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25.殺し屋と殺し屋は互いの過去を確認し、殺し屋と殺し屋であることを再確認する。

「……巻き込まれた?

 さっきは博士(プロフェッサー)に殺されたって」


 イブはすかさず話の矛盾点を突いてきた。


「殺されたんだよ。巻き込まれた挙げ句な。

 あとから分かったことだが、博士(プロフェッサー)の目的は始めから俺たちを巻き込むことだった」


「……それって」


「ああ。数百人規模の犠牲者を出したかつてのショッピングセンター爆破テロ事件。

 あれは、俺たちを狙って起きた事件だ。

 博士(プロフェッサー)は俺の妻子を殺すためだけに、ついでにそこに来ていた数百人の人間の命を奪ったんだ」


「……でも、それだとジョセフも死んじゃうかもしれないやん」


 たしかに、それだといくら既に身体能力という点においては完成していた当時の俺でも爆破に巻き込まれて死んでいた可能性は高い。常に俺の側にいた妻と娘を狙ったのなら尚更な。

 だが……。


「……じつは、爆破が起きてからの記憶が俺にはあまりないんだ」


「……ジョセフが?」


 完全記憶能力を持つ俺がか? と言いたいのだろう。


「ああ。医者が言うには精神的・肉体的ショックによる一時的な健忘だろうとのことだ。

 完全記憶能力を持つ俺が唯一持たない記憶。

 それが事件発生から俺だけが生還するまでの記憶なんだ……」


「……そう」


「……」


 つい先日、夢でおぼろげに見たアレはその時の記憶だったのだろうか。

 あのとき俺はマリアの手を掴んでいて、だがそこに娘の姿はなくて。マリアは俺が掴んだ手を……。


 不確定な情報だから迂闊に話すわけにはいかないが、それから推察するに、


「状況から推察すると、俺が妻子から離れた一瞬を狙ったようだ。

 おそらくは完璧に計算されたであろう爆破具合のもとでな。

 あるいは、そこで死ぬようならそこまでの奴、と思われていたのかもな」


 博士(プロフェッサー)が望む最強たるにはその程度で死んでもらっては困る、と。


「……それってつまり」


「ああ。実行時に、俺たちは視られていたって訳だ」


 視線や気配は感じなかった、と言いたいが、当時の俺は銀狼でもなく、平和な日常に油断していたというのは事実だ。

 とはいえ露骨に監視されていれば気付くことは出来ただろう。つまり、俺たちを視ていた奴は歴としたプロだったわけだ。


「……首謀者が博士(プロフェッサー)なのはすぐに分かった。あの爆破の仕方は学んでいたからな。

 だから俺は奴に復讐することにした。

 銀狼は、そうして生まれたんだ。

 そして、博士(プロフェッサー)を殺すことで俺は復讐を成した。『ホーム』ごと潰すことでな」


「……」


 リザが悲しげに目を伏せる。

 俺をこの世界に導いたのはリザだ。

 復讐に身を染めなければ妻子の後を追ってしまいそうなほどに当時の俺は危うかったらしい。


 世界の全てを喪った。


 そんな様子だったと後にリザに言われたことがある。


「……なら、もう博士(プロフェッサー)は始末したんやん。『ホーム』ってやつごと」


「そうだな」


「ならなんで、まだ銀狼をやってるの?」


「……」


 復讐は終わったはずなのに、ということだろう。


「真の首謀者が他にいたからだ」


「!」


「いや、違うな。

 真の首謀者は博士(プロフェッサー)だ。博士(プロフェッサー)に唆されて爆破テロを主導した主犯たる存在がまだ残っているんだよ」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『はっはっはっ! よくぞ私までたどり着いたね、ジョセフ。私は嬉しいよ!

 君は完全武装したホームの職員も、育成中だった子供たちも一人残らず皆殺しにした。そうして私の首にまで至ったわけだ!』


『……全員、既にお前に洗脳されていたからな。奴らを野に放つわけにはいかなかった』


『はっはっ。洗脳などと聞こえが悪い。

 いや、だが素晴らしい! これこそ人類の最高到達点! 最強の存在! 孤高の銀狼の誕生だ!

