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28.それはプロであるための矜持のようなもので。

『いいか。キャシー。

 お前の両親を殺したのは銀狼だ』


『……銀狼』


『そうだ。

 最強の殺し屋。人類の最高到達点……親父の、最高傑作……いや、違うな。

 とにかく、お前の両親を無惨に殺害したのはその銀狼だ。奴は金のために、お前の両親を弄びながら殺した』


『……』


『許せないよな。悲しいよな。悔しいよな。憎いよな。

 自分に力があれば、両親を守れたのに。

 強くなれば、仇を取れるのに』


『……憎、い?』


『そうだ。お前は銀狼のことが憎いんだ。殺したいほどに。

 両親を殺した銀狼を、お前は殺したいんだ』


『……銀狼を、殺す……殺し、たい……』


『そう。それこそお前が生きる意味だ。

 それ以外にキャシーが生きる意味はない。

 お前は銀狼を殺すためだけに生きていく』


『……生きる、意味……』


『ああ。両親が死んだお前に、本来なら生きる意味などない。

 だが、お前には復讐する目的がある。

 両親を殺した銀狼を、お前の手で始末して復讐するんだ。

 そのためにお前はこれから殺し屋としての技術を磨き、最強の殺し屋である銀狼を殺すんだ』


『……私が、殺し屋……。復讐が、生きる目的……』


『そうだ。憎い憎い両親の仇である銀狼を殺すために、お前は殺し屋になるんだ。

 そうして銀狼を殺すことだけが、お前がこれから生きていく意味だ』


『……そっか。うん。そだね。

 それでいいよ。それがいい……。

 私は、そのために生きていく必要がある。

 まだ、生きて……』


『ああ。いい子だ。

 お前には才能がある。俺がお前を最高傑作にしてやろう』


『……うん。わかった』


『……まあ、奴に手傷でも与えられれば御の字か』


『ん?』


『いや、なんでもない。

 さあ。まずは仲間を紹介しよう』


『……仲間?』


『そうだ。苦楽をともにし、絆を深め、最後には殺し屋となるための糧となってくれる仲間たちだ』


『……なか、ま……』


『くっくっくっ。せいぜい踊ってくれよ』



















「どういうことだオラァ!!」


「おっと」


 会って早々に殴りかかってきたロイの拳をかわす。

 まあ、想像通りの反応だな。


「怒っている暇はない。

 手を貸せ。ローズを助けに行く」


「ああっ!?」


 青筋をたてるロイに冷静に話をしていく。

 激昂していても頭の一部では常に冷静でいられる男だ。すぐに状況を理解するだろう。


 俺とイブはロイのもとを訪ねていた。

 ロイはいわゆるマフィアだ。

 壊し屋の根城のひとつやふたつ、把握しているだろう。

 それにローズがロイに想いを寄せているように、こいつもまたローズのことを悪いようには思っていないはず。この激昂が何よりの証拠。

 本来ならば何も対価なく手を貸すことなどしない奴らだが、ローズのためとあらば全力を尽くしてくれるだろう。まあ、金で解決するならそうするが、義を重んじるこいつらにはそうでない方が効果的だろうしな。


