21.匂いがないのは在る証拠で、匂いがあるのも在った証拠。
ショッピングセンター爆破テロ事件。
ビルは全倒壊。
死傷者、現在判明しているだけで二百名以上。
消防と救急はいまだ消火と救助に明け暮れている。
実行犯を特定するものは見つからず。警察は依然としてその手がかりとなるものを捜査中。
この事件はかつて発生した同様の事件を想起させ、人々を大いに不安にさせたのだった。
「……おら、なんか疲れただ」
「ああ、俺もだ」
結局、あのあと夜遅くまでスティーブン警視に連れ回され、俺たちはイブがいるからということで解放してもらった。
ケビンには申し訳ないと思っている。最後のあいつの絶望的な顔を忘れないでおいてやろう。
イブとともに家に帰る道中、俺たちは死屍累々で歩いていた。
なんだか無駄に疲れた。
結局、あの場ではたいした収穫はなく、観衆からもろくな証言を得られなかった。イブが観衆の中に香水の匂いが強い奴がいて「臭い臭い」うるさかったのもあって事情聴取が捗らなかったのもあるが。
まあ、何も出てこないのは予想はしていたがな。
おそらく、特安も俺たちを視ていた奴らの追跡には失敗しているだろう。
特安に顔が割れている奴らだったとしても、自分たちが事件に関与していると思われないようにする工作ぐらいしているだろうしな。
とはいえ、そいつらを特定しておく必要はある。
本当に事件に関与している可能性があるのなら捨て置けない。
あとでリザに調べてもらうとしよう。場合によってはローズにも動いてもらうか。
捜査は引き続き行われる。
明日からは捜査本部を署に移して、本格的な捜査が始まる。
『お前らの部署の近くに本部を設置してやる。だから私の働きをしっかりと目に焼き付けるんだぞ! いいな!』
捜査本部の担当指揮官であるスティーブン警視は最後に、俺たちに鼻息荒くそう言い放った。
よっぽど自分の働きをエルサにアピールしたいらしい。
まあ、警察の捜査情報をいち早く手に入れられるのなら、それに付き合ってやるのも悪くはないだろう。
「……イブさん、もうだいぶおねむ」
「せめて風呂に入ってから寝ろ」
「むう」
イブが眠そうに目を擦っている。
今日は朝から出掛けていた上にあんな事件に巻き込まれ、挙げ句に聞き込み捜査なんかにも付き合わされて疲れたのだろう。
今日はゆっくり休ませてやらないと。
「……」
「……ジョセフ?」
「いや……」
と、思ったんだが……。
「イブ。お前は先に家に帰っていろ。
俺は少し買い物してから帰る。帰ったら風呂に入って先に寝ていろ」
「おけ。パンケーキグッズよろ」
「……へいへい」
適当に返事を返すとイブは先に家に向かって駆けていった。
もう家はすぐそこだ。
夜ではあるが周囲に他に問題がありそうな気配はないから大丈夫だろう。
「……さて」
俺はイブがアパートの入り口に入っていくのを見届けてから歩き出した。
スーパーとは逆方向。
人気のない路地裏へ。
「……」
暗闇の路地裏を一人歩く。
微かに冷たい空気。
しんと静まり返った月夜。
すえた臭い。
夜の路地裏の暗闇は、無意識に人の恐怖を煽る。
とはいえ、女子供が安心して歩けるほどではないが、人が路地裏で暮らすような光景はないレベルの治安の街だ。
夜の路地裏とはいえ、ただ暗いだけの、人のいないエリアと言えよう。
人っこ一人いない路地裏の少しだけ開けた空間。その真ん中のスペースで立ち止まる。
周囲をわざとらしく見回してから、ゆっくりと口を開く。
「……遮蔽物が多く、人のいない路地裏だ。
いい加減、出てきたらどうだ?」
「あー、やっぱ気付いてたんだー」
「……」
俺が声をかけるとゴミ箱の裏から声が返ってきた。
若い男の声。高くもなく低くもない。個人を特定されにくい声色だ。
そして、緊張感のない気の抜けた声。場慣れしているな。
「見事なものだ。ここまで気配を希薄に出来るとは。こんなので尾行されたら誰も気付けないな」
素直に感心する。
こいつの尾行術は完璧だ。気配の消し方も、運び屋のガイのそれとはまた違った、完全にコントロールされた技術の結晶。
「いやいや、あんたは気付いてるやん」
「!」
今度は反対側の木箱の裏から声。
いつ移動したのか分からなかった。
「見事すぎたんだよ。
気配のない無臭の気配がショッピングセンターからずっと俺たちを尾行してきた。
その希薄すぎる気配がそこを離れてもずっと。わざわざ人の少ない道を通ってもなお。
