42.大長編映画のラストシーンではそれは必須のもので。
「隊長」
「……おお。来たか」
最初のT字路を直進し、隊員の先導で隊長であるスティーブン警視と合流した。
どうやら戦闘行動は終了しているようだ。
ざっと見た感じ、あれだけ銃撃戦を繰り広げておいて隊員には死傷者なし。さすがは精鋭部隊だな。
二人の女性が奥の方で女性警官に保護されている。
どうやらあちらにも拉致された被害者がいたようだ。
「首尾は?」
「目標達成。
最優先目標は壁の隠し扉から予定通り脱出。それ以外の敵は殲滅完了。
生存者は一名。
リストにあったジェスパー家の令嬢で間違いなさそうです」
「そうか。ご苦労」
スティーブン警視に尋ねられ、作戦状況を説明する。
被害者の可能性のある女性のリストは顔写真付きであらかじめ記憶しておいた。
こちら側で保護したジェスパー家の令嬢も奥にいる二人も、間違いなくリストにあった本人だ。
あの部屋にいた、他の四人も間違いなく……。
「こちらも全員漏れなく殲滅済みだ。
保護した生存者は二名。他に二名いたが、既に死亡していた」
「そうですか……」
俺をここまで連れてきた隊員の顔色が先ほどから悪い。あちら側の遺体を見たからか。
どうやらこちら側の遺体はあちら側ほど損傷していないようだ。
だが……、
「……」
奥にいる二名の女性。
こちらで用意したブランケットの下はボロボロになった洋服。おそらく彼女たちが着ていたものだろう。
髪はボロボロ。打撲と思しき傷が多数。
破れた衣服の隙間から、下着をおそらく身に付けていないことが分かる。
こちらはこちらで酷い目に遭っていたようだ。
比較的落ち着いてはいるが、どこか諦めてしまっているようにも思える。
彼女たちにもまた、しっかりとしたケアが必要となるだろう。
そういえば、俺を診てくれた精神科の医師は転院したとのことだったが、転院先を聞いていなかったな。
腕のいい医師だったから、可能なら彼女たちに紹介したい所だな。
「……それで、見せたいものとは?」
切り替えてスティーブン警視に用件を尋ねる。
彼女たちの身元確認をさせるためだけに俺を呼んだわけではないのだろう。
「ああ。これだ」
そう言って、スティーブン警視は左手の親指で左側を指し示した。
「……これは」
そこには鎖でぐるぐる巻きにされた上に南京錠で施錠された扉があった。
何とも重々しい雰囲気だ。
「……遺体安置所か」
扉の上の表示板には遺体安置所と書かれていた。
たしか見取り図では地下にそんな部屋があったな。
病院で亡くなった患者を葬儀屋に引き渡すまでの期間、遺体を置いておく場所だ。
扉の雰囲気も相まって、何だか不気味なモノが出てきそうだな。
「……隊長?」
「あ!? な、なんだ? ど、どうした?」
「?」
なぜだかスティーブン警視が異様に怯えている。顔色も青白いように見える。
扉を直視するのも躊躇われるかのように。
「分隊長。すみません、指示をお願いします。
どうやら隊長はこういうのが苦手なご様子で」
俺を案内した隊員が申し訳なさそうに耳打ちしてきた。
「だ、誰が苦手だとぅっ!!」
「……ああ、なるほど」
あれだけドンパチ繰り広げて死体も大量に見ただろうに、ようは幽霊やら何やらの類いが怖いわけか。
「あ、あ、あいつらはな。じゅ、銃も効かないんだぞ! ナイフで首を切ることさえできやしないんだ!!」
「……はぁ」
「あからさまに溜め息をつくなぁ!!」
やれやれ。仕方ない。
そんな不確定な存在、いるともいないとも思っていない。
俺の邪魔をしないのなら放っておけばいい。
「確認しないわけにはいかないでしょう。
文字通り、被害女性の遺体安置所になっている可能性もあるし、脱走防止なのか、これだけ厳重に施錠されているのです。使い物にならなくなって打ち捨てられた被害者がいないとも限らない」
「そ、そうか!
