49.銀狼は、自分に向けられた牙を決して許しはしない……はず……
「!」
ジンから白刀と黒刀を受け取り話を終えると、今度こそ本命から連絡が入った。
電話に出ると、それはやはりゼットからだった。
わざわざゼットと対面したときに聞いたことのある、少女の声にしてくれていた。
『待たせて悪いね。
解体屋のやつ、パニック状態にありながらもちゃんと尾行は気を付けていてね。
自分で最低限の止血をして、そこそこ回り道をしてからアジトに帰投したのだよ』
おそらくはボスからそうするように厳命されていたのだろう。
それでもゼットはきっちりバレないように尾行したようだが。
『ここで間違いないだろうね。
箱庭の者と思われる人間も確認した。
人や物資の流れからしても間違いないだろう。
見張りが箱庭の人間ではなくて良かったよ。
彼らならばこうして監視することなど出来なかっただろうからね』
どうやらリアルタイムでアジトを監視しているらしい。
『箱庭』で育てられた連中の感覚器官は遠距離からの監視にも気付けるレベルということか。
「……リアルタイムで監視しながら電話なんてして平気なのか?」
僻地なのだとしたら、周辺の電波状況を掌握している可能性だってあるだろうに。
『私を誰だと思っているのだね?
指向性電波による盗聴や妨害の防止措置など、とうに実用しているのだよ』
「……愚問だったな」
世界一の名探偵であり、頭脳特化の第三世代であるゼットには心配など無用だったか。
『それよりも場所を送ろう。
座標の方がいいかな。
この辺りの野山一帯が奴らの根城で、アジト本体は山を丸ごとくり貫いて作っているようだからね』
空から見てもただの山にしか見えないというわけか。
「……それは、特安もなかなか見つけられないわけだな」
とんでもない組織力と資金。
これはもはや『ホーム』に匹敵する規模と考えた方が良さそうだな。
「……」
ゼットから送られてきた座標を確認。
この辺りは自然保護区に指定されているはず。
国とも繋がっている? いや、国の直轄である特安が追っているんだ。
国と繋がっているマフィアから奪ったか、そのマフィアがボスの所と繋がっていて、それを国には明かしていないか、といったところか。
立ち入り禁止の自然保護区に畑を作って、その葉を海外に売って得た利益の一部を国に渡して共生しているマフィアがあったはず。
ボスはその中の一つにも手を出していたのか。
『さて。私は仕事を終えた。
あとは任せたよ。
探偵は舞台を降ろさせてもらう』
「ああ。助かった」
ゼットは十分に仕事をしてくれた。
あとのことは俺に任せてもらう。というか、余計な手出しはしないでもらおう。
『……』
「……なんだ?」
話が終わったのにゼットが電話を切らない。
まだ何かあるのだろうか。
『……いやなに。あの少女のことは聞かないのかと思ってね』
「……」
解体屋を尾行しながらも、あいつが連れていかれた情報を入手しているのか。
耳が早すぎるな、この探偵は。
「……それは、聞けばお前には分かるという認識でいいのか?」
それはつまり、アジトに戻るボスとあいつを見た、ということか?