「……ちっ!」


 ロイはあからさまに舌打ちをすると、振り上げた拳をおろして敷いてある座布団という平たいクッションに座り直した。

 どこぞの国の文化らしいが、靴を脱いで家に上がるというこの屋敷のルールには相変わらず慣れない。

 とはいえ、それが信用の証にもなるらしいから従わないわけにはいかない。

 実際、よく出来たシステムだと思う。

 靴が奪われた状態では、敵は逃げ出すのに靴の置いてある玄関まで行かなければならず、敵の逃走ルートを絞り込むことが出来る。

 また、素足のまま窓などから逃走することも可能だが、外を走りにくいし何より目立つ。

 招く側としてはこれ以上ないほどの防衛方法と言えよう。自分たちはすぐ側に靴を隠しておくことも出来るわけだしな。


「……何をすればいい」


 そんなことを考えているうちにロイの頭が冷えたらしい。

 ロイは出された茶を一口飲むと、腕を組んでこちらを見据えた。

 こちらにも茶は出されているが当然のように飲むことはない。

 ロイのことはそれなりに信用しているが、殺し屋という立場上、おいそれと他人の出したものを口にするわけには……。


「いと苦し!」


「……」


 出された瞬間に飲み、緑茶の苦味に顔をしかめているイブさんは放っておこう。


「……壊し屋の根城を全て教えてほしい」


「……また面倒な奴と事を構えたな」


 ロイはイブの方に茶菓子の入った器を押し出しながら表情を歪めた。


「いと甘し!」


「……食いすぎるなよ」


 さっそく砂糖菓子を頬張るイブに釘を差しておく。食うなと言ってもこいつは勝手に食うだろうから。

 まあ、イブの嗅覚なら毒が入っていれば分かるだろうし、イブが鼻で感知できないほどの微量な毒でも口にした瞬間に分かるだろう。そもそもそんな量なら、イブならば体調に変化をきたさないだろうから問題ないだろう。訓練は受けているだろうしな。


「……壊し屋か」


 ロイには俺がボスを追っていることを言っていない。

 今回もおそらく捜査上のトラブルだと思っているだろう。

 これまでも銀狼の依頼遂行のためにローズに調査を依頼したことはあるからな。

 壊し屋のバックにボスの組織があることは公にはなっていないし。


「……ローズを捕らえたのはおそらく西の廃ホテルだろうな。奴は表では土木作業員として生活しているから、表沙汰に出来ないことはだいたいそこを使う。

 ……女の相手をするのにもうってつけだろうからな」


 ロイがぎりと奥歯を噛む。

 たしかに、ローズに持たせた発信器はその廃ホテルで壊されていた。


「で、そこから移動したとなると、使うのは国の中央南側に位置する工場跡地だ。

 所有者不明とされている土地だが、実際はあるマフィア組織が所有している。警察にも金を渡しているから黙認されている土地だな。

 幽霊(ダミー)空地(スペース)ってやつだ。

 他にもいくつか候補はあるが、壊し屋とそれなりに友好関係にある組織が所有する土地の中ではそこが最有力といったところか」


「……なるほど」


 友好関係、ね。

 どうやらロイの所では壊し屋はソロで活動していると考えられているようだ。

 実際、奴はそう思われるように依頼を受けている節がある。

 そもそもボスの組織自体が裏社会のさらに奥深くにあるような組織だから、裏社会ではそれなりに有名な壊し屋が所属しているとは思われたくないのだろう。


「その土地を所有している組織というのは?」


 一応、ロイがボスの組織を知っているのか探っておく。

 裏社会の奥深くにある組織とはいえ、この世界でそこそこの規模で存在しているロイの組織が知らないとは思えないが。


「……微妙だ」


「……微妙?」


 それは微妙な言い回しだな。


「おそらく、土地を所有している組織の裏に大物がいる。が、調べても出てこない。

 名目上はそこそこ名の知れた中規模マフィア組織が所有している土地だが、その組織の連中がそこを使っているのを確認したことはない」


「……ロイの所でも不審に思って調べている、ということか」


 土地の使用者を調べさせているぐらいだからな。


「……この裏社会において完全に身を隠すのは難しい。

 銀狼のような単独ならまだしも、中規模マフィアを操れるぐらいに強力な組織ならなおさらな。

 場合によっては、この国をひっくり返すぐらいに危険な組織かもしれない。

 そうなったら、俺たちとしては見過ごすわけにはいかない」


 俺たち、か。

 この国はマフィアとそこそこの関係を保っている。

 やりすぎなければ表立って咎められない。金は必要だが。

 国はマフィアが裏側を牛耳ってくれているから外部からの侵攻を防げているとも言える。

 そしてマフィア側としても、そんな国があるから商売が成り立っているとも言える。

 つまりこいつらは共生関係。

 まれに国を脅かすほどのテロ組織が現れた場合、マフィアが特安に情報提供を行うこともある。あるいは、マフィア同士で結託してその組織を潰すことも。


 だから真の所有者不明で、なおかつそんな同盟関係を破ってまでその真の所有者を隠そうとする中規模マフィアを従わせる組織の存在というのは、ロイたちマフィアにとっても脅威なわけだ。

