44.家族かどうかは誰が決めるのか。地獄かどうかは誰が決めるのか。だが、間違いなくそこは地獄なのだろう。
「さて……」
ケビンからの報告を聞き、現状は完全に待ちの状態。
警察としては警察の応援と消防を待っている状況で、銀狼としても紳士がアジトの場所を突き止めるのを待っている状況。
ならば今のうちにやっておくべきことは……。
「……エルサに連絡して確認しておくか」
ケビンがスティーブン警視に呼ばれて離れたからちょうどいい。
今回の件、ケビンに特安の部隊を動かすよう打診したときに、エルサにも頼みごとをしていた。
銀狼のフリをして依頼をこなしてほしい、と。
もちろんボスに俺イコール銀狼であると思われないための布石の一つだ。
俺が警察としてここにいる状況。そしてそれをカイトたちが監視している状況で銀狼が動けば、俺は完全に銀狼候補からは外れる。
事ここに極まり今さらという気もするが、できる手は打っておいて損はない。
そうなるとボスにとっての俺の価値は著しく低下する。あるいは、用済みとして改めて俺を始末するために駒を動かしてくれるかもしれない。
そうなれば、それはそれでまた動きようがあるからだ。
まあ、エルサはだいぶ渋ったがな。
『いやいやいやいやいや! 無理よ! 絶対、無理!』
などと言っていたが、銀狼の仕事だと見せかけられるような依頼を選んだ。
あいつも元殺し屋だ。上手いことやるだろう。
それに、
『……では、報酬を用意しよう』
『……聞きましょう』
『イブと一日デート……』
『任せなさい!!』
『早っ』
やる気はあるようだからな。
……まあ、報酬の件は何か良い手を考えるとしよう。
「……さて」
懐から携帯電話を取り出す。
突入している間は隠密行動だったから電源を切っていたな。
「おっと!」
携帯電話の電源を入れた瞬間、着信する。
エルサか?
もしかして何度もずっとかけ続けていた?
何かトラブルでもあったのだろうか。
「……リザ?」
しかし画面を見ると、電話をかけてきたのはリザだった。
リザはイブとともに家で過ごしているはず。
何かあったのだろうか。
「リザか。どうした?」
『やっと出た!』
「っ!?」
電話に応答すると、リザは慌てた様子で声をあげた。こんな焦ったような大きな声は珍しい。
「悪い。ずっと警察の仕事中だった」
『あ、うん。そ、そうよね。うん。聞いてたわ、うん』
だいぶ動揺しているな。
自分を落ち着かせようとしている。
「……どうした?」
嫌な予感しかしないな。
『……ごめん、ジョセフ。
イブちゃんが、ボスに連れてかれちゃった……』
「……なんだと?」
まさか、このタイミングで?
いや……くそ。想定できた事態だ。
「ボスが、直接来たのか?」
『ええ。イブちゃんがそう呼んでたから間違いないわ』
「……そうか」
イブに手を出すならカイトか鷹が動くと思い込んでいた。
だからその二人が俺の監視についている状況ならリザとイブには危険はないと思っていたのだが、まさかボス本人が直接動くとは……。
『……ジョセフ。ど、どうしよう。どうすればいい、かな』
「……」
まだ動揺しているな。
まずは落ち着かせる所からか。
「リザは怪我はないか?」
『あ、うん。
私に危害を加えさせないために、イブちゃんは自分からアイツについていったの……』
「……そうか」
『……ごめんね、ジョセフ。