『気付かれそうで直接は見ていないがね。
見張りや他の人間たちの動きでそう判断したのだよ。
城の主が帰還したのだと』
「……そうか」
『……その反応を見るに、彼女はやはりボスとともにあるのだね?』
不確定の情報だったか。
まあゼットに隠しだてする意味もないが、あいつが連れ去られたことを教えることになってしまったな。
「そうだ」
仕方ないので、ここは素直に認めておこう。
『……何かあったかね?』
「……どういう意味だ?」
何も違和感は与えていないはずだが。
『いや、冷静で警戒心の強い君だが、こと彼女のことに関しては些か気が逸る所があるように思えてね。
だから私に彼女を見ていないかと聞かなかったことが気になったのだよ』
「……」
そんなつもりはなかった。
俺は常に冷静で冷淡で、目的のためなら手段を選ばず。
いざとなれば全てを切り捨てる。
そんな覚悟はとうにしている……はずだ。
「……お前がその情報を知っているか、分からなかったからな……」
『ふむ。返答に遅滞と迷いが見られるな。
それもどうやら、らしくない』
「……」
……くそ。こいつ相手に舌戦など無意味か。
『……まあいいだろう。
何があったかなど詮索せんし、私としては為すべきことを為してくれれば何も言うまい』
「……」
『だが、老賢人から一つだけアドバイスをしてあげよう。
いつの時代も、自分の気持ちに正直になった者が勝利を掴み取るというものなのだよ。戦争でも恋愛でも復讐でも家族愛でも、何でも、ね』
「……いくつだよ、お前」
『はっはっはっ。私に年齢など今さら意味があるまい』
「……愚問だったな」
『ではね。健闘を祈る』
言うだけ言って切りやがったか。
「……」
だが、なぜだかゼットからのアドバイスは素直に聞き入れる気になれる。年の功というやつだろうか。
「アジトが分かったの?」
「!」
ゼットとの電話を終えるとリザとガイが現れた。
ローズとの面会は終わったようだ。
「ああ。ローズはどうだ?」
「元気だったわよ。
毎日、ロイが花を持ってくるから部屋が花でいっぱいよって最高にハッピーな惚気を聞かされたわ」
リザがわざとらしく肩をすくめる。
「そうか。元気なようなら良かった」
ロイは赤い顔をして外を見ていた。
「まずはケビンに連絡する。
準備はできているだろうから、あいつが迎えに来次第、すぐに出発する」
「そっか……」
リザは心なしか不安そうだ。
俺が『ホーム』を潰しに行ったときも同じような表情をしていた。
こんなふうにリザを不安にさせるのはこれが最後にしなければな。
「……あのね」
「ん?」
が、リザはうつむきかけていた顔をすっと上げた。
「あなたたちに、お願いがあるの」
そう言うと、リザは体の向きを変えた。
「ん? 俺ら?」
突然、指名されたジンはきょとんとした顔をしていた。
いつの間にか着替えていたようで、なぜかフリフリの大きなスカートの、全身黒のゴスロリ衣裳を身に纏っていた。
ガイ曰く、鍛冶のあとはジンはなぜかこういう衣裳を着たくなるらしい。まあ、どうでもいいが。
それより、ジンたちにお願いというのは……。
「……依頼よ。
あなたたちに、ジョセフと一緒にアジトに行ってほしいの」
「!」
「……へー」
依頼、だと?
リザはいったい、何のつもりで……。
「……俺たちは、何を護るの?」
ジンの瞳が鋭い。
仕事をするときの、プロの目だ。
ガイもじっとリザのことを見つめている。
「ジョセフ、と、イブちゃんもよ。
二人をボスの魔の手から護ってあげてほしいの」
「あー、そう来るかー」
「おい。リザ」
堪らず口を出す。
「ジョセフは黙ってて」
「!」
しかし、リザにすぐに制された。
「うーん。まあ確かに俺たちはボスの依頼を断った。護るべき対象が違うからってね。
その理屈から言えばその依頼は正当だと言わざるを得ないけど」
ジンは顎に人差し指を当てて首をかしげた。迷っているようだ。
ボスのアジトに同行するということのリスクの高さは当然、承知しているだろうから。
「……お願い。
私じゃ足手纏いなの。
もう、これ以上誰かを失うのは、嫌なのよ……」
「リザ……」
悲痛な叫びにも似た言葉。
俺は遺される者の気持ちは知っていても、待たされる者の気持ちは分かっていなかったのか……。
「……報酬は?」
「ガイ?」
黙って見ていたガイが口を開く。
ジンが驚いたように振り向く。普段はジンが依頼のやり取りを行っているのだろう。
「ボスがあなたたちに提示した額の、倍を出すわ」
「おいっ。リザっ!」
「ジョセフは黙っててって」
「……っ」
強い視線で抑えられる。
だが、二人はボスから提示された金額を具体的に俺たちに言っていない。
それなのにその倍を出すなど、言い値でいいと言っているのと同じだぞ。
「……分かった。
あんたの依頼を受けよう」
「ありがとう……」
こくりと頷いたガイに、リザは噛み締めるように礼を言った。
「へ? ちょっとガイ、勝手に……」
「受けるつもりだっただろ?」
「……はあ。まあねー。
分かったよ。いいよ」
ガイに詰められ、ジンは諦めたように肩をすくめる。
「たしかに、俺たちが同行した方が成功率は上がる。
この依頼は俺たちのためにもなる。
断る理由はないからね」
「助かるわ」
「あんたもそれでいいかい?」
ジンがこちらに視線を寄越す。
「……ああ。助かる」
「んじゃー決まりねー」
実際、敵側に彼らがいたら俺はかなり不利だった。
敵にならないだけでなく、味方になってくれるのならこれほど心強いものはない。
「……リザ。ありがとう」
リザに向き合い、改めて礼を言う。
ジン・ガイ兄弟に依頼を出してこちらの戦力にするという発想はなかった。
「私は銀狼の片腕でブレーンよ?
