50.解体屋は野に放たれ、そして狼は森へと進む
「……」
何もない部屋。
天井には埋め込み式のライトがいくつもあり、部屋を余すことなく照らしていた。
部屋には、本当に何もなかった。
家具も何も、毛布一枚さえ置かれていない。
ただただ明るいだけの、真に何もない部屋。
「……」
そこにイブはいた。
何をするでもなく、ただ部屋の真ん中に、静かに座っていた。
部屋の四隅には監視カメラ。
扉は厳重に施錠されている。
食事と入浴、排泄の時にだけ部屋から出される。しかしそれも時間と回数が決められ、その全てに監視がついていた。
「……」
それ以外でイブが部屋から出るのはボスに命令された時だけ。
「……」
イブはそんな生活を眉ひとつ動かすことなく送っていた。
心が騒ぐこともない。文句などない。
ただボスの命令にだけ従えばいい。
「……」
イブの中には、もはやそんな心証しか残っていないように見えた。
「!」
ある時、扉の外に気配を感じてイブが顔をあげる。
食事などの時間ではない。
ならばボスからの命令か訓練か。
「……」
だがしかし、扉の向こうにいるのはボスではないことをイブはすぐに感じ取った。
荒い息。
消すことさえ知らない足音。
稚拙な気配。
それはとてもこの世界で生きているとは思えないほどに研磨されていない存在感だった。
「ふふ、ふふふふふ……」
やがて、不気味な笑い声とともに重厚な扉が開いていく。
「キャシー、ちゃーーんっ」
「……」
果たして姿を現したのは、卑しい笑みを浮かべた解体屋だった。
イブは不穏な気配を纏った彼を前にしても顔色ひとつ変えない。
「うふふふ。や、やぁっと忍び込めたよー」
解体屋はこそこそと周りを見回しながら部屋の中に入ってきた。
重い扉が閉じられる。
「キャシーちゃん、キャシーちゃん、キャシーちゃん……」
解体屋は興奮した様子で少しずつイブに近付いてくる。
「……」
イブはその様子を眺めながら、それでもボスから命じられたその場所に腰を下ろしたまま微動だにしなかった。
「ぐふふふふ。た、助けは来ないよ?
監視カメラの映像はダミーにしてあるからねー。ち、ちなみにボスは外出中。
ずっと、ずーーーっとこのチャンスを狙ってたんだー」
下卑た笑みを浮かべながら、解体屋は嬉しそうに語る。
「『箱庭』にいる時からね。ぼ、僕は君のことが気になってたんだよー。
でもね。き、君ってばボスのお気に入りでしょ?
なかなかチャンスが来なくてねー……アイテテテテテ」
解体屋が包帯を巻いた右肩を左手で抑える。
どうやら撃たれた箇所がまだ治っていないようだ。
「そー。ぼ、僕ね、おケガしちゃったんだー。
だ、だから、キャシーちゃんに癒してもらおうと思ってさー、ぐふふふふ」
だらりと下りた右腕で自分の下半身を触りながら、解体屋はゆっくりとイブに近付いていく。
「……」
イブは動かない。
ただただ、ぼんやりと解体屋を見つめていた。
「て、抵抗しないよね?