私を信用してイブちゃんを任せてくれたのに……』
「いや、今回は俺の想定ミスだ。
まさかボスがそこまで行動力があるとはな。
ともあれ、リザに怪我がなくて良かった」
『……うん』
ボスが直接動くほど、奴にとってイブは重要な存在ということか。
「ひとまずは落ち合おう。詳しい状況を聞きたい」
追うにしてもアジトの場所は紳士からの連絡がなければ分からない。
焦る気持ちはあるが、まずはできることをやっていこう。
『分かったわ。今はジョセフの家に近いから、ひとまずそこで待ってる』
「ああ。分かった」
通話を切る。
リザはとりあえず落ち着いたようだ。
まずはここを出て、急いで自宅に。ボスの狙いはなんだ? 車を使わないと。いや、まずは隊長に……。
「……っ」
駄目だな。
俺も少し焦っている。
大丈夫だ。イブは殺されはしない。
直々に迎えに行くほど執心しているのだからな。
リザも無事だった。
まずはリザと合流して詳しい状況を確認してから、ゼットから連絡が来たときにすぐに動けるようにしておこう。
「!」
そのとき、再び俺の携帯電話に着信が入る。
「……エルサか」
今度はエルサからだった。
もともとそちらにかけようとしていたんだったな。
向こうからかけてくれて手間が省けた。
「俺だ」
『どうやらうまくやったようね』
俺たちの行動については当然エルサも把握している。
警察の応援や消防への連絡ついでに報告を受けたのだろう。
どうせ任務中は連絡がつかないだろうからと、頃合いを見て連絡してきたのか。
「ああ。目的は達成した」
『そう。こっちも何とかやったわよ。
ターゲットの死体はすでに発見されてて通報されてる。初動捜査の段階から警察は銀狼案件と判断してるわ。
私に報告がきて、あなたたちに連絡することになってる』
「そうか。助かった」
銀狼捜査担当である俺たちに上官であるエルサから連絡を入れる。
それはごく当たり前のことで、それに紛れて依頼の報告をするというのはあらかじめ取り決めていた。
『まったくよ。こちとら狙撃なんて久しぶりだったんだから』
「手間をかけたな。おかげで助かった」
数キロ先の高層ビルからの狙撃、に見せかけた八百メートルの位置にある中型マンションからの狙撃。
本来であれば手前のマンションからの狙撃を真っ先に疑うのだが、ターゲットの傾向や狙撃の仕方、使用された弾丸。それらが銀狼によるものであると警察に誤認させる。
おまけにそれを決定するのはエルサだ。
素材さえ用意してやれば警察は簡単に銀狼という答えにたどり着く。
『……ふふ、ふふふ』
「なんだ?」
エルサさん、とても嫌な笑いなんだが。
『私のためでもあるもの。頑張ったわ。
デート。イブちゃんとのデート……お手て繋いで、ふふ、ふふふふ』
「……」
こいつは、けっこうマジでヤバい奴なのかもしれない。
……まあ、とはいえ、
「……悪い。それは少し難しそうだ」
『ええっ!? なんでよぉっ!!』
……そんな絶望したような声を出すな。
「実はな……」
俺はイブがボスに連れていかれたことをエルサに伝えた。
『……ジョセフ』
「なんだ?」
『今すぐこの国の全ての警官を動員するわ。
そのボスとやらをぶち殺すわよ』
「……街から警察を消そうとするな」
職権乱用も甚だしい。しかもエルサなら本当にやりかねないし。
「イブの件は俺に任せろ。
ただ、それに関してお前に頼みたいことがある」
『なに?