貴方の任務の成功率を高めるために最善の行動をしたまで」
リザが大げさにウインクをしてみせた。
「……だから、ちゃんと帰ってきてよね」
「……ああ。皆で、必ず」
そのあとの切実な顔のリザに、俺はしっかりと頷いて応えた。
「あ、そうそう。
肝心の依頼料だけどさー……」
「!」
その後、提示された金額は確かに高額ではあったが、護り屋にこのレベルの依頼をした場合の金額とたいして変わらない額だった。
本来ならこれの数十倍の約束のはずだ。
「……いいのか?」
「……こんな世界だとさ、護り屋とはいってもクソみたいな依頼がけっこう多いんだ。
だから真に何かを、誰かを護ってほしいなんて依頼は、わりと嬉しいもんなんだよね」
尋ねると、ジンはかすかに嬉しそうに笑っていた。
「そ、それに、俺の作った傑作の出来を直に見られるしね。むしろそっちが本命みたいなとこあるし!」
「……素直に嬉しかったでいいだろうに」
「うっせ! バーカバーカ!」
「……ありがとな」
「……ふーんだ」
ともあれ、これで戦力は十二分に揃ったと言えるだろう。
「!」
ここで、ロイの部下がケビンの到着を報せに来た。
思ったより早い。
あらかじめ近くで待機していたのだろうか。
「旦那。気を付けてな」
「ああ。リザとローズを頼む」
「ああ! 頼まれた!」
ロイに送り出され、俺とジン・ガイ兄弟はロイの屋敷を出た。
「……えーと?」
迎えに来たケビンの車に乗り込む。
俺が助手席に座ると、ケビンは俺の顔とバックミラーを交互に眺めて解答を求めた。
「護り屋だ。一緒にアジトに乗り込んでくれることになった」
とりあえず車をアジトに向けて出発させてから、ケビンに二人のことを簡単に説明する。
「どもー」
「よろしく」
二人も適当に手を振ったりして応えた。
「いやいやいやいやいやいや!
他に同行者がいるなんて聞いてないっすよ!
しかも説明が簡素すぎますって!
ああそうですかーって、さすがにならないっすよ!」
ケビンさんの心の叫びが抑えることなく口から出ていった。
だが……、
「護り屋、だ。
特安であるお前が知らないとは言わせないぞ?」
「!」
「それにどうせ、彼らがボスの依頼を断ったことも把握してるんだろ?」
「……」
護り屋は特安からの依頼も受けていると言っていたからな。
それにボスの組織とも繋がりのある二人の動向を特安が把握していないわけがない。
「だからこちらが彼らを雇った。
依頼を断ったことによるボスからの報復を恐れるぐらいなら、いっそのことこちらに手を貸してボスの組織を滅ぼしてしまった方がいいから、という理屈でな」
「……」
「問題ないだろ?」
「……はぁーーーーっ」
俺が片眉を吊り上げてケビンを見れば、ケビンは長い長い溜め息を吐いた。
「分かりましたよ。
まあ、警部が信用してるなら俺は別にいいっす」
「よろしく頼む」
どうやら受け入れたようだ。
まあ、受け入れなくても同行することに変わりはないのだが。
「ってなわけで、改めてよろしくねー。ケビンの兄さん。久しぶりの一緒のお仕事だねー」
「!」
ジンが後部座席から乗り出してきて、運転席のケビンに顔を覗かせた。
いつの間にか服装は以前のような、手足の布地が異様に長い服に変わっていた。
ガイの方はシンプルな黒のツナギ。
というか、
「お前ら、面識があったのか」
しかも一緒に仕事までしてやがる。
「まーねー。でもほら、あんたがそれを知らないなら、それを明かさないのがプロってもんでしょ?
