表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/64

40.勘のいい者は存外に厄介

「……俺が、分隊の指揮官ですか?」


「うむ!」


 解体(バラシ)屋が潜伏している建物。どうやらあれは廃病院らしい。

 自然豊かな地で療養を……がコンセプトだったようだが、やはり利便性が悪く、次第に利用者が減っていって潰れたとのことだ。

 表向きは現在の所有者は不明となっているが、特安はこの土地の所有者が中規模のマフィア組織であることを把握していた。まあ、俺はリザが特安のデータを調べたから知っているのだが。

 どうやら解体(バラシ)屋が金でそのマフィアから借り受けているようだ。そういう土地転がしでやっているマフィアのようだな。


 で、そろそろそこに突入しようという矢先に、隊を二つに分けると言ったスティーブン警視が俺を分隊長にすると言い出したのだ。


解体(バラシ)屋は酷く臆病な性格と聞く。

 この廃病院は広く、出入口も多い。

 こんな広い建物に奴が一人でいるとは思えん。

 まず間違いなく手下を見張りとして置いているだろう。

 狙撃手が外から見張っているとはいえ逃げ出す者が現れないとも言えない。

 解体(バラシ)屋以外は正直どうでもいいが、あまり取りこぼしが多くても面倒だ。

 が、隊を分けすぎるとそれだけ隊員を危険に晒すことになる。

 よって、ここは隊を二つに分けて正面と裏口から突入しようと思う」


「……」


 なるほど。

 冷静で的確な分析と正しい判断力。

 やはり、こいつもだてに警視をやっていないというわけか。


 この国には他の国にあるような、テロや重大犯罪を専門に対処する特殊部隊が存在しない。

 それの最大の理由は特安があるからなのだが、それは国内外において公表されてはいない。奴らは秘密裏にしか動かない。

 そういった事案が発生した場合、その都度、事案に合わせて上層部が決めた精鋭が部署を越えて集められ、一時的なチームを結成して対処にあたるのだ。

 そのため、この国の警官は他国と比べても全体のスペックが高い。あらゆるデータを管理してランキングのようなものをつけて競わせているぐらいだから当然だとも言えるだろう。

 とはいえ、個々の力量が高くても所詮は烏合の衆。突出した力だけを集めた所でチームとして機能するわけがない。

 が、この国の警察は臨時の特設チームを立派な精鋭部隊にしてみせる。

 集められた部隊員には絶対のルールが一つだけあるからだ。


 それは、『隊長の命令は絶対』だ。


 寄せ集めの精鋭。そんな奴らをまとめる、隊長の資格を有するのは警視以上の階級を持つ警官だ。

 彼らは皆、指揮官としての特殊な訓練を受けている。


 召集した臨時チームで隊長を務められる。


 それが警視登用試験における最大の条件なのだ。

 警視以上の階級を持つ者は皆一様に指揮官としては一流。

 彼らの命令に従うことで、集められた精鋭たちは一つの部隊として十二分に効果を発揮するのだ。


「……隊を二つに分ける理由は理解しました。

 ですが、なぜスティーブン警視がいない部隊の指揮を私が?