イブちゃんを助けるためなら世界と戦争だってするわよ』
……こいつは、イブと世界のためにいつか消した方がいいかもしれない。
とはいえ、今はエルサの協力が必要不可欠だ。
「……警察に、俺の邪魔をさせるな」
『!』
「アジトの場所が警察に伝わっても、事が終わるまで中には入らせないでほしい」
『……応援はいらないってこと?』
「それは、俺にとって足手まといにしかならない」
『……』
「敵味方を区別するのが面倒だ。
奴らに情けをかけるつもりも容赦するつもりもない。
目につく全てを喰らい尽くす。押し並べて鏖。
それが最も効率的で手っ取り早い。
『ホーム』のときも、そうして一人で全てを滅ぼした」
敵か味方かの逡巡が命取りになることもあるからな。
『……貴方は、どこまでいっても銀狼なのね』
「そうだ。
俺の牙を、警察には向けさせるな」
いざというとき、区別する余裕が俺にはないかもしれない。
『……分かったわ』
「助かる」
『……』
エルサは何か言いたげだがそれを口にはしない。
言ったところで俺が引き下がるとは思えないのだろう。それは正解だしな。
とはいえ、今回はイブの救出という優先目標がある上に、『ホーム』とは違って奇襲ではない。
向こうも迎撃準備万端で俺を迎え入れるだろう。
「……警察は使わないが、何人かの手は借りるつもりではいる」
『……そっか』
心なしかホッとしたような返答。
心配させていたようだ。
エルサもまた、俺が信用する味方の一人だからな。
『でも、それなら始めから警察に情報を与えなければいいんじゃないのかしら?』
「いや、いくら俺でも取りこぼしが出る可能性はある。
今回は面倒な遺恨を残さないために一網打尽にしたい。
だからアジトから逃げ出す奴らを包囲して捕らえる存在が必要だ」
前回の取りこぼしの結果、ボスが生まれたわけだからな。
『……特安じゃ駄目なの?』
「……エルサは、特安を知っていたんだったか?」
特安は警視レベルでも知らない者の多い秘密組織なんだが。
『……この前、特安から勧誘されたのよ。
真にこの国を護る存在に興味はないか、って』
「!」
まさかエルサに勧誘が来るとはな。
警察内での出世コースを邁進しているような警官には声がかからないと思っていたが、特安もだいぶ人員不足なのか。
『ま、断ったけどね。
過去を深く探られても面倒だし。
でも知っただけだと殺されるかもって思ったから、私が出世したら現状より便宜を図るわよって言ったら、期待しているって言って帰ったわ』
「……そうか。
ファインプレーだな」
『でしょ?』
実際、勧誘を蹴って特安の存在だけを知ったとしたら、状況次第では始末される可能性もあっただろうからな。
「まあ、それなら話が早い。
特安はそういう連中だ。
最悪、俺もろともアジトを丸ごと爆破しかねない。
だから特安にアジトの情報を流すのは警察よりも後だ」
『なるほどね』
奴らには、全てが終わった頃に情報操作を含めた後片付けをしてもらおう。
「ああ、あと。勧誘を受けた時点である程度の過去は調べられていると思うぞ」
『……だとしたら、リザのおかげね』
「ああ。特安相手でも通用しているのだから大したものだ」
エルサの殺し屋としての過去も俺やリザと同様に、リザの手によって消去・改竄されている。
『……リザは、大丈夫そう?』
「……たぶんな」
『そう……』
心配そうな声。
普段は反目しあっているが、互いに仲間意識はあるようだ。
『……ちゃんと、フォローしてあげるのよ』
「分かっている」
『……あの子の気持ちも、分かってるんでしょ?』
「…………今は、応えるつもりはない」
『なら、死ぬわけにはいかないわよね』
「ん?」
『今は、なんて言うぐらいなんだから』
「……」
『それに、イブちゃんも連れて帰らないといけないものね』
「……そうだな」
『だから、刺し違えてでも、なんて考えはナンセンスよ』
「……」
……コイツは、いろいろと勘がよすぎるな。
『イブちゃんを助けて、一緒にリザのもとに帰る。
それが、今回の貴方の任務よ』
「……」
『銀狼は絶対に任務を果たすんでしょ?』
「……ああ、そうだな」
『なら、貴方もイブちゃんもちゃんと生きて帰る。オーライ?』
「……分かったよ」
『宜しい』
「ふっ……」
エルサには敵わないな。
『んでー、あんたとリザがイチャコラしてる間に私はイブちゃんとー、ぐふふふふ』
「……じゃあな」
『あ、ちょっ!』
唐突に通話を切る。
コイツは、コレがなければいい女なんだがな。
「……さて」
「警部!」
「!」
エルサとの通話を終え、ちょうどいい所にケビンが戻ってきた。
「また銀狼が!」
「ああ」
どうやらケビンの方にも別の者から連絡があったようだ。
「スティーブン警視には許可をもらっておきました。先に帰投して現場に行っていいそうです」
「ご苦労」
先んじて動いていたか。
さすがに仕事ができるな。
「!」
そのとき、タイミングよくサイレンの音が聞こえてきた。
どうやら警察の応援と消防が到着したようだ。保護した女性のための救急の音も聞こえる。
「ちょうどいい。
今来た車を借りよう」
「はいっす!」
パトカーなら現場に急行できるしな。
「……ケビン」
「なんすかー?」
銀狼の事件現場に向かう車中、運転するケビンに声をかける。
「俺は途中で降りる。
俺の家の前で降ろしてくれ」
「はあ……て、ええっ!?」
「前を見ろ」
「あ、すんませんっ」
慌てながらこちらを見ようとするケビンに釘を差す。
「え、銀狼の現場は?」
「任せる」
「ま、任せるって……」
「……」
「……何か、あったんすか?」
すぐに察してくれるのは助かるな。
「……実は……」
俺はケビンにもイブがボスに連れていかれたことを話した。
ケビンは俺がイブを保護していることは知っているし、イブに何かあるのを察している。
ここまできたらある程度のことは話しておいた方がいいだろう。
「ええっ!