でも問題なさそうだから、もういっかなってさ」
「なるほどな」
「はあ。お前は相変わらずだなー、ジン」
ケビンが溜め息を吐きながら、ジンの頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でる。
どうやらジンはわりとケビンに懐いているようだ。
弟妹の多いケビンからしたら年下の扱いは手慣れたものといった所か。
「そういや、ケビンを待っている間にリザとまた話していたな。
何を話していたんだ?」
俺が荷物の再確認をしている時に、何やらガイも連れて三人で話し込んでいたが。
「ちっちっちっ。それは男には野暮ってものだよ」
「……お前も男だろ」
だが、ジンは人差し指をフリフリと振ってまともに答えなかった。
どうやら話すつもりはないらしい。
「まあいい。
それより、アジトでの動き方について少し話しておくか」
即席の戦力だが、烏合の衆とならないようにしなければな。
ま、このメンツなら心配はないだろうが。
「俺たちの仕事はあんたとあの子を護ることだけど、現場ではあんたの意向に従うよ。
だから指示を頂戴。逆に意見が必要なら言ってね」
「あ、俺もそんな感じでお願いします」
「右とか右斜め前とかと同じ」
「分かった」
俺のことを信用している反面、一連の陣頭指揮官、つまりは責任者は俺だということだ。
まあそれは当然だろう。
むしろそのスタンスはありがたい。
「最終目標はボスだが、当然のように周りを手下どもが囲っているだろう。
護り屋に依頼をしていることからも、他にも傭兵を雇い入れている可能性は高い。
さらには『箱庭』の連中も出てくるだろう。
ジン。連中の戦力で特に注意が必要なのは、ボス以外だとマドカと解体屋、カイト、他に知っているのはいるか?」
先入観なく敵を見定めるのは大事だが、あらかじめ把握できるのなら、しておいて損はない。
「んー。有名どころはそんなもんかなー。
あとは単純に『箱庭』の連中は全体的にスペック高いと思うよ。
俺たちとは違って感情とかない機械みたいな連中だけど、だからこそ痛みや恐怖に対しての抵抗がほとんどない。
だから、やるなら行動不能とか甘いこと言わずにきっちり殺した方がいい」
「そうか……」
クソジジイから命令を受けた時の、教育済みの『ホーム』の連中と同じか。
だが、こちらは常時その状態ということか。そうなると修復は難しいかもな。
まあ、俺に牙を向けてくる時点で容赦などするつもりはないが。
「……おそらく、連中の大半はアジトの外で俺たちを迎え撃とうとするはずだ。
こちらが少数なのは分かっているだろうからな。
数の利を活かすためにも広い場所で迎撃してくるはずだ。
アジト自体が山だというし、その周囲は森だからな」
「ま、そうだろうねー」
「だから、お前たちにはそいつらの掃討を頼みたい」
「え!? まさかアジト本体には一人で乗り込むつもりっすか!?」
「まあな」
ケビンが大げさに驚く。
こいつは俺が銀狼だと知らないから余計だろう。
「うーん。もうちょい俺らを信用してくれてもいいんじゃないのー?」
どうやらジンは俺が単独で乗り込みたい、あるいは敵地でジンたちに背中を預けたくないと思っていると考えているようだ。
「逆だ。
信用しているからこそ任せるんだ。
俺はお前たちが外にいる連中を全滅させる前提で話をしている。
お前たちが負けて外の連中がアジトになだれ込んできたら、いくら俺でも対処しきれないからな。
俺はお前たちがいるからこそ、安心してアジトに単身で乗り込めるんだよ」
『ホーム』の時は一人で端から完全に全滅させながら進んだから、それはそれは大変だったからな。
「あー、なるほどねー」
「理解した」
「警部、なんかズルいっす」
「ズルくないだろ。本音だ」
「それがズルいんすよ」
「どうすりゃいいんだよ」
「あー、はいはい。コントはそのへんでいいからー」
コントとは失敬な。
「ま、とりあえず俺らは露払いすればいいわけだ。
有名どころが出てきたら、それはその都度誰かが対処って感じでいいのかな?」
「そうだな。