ボスに命じられてないもんねー?」
解体屋が右肩を抑えていた手を離して、ゆっくりとイブに手を伸ばした。
「……」
「ん?」
自分に近付いてきた手を見て、イブはようやく解体屋に焦点を合わせた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「ボスには、ボスと見張り以外の人間が近付いてきたら殺していいと言われてる」
「え?」
イブに触れる寸前で解体屋の手が止まる。
「あと一センチ近付けば、私はボスの命令を実行していいと判断する」
「ひっ」
氷のように冷たくなったイブの瞳に、解体屋は慌てて手を引っ込めてイブから距離をとる。
「……」
解体屋が離れると、イブは再びぼんやりとした瞳に戻って真っ直ぐ前を見始めた。
「く、くそっ」
丸腰でも戦闘ではイブに敵わない。
解体屋は悔しそうに顔を歪める。
「な、なんなんだよー。マドカちゃんだと殺されるから、キャシーちゃんならいけると思ったのにー」
解体屋は青い顔を真っ赤に染めながら奥歯をギリリと噛み締めた。
「……な、な、なら、触れなければ、い、いいんだよねー?」
「……」
しかし、再びニヤリと卑しい笑みを浮かべる。
「キャシーちゃんは、み、み、見てて、くれるだけで、いいからさー」
解体屋は何を思ったか、ズボンのベルトを緩めだした。
「き、君みたいな美少女に、み、見られてるってだけで、僕は、僕はぁ……」
鼻息の荒い解体屋がズボンを下ろそうとした、その時、
「ずいぶん楽しそうじゃねえか、解体屋よぉ」
「ひぎっ!?」
解体屋の頭は巨大な手に掴まれていた。
「ボ、ボ、ボ、ボ、ボスゥゥゥゥっ!?」
動かせない頭で懸命に目だけを後ろに向け、そこにいるのがボスだと知った解体屋は酷く驚いた顔をしていた。
「……」
ボスの出現にイブがすっと立ち上がる。
そう命令されているから。
「ああ。キャシー。お前はそのまま座ってていいぞ」
「……はい、ボス」
が、ボスにそう命じられ、イブは再びすとんとその場に腰を下ろした。
「で、で、出掛けてたんじゃ、なかったんですか? ハハ、ハハハハ」
冷や汗をだらだらと流しながら、解体屋は媚びるような声でボスに話した。
「俺がお前程度の考えを見抜けねえわけがないだろ。
俺が出掛けたって情報も、出掛けた様子を映した監視カメラの映像も、全部がこちらで用意した偽物だ。
ちなみにこの部屋のカメラの映像もダミーに換えられてなんていないからな」
「えっ!? そ、そんなっ!」
まんまと罠に嵌められたことを理解した解体屋は絶望の表情を見せる。
ボスのお気に入りに手を出せば誰であろうと殺される。
解体屋は、これまでそんな輩を何人も見てきていた。
ボスの異様に筋肥大化した腕。
自分の頭はこれに握り潰されるのだと。
「……ったく。オイタが過ぎるぞ、解体屋」
「あっ……」
が、ボスは優しげな声で解体屋の頭から手を離した。
解体屋はバランスを崩して地面に膝と両手をつく。
「ま、お前には世話になってるし、役にも立つからな」
「あ、へ、へへ」
四つん這いのままで恐る恐る振り返ると、ボスはやれやれと肩を竦めていた。
解体屋は媚びたように笑う。
実のところ、解体屋にはそんな打算もあった。
ボスは役に立つ人材には優しく、手厚い待遇をする。多少の過ぎた行いも見逃してくれる。
ただでさえ自分の爆発物の取り扱い技術と遺体の解体技術は組織にとって不可欠。
先の、二度に渡るショッピングセンター爆破テロ事件も、自分の働きがなければ実行は不可能だった。
ボスとしても自分は手放したくない人材に違いない。
そんな打算があったからこそ、解体屋はリスクを承知で今回の行動に出たのだ。
「へへへへ」
媚びた笑いを浮かべながら、解体屋は勝ったと思った。
生きてさえいればチャンスは来る。
解体屋は反省した様子を見せながら、内心で改めて決意を固めていた。
いつか必ず、マドカとイブを味わうのだと。
「……だから、お前には選ばせてやる」
「……へ?」
だが、当然のように事はそう上手く運ぶはずもなく。
「今すぐアジトから出ていき、二度とそのツラを見せないか、あるいは今ここで俺に握り潰されるか、をな」
「なっ!」
異常に太い腕を動かし、再び巨大な掌を開くボスに、解体屋はギョロリとした目玉が飛び出さんばかりに目を見開いた。
「ぼ、ぼ、ぼ、僕は、この組織にとって必要不可欠な存在、のはずっ!」
解体屋は食い下がった。
自らの欲求を抑えられない解体屋はどこの組織からも煙たがられ、流れ流れてようやくここにたどり着いたのだ。
一人で生きていく力のない解体屋にとって、ここから出ていけということは死刑宣告も同じだった。
「確かにお前の爆発物や死体解剖に関する知識と技術は目を見張るものがある」
「そ、それならっ!」
「……が、それはもう全てトレースさせた」
「……へ?」
ボスは既に解体屋に興味を失っていた。
まるで壊れたオモチャを見るように、ボスは冷たく解体屋を見下ろす。
「俺の箱庭の奴らは優秀でな。
お前から知識を搾り取るのには時間がかかったが、ノウハウさえあれば技術を習得させるのにそう時間はかからねえんだよ」
「そ、そんな……」
自分が十年以上もの歳月をかけて磨き上げてきた研鑽を、自分よりも一回り以上若い存在が簡単に。
解体屋はその事実にショックを隠せずにいた。
「分かるか?
