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38.共同戦線

「……さて」


 リザが依頼人に会いに行くと出ていった翌日、俺は馴染みの場所に来ていた。

 警官の方の仕事場だ。

 リザは銀狼に誘拐事件の犯人の始末を依頼してきた依頼人のもとに、ゼットとともに行くという。

 世界一の名探偵への依頼。

 早くても数日はかかるだろう。

 その間に俺は俺で手を用意しておかなければならない。

 俺が俺として動くための手段を。


「こっちの方が幾分やりやすいか」


 一人目にはもう会ってきた。

 だいぶ渋っていたが何とか承諾してもらえた。

 これで俺はいくらか動きやすくなる。


「ケビン。いるか」


「あ、警部。早いっすね」


 銀狼対策班の仕事場に入るとケビンはすでに仕事を始めていた。

 わりと適当な奴だが仕事に関しては特段しっかりしてきた。

 まあ、俺が来る前に特安としての仕事を片付けているのだろうが。


「……」


 他に誰もいないことを確認して部屋のドアを閉め、鍵をかける。


「ん? 警部。どうしたんですか?

 鍵なんかかけて」


 普段は鍵どころかドアも開けっぱなしなことが多い。

 ケビンが俺の珍しい行動に顔をあげる。


「……ジェスパー家の娘が誘拐されている事に関しては把握しているな」


 俺は単刀直入に攻めていくことにした。


「……なんの話っすか?」


 すぐに俺から目線を外す。

 ……しらを切るか。


「……解体(バラシ)屋がかんでいる事件を特安が知らないはずがないだろ」


「……はぁーーーっ」


 ケビンが分かりやすく溜め息を吐く。

 心底嫌そうな顔。

 

「……特安は動かないっすよ」


「だろうな」


 観念したようだ。

 ケビンは特安に関する話を極端に嫌う。

 まあ、情報漏洩は処罰の対象だから当然だろう。

 こちらもそれを知っているからこうして盗聴防止策がとられているこの部屋で話をしているのだ。


「警察には通報されていない。つまり警察は動かない。そして、たとえ警察が知ったとしても解体(バラシ)屋相手では動きたがらない。

 しかし特安は事件を把握していても動かない。忙しい身の上で誘拐事件程度では重い腰を上げないからだ。リスクも高いしな」


「……警部は、俺たちの動きをどれぐらい把握してるんですか?」


 鋭い目つき。

 静かに揺れる殺気。

 知りすぎている者は危険。

 特安として排除に動くべきかを検討している、といった所か。

 特安が忙しいことを知っている時点で詳しすぎるからな。

 一般の警官は壊し屋が死んだことなど知りもしないのだから。


「俺にも独自の情報源があってな。

 そこから知り得た情報だ」


「……その情報源とやらを知りたいんすけど」


「まあそう怖い顔をするな」


 今にも懐の銃を抜き出しそうな雰囲気。

 警官として支給されている威嚇の意味が強いものではなく、特安としての殺傷力の高い方の銃を。

 とはいえ、こちらにそのつもりは毛頭ない。


「情報源はあとで教えてやる。

 それより、誘拐犯に解体(バラシ)屋がいると知っていても特安はやはり動かないんだな」


「!」


 あっさりと情報源を教えると言われ、ケビンが驚いたような表情を見せる。

 そして、そのあとの解体(バラシ)屋の話で再び顔を歪ませる。

 解体(バラシ)屋は特安からしたら立派な始末対象。

 ただの誘拐事件なら特安が動くべくもないが、相手が解体(バラシ)屋だと分かった上でケビンは動かないと言った。

 つまり特安の方では誘拐犯の目星もついている状態で、すでに動かないことが決定しているということだ。

 意図せずそんな内部情報を漏らしたんだ。その表情は当然だろうな。


「……何が目的っすか?」


 依然として怪訝な表情。

 舌戦では敵わないと理解したか。


「動かないのなら暇だろ?