 ならば、それを調べさせるのも当然というわけか。


「……その中規模マフィア組織とやらは?」


「駄目だな。つついても何も出てこない。

 契約書も完璧。脅しも効かない。

 こちらとしてはこれ以上そこをつつくのは無意味だろう」


「調教は万全か」


 ボスならそれぐらい朝飯前だろうな。


「つまり、現状壊し屋がその深淵に届く唯一の手掛かりなわけだ。

 深くは聞かねえが、旦那が調べたかったのも本当はそっちの方なんだろうな」


「……」


 ロイには俺が銀狼であるとは言っていない。

 が、ほぼ勘づいているのだろう。

 これが警察としての捜査ではなく、銀狼としての依頼遂行なのだと。

 まあ、実際は依頼ではなく個人的な行動なわけだが。


「……もしかしたら、唯一の手掛かりである壊し屋は奴らが設置した侵入者探知機なのかもな」


「……奥深くに隠れたその組織を調べるには壊し屋を調べるしかないから、壊し屋を調べに来た奴はその奥にいる組織を調べようとしている奴らだ、ってことか」


「そうだ」


 だとしたら、俺はまんまとそれに引っ掛かってローズを危険な目に遭わせてしまったのかもしれない。

 おそらく、ローズがボスのもとまで運ばれたらアウトだ。

 慈悲の欠片もないであろうボスなら、どんな訓練を積んだプロだろうと口を割らせるのは難しくないだろう。

 死んでも構わない、というぐらいの気持ちで。


「……急いだ方がいいな」


「車を回す」


 俺がポツリと呟くと、ロイはすぐに立ち上がった。


「……手伝うのか?」


 車を出すというのはロイも来るということなのだろう。

 この男が直接動くとは思わなかった。

 今まで、俺とは付かず離れずの関係性でいたのだから。


「これは俺のとこと無関係な話でもねえからな。

 情報の最先端にいることも大事だ。

 おそらく今回の件でコトが動く。

 それを俺が見ておくことは重要だ」


「……そうか」


「それに何より……」


「ん?」


 ロイは拳を強く握りしめて前を向いた。


「……ローズに何かしようと考える奴を、生かしておくつもりはねえ」


「……そうか」


 ロイはひと足先に玄関へと走っていった。

 前半の建前も本音だろうが、真の本音は後半だろうな。

 素直になれない奴だ。


「イブ。俺たちも行くぞ」


「合点」


 包み紙に包まれた砂糖菓子をポケットいっぱいに詰め込んでいるイブは見て見ぬふりをして、俺たちはロイのあとを追った。


















「……う」


「よお。お目覚めか?」


「……ここは」


 無機質な機材が転がる冷たい空間でローズは目を覚ました。


「……!」


 そして、すぐに自身が拘束されていることに気がつく。

 天井から吊るされた鎖に手首に巻かれた手錠で繋がれ、足はかろうじて地面についていた。


「ここはまあ、廃工場って所だな。

 人っこ一人来ねえから安心しろよ」


「……そう。バレたのね、壊し屋さん」


 目の前の床に置かれたH型鋼にどかっと座る壊し屋にローズは視線を送る。

 そして、さっと自然に周囲を見回す。


 工場のような無機質な建物。

 廃材やコンテナなどで遮蔽物は多い。

 明かりはなく、暗い。

 とはいえ開かれた扉と穴の空いた天井から陽の光が入っている。つまり今は昼間。

 逆に言えば、夜になればここは暗闇になる。

 他に人はいない、ようにローズには感じられた。


「やっぱり、お前は俺を知ってたんだな。

 まんまと騙される所だったぜ」


 壊し屋がギロリとローズを見上げる。

 