生死は何にせよ人間がいるなら救助せねば!
うむ! うむ! そうだ!
オバケなんていてたまるか!」
俺の提案に息を吹き返すスティーブン警視。
統率能力はなかなかのものなのに、これでは部下による評価が思いやられるな。
「分隊長。開けられるか?」
「……少々お待ちを」
懐から二本の器具を取り出して南京錠の前にしゃがむ。
大きさはかなりデカいが錠前自体は一般的な南京錠だ。造作もない。
「!」
鍵開けの作業をしていると、建物からだいぶ離れた所で発砲音が聞こえた。
他の隊員は気付いていない。
どうやらケビン率いる特安部隊が解体屋を撃ったようだ。
「……!」
だがその後、すぐに二発目の発砲音。
さらに続けて三発、四発。
「……」
ケビンを筆頭に特安の連中は狙撃に慣れているはず。
身体能力で劣る解体屋にそんなに弾数が必要とも思えないが、何か不測の事態があったのだろうか。
早めにケビンと合流した方がよさそうだ。
「開きました」
「ご苦労」
南京錠はすぐに解錠でき、鎖をジャラジャラと外す。
「開けます」
「ああ」
俺に帯同させた若手の警部補が扉の取っ手を掴む。
俺は銃を取り出し、両開きの扉の前に立つ。
俺ならいきなり撃たれても対処できるだろう。
反対側の取っ手は別の隊員が持っている。
「では、開けろ」
スティーブン警視の指令を受けて、隊員たちが重厚な扉を開ける。
扉はギギギと錆びが落ちる音をたてて開いていった。どうやらこの扉はしばらく開けられていないようだ。
「……」
敵影はなし。気配もない。
扉が重厚すぎて気配を感じ取りにくかったが、どうやら地下に生きている人間はいないようだ。
扉は後付けだな。病院に設置された扉がこれほど物々しいわけがない。
とはいえ遺体があるかもしれない。中を調べないわけにはいかないだろう。
死んでしまうと匂いぐらいでしか存在を察知できない。地下の閉められた扉の向こうに死体があったとしたら、いくら俺でもその存在を感じ取るには相当近付かなければならない。
「……敵影なし。突にゅ……っ!?」
「どうした?」
「総員! 全力退避!」
「!?」
扉が完全に開かれて地下からの匂いと音が俺に届いた瞬間、ソレの存在を感じ取る。
「火薬の匂い! 爆弾の可能性大! 扉の開帳がトリガーだ!」
「総員退避!! 建物の外へ! 可能な限り離れろ!!」
「はっ!!」
スティーブン警視は俺の声に瞬時に状況を理解し、隊員たちに指示を出す。
隊員たちもそれを遅滞なく理解し、行動を開始する。
「え、え?」
「……?」
しかし、保護した二名の女性はその限りではない。
「ちっ」
仕方ない。
「うっ!?」
俺は保護した女性の一人の後頭部を銃の弾倉止めで打ち、気絶させた。
そのまま肩に担ぐ。
「ぐっ!」
隣では同じようにスティーブン警視がもう一人の女性を気絶させていた。
「持て」
「了解」
そしてガタイのいい隊員に担がせて、先導して走り出した。
「ついてこい!
最優先行動は全員の脱出! それ以外は捨て置け!」
「了解っ!!」
万が一、生き残りの敵がいても適当に動けなくさせて放っておけということだ。
全員で出口に向けて走り出す。
「隊長!」
そこにT字路で待機させていた隊員たちが合流。
保護した女性と、女性警官とガタイがいい警官の三名がいない。
ここにいるのはベテラン警部とメガネの隊員だけ。
「無線は聞いていたな」
スティーブン警視がやってきた二人に走りながら確認する。
俺はその場にいた隊員たちに説明する際に無線をオンにしていた。
それを聞いて動いたのだろう。
「ええ。保護女性はやむなく気絶させ、隊員二名とともに裏口から脱出させました。
我々は手伝うことがあればと合流を」
「ご苦労。
手は足りている。
このまま脱出するぞ」
「了解」
合流した二人も、共に出口へと走り出す。
無線からの状況説明だけですぐに判断して、このレベルの行動を起こせる。
ベテラン警部の指示だろう。
明らかに指示者の器。
やはりこの人は自らの意思で警視にならないだけのようだ。
「分隊長!