 お前の所の部隊だけでいい。

 特安の部隊を俺に貸せ」


「え、困るんすけど……」


「困る程度なら問題ないな」


「そ、そういうことじゃ……」


 想定外の提案に困惑の表情。

 まさか特安の部隊を動かせと言われるとは思わないだろうからな。


「とにかく、それは無理っすよ。

 そもそも俺にそんな権限はないですし」


 まあ、そこでもしらを切るよな。


「……権限ならあるだろ。

 銀狼対策局の部隊の、新たな部隊長さんよ」


「!?」


 そう。

 特安でのケビンは出世したのだ。

 銀狼が銀狼対策局のトップを始末したことで人員の配置転換が行われたからだ。

 下から上に。上から下に。横から横に。

 巡りめぐって、ケビンが銀狼対策実動部隊の部隊長に就任したのだ。


「……俺、警部には世話になってるからあんまり始末したくないんですけど」


 ケビンの瞳が覚悟を決めた色に染まる。

 恩はあるが仕方ない、といった所か。

 さすがに内情を知りすぎている、という所だな。


「まあ落ち着け。

 これらは俺の情報源からもたらされた情報だ」


「……それを、さっさと教えてくれませんか?」


「教えるには教えるが、手順を踏んで教えないと殺されるからな」


「……」


 場合によっては乱暴な尋問さえ厭わないのだろうな。特安とはそういう所だ。

 国家の安全のためには手段を選ばない超法規的組織。


「そもそも、お前たちはなぜ動かない?

 解体(バラシ)屋は始末対象だろ」


「……直接の実行犯は使い捨てです。

 本人は辿れる場所にはいない。

 動いても無駄ですし、最悪罠にはまって部隊が吹き飛ばされて終わりです。

 デメリットしかない。誘拐された娘と一家には申し訳ないですが、こちらの損害が大きすぎます」


 ケビンは諦めたように話し出した。

 俺が解体(バラシ)屋が始末対象であることを知っていることにさえもう突っ込んだりしない。

 どうせ始末するのだから、という気持ちがあるのかもしれないが。


「……ふむ」


 特安という組織の本質だな。

 百の中から九十九を守るために一を切り捨てる。

 守るべきは民ではなく国。

 そして守る側を無駄に消費はさせない。

 それが特別安全保障部会という組織だ。


 だが、そう易々とは逃がさない。


「……家族が、娘が拐われて、奴に酷い目に遭わされているんだぞ。

 お前はそれでいいのか?」


「っ!」


 動揺。

 痛い所を突かれたといった表情。


 ケビンは家族を何より大事にする。

 病弱な母の治療費と、幼い弟妹の面倒をみるために警官と特安の二足のわらじをやっているぐらいだからな。

 ここで、その情の部分にも訴えていく。


「……無駄ですよ。

 部隊を無駄に犠牲にするようなことはしません。

 特安は動かない。それが決定事項です」


「……」


 葛藤はあるが理由がない、か。

 個人の心情を仕事には出さない。

 なかなかに優秀な奴だ。


「ならば、お前が動ける理由をやろう」


「……はい?」


解体(バラシ)屋の居場所を特定できると言ったら、どうする?」


「……な、何を。そんなこと、あり得ないですよ」


 明らかな動揺。

 疑念と困惑と、かすかな希望。

 ここで、そのわずかな光を大きくしてやる。


「ああそうだ。

 俺の情報源だけどな。

 ゼットと呼ばれる、世界一の名探偵様なんだ」


「は?」


 動揺させた所にすかさず次弾を撃ち込む。

 追い打ちってやつだ。


「そもそも今回の誘拐事件のことを俺が知ったのは、ゼットが事件解決の依頼を受けたからなんだよ」


「なっ!?」


 実際は逆だけどな。

 ジェスパー家がゼットに依頼するのはこれから。

 だが、ケビンにはゼットが情報を仕入れ、俺にもたらしたと伝える。

 そうすることで有能すぎる部分は全て世界一の名探偵様のおかげだと押し付けることが出来るからだ。

 さらに言えば解体(バラシ)屋の居場所を特定できるかどうかもこれからの話だ。

 だが、ゼットならやるだろう。

 リザとともに解体(バラシ)屋の居場所を特定してみせるだろう。

 だから俺はそのつもりで戦力を整えていく。

 ゼットの実力は信用しているし、リザのことは信頼しているからな。


「ま、待ってください!

 そもそもなんで警部が『あの』ゼットと繋がってるんすか!