 ふっふっふっ。やはり義理の両親だけでなく、君の妻子まで殺した甲斐があったというものだよ』


『……言いたいことはそれだけか』


『おおっと。待ちたまえ。

 私はここで君に殺されるだろう。それは本望だ。構わない。

 だが、せっかく作り上げた最強をここで終わらせたくはないのだよ』


『……何が言いたい』


『……君の妻子を殺した悪魔の爆弾。そのスイッチを押した者がまだ生き残っていると言ったら、君はどうするかね?』


『!』


『そうさ。君の復讐はまだ終わりじゃない。

 いや、これから始まるのだ。

 姿形も分からない相手を探し出して復讐する。それにはさぞかし時間がかかるだろう。

 それまで、この世界に私の作った最強は君臨し続けるのだ!

 向こうも君の姿は見ていない。あのショッピングセンターにいて君たち家族の動向を見張ってはいたが、安全確保のためにタイミングは他の捨てゴマにさせたからね。あ、その捨てゴマはそこで死んだがね。

 互いに顔も名前も分からない相手を探し、なるべく長い時間、最強という存在であり続けてくれたまえ!』


『……お前から聞き出すという手もある』


『はっはっはっ。私が吐くわけがないだろう。拷問や尋問なんてものは、まともな人間にしか通用しないのだよ』


『……くそジジイが』


『せいぜい頑張りたまえ。

 彼もまた、おそらく君を待っている。

 君ほどではないが、彼もまたなかなかの傑作だよ。

 私にあの世で先に会うのがどちらか、今から楽しみで仕方がない!』


『……もういい。死ね』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……だから、まだ銀狼を?」


「!」


 ハッと我に返る。

 あの時のことを思い出していたようだ。

 博士(プロフェッサー)の発言に(はらわた)が煮えくり返りながらも、まだ復讐すべき相手がいると分かって少しだけ嬉しく思ったあの時を……。


「……そうだ。

 復讐を完全に終えるまで銀狼は止まらない。

 こっちの世界で動くにも情報を集めるにも金は必要だ。

 だから依頼を受けて殺しをこなして金を集めながら、俺は当時の主犯たる人物を探し続けている」


「……そう」


「……」


 少し、話しすぎたな。

 イブの『なぜまだ銀狼をやっているのか』という質問は別質問としても良かったか。

 話の流れで余計な情報を与えてしまった。


「……じゃあ、ジョセフの番ね」


 リザも我に返ったように進行を再開した。

 リザもまた、自らの過去を思い出していたのだろうか。


「……そうだな」


 切り替えろ。

 こちらのターンだ。

 イブからなるべく多くの回答を得る質問を。

 

 あの家の一家を殺したのはイブではなかった。

 イブは父親に止めを差しただけ。それさえ父親の依頼で。

 さらにその父親の遺言とも言うべき依頼にしたがってイブは家族をバラバラにして、さらに今は俺の命を狙っている。


『一家を殺した真犯人は誰だ?』


 ……違うな。

 最悪、イブはそれを知らない可能性もある。いや、その可能性の方が高いだろう。

 状況的にイブは事件当時現場にいなかったのだから。

 

 ならば、俺が知るべき情報はあと二つか。


「……一家が殺された当時の状況を、イブ視点で構わないから出来るだけ詳細に教えてくれ」


「……」


 少しズルい質問だという自覚はある。

 だが、こちらが話した情報分の情報を引き出すには仕方ない。

 あとはイブがそれに答えるかどうか。


「……」


 沈黙。

 答えないか?