 こちらの隊には私よりも優秀でベテランの者もおりますが」


 計十二名の部隊。

 隊長を除き、半分に分けた五名が俺の後ろに立つ。

 俺は全ての警官の検挙数なんかの成績から、戦闘術・逮捕術の順位、もちろん勤務経験年数なんかの経歴も把握している。

 総合的に俺よりも優秀な成績位置にいる人材がこちら側には少なくとも二人いる。

 にも関わらず俺を指揮官に任命する理由が分からない。


「ふっふっふっ。私を甘く見るなよ。

 これでも人を見る目には自信があるのだ。

 私の勘が言っている。

 ここはお前に任せるべきだ、とな!」


「……勘、ですか?」


「勘だ!」


「……な、なるほど」


 そんな自信満々に。

 俺以外にも呆れている奴らが多数。

 とはいえ、勘がいい奴は油断ならないのもまた事実。

 そう思われてしまったのは俺の落ち度といえよう。

 何より、隊長に命じられたのなら端から俺に断る権利はない、か。仕方ない。


「……承知しました。

 分隊長の任、慎んでお受けします」


「うむ!」


 俺が了承すると、スティーブン警視は満足そうに頷いた。


「さて、では分隊長としてのお前の意見を聞こうか」


「……そうですね」


 試されているな。

 あるいは、後ろで不満そうにしている隊員たちに分からせろということか。

 勘で選んだ自分への疑念すら払拭してみせろと言われているように感じる。

 期待と信用と、あるいはこの状況さえ上から見下ろすように楽しんでいるのか。

 面倒な上司だが、仕方ない。


「隊員の命の危険と任務の遂行を天秤にかけた警視の判断は的確と思われます。

 そして、解体(バラシ)屋があそこで何をしているかは明らか。その内容的に奴は自分の部屋の近くにあまり手下を置きたがらないでしょう。

 とはいえ性格上、いざという時に自分を守る者が近くに誰もいないというのも不安でしょうから、数人の護衛を近くの部屋に置いているはず。

 つまり、連中は病院の中心を境に片方に多数の手下を、もう片方に解体(バラシ)屋と数人の手下がいて居場所を分けている可能性が高い。

 その観点からも部隊を二つに分けることには賛成です。

 さらに進言するならば、正面と裏から突入したら左右に分かれ、下の階から探索と鎮圧を行っていくことで取りこぼしを最小限に抑えられるのではないかと愚考します。

 ケビンは正面も裏も見張れる真横辺りに位置取っているでしょうから、窓から飛び降りるような隙の多い逃走方法ならば仕留めるのは難しくないでしょうしね」


「うむ! 正解だ!