 そんな情報どこにも……っ!」


 ケビンは特安が俺を調べていることを思わず口走ってしまい、しまったと顔を歪ませた。


「……まあ、特安が俺のことも調べているのは知ってるよ」


 ともすれば裏の社会の奴らからも情報を得るような不良警官だからな。

 捜査のためにしか使わないから特安は黙認しているが、それなりに警戒はしているのだろう。

 当然、銀狼としてのボロなど露ほども出さないがな。

 というか、特安の調査対象は本来的には全ての国民だからな。俺はその優先度が高いといった所だろう。


「ゼットの正体は誰も知らない。もちろん俺もな。

 奴は変装の達人だ。

 俺と会う時も毎回違う人間でやってくる。老若男女問わず、な。

 おまけに俺は向こうの連絡先さえ知らない。

 一方的に接触してきて俺に情報をもたらし、必要とあらば警察の情報を聞いてくる。

 それだけの関係だ」


「……なぜ、そんな関係が始まったんですか?」


 殺気は収まっている。

 興味。調査。かすかな興奮。

 伝説級の名探偵だ。その繋がりの糸口かもしれないのだから当然か。


「……ゼットが長年追いかけている事件の被害者の遺族。それが俺だからだ」


「……最初のショッピングセンター爆破テロ事件」


「その中で警察関係者として警察の情報を提供できる者を探していたそうだ。

 ついでに銀狼にも興味がある様子だったな。

 奴からすれば俺は条件にピッタリだったんだろう」


「……なるほど」


 事件が起きた当時には当然、銀狼対策班なんてものはない。

 俺はまだ銀狼じゃなかったからな。

 その当時からの付き合いならば、特安がそれを把握していないのは当然だ。

 なので、そういう設定でいかせてもらうことにした。


「ゼットは当然のように特安の存在も内情も把握している。

 お前らに気付かれずに俺に接触するなんて朝飯前だろ」


「……でしょうね」


 おそらく特安はゼットのことも調査しているのだろう。

 不確定要素を嫌うのが特安だ。

 探偵として国家に有用な働きをすることが多いゼットだが、依頼次第ではどうなるか分からない。

 特安としては素性の把握、場合によっては排除したいというのが本音だろう。特安もまたゼットに依頼をすることがあったとしても。

 だが、長年の特安の調査にも一切引っ掛からない。それがゼット。

 その隠密性は折り紙つきだ。

 なので、ゼットのせいにしてしまえば、ケビンはたいがいのことを納得せざるを得ない。

 リザの依頼を受けたのだ。

 この際とことん利用させてもらうとしよう。


「……警部とゼットは、互いに利用し合ってるワケですね」


「まあ、そういうことだ」


 ケビンは俺が密かにかつての事件を追っていることを知っている。

 まあ実際には、それは銀狼として事件を調査していることをカモフラージュするという意味合いが強いのだが。


「…………」


 長い沈黙。

 計算と葛藤と心情。

 メリットとデメリット。リスクヘッジ。

 ケビンは自分がどう振る舞うべきかを考えているのだろう。

 それを考え始めた時点で答えは出ているのだろうに。


「……分かりました」


 やがて、考えをまとめたケビンが顔をあげる。

 覚悟を決めた顔。決断した者の目。

 

「俺の部隊を動かします」


「……そうか。助かる」


 ここまでは予定通りだな。


「……ですが、警部は参加しないでください。

 部隊は俺が指揮します」


「……なぜだ?」


 かすかな同情。決意。そして、優しさ。


「部隊を動かすにはゼットから情報の垂れ込みがあったと上に報告する必要があります。これまでもランダムに特安の人間にゼットが情報を渡してきたことはあるので。

 つまり、これはゼットの情報のもとで特安が動く案件ということになります。

 しかし、警部は一般の警官です。

 特安以外の人間がゼットと関わりがあると分かれば、特安は警部を拘束し、尋問するでしょう。ゼットを利用する反面、その存在を捉えたいと考えているのが特安ですからね。

 つまり警部がゼットと繋がっているということが特安にバレてはいけないんですよ。

 だから、今回の件は俺たちに任せて、警部はゼットから解体(バラシ)屋の居場所を聞いて俺に教えたら、あとは大人しくしておいてほしいです」


「……お前も、特安だろ」


「……だから、警部には世話になってるって言ってるじゃないっすか」


 気恥ずかしそうに唇を尖らせる。

 これは本音か。

 ケビンを俺を見逃してくれるつもりらしい。


「……ありがたいお言葉だな」


 それは素直に嬉しい。


「じゃあっ!」


 だが。


「そう言ってくる可能性も考慮して、実はすでに手は打ってある」


「……え?」


 ここまできて俺が参戦しないワケにはいかない。

 ケビンは盛大に嫌がるだろうけどな。


「あらかじめ言っておこう。

 悪いな」


「……ものすっごい嫌な予感しかしないんすけど」


「その予感はたぶん当たってるぞ」

















「はっはっはっはっ!

 かの悪名高い解体(バラシ)屋を、ついに私の手で捕らえる日が来たかっ!