「……ひとつだけ、あらかじめ言っとかないといけないことがある」


「……なんだ」


 答えるつもりなのか。


「……現場に、家に着いてからジョセフに会うまでのことを、私は正確には覚えてない」


「!」


 精神的ショックによる一時的な健忘……。


「だから、最期にパパが話してたことに関してもおぼろげな記憶しかない。

 それでも良ければ、話す」


「……分かった。それで構わない」


「ん」


 イブがこくりと頷く。

 それは誠実な返答に感じられた。

 おそらく記憶が曖昧だというのは本当なのだろう。

 イブはこういう時に嘘はつかない。

 それが分かるぐらいにはイブを分かっているつもりだ。


 そうして、イブはゆっくりと話しだした。



「……いつもは私に外に出るなと言ってた。たぶん追っ手がかかってたから」


「追っ手だと?」


「ん」


 イブがこくりと頷く。イブの家族に不審な点はなかったはずだが、やはり何か事情を知っていたということか。でないと皆殺しにされたりしないだろうしな。


「私は『箱庭(ガーデン)』って呼ばれる施設で育った」


「……『箱庭(ガーデン)』」


 何でも屋のカイトが言っていたやつだな。


「そこでは一流の殺し屋を育てるための訓練を受けてた。私だけじゃなくて、たくさんの人が」


「!」


 それは、まるで『ホーム』じゃないか。

 残党? そんな馬鹿な。『ホーム』にいた連中は俺が一人残らず皆殺しにしたはず。

 いるとしたら、既に『ホーム』を卒業していたか、あるいは仕事や研修で外に出されていた連中。

 だが、博士(プロフェッサー)を始末したあと、リザにも残党が残っていないか調べてもらったが生き残りはいないはずだった。

 ……とはいえ、ジン・ガイ兄弟のように闇に潜んで調査を免れた奴らもいる。確証はない、か。


「……パパは、私をそこから逃がしてくれた」


「!」


 イブの義父も『箱庭(ガーデン)』の関係者。


「パパとママは夫婦だったけど、おばあちゃんもメアリもアンも私も、全員が血の繋がらない他人だった」


「なに?」


 メアリとアンというのはイブの他にいた双子の子供のことだな。


「パパたちは私たちを連れて表の世界に逃げたの」


「……リザ」


「……ちゃんと調べたわよ。

 あの一家はイブちゃん以外はちゃんとした家族だったわ。戸籍改竄の形跡もなかった。イブちゃんもちゃんと養子扱いで戸籍に入ってたわ」


 リザに振ると、リザも信じられないといった顔をしていた。

 情報屋であるリザの調査をも掻い潜って一般人を装っていたというのか?


「……パパは『箱庭(ガーデン)』では、調べ屋マウロって呼ばれてた」


「……調べ屋マウロ」


 それはたしか……。


「最高峰の調査専門の闇業者ね」


「なるほど」


 リザ以上にそういった工作に慣れた手合いだったか。


「私は『箱庭(ガーデン)』では優秀だった。だからボスに気に入られてたみたい」


 ボス、ね。カイトもそんなことを言っていたが、やはりそこが繋がっていたのか。


「パパは、私は特に外に出ちゃダメって言ってた。

 でも、その日はなぜか一人で買い物をしてきてほしいって頼まれた」


 そのボスからしたら、他の奴らを見逃してでもイブだけは取り戻したかったということか。

 だが、それなのに義父がイブだけを外に出したのは……。


「私はお小遣いをもらって近くのスーパーにパンケーキの材料を買いに行った。パンケーキは美味しいから嬉しかった。楽しみだった」


「……」


「で、材料を抱えて家に帰ったら、もう皆死んでた」


「……」


「犯人は見てない、たぶん。私が無事だったからそうなんだと思う」


 もうその時から記憶が曖昧なのか。


「で、ぼーっと立ってたらパパの声が聞こえてきて、慌てて駆け寄ったら『自分を殺せ』って。『皆をバラバラにしろ』って。

 あ、あと、私の爪とか髪の毛も混ぜろって言ってた」


「……」


 イブが遠くを見ながら思い出すようにして語る。

 イブの一部を混ぜることでイブを含めた一家全員が死亡したと警察に判断させる狙いだろう。調べ屋マウロならば警察に手を回してそう判断させることもやりかねない。警察の情報は奴らも得ているのだろうからな。

 一家を殺した奴らは、そのあとに現れた銀狼がイブのことも始末したと判断するだろうと義父は考えたわけだ。

 つまり、犯人の中に警察の人間がいる可能性は低く、何らかの手段で警察の情報を入手していることになる。警察の人間ならばイブに証人保護プログラムが適用されたことを知ることは難しくないだろうからな。