 やはり私の目は正しかった!」


 どうやら認めていただけたようだ。

 後ろの隊員たちも、どうやら俺が分隊長になることを納得したようだ。

 まあ、納得していなくても隊長が命じたのなら従わなければならないんだが、それでパフォーマンスが落ちたら困るからな。


 このチーム制には評価制度もある。

 作戦後、隊長は隊員の、隊員は隊長の評価を上層部に提出するのだ。

 隊長の命令は絶対だが、理不尽で無茶な命令をする隊長やセクハラパワハラ紛いの命令をする隊長はそれで速攻でクビになる。まあ、そんな輩はほとんどいないが。

 一応、審問はあるようだが、だいたいが提出内容が正しいと判断される。部隊の中に上層部の人間がいて、こっそり監視しているなんて噂もあるほどだ。

 実際は特安が監視についているんだがな。

 不正は許されない。

 だからこそ、隊長には正しく的確な命令が求められ、隊員はそれに絶対的に従うのだ。

 そして、それをまとめる上層部もまた公平で公正でなければならない。そんな奴らが上に行くのだから当然だな。

 まあ、腐敗しているような上層部の輩は銀狼に喰われるからっていうのもあるが。


「手柄は譲ってやろう。

 私たちが正面から突入して敵の大部分を引き受ける。

 君たちは裏から侵入して逃げ出そうとする者たちを淘汰しながら解体(バラシ)屋を探し、確保せよ。解体(バラシ)屋は殺すな。

 それから連れ去られた女性がいたら必ず保護すること。それ以外の生死は問わない。殺されるぐらいなら殺したまえ」


「……了解」


 実際、成績上の総合的な戦闘能力はスティーブン警視の部隊の方が上だ。

 危険な方を自分が引き受ける気概は評価できる。

 そして目標以外の手下たちに関しては逮捕する必要もないと言う。殺さずに捕らえる方が難しいからな。

 隊員の命を守りつつ任務を達成するための命令。実に冷静で的確だ。


「……と、いうのが建前の命令だ。

 総員、真の命令は理解しているな」


「……」


 スティーブン警視の言葉に全員がこくりと頷く。

 そう。これはつい先ほどスティーブン警視から隊員に対して伝えられた命令。

 万が一、隊員の中に裏切り者がいたとして、真の命令を敵の組織に伝えられることがないように直前まで伏せられていた命令だ。



解体(バラシ)屋はわざと逃がせ』



 これはゼットから上層部に伝えられたメッセージだ。

 今回の真の目標は解体(バラシ)屋だけではない。

 奴を囲う未知の組織。その全てを暴いて検挙するのが最終目標。


 まあ、これは俺とゼットで共謀して伝えたメッセージなんだがな。

 銀狼の目的であるボスの居場所を特定するために解体(バラシ)屋を利用する。

 特安でさえ特定できていないアジトだ。

 独力で分からないならば知っている奴に案内させればいい。

 だが、下手に捕らえて尋問する前に自害されたり、ボスに暗殺されても困る。銀行強盗の連中の例もあるしな。

 だから、わざと逃がして帰投させることにしたのだ。

 この方法なら俺自身は警察としてしか動いていないから、俺イコール銀狼だと思われる要素は一切ない。その上で、こちらが先にボスの居場所を知ることが出来る。

 それ以外に手も打ってあるし。まずはここでの作戦が何よりも重要になってくるってわけだ。


 また、この建物の周囲にはケビンをリーダーとした特安の部隊が潜んでいる。

 カイトや鷹もいるが、奴らは特安の存在に気付いているだろう。だが、奴らなら特安に気付かれないように潜むことは難しくない。そして、奴らは特安を相手にしようとはしないはずだ。面倒だからな。

 だから、カイトたちは放っておいて問題ない。俺の監視という今は意味を持たない仕事をこなしておいてもらう。


 で、俺たち警察が誘拐犯確保のために突入する。そして取り巻きと人質を確保。その際、解体(バラシ)屋だけはわざと逃がす。そして別の者が後を尾ける。

 ここまでがこの部隊に伝えられている内容だ。


 そして、ケビン率いる特安が逃げる解体(バラシ)屋を死なない程度に撃つ。

 撃たれた解体(バラシ)屋は動揺し、いち早く怪我の治療をして隠れるために安全な所に逃げる。

 奴にとって安全な場所とはどこか。

 それは十中八九、ボスのいるアジトだ。

 特安にさえ特定されていない場所。

 負傷して動揺した解体(バラシ)屋が逃げ帰るにはうってつけだろう。

 解体(バラシ)屋を死なない程度に撃って怪我をさせる。

 それが特安に課せられた任務だ。


 そして、そのあとは……。



「よし。では、そろそろ行くぞ」


「……はい」


 装備の確認を終え、スティーブン警視が立ち上がる。

 今回は全員がURG-Iとハンドガンを装備している。当然、防弾装備着用。

 スティーブン警視に全員が続く。


「では、俺たちは後方に回ります。

 十分後には行動開始可能でしょう」


 このメンバーなら装備を身に付けていても、潜みながら裏手に回るのに時間はかからないだろう。

 分隊の他の五人も俺に続いて動く。


「うむ。では、我々は先に突入しよう」


「えっ!?」 


 こっちはこれから移動するというのに、スティーブン警視はなぜか一人で先行して動き出した。

 タイミングを合わせて突入するのではないのか?


「いよーーっし!!

 突撃だー!! 私に続けーーーっ!!」


 いやいやいやいや、そんな大声あげて走り出したらバレバレだろ。いくら陽動だとしても。


「スティーブン警視。さすがに声が大きすぎます」


「構うなー!! ゴーゴーゴーー!!」


 構えよ。

 他の奴らも戸惑いながら続いて走り出したが。


「……はあ。意外と熱血系だったとはな」


 仕方ない。


「急ぐぞ。俺たちの突入前に解体(バラシ)屋に逃げられてバッティングしたら最悪だ」


 指示を出すと、俺の方の隊員たちも警視に呆れた様子で俺に続いて走り出した。

 スティーブン警視に呆れることで、むしろ俺たちには連帯感が生まれたような気もする。

 これを狙っていたのだとしたらくせ者すぎるが、


「はっはっはっー!! いけいけー!!」


 それはないな。








「あ、あのっ! ジョセフ警部っ!」


「ん?」


 森の中を潜みながら、それでも急いで走っていると、俺の後ろを走っていた女性警官が声をかけてきた。

 確かにここなら話しても問題ない距離だが。


 この部隊には女性警官が二名いる。

 単純に成績優秀な精鋭だから選ばれたというのもあるが、今回は誘拐された女性がまだ生存して建物内にいる可能性があるため、彼女たちを保護する者が必要だからだ。

 そのため、スティーブン警視はきちんと女性警官を分隊に一人ずつ分けて配属している。隊を二つに分けた理由はそれもあるのだろう。


「なんだ?」


 話しかけてきた女性警官は二十代前半とまだ若い。年齢性別に関係なく、優秀ならばチームに選ばれる。

 とはいえ、この若さでこの部隊に選抜されるのだから相当腕がたつのだろう。

 確か、学生時代に格闘技の大会でチャンピオンになっていた奴だな。


「警部とともに任務にあたれること、とても光栄に思います!」


「!」


 俺を知っている?

