39.籠の中の鷹。バスケットの中のフランスパン。
『どーしよーどーしよー! マドカちゃん!
あれってマジでガチで解体屋の居るところだよねぇっ!!』
「……うるさい」
ジョセフたちが解体屋の潜む建物に突入する前。
建物を囲う森の中に潜む警官隊をカイトとマドカは監視していた。というより、ジョセフを監視していて必然的にそうなったと言うべきか。
樹上でライフルのスコープを覗いているマドカはイヤホンから聞こえてくる、カイトの慌てたような声に眉をひそめた。
『マドカちゃーん!
てか、なんで警察が来てんの!?
普通にやっててあの場所を特定できなくない!?』
「だからうるさい。あとマドカちゃんゆーな」
怪訝な顔をしつつも、マドカはスコープから目を離さない。
冷静に、沈着に、目の前に広がる朽ちかけた建物を観察し続ける。
「……」
そのスコープ越しの視界の端。建物を囲う森。建物からは見えない位置。
その森の片隅に、警官隊とジョセフが待機していた。
スコープ越しでも直接視ることは危険と判断したマドカは常に視界の端にジョセフを置き、直接的に視ないようにしながらカイトを監視するついでにジョセフのことも監視していた。
『ねーねー! マドカちゃーん!
どーする!? 助けに行った方がいいかなー!』
「……」
どうやらカイトは持ち場を離れて連絡しているようだった。
でなければこれだけ大きな声で話せないだろう。
だからこそ、マドカはよりジョセフの監視を怠るわけにはいかないと判断した。
監視していたカイトがジョセフの監視を外して場を離れる。
それは本来的にはあってはならないことで、マドカは発砲して警告することも出来たが、どうせカイトは自分に連絡したいのだろうと思ってマドカはそれを見逃した。
そして案の定、すぐにカイトからマドカに連絡が入ったのだ。
「……助けなんていらない。
私たちは、ボスからの仕事以外の行動は基本的に自己責任。組織に迷惑がかかるような行動は粛清されるけど。
今回はボスからの仕事とはいえ、そのあとのことはあいつの自己責任。
自分の欲求を満たすためにあんな所でいつまでもダラダラしてないで、さっさと人質を殺してアジトに帰投すれば良かった。
だからこれはアレの責任。
捕まるなり死ぬなり勝手にすればいい」
『……』
マドカはスコープ越しに殺気を込めてしまわないように必死だった。
解体屋があそこで何をしているかは把握していた。
本当ならば今すぐにでも自分が解体屋を撃ち殺してしまいたいが、ボスが解体屋にそれを許可している以上、自分は自分の仕事をするしかない。
マドカの言葉にはそんな気持ちが大いに込められていた。
『……ま、それもそっか』
それに対し、カイトはあっけらかんと同意した。
『べつにあの人に恩もないし、俺の雇用主はボスだし。
ボスの直轄幹部であるマドカちゃんがそう言うなら俺はそれでいーや』
「……いいのかよ」
あっさりと同意したカイトにマドカは思わず突っ込んでいた。
『いーんだよ。俺は雇われだし、報酬さえもらえれば一時的な仲間の生死なんてどうでも』
「……そう」
『それに、それがマドカちゃんならちょっとは心が痛むけど、あの人はさー、あんなんじゃん?