た、大変じゃないっすか!」
殊更に驚いた表情。
その顔の下ではどれほど頭を回転させているのか。
イブとボスとの因果関係をケビンは知らないからな。寝耳に水だろう。
「……もしかして警部。
一人でアジトに突入しようとしてません?」
「……察しがいい奴は嫌いではない」
「はぁーーーっ」
長い溜め息。
呆れているのか。
「警察と特安への情報提供を遅らせるつもりっすか?」
「ゼットにはそうするように伝えてある」
「……イブちゃんのことがなくても、始めから自分だけで行くつもりだったんですね」
「まあな」
「はぁーーーっ」
再び長い溜め息。
「いくら警部が武闘派警官でも無茶ですよ。
相手は何人いるかも分からないんですよ?
しかも壊し屋レベルの奴が何人かいるかもしれないですし」
たかがいち警官が少し腕がたつからといって、確かにそれは無謀だろうな。
「だから、お前も手伝ってくれ」
「……え?」
そう、ケビンに思われるという認識を利用する。
「特安としてではなく、俺の部下として先輩に付き合ってくれよ」
「ええーーーーーっ!!」
「前を見ろよ」
「おわっと」
ケビンは慌ててハンドルを持ち直す。
「……えーと…………」
「……駄目か?」
前を向いて運転するケビン。
その顔には迷っているような表情が浮かんでいる。
「……俺、家族が何より大事なんすよ」
「知ってる」
「……だから、死ぬわけにはいかないんすよ」
「知っている」
……これは、厳しいか。
「……警部。一つだけ、聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
いつになく真剣な表情。
「……警部にとって、イブちゃんは家族ですか?」
「!」
「……どうですか?」
「……」
これは、答えを誤るわけにはいかない。
「……」
「……」
だが、
「……分からない」
「……」
答えを、偽ることもできない。
「俺にとっての家族は妻と娘の二人だけ。
それは間違いない事実で、これからも変わることのない事実だ」
「……そう、っすか」
「……だが」
「……」
「……イブのいない家に帰るのは……少し、寂しい……とも思う」
「……そうっすか」
一番正直な気持ちだ。
娘と同じ名前をつけ、ともに暮らし、情というものがないわけではない。
が、それが家族と呼べるものなのかと言われたら、安易にイエスとは言えない。
だが、帰ったときにイブがいない家というのを想像してみると、それは何とも物足りないなとも思った。
「……俺は、何をすればいいんですか?」
「!」
「ノーじゃなくて分からない。
それが聞けたなら十分です。
イブちゃんを助けるために、俺の眼を存分に使ってください」
「……ありがとう」
「家族ネタには弱いんで。
でも、なるべく俺が死なない方向でお願いしますね」
「ふっ」
いつもの困ったような笑み。
だが、今は頼もしい横顔だ。
「とりあえず銀狼の現場は任せた。
銀狼の仕業なら、どうせ調書を作って終わりだ。
アジトの場所が分かったら連絡する。
それまでは調書を作りながら、いつでも動けるように準備しておいてくれ。
あと、こちらでもやっておくが特安にバレないように手配も頼む」
「フル装備っすか?」
「そうだな。
アジト周辺ではそれなりに妨害が入るだろう。