「ふふ。さっきまでの情熱的な視線とは大違いね。でも、その冷たい目も私は好きよ」


「はっ! この状況でそんな言葉が出てくんのか。ずいぶん手慣れたプロみたいだな、お前」


「ふふ。そんなこともないわよ」


「……」


「……」


 そのまま無言で見つめ合う二人。

 互いにやり取りされるプレッシャーは、お互いをプロであると問答無用に認識させた。


「……初めて見る顔だな。

 お前ぐらいの顔と偽装能力なら俺が知ってそうなもんだが、ずいぶんうまく痕跡を消してるんだな」


「優秀なお友達がいるのよん」


 ローズの過去の戦果はリザがほとんど消していた。

 ジョセフからの依頼を受けるようになった時に、ジョセフから進言されたためだ。

 ときにターゲットとベッドを共にするローズはこの世界に存在を周知させてはならない。

 銀狼のその言葉を受けて、ローズはリザに自分の情報を消させた。


「……その優秀なお友達とやらが助けに来ると思っているから、そんな余裕なのか?」


「……」


 ローズは自身の耳にイヤリングがついていないことに気が付いていた。

 発信器は外されている。

 つまり、この場所を知る者はいない。


「違うわ」


「あん?」


 しかし、ローズはそんな絶望的な状況でも妖艶に笑う。


「いつ死んでも構わない。どうせろくな死に方はしない。それがいつかなんてどうでもいい。人間、死ぬときは死ぬ。

 そんな愚かな考えの女だから、こんなふうに笑っていられるのよ」


「……なるほど。覚悟とプライドか」


 壊し屋はゆっくりと立ち上がった。

 身の丈二メートルをゆうに越す壊し屋は、吊るされたローズを容易に見下ろした。

 その鍛えぬかれた肉体と異常発達した両腕は否が応にも相対する相手に恐怖を与える。


「気に入らねえな。

 俺はいつ死んでもいいなんて言う女が一番嫌いだ。

 一度生まれた命。命がけで生きていく覚悟で生きてみせろや」


 壊し屋がズッとローズとの距離を詰める。


「……ふふ。薄っぺらい言葉も、貴方が言うと厚みが出るのね。

 生きていないと、意味がないものね……」


 しかしローズは笑う。

 大の男でも恐怖を感じる壊し屋の圧に晒されてもなお、ローズは妖しく愉しく笑う。


「……お前、俺の過去を調べたな」


 ローズの言葉に壊し屋は視線を鋭くする。


「言ったでしょ? 私には優秀なお友だ……」


「黙れっ!!」


「ぐっ!!」


 壊し屋はローズの細首を片手で掴んだ。

 片手で首の全周のほとんどを掴まれたローズは顔を歪ませる。

 呼吸が出来ないほどではないが、確実にローズの首は圧迫されていた。

 壊し屋が本気を出せば、ローズの細く美しい首など今すぐにでも握り潰されるだろう。


「……黙れ。お前はもう、これから自分がされることだけを考えて震えていろ」


「……貴方のその太い腕に、本当はベッドで抱かれたかった、わね」


 静かに冷たく話す壊し屋に、首を絞められたローズはそれでも穏やかに微笑んだ。


「……お前はいい女だな。

 それ故に残念だ。

 その美しい顔と体をこれからぼろぼろになるまで打ちのめさなければならないのだから」


 壊し屋は分かっていた。

 きっと目の前の女はどれだけ痛めつけても口を割らないと。誰の依頼で自分を調べていたかを吐くことはないと。

 それでもやらないわけにはいかなかった。

 そもそも生かして帰すつもりもなく、敵だと判明した時点でローズの命運は決まっていたのだ。


「ふふ。痛いのはあんまり好きじゃないんだけど、交通事故で亡くなった貴方の奥さんや娘さんは事故当時は痛くはなかったのかしら。すぐに逝けたのなら不幸中の幸いね」


「貴様っ!!」


「……」


「……ちっ!」


 ローズの言葉に激昂した壊し屋は思わず首を掴んだ手に力を込めようとしたが、ローズの無機質な目を見て思い留まった。


「……足手まといになるぐらいなら潔く死を選ぶか。わざと俺を怒らせて殺させようとしたわけだ」


「……残念」


「……くそ女が」


「さっきはいい女って言ったくせに」


「……」


 唇を尖らせるローズに、壊し屋は視線をローズのすらりと伸びた足に向ける。