時間はありそうか!?」
スティーブン警視が走りながら声をかけてきた。
分隊長を任された立場上、殿を務めようと思ったが、話しづらいので保護した女性を背負ったまま隣につく。最後尾は合流した二人がそのままついてくれた。
「問題ないでしょう。
扉が完全に開かれた瞬間、何かが外れる音と何かが流れる音、そして微かな着火音がしました。
液体混合式と導火線による着火式の二種類の爆弾と思われます。
最初の音はそれらの作動音でしょう。
扉が厳重に施錠されていたこと、そして完全に開かれることで作動したことからも安全措置は万全だと考えられます。
つまりこれは侵入者の撃退であるとともに、証拠隠滅のための仕掛けでもあるということです。
警察などの侵入者が知らずに地下深くまで潜れば脱出は間に合わず、しかし扉を開けてすぐに退避すれば解体屋の鈍足でも十二分に脱出が間に合う。
そういう仕組みになっているはず。
爆弾の腕前と臆病な性格においては解体屋を信頼して良いと言えるでしょう」
「ふっ。違いない。
ぃよーっし! 聞いたな皆の衆!
しかし、時間はあるとはいえ油断は禁物!
このまま安全圏まで突っ走るぞ!
私についてこーい!!」
俺の説明とスティーブン警視の鼓舞を受けて隊員たちの足取りも軽くなる。
「……」
彼はきっと、この時点で爆弾が爆発していないことからもある程度の予測はついていたのだろう。
しかしそれを想像できていない隊員がいる可能性も考慮して、わざと俺に説明させたのだ。
隊員たちの不安を拭い去るために。
「……ふっ」
やはり隊長たる器というわけか。
「はっはっはっー! 走れ走れー! 我は風なりー!!」
……たぶん。
「……」
建物内を走り、まもなく正面入口に到着する。
予断を許さない状況ではあるが、余裕で間に合うだろう。
「……隊長」
だから……。
「……なんだ?」
走りながらスティーブン警視に話しかける。
他の隊員には聞こえないよう小声で。警視も俺に合わせて声のトーンを落とす。
「……解体屋がいた部屋に、四名の遺体があります。
爆発すれば骨も残るか分かりません。
時間はあります。私が背負っている女性は他の者に任せて、私だけそちらに寄って遺体を回収しても宜しいでしょうか?」
「!」
本当は警視たちの方にあるという二名の被害者の遺体も回収したいが、それはさすがに難しい。
ならばせめて……。
「……駄目だ。許可しない」
「……何故ですか?」
スティーブン警視は真っ直ぐ前を向いて走り続けている。
「私は隊長だ。
最優先すべきは保護した生存者と隊員たちの命だ。
たとえ時間的に余裕があるとはいえ何が起こるか分からない。
この状況で別行動は許可できない。
気持ちは理解するが命ある者を優先する。
そして、お前もまた命ある者だ。
よって、亡くなった者たちには申し訳ないがここは捨て置かさせてもらう」
「……了解」
正論すぎてぐうの音も出ないな。
まあ、分かってはいたが。
「……いくぞ。
お前はお前のやるべき仕事をやれ」
「はい……」
仕方ない。
隊長の言う通り、まずは全員での脱出が最優先だ。
「……」
俺は懐から携帯電話を取り出して、走りながら連絡を入れた。
「はぁはぁ……」
「ふぅ」
「……」
建物から全員で脱出し、そのまま森の中に進入して走り続ける。
爆発の規模はある程度予測できるが、可能な限り離れておいた方がいいだろう。
隊員たちに徐々に疲れが見えてきた。
「……」
ケビン率いる特安部隊は既に離脱済みだろう。
ケビンにも無線で状況は伝わっているはず。
ケビン以外は任務を終えて帰投しているのだろう。
裏口から先に脱出させた三名は既に十分な距離を取って物陰に避難していると連絡があった。
特安は俺たちとの不意な接触を避けるだろうからな。
「……」
そろそろか。
地下を奥深くまで調べると脱出に間に合わず、かつ扉を解錠した解体屋が十分に脱出できる時間。
解体屋のような虚弱体質の人間の走行速度を鑑みるに、爆発はもうすぐだろう。
「……隊長。まもなくです」
「そうか」
スティーブン警視は報告を受けると足を止めた。
森を奥まで進み、遮蔽物も多い。
距離は十分取れただろう。
「進行停止!」
スティーブン警視の号令で隊員たちが足を止める。
さすがに息があがっている者が多い。
銃撃戦のあとに全力疾走を長時間行えば当然だろう。
「まもなく爆発が起こる!