お前はもう要らないんだよ。
しかも俺のキャシーに手を出そうとした。
薄汚ねえ旧人類が。尊いキャシーにだ。
それは到底許されねえ。許されねえよなぁ?」
「ひ、ひぃっ!」
迫り来る巨大な手に解体屋は腰が抜けてしまった。
「……が、俺はお前に感謝もしてる」
解体屋の顔の目の前で掌は止まる。
「時期的に考えても、お前のおかげで銀狼は生まれたといっても過言ではないからなぁ。
だから特別に殺さない選択肢をやる。
いいか。今すぐにここから消えて、二度と俺にその醜いツラを見せるな。
俺の周りでお前の話を聞けば、今度は必ずお前を殺しにいく」
「う、うう……」
「いいなぁっ!!」
「ひ、ひぃぃぃぃーーーっ!!」
ボスに大声で脅され、解体屋はバタバタと情けない姿で部屋から出ていった。
あの怯えた様子では二度とアジトに戻ることはないだろう。
「ふんっ。まるでゴキブリだな」
そんな後ろ姿をボスは心の底から軽蔑した目で見下ろしていた。
「……」
そんな状況であっても、イブはボスの命令通りに同じ場所に座ったまま、ただぼんやりと前を見ていた。
「キャシー。悪かったな。怖い思いをさせた」
振り向いたボスはことさらに優しい笑みを浮かべて、その巨大な掌でイブの頭を優しく撫でた。
「……いえ。何も問題ありません」
イブはそれを眉ひとつ動かさずに受け入れる。
「……あいつはお前に触れてないな?」
「はい」
イブの頭に優しく手をのせたまま、ボスはにこやかにイブに尋ねる。
イブはそれに即答で返す。
「なら、なんであいつは生きているんだ?」
「?」
「お前に近付いてきた者は警告なしで殺せと命じたよな?」
「……はい」
ボスの笑顔は崩れない。
優しい手もそのまま。
「……なんであいつは生きているんだ?」
ボスは質問を重ねる。笑顔はそのままに。
「あいつに、警告なんてしてないよなぁ?」
笑顔はそのまま。けれども、イブはかすかに頭に重みを感じた。
「していません。
あいつは私に触れようとしたけど、おもむろに距離を取ってズボンを下げようとした。ただ、見ていればいいと言って。
そこにボスが来た。
それだけ」
監視カメラは音声は録っていない。
つまり映像を観ていたボスにはイブが何かを喋ったかどうかを判断することができない。口を動かさずに喋ることなどイブには容易い芸当だから。
「……」
イブは頭にのしかかるかすかな重みと、変わらないボスの笑顔に動じることなく、淀みなくスラスラと返答してみせた。
「……」
「……」
「……ふん。変態野郎が」
ボスはしばらくイブをじっと見つめていたが、やがて吐き捨てるようにそう言ってイブから離れた。
「……」
イブはそれに安堵の息を吐くことさえしない。
それが当然のことだと、再びぼんやりとした瞳に戻る。
「悪かったなー。変に疑っちまって。
分かってくれよ?