 そして、おもむろにもう片方の手でローズのそのふくらはぎを掴むと、容赦なく握り潰した。


「ぅぐっ!!」


 バキィッ! という不快な音が廃工場に(こだま)する。

 ローズが突然の痛みに顔を歪める。

 だらりと下がった右足はみるみるうちに青紫に染まっていく。


「簡単には殺さねえ。

 吐かないならそれでも構わない。

 痛めつけたお前を、助けに来るお友達を釣るための餌にしてやる」


「……ふ、ふふ」


 脂汗を流しながらだらりと下を向いたローズはそれでも不敵に笑う。

 定期連絡もなく、かつ発信器が壊されたのなら、この不測の事態は確実にジョセフたちに伝わっている。

 壊し屋のような輩は死を受け入れた者を簡単には殺さない。

 ローズは何人もの人間を相手にした経験から、その人間がどういった人間なのかを瞬時に把握することが出来た。


「……この状況でまだ笑うか」


「ふ、ふふ……痛いのも、たまには、悪くはない、わねん……」


「……全身の骨が砕かれる前にお友達が来るといいな」


「……ふふ。そうだったら、いいわねん」


「……たいした矜持だな」


 足の骨を粉砕されてもなお笑うローズに壊し屋は敬意を抱いていた。

 それと同時に、言葉を交わしてみたいとも。


「……俺について、どこまで調べた?」


 必要なこと以外を喋らせるなど、暴力に訴えた拷問には不要。

 それでも壊し屋は、ローズに言葉を求めた。

 彼女の気高さに興味を持ったのだ。


「……だいたい、全部、かしら……」


「……全部、だと?」


 それはローズにとっては僥倖だった。

 もとより生きることを諦めていない。

 死にさえしなければ、いずれチャンスが来るかもしれない。助けが間に合うかもしれない。

 ローズは生にしがみつくために、壊し屋の一挙手一投足を読みながら自分が生き残るための言葉を選び、興味を引き、壊し屋のためのローズという人間を造り上げた。


「……ええ。貴方の、過去も、貴方の、背後にいる、組織について、も……」


「……ほう。

 詳しく聞こうか」


 そして、それは成功していた。

 ローズに依頼を出した人物を吐かせるという当初の目的を忘れ、壊し屋はローズの言葉を待ったのだ。


「……そう、ね。

 何から、話そうかしら、ね……」


 痛みで話す速度が遅くなったことも時間を稼ぐのに一役買っていた。


「……あまり時間をかけるようなら、左足もいくぞ」


「……分かって、るわ……。こういう痛いのには、あんまり慣れてない、のよん」


「……ちっ。さっさと喋れ」


「ええ……まずは……」


 ローズはゆっくりと壊し屋について掴んだ情報を話し始めた。

 壊し屋の腕が再び自分を壊さないように慎重に。


 自分が殺される前に、銀狼が来てくれることを祈って……。



おまけ



「……おい。お前ちょっとは遠慮しろよ。

 俺の分の茶菓子がなくなるだろ」


 ジョセフとイブがロイのもとを訪ねている時のこと。

 問答無用で砂糖菓子を食い続けるイブをロイが咎めていた。


「我、甘いものを食す故に我あり」


「……いや、意味が分からん。つーか、殺し屋が人の家で出されたもんに口をつけるなよ」


「……マフィアが殺し屋の在り方に口を出すなよ」


「……てめえ」


 どうやらロイとイブはウマが合わないようだ。


「ロイ。大人げないぞ。

 さっき子分に手土産としてシュークリームを渡しておいたから、お前はあとでそれでも食え」


 そんな二人を見かねたジョセフが呆れたように口をはさむ。


「……ちっ。旦那に免じて許してやる、ガキ」


 甘いものが好物なロイはジョセフの手土産で溜飲が下がったようだ。


「ジョセフ。そんなの聞いてない。我のシュークリームはいずこ」


「……いいからお前は砂糖菓子でも食ってろ」


「それはそれ、これはこれ」


「俺のシュークリームはやらねえからな!」


「……お前ら、緊急事態だってことは分かってるよな?」


 ジョセフの溜め息が虚しくその場に響いたのだった。


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