同情の余地はなくない?』
「……それには同意する」
『だよねー』
「……」
ひたすらに軽いカイトに呆れながらも、その仕事へのスタイルを貫くカイトの姿勢にマドカは感心していた。
カイトはボスに対してもこの態度を崩さない。
マドカにとって、ボスは怖い。
ボスに対するカイトの言動はマドカには考えられないものだった。
普段のボスに対するつれない態度は内心の畏れを隠す意味合いもあったのだ。
自らが決めた仕事のスタイルを貫く。態度を変えない。立ち返るべき場所を定めている。
カイトは『分かっている』のだ。
だから、ボスもカイトの無礼な態度を咎めたりなどしない。
有用ならば活用する。
それがボスのスタイルであり、カイトはそれをよくよく理解しているから。
「……」
それを理解していてもボスに逆らうなど考えられない。
言うことを聞く以外に行動選択の余地はない。
それがマドカの基本的な考え方。
マドカはどこまでも自由なカイトにわずかばかりの羨望を抱いた。
「……一応、ボスに確認してみる。
あんたは早く持ち場に戻って。自分が私に監視されてる身だってことを自覚して」
『へーいへい……』
「?」
適当に返事を返すカイトだったが、そのあとに何やら考えているようだった。
そして、カイトはいつも通りの呑気な口調で話す。
『……マドカちゃんさー。ホントはもう分かってんでしょ?』
「……何が?」
『俺は裏切り者じゃないって。
俺は報酬をもらえれば仕事はちゃんとする。引き受けた仕事は裏切らない。
なら、ボスが心配してる、仕事をちゃんとやってない奴が誰なのか、をさ』
「……」
マドカはカイトの言わんとすることを理解していた。
それでも、
「……証拠がない」
『あー、真面目なんだねー』
「うるさい……」
『たぶん証拠なんて出してくんないよ、あの人』
「……分かってる。
分かってるわよ……」
確定していない報告をボスに上げるわけにはいかない。
マドカは確信が持てるまでただただ監視を続けることにしていた。
たとえ、何かが起こる時は必ず決まった人間、紳士が監視を担当していたとしても。それを、マドカは理解していたとしても。
実際に自分は現認できていない。出来ない時に決まってそうなるのだが、だとしても、とマドカは考えていた。
ボスは怖い。
確度の低い情報で信用を損ないたくない。
幼い頃から刷り込まれた教育。
それがマドカの精神を縛り付けていた。
『まー、俺は俺の仕事をするだけだから別にいーけどね』
そして、カイトもまたそれをボスに報告する気はないようだった。
報酬外の仕事はしないというカイトのスタイルと、確証がもてるまで報告しないというマドカのスタンス。
それらによって、ゼットはボスに対して裏切り行為をしていることが露見せずに済んでいた。
あるいは、そこまで含めてゼットの計算通りなのかどうか……。
『とりあえずマドカちゃんは正面を見張ってるんだよね?
なら俺は裏口を見張るねー』
「……いや、だから……」
『あの警官が出てきたら教えてよ。逆に裏から出てきたらマドカちゃんにも教えてあげるからさ。じゃねー』
「あ、ちょっ!」
建前上は自分の監視下にいてもらわないと困る。
マドカはそう諭そうとしたが、カイトは一方的に話すとさっさと電話を切ってしまった。
「……仕方ない」
きっとカイトは言った通りにするだろうと判断したマドカは、切り替えて本格的に監視に戻ることにした。
「……でも、ホントにどうやってこの場所を突き止めたんだろ」
スコープ越しに警官隊を見張りながら、マドカは不思議に思っていた。
カイトの言うように、本来であればこの場所にたどり着くことは不可能だった。
にもかかわらず警察はここに来た。
警察署内までは監視できない。
仕事と称してジョセフが何かをした可能性はある。だが、根拠もなければ方法も分からない。
「……まあいい。
私は私の仕事をするまで」
自分が考えた所で答えは出ない。
そう判断したマドカはカイトに倣い、自分に与えられた仕事に集中することにしたのだった。
「……よし。行くとするかね」
数日前。
リザの車から降りたゼットは屋敷から出ていった老執事のあとを追っていた。
すでに姿は変わっており、今は少しふくよかな体型の、グレージュの髪の主婦の姿となっていた。手に持つ編み籠からはフランスパンが顔を覗かせている。
リザに見せた少女の姿は、彼女に対するパフォーマンスだったようだ。
ゼットはしばらく執事を観察したあと、おもむろに執事に近付いていった。彼にはもう監視はついていないということが分かったから。
「もし。少し宜しいでしょうか?」
「……はい?」
そして、ゼットはあっさりと執事に声をかけた。四、五十代と思しき女性の声で。
執事は私服に着替えており、現在はグレーのジャケットを羽織っていた。
執事は少し驚いたような表情を見せたが、職業柄なのか突然に声をかけてきた見知らぬ女性の話を聞く姿勢を見せた。
しかし、
「危険に晒されている家族は誰かね?