 そうなると、俺に依頼したのはその義父自身だろうな。

 刺客にはイブも一緒に死んだと思わせ、そして俺とイブとを引き合わせる。

 おそらくずいぶん前から綿密に考えられていたのだろう。刺客からは逃げきれないと分かって。

 世界屈指の調べ屋だ。自分たちのもとに刺客が送り込まれたという情報はすぐに掴めたはず。それでも逃げなかったのは、おそらくイブを逃がすため。

 調べ屋マウロにとっても、イブは特別な存在だったのだろうか。


「……父親が、銀狼を殺すように言っていた内容は思い出せるか?」


「……ちょっとだけ」


 イブは少しだけ不安そうに首をかしげた。

 不安そうなのは正確に思い出せないことにだろうか。あるいは俺に俺を殺す依頼について話すことにだろうか。


「銀狼は、えっと、必ず殺せ、とか。でもまだ勝てないから興味を持たせて懐に入れ、みたいな。それで技を盗んで学んでそれからだ、とかって。あと銀狼は……」


「……なんだ?」


「……なんだっけ?」


 そこまでか。

 肝心の理由が分からないままだが、本人が覚えていないのなら仕方ない。

 記憶はいつ戻るか分からない。戻らない可能性もある。が、その部分を知らないままにはしない方がいい気がする。俺にとっても、イブにとっても。


「……分かった。そこまででいい」


「ん」


 そのあと、俺が現れるまでイブは作業をしていたのだろう。そんなところまで思い出す必要はない。


「……じゃあ、次はイブちゃんね」


 リザはイブをだいぶ可愛がっているから内心は穏やかではないだろう。心配でたまらないといったところか。

 それでもそれを抑えて進行に徹してくれている。


「んー」


 イブは今話したことなど気にしていないかのように、のんびりと首をかしげて質問を考えていた。

 イブは何を聞いてくるのか。

 大方、聞きたいことは聞かれた気もする。

 細かい部分で気になる所はあるだろうが、お互いに肝心な所は覚えていないわけだしな。


「……まあ、とりあえずはもういいかな」


「……そうか」


 まあそうだろうな。


「そっか。

 ジョセフは?」


「……」


 ここはないと言うのがフェアなのだろうが、どうしても確認しておかないといけないことがある。


「そうだな。一つだけ聞いておきたい」


「なに?」


「お前が俺の命を狙っていることに俺が気付いていると知った今でも、お前は俺の命を狙うか?」


 軽く殺気を向ける。


「!」


 驚いたような表情。


「……」


 その後に迷っているような表情。

 表情の乏しいイブだが、その微かな変化を見逃さない程度にはイブのパーソナルを理解しているつもりだ。


「……やっぱり、私も最後に質問」


「……なんだ」


 質問に質問で返すのはマナー違反だが、まあいいだろう。


「ジョセフは、それを私が知った今でも、私に殺し屋としての技を教えてくれる?」


「!」


 最初に会った時に見せた、儚げで悲しげで、消え去りそうな微笑み。

 銀狼であった俺がすぐに殺すことが出来ずに話を聞いてしまうほどに儚く、(もろ)い……。


「……ああ。元より俺はそれを承知の上でお前に教えていた。お前の記憶、義父の依頼の詳細は俺の求めるものに繋がっている。

 お前を手元に置いておくことでそれが分かる可能性があるのなら、俺はお前を育てよう」


「……なら、さっきの答えはイエス。

 私は、パパの依頼を完遂する。

 あなたから技を盗み、いつの日か銀狼を殺す」


「それでいい。それぐらいの気概がなければ俺は殺せない。

 心配するな。お前程度に殺されるつもりは毛頭ない。

 お前から情報を絞り、俺の目的である仇を殺したあとは、今度こそお前のことも殺してやる」


「……上等。

 約束、だもんね」


「……ああ」


 殺気が飛んでくる。

 先ほどより明確な、焦点の定まった殺気。

 そこに揺れるような不安定さはない。

 その笑顔に、先ほどのような儚さ、危うさはない。


 これでいい。

 