俺はお前が大事なんだ。
俺たちは唯一の家族だからな。
俺が、お兄ちゃんがお前を守ってやるからな」
ことさらに優しい笑みを浮かべるボスに、
「はい、ボス」
イブは冷たく沈めた心と声ですぐに返事を返したのだった。
「よっし。車はここに置いていきましょう」
郊外の中規模の街に着くと、ケビンは民営の駐車場に車を止めた。特安とは無関係の一般的な駐車場のようだ。
ゼットから送られてきたアジトの座標がある自然保護区から最も近い街。
とはいえ治安もよく、至って普通の街だ。とても近くにボスの根城があるとは思えない。
「ここからは潜みながら進みましょう。
街から出ればすぐに保護区です。
一応、森をしばらく進んだ先にフェンスが設けられてて、そこから先が本当の自然保護区になるんですが、おそらく森に入る者は余すことなくチェックされてると思うんで」
「了解。慎重に、かつ迅速に、だな」
「はいよー」
「了解」
全員で車から降りる。
道中、特に妨害や尾行の類いはなかった。
おそらくカイトたちによる監視ももうない。
ボスは本当に全ての戦力をアジトに集結させて俺たちを迎え撃つつもりのようだ。
「後ろ。トランク開けるんで、好きなの持っていってください」
トランクに向かうケビンについていく。
必要な装備は整えてきたが、使えそうなものがあれば拝借しておこう。
「わーお」
トランクの中身を見て、ジンが目を輝かせる。
「……やりすぎだろ」
トランクには所狭しと銃砲刀剣類が並べられていた。
小銃からグレネードランチャー、刀に爆弾の類いもある。
「お宝だー!」
ジンが楽しそうにトランクの中を漁り、あれこれと服の中に詰め込んでいく。だぼっとした服だが、その量をどうやって収納しているのか。というか、爆弾の類いばかり詰め込むなよ。
「俺はこれぐらいしか使えない」
ガイはトゲのついた棍棒を手にした。野球のバットの半分ほどの長さ。
とはいえ、ガイが手にすればそれは十分すぎるほどの凶器だろう。
「警部はなんかいりますー?」
大きなリュックにいろいろと詰め込んでいるケビンが声をかけてくる。
すでにモノが入っていたようだが、追加で武器を詰めているようだ。
「……そうだな」
余計な荷物は邪魔になるからと服に仕込める類いの武器しか持ってきていなかったが、敵が全力で迎え撃とうとしていると考えると、やはりそれなりに削る武器は必要か。
「これと、これをもらおう」
「はーい」
手にしたのはSMGとショットガン。
サブマシンガンの方はVz61、通称スコーピオン。威力はそこまで高くないが、小型で軽量なのが都合がいい。
ショットガンの方はイサカM37か。弾数は弾倉延長タイプで七プラス一発。俺にはこれぐらいがちょうどいいな。
どちらも肩に担げるようにしてくれている。
「これは、特安の武器庫から持ってきたのか?」
こんな量をバレずに持ってこれるとは思えないが。
「いやー、押収したのが倉庫に溢れてましてねー。死蔵ってやつです。
どうせ使い道がないなら有効活用してあげようってことで持ってきたんすよー。
ま、仕入れたものもありますけどね。
あ、ちゃんと全部メンテナンスして使えるようにしてあるから安心してください!」
「……ふっ。お前もたいがいだな」
バレたらクビでは済まないだろうに。
「いやー、ケビン兄ちゃん最高っ!」
「おう! もっと褒めろ!」
一通り確認してみたが、問題なく使えそうだ。
普段なら人の用意した武器など安易に使わないが、これは問題なさそうだ。本当に丁寧にメンテナンスされている。