長男か? 次男か? 孫か? あるいはその全てなのか」
「っ!?」
目の前の女性が突然に声を変えてそのようなことを尋ねてきて、執事は酷く驚いた。
その声は先ほど屋敷でゼットと名乗った男のそれだった。
執事はどこにでもいそうな主婦から突然にそのようなことを言われ、軽いパニック状態になりかけていた。
「まあ落ち着きたまえ。
君が人質をとられたスパイであることなど分かっているのだよ。そして私はそれを糾弾するつもりも、主に伝えるつもりもないのだよ」
「……」
それに対し、ゼットは平然と嘘をついた。
すでに執事の雇い主であるジェスパー氏には彼が裏切り者であることを伝えてある。
が、これからの話を円滑に、かつ素早く進めるためにゼットは一時的に執事を欺くことにしたのだ。
ゼットは執事の様子を見ながら話す速度を適宜調整する。
動揺した人間が落ち着くのには時間がかかる。
だが、今はそんな時間さえ惜しい。
ゼットは執事が自分の声を頭で理解するように、冷静になるように話していく。
「いいかね?
私が君にこうして屋敷外で直接コンタクトを取ってきた意味を考えるんだ。
私の目的は敵の居場所の特定。
そしてそれは君を脅す敵の殲滅に繋がる。
つまり、我々の利害は一致しているのだよ。
君自身に盗聴器の類いはなく、また、尾行や監視もついていないことは確認済みだ。
と、いうことは君は奴らに連絡をとる手段を有しているということだ。
私はそれが知りたい。
奴らに気付かれることなく私は奴らの根城を突き止める。
そして一気に奴らを捕縛、あるいは始末する。
そうして、君の家族は何も知らぬまま、君とともに平穏無事に過ごす。
君と君の家族を助けたい、などという安直な理由をこじつけてもいいが、こちらにも利のある話なのだよ。
正義感などというものよりよほど信用できるものだと思わないかね?
そもそも、今の君は藁にもすがりたい気分なのだろう?
休日には家族で何の不安もなくチェリーパイを楽しみたいだろう?
どうだね?
理解できたかね?
ならば、自分がどうすればいいか、判断できるかね?」
「……」
執事はゆっくりと話すゼットの話に懸命に耳を傾けていた。
主と同じで、この執事もまた聡明で冷静な判断ができる人間のようだった。
そして、ゼットはそんな人間性を見抜いていた。
「……駅前のロッカー、六十八番に伝えたい内容を記載した封筒を入れます。
鍵は奴らがコピーしていて、私と奴らで保有してます。
警察に通報するなど、屋敷で何か動きがあれば都度、それを報告するように、と……」
そして、ゼットの言葉を理解した執事はすぐに自分が何を答えるべきかを理解した。
やはりゼットの目論見通り、執事は頭のよい人間のようだった。
「うむ、正解だ。
ふむ。いやしかし、手が込んでいるとも言えるが、ひたすらに手間がかかる上に伝達の遅い方法と言えるだろうね。
末端のチンピラが考えたのだろうが、まるで子供のスパイ遊びのようで、些か可愛いものだ」
ゼットは執事が渡してきた封筒とロッカーの鍵を受け取る。
人相学や心理学にも精通しているゼットには、執事が嘘をついていないことはすぐに分かった。
彼もまた必死で、自分にすがろうとしている、と。
「これまでにこの方法で敵に伝達したことは?」
「……二回ほど。
主がどこかに相談すべきか悩んでいたが私の進言で思い止まったこと。
身代金を用意し、おとなしく渡すことを決めたこと。
その、二点です」
「ふむ」
ゼットはこの伝達方法自体が罠という可能性も考えていた。
執事には教えられていない無自覚の罠の入口。
だが、どうやら本当にこの方法が使われているようだった。
「なるほど。自分が有用であることを少しでもアピールしようというのか。自分は使えるから見逃してくれと。泣けるではないか」
「ち、違いますっ!