そして、この人気のない路地裏の澱んだ空気の中で無臭すぎるお前のいる空間。
希薄すぎる存在感が逆にお前がいる証明になっていたんだ」
「……すごいな」
正確には、ショッピングセンターにいた奴らとこいつが接触した時に出した気配、存在感を記憶しておいたんだけどな。
その存在を強く意識していれば、どれだけ気配を消そうと俺に感知されないようにするのは不可能だ。というより、ずっと気配を追いかけていたしな。
俺たちを尾行するこいつを、俺はずっと尾行していたわけだ。
ま、そんな大それた技術をわざわざ教えてやる必要はないがな。さすがにそれは警官の域を出ているだろうし。
「俺の尾行に気付いたのはあんたが初めてだよ」
「!」
男がようやく姿を現す。
二階建ての家屋の屋根から飛び降りてきて。
縦横無尽。神出鬼没。
かなりの練度を誇るプロだな。それ専門のやつか?
「……銀狼なんていう化け物を追うんだ。
こっちもそれなりに鍛えていないと話にならないからな」
「なるほどね。さすがは銀行強盗を一人で片付けただけあるね」
やはり俺のことは調査済みか。
ならば、だからこそ騙しやすい。
銀狼を捕まえるため。そのために特殊な訓練をしている。
そう誤魔化すことが出来るからだ。
やりすぎなければ、遺憾なく銀狼としての技術を発揮できるわけだ。
「……それで?
わざわざ俺を誘い込んで何の用?」
「……尾行していた奴がそれを聞くか?」
男は両手をやれやれと上に挙げている。
無警戒を装っているのか?
あるいは、警官の一人ぐらいどうにでもなると?
「……」
奴が自然に両手を下げる。
スラックスに薄手の長袖。かなりラフな格好。右腰に鞘に入ったナイフ。つまり右利き、と安易に判断は出来ないか。あの形状は大型のサバイバルナイフ。
こいつほどの技術ならば堂々と腰にナイフを下げていても、行き交う人々にそれを気付かせないことが可能なのだろう。あるいは、それを指摘されてもサバイバルナイフだからと適当に言い繕って逃れるだけの自信があるか。
「目的はなんだ?
場合によっては現行犯逮捕する。余計なことをしようとすれば殺人未遂に未成年者略取未遂、公務執行妨害もつける」
「わーお。とんだ悪徳警官だー」
「悪徳な奴らを相手にしているものでな」
男が怖い怖いと腕を抱く。
これでいい。
少々乱暴なぐらいが疑いの目は向きにくい。
銀狼が隠れ蓑にするなら、普通は品行方正で疑いの余地のない警官を演じるだろうからな。
「目的かー。そうだなー」
「!」
男がのんびりとした口調で腕をだらりと下ろし、さりげなくナイフに手をかける。
集中していなければ気付くことも出来ないほど自然に。
大げさなほどのリアクションは自分の所作に注目させないためか。
「……」
「……」
ナイフに手をかけていることに俺が気が付いていることに気付いているな。
そのまましばらく見合う。
男は依然として微かに笑ったまま。微笑みとさえ言えるかもしれない。
「……うーん。無理そうだな」
「……」
やがて、男は唇を尖らせるとナイフからすっと手を離した。それを抜くことなく。
どうやら正面から俺とやりあっても敵わないと判断したらしい。
「俺はカイト。まー、何でも屋だね」
カイトと名乗った男は両手を上に挙げて話し始めた。今度は降参の意味らしい。
「俺を捕まえてもたいした情報は持ってないよ。他の奴らと違って俺は雇われだから。
あ、ちなみに今の目的はあんたらの尾行と、あんたの始末ね」
「……」
今の、ということは継続的な依頼。
そして、尾行は俺『たち』なのに対し、始末するのは俺だけ。
「……つまり、狙いはイブの奪取か」
「……」
カイトは両手を挙げたまま肩を竦める。肯定の意味だろう。
ずいぶんあっさりと教えてくれる。
これはつまり、
「……見逃せと?」
情報を与える代わりに捕まえるなということか。話したとしても俺がそれに応じるとは限らないのに。
「……あんたは話が分かると思ってね」
「……」
笑みを浮かべてはいるが、その目は真っ直ぐに俺を見据えている。奴の本心なのだろう。
体勢はリラックスしているように見せているが、重心はいつでも逃げ出せるようにしている。
こいつはおそらく速い。
全力で逃げに徹すれば俺でも追い付くのは容易ではないだろう。
「……何でも屋と言ったな」
「そだよー」
「……雇い直しは可能か?
