどからずっと部屋にいたのだ。
「もう。いい所だったのに」
「やれやれ」
むくれるローズにリザは呆れるしかなかったのだった。