私はそんなっ!!」
ゼットの揺さぶりに執事は明らかに動揺した。
そんな思いが胸の片隅にあったことは確かだからこそ……。
「まあいいではないか。
それでこそ人間だ。
そして、その動揺を見せてくれたことで私は君が真に被害者であると確信した」
「……試したのですか?」
執事の静かな声には微かな怒りが込められていた。
ゼットはそれが自分への不信に繋がらないように言葉を繋げる。
「試したのさ。
いいかね?
事ここに至り、今さら君まで敵側でした、などというオチはナンセンスなのだよ。
だが、君のその動揺と怒りは敵側ではあり得ない反応だということが私には分かる。
これで安心して、私はジェスパー氏の娘と君の家族を助け、守る動きに全力を注げるのだよ」
「……理解しました。
申し訳ありません。宜しくお願いします」
「理解が早いのは実に助かるよ」
自分が怒ることさえ折り込み済みで、それらの感情も含めた全ての挙動で自分が信じられる存在なのかを判断した。
どこまでも先を見据えたゼットの言動に、執事は「この人ならもしかしたら……」という希望を抱いていた。
「さて、ではあとは私に任せたまえ」
封筒と鍵を手にしたゼットはすぐにその場を離れようとする。
「わ、私に、何か出来ることは……」
が、執事はそんなゼットを引き止める。
何もせずにはいられないのだろう。
「ふむ。君に出来ることは、今ここで私を引き止めないことだね。
そして、いつも通りに家に帰り、いつも通りに出勤する。
事態が解決するまで、いや、解決しても、そうしていつも通りに行動することが君が出来る一番の働きなのだよ」
「……承知、致しました」
「では」
ゼットの言葉をすぐに理解した執事はその場で深く頭を下げた。
ゼットの邪魔をしない。余計なことはしない。
それこそが事態解決への近道だということを理解した執事は、ゼットを見送るとそのまま帰途についたのだった。
「さてさて、次は奴らの相手かね」
執事と別れたゼットは駅前のロッカーに来ていた。
そこに道中で記入した手紙を入れた封筒を置いて鍵を締め、自身は近くの高級車に乗り込んでロッカーを見張った。
今は白スーツに鍛えられた体を包んだ、明らかにそちらの筋の者と分かる長身の男の姿をしていた。
髪は金髪オールバック。金のネックレスにシルバーの時計、先の尖った靴に当然スーツも、その全てが一流ブランドのものだった。
ゼットは後部座席に陣取り、運転席には謎の老紳士が座っていた。ゼットが雇ったただの運転手だが。
そして今、ゼットが封筒を置いたロッカーを二人の男が開けようとしていた。
柄物のシャツを着た、見るからにチンピラと思しき男二人組だ。
男たちは周囲をキョロキョロと見回しながら、どこまでも不審な様子でロッカーを開けていた。
「やれやれ。素人に毛が生えたようなチンピラ諸君だね」
警察にでも見つかれば今すぐにでも職務質問されそうな様子にゼットは溜め息を吐いた。
「これは急いで確保した方が良さそうだ」
その場で封筒の中身を確認しようとするチンピラを見て、ゼットはすぐに車を降りた。
見張られている可能性も、罠である可能性もまるで考えていない。
ゼットは思考レベルを合わせて会話するのが面倒だとも思いながら、御しやすいならいいかと、半ば楽観的に捉えて男たちに近付いていった。
「お、おいっ」
「ひえっ」
強面のゼットが近寄ってきていることに気が付くと、男たちは分かりやすく怯えた。
「おい」
「「は、はいいぃぃぃっ!!」」
低く太い、ドスの利いた声。
ガタイのいいスジ者と思しき男から声をかけられた。
若いチンピラがビビるのも頷けよう。
「お前らのことを助けてやろうか」
「……へ?」
「お前らがその封筒の内容を伝えようとしている相手を追っていてな。お前らの上じゃねえぞ?