銃器に関してはケビンもプロだからな。
べつに俺自身がこの武器に頼りきった戦いをするわけでもなし。
その道のスペシャリストであるジンも何も言わないのだから問題ないのだろう。
ここは有り難く使わせてもらうとしよう。
「よし。
そろそろ行くぞ」
銃をそれぞれ左右の肩に掛ける。
もちろん街中だから収納袋にしまってある。
ケビンは大きめのリュックと剣道の竹刀を数本入れられるような袋を二つ。ジンは手ぶら、ただしさっきよりも長い袖とだぼだぼした服が大きくなっている気がする。ガイは棍棒を布で包んだだけ。
「まずは街の端、森の入口まで。
ここはそれなりに大きい街だ。下手にこそこそする方が目立つだろう。
観光客のつもりで進めばいい。
街境に近付いたら潜み、見られないように森に入るぞ」
「了解でっす」
「わーい! 観光だー!」
「了解」
一人能天気なのがいるが、今はあれぐらいがいいだろう。本人も分かってやっているのだろうしな。
むしろガイのような仏頂面の方が違和感がある。
「……ふっ」
いや、それは俺もか。
最終決戦に向けて俺も緊張が高まっているのは理解しているが、場に合わせて自分を変えるのもプロというものだろう。
「わーい! なに食べるー?」
まさかジンにそれを教えられるとはな。
「おーい。一人で行くなー。迷子になるぞー」
さっさと走り出すジンにのんびりとした表情で声をかける。
「だーいじょーぶだってー」
ジンがテンションが上がりすぎた観光客のように、一人でさっさと走り出してしまった。
街境の森の方へ。
「……ったく。仕方ないな」
ジンを追うようにして走り出す。
ジンと、それを追う俺を屋台のおばちゃんが微笑ましそうに眺めている。
「……俺たちも行くぞ」
「え、あ、ちょっと。皆切り替え早すぎっすよー」
ガイとケビンも続く。
一人で突っ走る末娘を追って振り回されている父親と兄貴二人。そんな構図でいいだろう。
「あははははー」
しかし、ジンはこう見るとやはり可憐な少女にしか見えないな。服装は些か奇抜だが。
しかも小柄で童顔だから実年齢よりも幼く見える。
「ほらほらー。こっちだよ、パパー!」
ジンがくるりと振り向いて、笑顔でこちらに手を振った。
『パパー!』
「!」
なんだ?
何か、頭の中に……
『パパー』
『イブ。あまり走ったら危ないぞ』
『えへへー。パパにとうちゃくー』
『やれやれ』
『ふふ。イブは本当にパパが大好きねー』
『パパもママも大好き!』
『ふふ、嬉しい。ママも二人のこと大好きよ』
『わーい! パパはー?』
『……そうだな。
俺も、二人のことが大好きだ』
『やったー!』
『やったー』
『ったく……』
おまけ
「あら、リザじゃない」
「……」
ロイの組の屋敷。その離れ。
そこにある一室にローズはいた。
「来てくれたのね、嬉しいわ」
体に包帯を巻いて、手足はギプスで固定されている。
そんな状態でベッドに寝ているローズだが、柔らかな笑顔でリザを迎え入れた。
「……」
「へ? わ、ちょっ!」
そんなローズを見たリザは無言でローズに抱きついた。
突然の出来事にローズが珍しく取り乱していた。
「……心配した」
「!」
ローズの胸に顔を埋めながら、リザが小さい声でポツリと呟いた。
「……ごめん」
リザの言葉に、ローズは動く方の手をポンとリザの頭に置いた。
「バカ」
「うん」
「バカバカバカっ」
「ごめんて」
「……もう、私の前から誰もいなくならないでよ」
「……ごめんね」
自分の胸で小さく震える肩を、ローズは優しく抱き止めるのだった。