 これでリグレット……いや、エルサも私を認めざるを得ないだろうなぁっ!!」


 アッシュグレーの髪をオールバックに撫で付けた、見るからにプライドの高そうな男が数十メートル先にかすかに見える建物を眺めながら、ご機嫌な様子で高笑いしている。


「……ちょっと警部。なんでこの人も呼んだんすかー」


 その後ろに控えるケビンが横に並ぶ俺に小さな声で文句を言ってきた。

 たいそう不満な様子だ。

 そんなケビンに俺も声を抑えて答える。


「俺は一般の警官だ。

 俺が参加するためには警察をこの件に介入させなければならない。

 だからゼットを通じて匿名の通報をさせたわけだ。

 その通報がゼットからであることは上層部の一部しか知らない。今回の指揮を執るスティーブン警視でさえ知らされていない。

 あのゼットからの情報だ。特安と違ってゼットと関わりがない警察上層部は目の色を変えただろうな。これを機にゼットと繋がりを持ちたいと。

 だから、警察は精鋭部隊を組織した。あの解体(バラシ)屋を逮捕するために、今回は特に戦闘能力の高い者をな。

 そして、そうなると俺もそれに選ばれるのは分かっていた」


 今ここには上層部によって特別に組織された精鋭の警官隊がいる。

 スティーブン警視を指揮官とした十五名の精鋭チーム。


 ケビンに特安の部隊を動かす了承を得た数日後、ゼットから解体(バラシ)屋の居場所が特定できたと連絡があったのだ。

 おそらくゼットとリザが依頼人と接触してそこまで日数は経っていないだろう。

 にも関わらずきっちりと成果を上げてくるあたり、さすがは世界一の名探偵といった所か。


「……そこに俺も入っちゃってるんすけどー」


「悪いな。お前も存外、優秀な警官なんだったな」


 ここに特安の部隊はいない。

 特安は国家の秘密組織だ。警察にさえその存在を明らかにしてはいない。

 ケビンは今、警官の精鋭としてこのチームにいるのだ。

 まあ、ケビンも選ばれるのは予定通りだけどな。


「心配するな。お前は自由に動けるようにしてやるよ。だから予定通りに頼むぞ」


「……了解っす」


 そんな不貞腐れた顔をするな。


 特安の部隊も現場に来ている。

 が、警察に存在がバレないように潜んでもらっている。

 もちろんそれも計算通りだ。

 特安の部隊には、彼らとしての役割をきっちりとこなしてもらう。


「またお前たちとともに仕事が出来るとはなっ!

 私は嬉しいぞ!」


「こちらこそ光栄です。スティーブン警視」


「こ、光栄ですー」


 前に立っていたスティーブン警視がくるりと振り返り、俺たちに話しかけてきた。

 相変わらず自尊心の塊みたいな奴だ。

 ケビンはすっかりこの男に苦手意識が芽生えてしまったようだ。


「お前たちはなかなかどうして、このチームに選ばれるほどに優秀だったのだな!」


「ははは。警視のお仕事を学べたおかげですかね」


「そーかもなー! はっはっはっ!!」


「……よくやるよ」


 ケビン。聞こえてるぞ。

 特安なら処世術ぐらい嗜んでおけ。


 俺は逮捕術や対人戦闘において、常に警察内で上位に入るようにしてある。

 だが、トップ争いをするようなレベルではなく、あくまで上位陣には居られる、といったレベルでだ。

 あまり優秀すぎてもいろいろと駆り出されたり、抜擢されて不要な出世をしかねないからな。下手に勘繰られても面倒だ。

 だから爆発物処理などの知識には疎いということにもしてある。

 喧嘩が強くて乱暴な捜査もする警官。そんな奴、出世はしないが、こういう時に引っ張ってくるのに都合がいいだろうからな。

 先日のショッピングセンター爆破テロ事件の時に、イブがスティーブン警視に余計な爆発物の知識を披露してしまったのが気がかりだが、まあこいつは覚えていないだろう。


「そう。私は優秀なのだ!