その先の、一番先にいる奴だ」
「は、はぁ」
チンピラたちは事態をよく理解していないようだった。
ゼットは彼らにも理解しやすいように、分かりやすく説明することにした。
「お前らの先輩は脅されてるんだよ。
その封筒の先にいるのは凶悪な爆弾魔だ。そいつに、吹き飛ばされたくなければ言うことを聞けと言われてるんだ。
そしてその吹き飛ばされる人間にはお前らも含まれてる」
「ええっ!?」
男たちは本当に事態を把握していないようだった。
ただ先輩に命令されたから封筒を取りに来た。それだけのようだ。
「世話になってる先輩を助けたいだろ?
先輩はお前らを守るためにこの仕事をしてんだ。
それに、ここで先輩を助けておけばお前らの株も上がるぞ?」
「マ、マジっすか!?」
「どうすればいいんすか!?」
いっそ、清々しいほどに素直なチンピラたちにゼットは思わず笑みが溢れそうになった。
「まずはお前らの先輩の所に案内しろ。
順に辿っていき、ラスボスは俺が潰してやるからよ」
ゼットはそう言うと、二人に「乗れ」と言って車に案内した。
「はいっす!」
「お願いしゃっす!!」
そうして、ゼットは彼らの上の人間に接触した。
結果として、リザの調べた情報も活用し、同じような人間を三ヶ所ほど経由して、ようやくゼットは解体屋の居場所を把握するに至る。
解体屋の根城を知る最後の人物は多少ごねたが、結局はその人物も脅されている部分があり、それなりの金を言い訳にあっさりと口を割った。
「やはり恐怖と暴力で従わせるだけでは限界ということだね」
遠めから、建物の中に解体屋がいることを確認したゼットは位置情報をジョセフに送って、その場をあとにした。
「はてさて、今回の顛末がどうなるか。
私は私の仕事を終えた。
あとはゆっくりと見物させてもらうとするよ、銀狼」
いつの間にか少女の姿になっていたゼットは不敵な笑みを浮かべながら消えていったのだった。
「いよーーっし!!
突撃だー!! 私に続けーーーっ!!」
「スティーブン警視。さすがに声が大きすぎます」
「構うなー!! ゴーゴーゴーー!!」
「……はあ。意外と熱血系だったとはな」
おまけ
「……報告は以上。
解体屋の処遇はどうする?
指示が欲しい」
『なるほどな。まさか警察に根城を突き止められるとはな』
マドカはボスに事の経緯を報告していた。
対応の指示を受けるために。
『解体屋は俺の指示通りにやったはずだ。
だとしたら、その場所にたどり着くのは警察でさえ難しいだろう。そもそもそこまで手をかけて動く案件じゃねえからな。
これは、何か別の所から探られたか……』
「……」
マドカはボスの言葉を待った。
自分にはその先を考える能力はない。
自分は報告をしたらボスに任せ、指示を仰げばいい。
それが仕事におけるマドカの考え方だった。
『放っておけ』
「へ?」
しかし、想定外の指示にマドカは思わず気の抜けた声をあげた。
『あいつは使えるから好きにさせていた。
だが、それで組織に、俺に迷惑をかけるようならいくら使える奴でもいらねえ。
これで捕まるなり死ぬなりするならそれまでの奴だ。
マドカ。お前はお前の仕事をすればいい。
でもそうだな。今回はカイトたちだけじゃなく、現場全体を見ておけ。
お前なら出来るだろ? 鷹の目』
「……了解」
ボスはあっさりと解体屋を見捨てた。
というより、自分で何とかしろと突き放した形となった。
有用でも邪魔ならいらない。
ボスのその考え方がいつか自分に及ぶのではないかと、マドカは少しだけ不安に感じたが、それを表に出すことはない。
『ま、そんな所だな……ああそうだ。
もしも……』
「え?」
連絡を終えようとしていたボスが、思い出したようにマドカに追加の指示を出す。
『……いいな?』
「……了解」
そして、その指示を受けたマドカは瞳を冷たく沈めて返事を返し、連絡を終えたのだった。