ケビンにはその露払いをしてほしい。
俺がアジトに突入するまでの護衛みたいなものだな」
「了解っす」
ケビンが車の速度を上げる。
サイレンを鳴らし、市街地を駆け抜ける。
「……全部が終わったときには、答えが出てるといいっすね」
「……」
リザの待つ自宅へとパトカーは進んでいく。
「キャシー。
やあっとまた会えたなぁー」
「……」
一方、ボスとイブを乗せた車は市街地から遠ざかっていた。
二人は後部座席に並んで座っている。
「俺は嬉しいぜー。
キャシーがまた『箱庭』に戻ってくれて」
「……」
ボスは頬の傷を撫でながら、実に嬉しそうに笑みを浮かべた。
それに対し、イブの顔には一切の表情はなく、まるで氷のような面持ちでどこともつかない一点を見つめていた。
「お前は特別だからなー。
俺はキャシーが大切なんだ。
分かるだろ?」
「……はい。ボス」
肩を組まれたイブは微動だにせずに、機械のようにポツリと呟く。
「うんうん。俺のことを忘れてないようで安心したぜー」
「……はい。ボス」
イブは微かに肩を揺らしそうになるが、懸命に抑えて同じトーンで返事を返す。
イブの脳裏にボスの教育が蘇っていく。
「お前がそうやって従順でいてくれれば俺は優しいからよー。
分かってるよなー、キャシー?」
「……はい。ボス」
ボスに逆らってはいけない。
それは本能に刷り込まれた強烈な記憶。
生存本能に直結する最優先事項。
「大丈夫だ。
お前は特別なんだ。
俺たちはこの世界で唯一、親父の意を継ぐことのできる兄妹なんだからな」
「……」
「な、キャシー?」
「……はい。ボス」
イブは瞳を揺らさない。
不安も恐怖も、その全てを押し殺す。
戻っただけだと。
あの地獄に再び戻っただけなのだと、自分に言い聞かせて……。
おまけ
「はぁーーー。なーんでひきうけちゃったかなー」
ライフルのスコープを覗き込みながら、エルサは長い溜め息を吐いた。
ターゲットまでの距離は遠くはない。けれども、決して近くもない距離。
だが、失敗は許されない。
銀狼は失敗などしないから。
「ったく。私に銀狼のフリとか、無茶振りにも程があるわよ」
しっかり自分の実力なら可能な状況を用意されていることもエルサは気にくわなかった。
「!」
やがて、スコープの先に変化が起こる。
ターゲットが窓際に現れたのだ。
「……この感覚、懐かしいわね」
エルサは瞳を深く沈める。
リザやローズとは違い、エルサは本格的な武闘派の殺し屋だった。そのターゲットは主に殺し屋。
日常的に、道を歩くようにターゲットを殺していた。
「……ま、銀狼に頼まれちゃ仕方ないわね」
ある時、エルサは銀狼と仕事でぶつかり合い、負けた。
死を覚悟したが、銀狼は「殺し屋から足を洗って警官になれ」と命じてきた。
エルサは困惑したが、「……妹のためにも、真っ当に生きてみろ」と言われて全てを悟った。
殺し屋に殺された妹の復讐、殺し屋という存在の根絶、これ以上同じような犠牲者を出さないため。
その全てが銀狼にはバレていると。
そうしてエルサは警官となった。
銀狼が裏から、エルサが表から動くために。
「……あんたには感謝してるわよ、銀狼」
そう薄く笑って、エルサは引き金を引いた。
「それに、報酬もあるしね。ぐふ、ぐふふふふ」
が、エルサは結局そういうエルサなのだった。