総員、岩陰や大木の陰に退避し身を屈めろ!
光や爆風を直視するな!
耳を塞ぎ、口を開けろ!」
スティーブン警視の命令に従い、全員が同じように身を隠す。
こんな具体的な命令。わざわざ説明しなくとも分かるだろうが、隊長が命令したという事実は必要だ。
共通認識を当たり前だと思ってはいけない。
隊長としての基本だ。
「……」
俺は一人、遠くにそびえる廃病院を見つめる。
「おい」
「私は大丈夫です。
爆発の瞬間がきたら伝えます。備えてください」
スティーブン警視にせっつかれるが、この距離なら俺は隠れなくても問題ない。
それよりは自分の役割を果たそう。
来るときが分かっていれば心構えができる。
突然の爆発に隊員が心臓発作でも起こしたら大変だからな。
「……分かった」
スティーブン警視は何か言いたげだったが飲み込んで了承してくれた。
さっき俺の提案を棄却した負い目があるのだろうか。
「……」
神経を研ぎ澄ませる。
爆発には先触れがある。
それはもはや勘に近い感覚。
動物たちが地震の発生前にそれを感じ取る感覚に近い。
爆発の数瞬前、空気が凛と張り詰めて静まり返るのだ。
これに関しては経験則といえるだろう。
『ホーム』では爆弾の解体訓練中、解体前に爆弾が爆発しそうになったら退避する訓練もしていたからな。感覚で染み付いている。
あれで訓練を受けていた何人もの子供が吹き飛ばされていたな。
「……!」
そして瞬間。
空気がしんと冷え込むのを感じた。
「来ます!」
俺が叫んだ瞬間、建物の近くで鳥たちが羽ばたいた。
「備えろ!」
スティーブン警視が声をあげた次の瞬間…………
「うわっ!?」
「くっ!」
「うおっ!」
「きゃーっ!!」
「……」
凄まじい轟音と強烈な光とともに、コンクリートで出来た廃病院は一瞬で吹き飛んだ。
とんでもない威力。
ここまで破片が飛んでくることはなさそうだが、地上部分はほぼ壊滅だな。
爆発のあとは、強烈な炎が残った僅かな建物を燃やし尽くす。
あの燃え方、可燃性燃料も置いていたか。
徹底的に証拠隠滅する気だな。
「……完全に倒壊したな」
物陰から出てきたスティーブン警視が燃え盛る建物を眺めながら声をかけてきた。
「建物の周囲はかなり開かれている。
森に燃え移ることはないでしょう。
それに消防には連絡済みです。すぐに鎮火することでしょう」
「ご苦労」
だが、その頃には建物にあったものは何もかも燃えてなくなっているだろうな……。
「……聞いてもいいか?」
「……なんでしょう?」
スティーブン警視がこちらを見ているのは分かっているが、気付かずに建物を眺めるフリをする。
「なぜ、遺体を回収しようとした?