 なにせ、あのゼットに名指しで今回の事件の指揮官に指名されるほどだからなぁ!!」


「さすがです!」


「……どーせ警部がチョロいからってことで指名させたんでしょ」


 ケビン。聞こえてるぞ。正解だけどな。


「じゃあ、警部。俺はもう行きますよ。

 場所を変えて全体を見通せる所に居ます」


「ああ、頼んだ」


 ケビンは足元に置いていた重たそうなカバンを持ち上げると、さっさとここから去っていった。


「ん? あいつはどこに行くんだ?」


 スティーブン警視に呼び止められて説明するのが嫌だから逃げたんだろうな。

 まあ、それぐらいは俺が代わりにやってやろう。


「あいつは射撃。とりわけ狙撃の腕前が警察内でもトップクラスなんですよ。

 なので、今回は建物全体をライフルで見張る形で配置します。

 万が一にも取り逃がすことのないようにしないといけませんからね」


「なるほど! そういうことか!

 頼んだぞー!!」


 まあ、その激励も届かないぐらい速攻でケビンは消えたけどな。


「……」


 そう。

 ケビンは警察においても、そして特安においても、常に射撃の成績がトップクラス、どころかトップだ。

 特に狙撃に関しては世界大会レベルといっても過言ではないだろう。

 鷲の目、イーグルアイなどと呼ばれたりもしている。

 鷹の目と、ホークアイといい勝負だろう。監視が面倒になったらケビンを鷹にぶつけるのもありかもな。


「……」


 当然のように、今日もカイトと鷹が俺を監視している。

 昨日がゼット扮する紳士(ジェントル)の監視の番だ。そして今日はカイト。

 最近は日替わりで俺のことを見張るようにしたらしい。

 鷹は常に俺たちに張り付いているワケではないようだが、それがいつなのかを俺に正確には把握させないのだから、やはりかなりの手練れだ。

 今日の俺は警官として来ている。

 俺が銀狼としてではなく、わざわざスティーブン警視たちを使ってまで警察として現場に来たのは、監視の目があっても構わず解体(バラシ)屋のもとに来るためだ。

 監視したければすればいい。

 これは警官としての仕事だ。

 俺が銀狼ではなく警官として好きに動くために、今回はわざわざ警察と特安の部隊を引っ張り出したのだ。


 つまり今回は、銀狼とゼットと警察と特安による共同戦線というわけだ。

 解体(バラシ)屋一人にずいぶんな大所帯だが、真の目的はあんな小物だけではない。


「よし! そろそろいくぞ!」


 スティーブン警視の号令のもと、警察の精鋭部隊が武器を手に立ち上がる。


「……ええ。行きましょう」


 さあ。狩りの時間だ。




おまけ


「ああ、ゼット?

 連中の連絡先と口座を特定したわよ。

 案の定、捨て用のだったけど、そこから流す用の口座と名義もゲットしたから送るわ」


 リザは調査の結果をゼットに連絡していた。


『うむ。助かる。

 こちらもやはり使い捨てのようだ。

 だが、裏切り制裁用の裏口を掴んだ。

 君の情報と合わせて奴らのねぐらを辿れそうだ』


「そう。なら良かった。

 私はイブちゃんと留守番を頼まれてるから、あとは頼んだわよ」


『うむ。

 方舟に乗ったつもりで待っていたまえ』


「はいはい。よろしく」


 ゼットの独特の返しにも慣れてきたリザはそのまま電話を切る。


「……あとは、頼んだわよ」


 自分は表には出ない。

 それを歯がゆいと思うこともあるが、ジョセフはやると決めたら必ずやる。

 リザたちが依頼人との話を終えたあとにジョセフにそのことを報告すると、ジョセフから特安を動かすと報告を受けた。

 やはり居場所さえ特定すれば、あとは彼が何とかしてくれる。

 だからリザは安心して任せることができるのだ。


「……リザ?」


「ん?」


 電話を切ってそのまま立ち尽くしていたリザにイブが心配したように首をかしげている。


「なんでもないわよー」


「わぷぷっ」


 リザはそんなイブをぎゅっと抱きしめる。


「……」


 今度こそは、この子こそは、必ず守る。


 リザはそう決意を新たにしていた。


「リザ。ばいんばいんが苦しいでよ」


「ごめんごめん」


 胸をぺしぺし叩くイブを優しく離す。


「イブちゃん。おやつにしよっか。

 なに食べたい?」


「パンケーキしか勝たん!」


「はいはい。お買いもの行こっか」


「うむ!」


 そうして、二人は手を繋いで買い物に出掛けたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] それぞれの思惑が交錯して、ハラハラしました! 夕日さんはこういった表現も本当にお上手ですね。 そして安定のイブちゃんてぇてぇ。ありがとうございます(*´∇`*)
2024/05/20 22:34 退会済み
管理
[一言] スティーブン警視キターーー!!!!(大歓喜)
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