向こうの出方がハッキリしない以上、大まかに枠を決めることしか出来ないだろう」
「おっけー」
「了解でーす」
ジンとケビンが返事を返す。
「……」
「?」
だが、ガイからは了承の意がなかった。
先ほどから返事だけはしていたのだが。
「ガイ。何かあるのか?」
「……」
尋ねると、ガイは少しだけ下を向いてからこちらを見た。
「途中、イブが俺たちの前に立ち塞がったら、どうするんだ?」
「!」
そうか。ボスのもとにいるのなら、かつてのようにボスの命令に従うだけの、人形のような状態になっている可能性が高いわけか。
俺に、銃を向けることも……。
「……」
「……」
ジンもケビンも黙っている。
二人もその可能性は考えていたが、俺から言われるまでは言及しないつもりだったのか。
「……」
気を使わせたわけか。
実際、俺はその可能性をないものとして、端から頭の中には思い浮かべていなかったわけだからな。
「……どうするんだ?」
ガイは任務を行う上での懸念点をハッキリさせるべく、俺が言及しなかったことについて尋ねてきたのか。
今はそれをありがたいと思おう。
「……その可能性は著しく低いが、そうなれば気絶させてでも連れ帰ればいい」
「そうか……」
あのボスがあいつを自分のもとから離すとは思えないがな。
「……なら、ボスとイブが二人で襲い掛かってきたら?」
「……」
そうなったら手加減などしている余裕はない、だろうな……。
「そうなったら俺は……」
「はーい。もういいよ」
「!」
俺の返答を待たずにジンが割り込んできた。
「そのときはその時。
俺たちはきっとそこにはいないだろうから、それはあんたの意思に任せるよ。
俺らの依頼に抵触するけど、あんたが決めたことならあの姉ちゃんも納得するでしょ」
「……そう、だな」
リザの依頼は俺とあいつを護ること。
もしも敵対するのなら、依頼の半分は達成できないかもしれない。
それでもジンは、俺の意思に任せると……。
「……了解した」
ガイは些か不服そうだが、ジンの決定に従うようだった。
「……じゃー、大枠はそんな感じでいきましょう」
ケビンもそのまま場を納めることにしたようだ。
「装備はそこそこ揃えてきたので、必要ならあとでトランクから取ってください。
アジト近くの街で車を停めて、そこからは潜伏しながら歩いていくことになると思うので」
「おっけー」
「了解した」
「……ああ」
ケビンに返事を返し、俺たちの車は進行を続けた。
「……」
もしも、あいつに銃を向けられた時、俺はあいつを撃てるのだろうか……。
おまけ
「あー、暇だー」
装備を揃えてトランクに詰め込み、車に乗り込んだケビンだが、ジョセフから連絡が来るまでは完全に手持ち無沙汰だった。
「やれやれ。仕事ができるのも考えものだなー」
ケビンは運転席のシートを倒し、両手で後頭部を支えてダラダラしていた。
警察としての仕事も早めに終わり、特安の部隊には待機を命じ、ケビンは完全にやることを失っていた。
「こんなことなら夕飯の用意でもしてくれば良かったなー。でもいつ警部から連絡くるか分かんないしなー」
ケビンは既にロイの屋敷の近くに車を停めていた。
情報屋からジョセフがそこに移動したことを伝え聞いていたから。
どうせ迎えに行くのなら近くで待っていようと思ったのだ。
「あ、そうだ。今度、チビの誕生日のケーキも用意しないといけないなー」
ケビンの一番下の弟が近々誕生日のようで、ケビンはどんなケーキにするか考えて時間を潰すことにしたようだ。
「やっぱりショートケーキかなー。いや、チョコか? あるいはチーズケーキ。モンブラン、は嫌いなのがいるからなー……」
ケビンはそこでふと、イブのことを思い浮かべた。
「……イブちゃんも、警部に誕生日ケーキ用意してもらえるといいな」
イブの誕生日など知る由もないが、きっとイブもジョセフもそうなったら喜ぶだろうと、ケビンはポツリとそう呟いた。
「やっぱり親に祝ってもらうのが、子供は一番嬉しいよな……」
ジョセフたちの背景など全く知らないケビンだが、自身の家庭環境も含めて呟いたその言葉は如実に現実を現しているようにも見えたのだった。