 彼女とは何も接点はないはずだが。

 彼女自身には怪しい経歴も何もないから、単純に何かで俺を知ったか?


「警部のご活躍は耳に新しく、特にあの連続銀行強盗犯の大捕物の話には胸を熱くしました!」


「……ああ」


 そうだ。彼女は確かそういった武勇伝的な話が好きだという情報があったな。


「……」


 それよりも、他の一部男性隊員の目が少しばかり痛いのだが。

 彼女は傍目から見ても美しい部類だろうから理由は明白だが。


「いつかは私も警部のようなめざましい活躍をしたいものです!」


「……」


 だが、彼女は危ういな。

 特殊任務で気が逸っているのか。


「……めざましい活躍などをするより、長く生きることの方が大事だぞ」


「え?」


 少し、釘を刺すか。


「油断するな。焦るな。慌てるな。そして、死ぬな。

 常に冷静に、沈着に、如何なる時も状況の把握と分析を怠るな。

 俺たちは油断すれば子供の放つ銃弾一発で、ナイフのひと振りで死ぬ。簡単に死ぬ。

 死ねば、活躍も名声も意味を成さない。

 生きて生きて任務をこなし、いつの間にか成果というものは積み上がっているものだ。

 めざましい活躍をしたいのなら、まずは生き残ることを最優先に考えろ。

 警視も俺も、この国の指揮官はそういう考えの持ち主だ。隊員の命は、警官の命は軽くない。

 なぜなら、国民を守るべき我々もまた国民だからだ。

 任務の達成と隊員の生存を常に天秤にかけて、全員を生存させながら任務を達成する術を常に考えている。

 功を急いで命令から外れないように気を付けろ」


「あ、わ、分かりました……申し訳、ありません……」


「……」


 少し強く言い過ぎたか?

 フォローもしておくか。

 

「……俺の妻も、優秀な警官と言われていた。

 だが、死んでしまってはもう成果を残せない。

 どれだけ優秀な成果をあげていようと、生きていなければ若い者にはその存在さえ知られることもないんだ……。

 だから、君は生きて成果を残し続けるといい。それこそが、何よりもめざましい活躍といえるだろう」


「あっ…………。

 はい。承知しました。

 頑張ります」


「……ああ。期待している」


 どうやら浮かれた気分も沈んだ気分も元に戻ったようだ。

 冷静になれば彼女はこの部隊に選ばれるほど優秀だ。

 焦って死ぬようなこともないだろう。

 まあ、俺の部隊にいる以上は死なせるつもりなどないがな。


「……」


 それに、どうやら他の奴らもスイッチが完全に入ったようだな。

 ここで具体的な指示を出しておくか。


「建物内の通路は狭い。

 病院という性質上、通路の左右に部屋があり、死角も多い。

 警視たちが大部分を引き付けてくれているとはいえ警戒を怠ることは出来ない。

 隊列は一、二、二、一。俺が先頭だ」


 走りながら振り返り、誰がどこに並ぶかを指示していく。

 一番後ろはこの中で最も成績優秀でベテランの警部階級に任せた。

 俺と同じで、あえて警視登用試験を受けていない現場主義の叩き上げ。

 何度か酒を酌み交わしたこともある信頼できる人物だ。

 女性警官は三列目の、体格がいい警官の後ろだ。

 被害女性を保護する役目を持つ彼女には最も危険度の低い所にいてもらう。戦闘レベルはこの中でも高い方だから、万が一前列がやられても彼女ならその隙に敵を倒しに飛び出せるだろうという狙いもある。