 今なら、リザが俺を復讐に導いた気持ちが分かる気がする。

 一点に向かう燃えるような復讐心。明確な目標。使命感。

 そういった支えがないと揺れて倒れて消えてしまいそうなほどに不安定な炎。


 俺は、かつてのリザと同じことをしているのか……。


「……はぁ。結局あなたたちはそうなっちゃうのね」


 リザは呆れた様子だ。

 かつて自分が俺に同じようなことをしたというのに、それと今とを結びつけていないようだ。

 それはありがたいがな。地獄から地獄に救ってくれたリザには感謝している。

 出来る限り悲しい思いはさせたくはない。


「もとに戻っただけだ」


 そう。これでいいんだ。

 俺は銀狼で、こいつは銀狼の命を狙う殺し屋なのだから。


「もう好きにしたら?」


 肩をすくめるリザ。

 どうやらしぶしぶ納得したようだ。


「……イブさん腹へり」


 イブの腹が盛大に鳴り響く。

 いつの間にかそんな時間になっていたか。


「ご飯にしましょっか」


 リザがイブに「何がいい?」と尋ねながら立ち上がる。


「パンケーキに勝るものなし!」


「……そっか」


 拳を握りながら高らかに宣言するイブにリザは目を細める。

 イブがパンケーキばかりねだるのは、あの日に食べることが出来なかったからだろうか。


「はちみつホイップマシマシの増しを所望する!」


 ……ただ好物なだけか。


「材料が足りないから買ってくるわね」


「イブさんも同行してやろう」


「ありがたき幸せ~」


「気を付けて行け」


 二人が連れだって出ていく。


「……」


 イブとの関係性はいったん落ち着いたが懸念すべきことは多い。

 この前のショッピングセンター爆破テロ事件。

 あの時、現場で感じた俺たちを視ていた視線。カイトとともにいた奴ら。

 あれはほぼ間違いなく事件の首謀者で、俺が探していたかつてのテロ事件の犯人。つまり俺の妻と娘の仇だ。

 そして、イブがボスと呼んでいた存在と同一人物。

 あの時にそれが分かっていれば、問答無用で殺しに行ったのだが。まあ、過ぎたことは仕方ない。


 問題は奴に俺たちが視られたということ。

 ボスは、イブが生きていたことに気付いたのだ。

 だから何でも屋のカイトと、紳士(ジェントル)であるゼットに俺たちを調べさせていたんだ。

 俺を始末してイブを奪おうとしていたことから、俺が銀狼であることは奴にバレてはいない。

 向こうも銀狼にはそれなりに用があるみたいだしな。


 あちらのアドバンテージは俺たちの居場所が分かっていること。こちらは俺が銀狼だとバレていないこと。

 こちらは、奴が俺の正体に気付く前に居場所を特定して奴を始末するべきだろう。


「……」


 イブをエサに誘き寄せるか?


「……いや」


 ゼットと、あとはローズを使うか。

 ボスとやらはイブに執着しているようだ。もしイブがボスの手に渡ればどうなるか……。


「……」


 ……俺は、イブを心配しているのか?

 俺の命を狙っている殺し屋のことを?


 銀狼である俺が……。


 いや、違う。

 それは効率的ではないというだけだ。

 イブの記憶も必要だ。

 奴らの手にイブが渡ってしまえば義父の依頼の真の目的を知ることが出来なくなる。

 だからだ。

 だから、イブをエサになど使えない。


「……それでいい」


 俺は自分に強くそう言い聞かせた。


「……あ、ゼットとの日程をリザと擦り合わせるのを忘れていたな」


 二人が帰ってきたらまずはその件を話さなければ。


 俺はそちらに思考をシフトさせて、余計なことを考えないようにすることにした。




おまけ



「……ねえ、ジョセフ。大丈夫なの?」


「……ああ、俺は大丈夫……大丈夫だ。何も問題ない」


「……」


「いつもそうなんだ。

 俺の近くにあるものは全て処分される。

 森で内緒で飼っていた犬も、奴らにバレないように仲良くなった仲間も、俺を育ててくれた義理の両親も……初めて心から愛してると思えた妻と、娘も……。

 俺は、全てを奪われる。

 俺に幸せなど無縁なのだ。いや、俺の近くにいれば全てが不幸になるのだ」


「……ジョセフ」


「……もう、いいんだ。もう疲れた……。

 リザ。お前も消えた方がいい。俺の近くにいれば……」


「……それでいいの?」


「……は?」


「私なら情報屋として武器もいろんな情報も入手できるわ。

 あなたの大事な人たちを奪った奴らを殺せるように」


「……俺に、復讐をしろと?」


「……そうでもしないと、今のあなたは自分の蝋燭の火をも消してしまいそうよ」


「……」


「悔しくないの?

 大事な人たちを、愛する妻と娘を殺されて。

 全てを奪われて。

 奴らが最強を望むなら、なってやればいいのよ。

 なって、その力で奴らを、奴をその手で始末すればいい」


「……博士(プロフェッサー)


「!」


「……武器と、情報と、資金調達からだな」


「……やるのね」


「マリアには怒られそうだけどな」


「その時は、私も一緒に怒られてあげるわよ」


「……すまない。ありがとう」


「……謝るのは、私の方よ……」


「……ともに、堕ちる所まで堕ちるか」


「私ももともとそっちの人間だからね。覚悟ならとっくにあるわ」


「……博士(プロフェッサー)に後悔させてやろう。最強の獣を、狼を創ってしまったことをな」


「……銀色の髪の狼、銀狼ね」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人の過去が壮絶すぎて( ;∀;) それでいて愛情?を持ちながら互いを利用したり殺そうと狙う関係性から、ますます目が離せません…!
2024/02/26 15:52 退会済み
管理
[一言] リザが銀狼の名付け親だったのか( ˘ω˘ )
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