お前なら、私が許可しないことは容易に想像がついたはずだ」
「……」
そう聞かれるであろうことは、容易に想像できた。
「……どんな形でもいい。
家族のもとに帰してあげたかった。
あれでは骨も残るか分からない。残っていても個人を特定できるかどうか……。
家族は、いつまでもいつまでも帰りを待ってしまう。
だから、どんな形であれ遺族のもとに帰してあげたかった。
それだけです……」
「……そうか。
お前は……」
スティーブン警視は当然、俺の過去のことも知っているだろう。
ショッピングセンター爆破テロ事件のことを。
「……ただ待っているだけというのは、存外、ツラいものです」
俺が意識を取り戻した時には既に妻子ともに回収済みだったが、実際に目にするまでは、もしかしたらまだどこかで……などという愚かな希望を捨てきれずにいたからな。
そんな願望という名の絶望をいつまでも抱いて生きていかなければならないのは、思っているよりもずっとツラい……。
だから俺は、きっと愚かな希望を持って待っている遺族に引導を渡してやりたかった……。
「……そうか。
骨だけでも、見つかるといいな」
「……ええ」
どれだけ個人として強くても出来ないことはある。
最強が聞いて呆れるな。
所詮は俺も、非力なただの人間に過ぎないってことだ。
「わー。すげー燃えてますねー」
「!」
そこに、ケビンが呑気な声をあげて合流してきた。
後ろには裏口から避難させた三名もいた。
どうやら合流して一緒に連れてきたようだ。
「……首尾は?」
「予定通り、目標の右手前腕を撃ち抜きました。
出血具合からも重大な血管は避けたと思います。とはいえ適切な治療は必要なレベル。
自分の任務は完遂と言っていいと思います」
「そうか。ご苦労だった」
実際はケビンが撃ったのか特安の部隊が撃ったのかは分からないが、どうやら無事に任務を達成したようだ。
「……あとはゼットが用意した輩が解体屋を尾行するんだったな。
……警察が一般人の力を借りるとは、な……」
「仕方ありません。
それがゼットの指示なのです。
指示に従う。余計な口出しはしない。
その条件で我々は情報提供を受けたのです」
「……まあ、な」
どうやらスティーブン警視はゼットの方針を快くは思っていないようだ。
とはいえ上からの指令には従わざるを得ないのが警察だ。
思うことはあっても仕事はきっちりこなしてくれたな。
「消防と応援が到着するまで各自休め!」
スティーブン警視はそう指示を出すと、気絶させた女性たちの様子を見に行った。
あの爆発でも目を覚まさないから心配になったのだろう。
実際は極度の緊張からの脱却で深い睡眠に入っているだけなのだろうが、まあ俺たちから離れてくれたのならありがたい。
「……で?」
「あ、やっぱり警部は気付いてますよね?」
ケビンに投げかけると、困ったように頭をかいた。
「じつはー、まあまあな問題が起きましてー」
「……聞かせろ」
警視にはいけしゃあしゃあと完遂したと報告しておいて。
いったい何があったというのか。
おまけ
「パンケーキホイップパンケーキホイップパンケーキホイップイチゴにバナナ♪
チョーコにハチミツまたまたホイップっ!!」
「ふふふ。ご機嫌ね、イブちゃん」
イブのオリジナルパンケーキソングに頬が緩みっぱなしのリザ。
二人は手を繋いでパンケーキの材料を買いに街のスーパーに向かっていた。
「クマゾウもパンケーキ食べれたらいいのになー」
「クマゾウ?」
初めて聞く言葉にリザは首をかしげた。
「私の部屋にいるクマのぬいぐるみ。
パパたちといる時に家族投票で決定した名前」
「……ずいぶん個性的なセンスの家族だったのね」
「えっへん!」
「あ、うん」
褒めていなかったのだが、イブが何やら誇らしげだったのでリザはそのままにしておくことにした。
「……ジョセフとも、早く一緒に食べたいな」
「……そうね。あいつの分も買っておいてあげましょ」
「うん!」
手を繋いで歩く二人の背中は、まるで母と娘のようだった。