 ま、俺が先頭にいる以上、そんなことは起こさせないが。


「警部。着きました」


「ああ」


 指示を出し終えて少し走ると、廃病院の裏手に到着した。

 若い男性警官が報告してくれる。

 さっきのベテラン警部の次に好成績を誇る若手。階級は警部補。

 先ほど、俺よりも成績が上の者もいるといった二人。ベテラン警部と、もう一人が彼だ。彼は俺の後ろ、体格がいい警官の隣にいる。その後ろはメガネをかけた長身の警官。彼もまた優秀な人材だ。


「様子見をしたい所だが、俺たちは逃げ出す解体(バラシ)屋を目撃するわけにはいかない。

 このまま突入するぞ」


 逃げる所を見られたのに警察が追ってこないと解体(バラシ)屋に思われたら終わりだ。

 奴を冷静にさせることなく、動揺させたままアジトまで逃げ帰ってもらわなければならない。

 そう考えると、あのスティーブン警視はなかなかにリスキーな行動をしてくれたものだ。

 まあ、あれだけ騒ぎながら突入してくれれば、解体(バラシ)屋が行為に夢中になっていても嫌でも気付くだろうという打算の上なのだろうが。

 解体(バラシ)屋と俺たちがバッティングしないように俺が動くだろうと信用しているのだろうな。

 なかなかに大胆だが、理にかなった行動。

 スティーブン警視の評価を改めなければならないかもしれないな。


「……」


 隊員が頷くのを確認し、建物に走り出す。


「……」


 ここからはほぼ声をあげることなく動く。

 全員がそれを理解している。

 ハンドシグナルでここからはほぼほぼ行動していく。


「……」


 スティーブン警視の部隊は俺たちから見て左側に突入したようだ。

 既に銃声が響いている。

 ならば俺たちは右側に突入だ。


「……」


 建物の入口横の壁に張り付く。

 ハンドシグナルで右を差し、隊員たちが頷く。

 病院内の見取り図は全員が頭に入っている。

 隊列たちは既に先ほど指示を出した隊列の順番になっている。

 理解が早いと指示も出しやすい。

 ここまでのやり取りでそれぞれの理解速度は把握した。

 誰にどの指示をどの速度で、どう出していけば遅滞なく指示を理解するか。

 それを指揮官が把握しているかどうかがチームとしての機能を著しく左右する。


「……」


 壁に耳をつけ、気配を探る。

 スティーブン警視たちのドンパチで探りにくいが、俺たちの進行方向にも何人かいるな。

 中に入らないと正確な状況は分からないか。


「……」


 後ろの二人に合図を送り、外開きで両開きの扉に手をかけさせる。


「……」


 そして突入の合図とともに扉を開けさせ、俺が先陣を切って解体(バラシ)屋の根城に突入していった。





おまけ



 俺の名はジーク。

 警官だ。階級は警部補。

 この度、特殊任務の精鋭部隊に選抜された。

 優秀な俺は何度か経験があるから、さして緊張したりもしない。


 普段なら……


「ジークも一緒だ! よろしく!」


「お、おう……」


 まさか、同期のリーネも同じとはな。


「私、選抜部隊に入るの初めてなんだー! めっちゃ緊張するー!」


 そう言って太陽みたいに笑うリーネが眩しい。


「心配すんな。俺がいる」


 俺がリーネを危険に目には絶対に遭わせない。


「そうだ! 今回さー!」


 ……聞いていないようだ。


「あの、ジョセフ警部も一緒なんだって!!」


「……誰だ?」


「ジークってば知らないの!?」


「……」


 本当は知っている。

 でも、リーネの嬉しそうな顔を見たら、知っていると答えるのが嫌になった。


「一回、一緒に仕事してみたかったんだよねー。

 けっこうカッコいいし、憧れなのよねー」


「……ふん。成績は俺の方が上だけどな」


 たまたま運が良くて成果を上げているだけだろ。

 俺にはそんなキラキラした顔を見せたことないのに……。


「もちろんジークも凄いよ!

 頼りにしてる!」


「っ!」


 その笑顔は反則だ。


「頑張ろうね!」


「……あ、ああ」


 頑張る。超頑張る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] い、いろいろとフラグが……w
[良い点] ジョセフの言葉、すごく刺さりました。 死ぬな。本当、これに尽きますよね。 ジークとリーナてぇてぇです( *´艸`)
2024/06/02 11:47 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