今の倍の額で依頼しよう」
「あー、ごめん。一度受けた依頼は基本的に反古にしないんだ」
「……そうか、残念だ」
つまり、より高い金額でこちらが雇って裏切らせることは出来ないワケだ。スパイには出来ないと。
きちんと自分のスタイルを持ったプロだな。
これだけ高度な技術を持つ何でも屋はレアだ。可能ならばこちらに引き入れたかったが仕方ない。
「……ひとつだけ聞きたい」
「なにー?」
「……イブは『ホーム』の生き残りか?」
「……惜しいね」
「惜しい?」
「『ホーム』じゃなくて『箱庭』だよ」
「……『箱庭』、だと?」
初めて聞くワードだ。
まさか、『ホーム』の後釜?
あり得ないとは思うが。
……まあいい。
「……分かった。もう行け」
「サンキュー」
カイトは軽く礼を言うとくるりと踵を返した。
「あ、見逃してくれたおまけにもう一個教えてあげる」
「!」
が、ピタリと足を止めると顔だけをこちらに向けた。
「ウチのとこのボスは銀狼にご執心だけど、あんたのとこのお嬢ちゃんにも関心があるみたいだ。
紳士が動いてる。ある意味俺より厄介な人だよ。
彼の手にかかればあんたらの居場所も銀狼の正体もすぐにボスの耳に入るだろうね。
十分注意するといいよ」
「……紳士、ね」
カイトはそれだけ言うと、それじゃっ、と手を振って消えた。
銀狼の正体に気付いたワケではないから泳がせても構わないと思ったが、紳士なる人物と組んで動いているわけか。
「……帰るか」
カイトの気配はとうに闇に溶けて消えていた。もはや俺でも追跡は不可能。まあ、初めからするつもりはないが。
「……スーパーは、明日でいいか」
イブにはスーパーで買い物すると言って別れたが、もう面倒になってしまった。
パンケーキの材料は家にまだあるし別にいいだろう。適当に、金が足りなかったとでも言っておこう。
イブのことが気がかり、などということはない……。
「……やれやれ。仕事がやりづらくなるな」
尾行に気を付けながら銀狼をやらなければならない今後を思うと、疲れがどっと襲ってくる。
早く帰って寝るとしよう。
本格的に動くのは明日からだ。
ジョセフと別れてアパートの階段を一人で上がるイブ。
もうすぐ家だと思うと足は軽くなり、思わず鼻歌を口ずさんでいた。
「パン、パン、パンケーキ。甘くて美味しいパンケーキ。はちみつクリーム鬼盛りで。塔より高いパンケーキ。潰れて死ぬなら本望だ!」
「ほっほっ。元気ですな」
「!」
オリジナルパンケーキソングを呟いているイブに、上から声が降りてきた。
イブが上を見上げると、腰に手をやってゆっくり階段を降りてくる老人の姿が目に入った。
「パンケーキがお好きなのかね?」
老人は柔和な微笑みを浮かべ、慈しむようにイブに尋ねた。
「うい」
イブはこくりと頷くと再び階段を上り出した。
「ほっほっ。元気なのはいいことですな」
老人は再びほくほくと笑うと、歩みを再会してイブとすれ違った。
イブはそのまま振り返ることなく家まで駆け、扉を開けて中に入る。
「……」
玄関の扉に鍵をかけると、イブはふと思い出したように呟いた。
「……あのじいちゃん、どっかで嗅いだ匂いがした」
イブは鼻を引くつかせたが、すぐに首をこてんと傾げた。
「うん。忘れた。それよりおねむやねん」
そして、目を擦りながらベッドに直行し、そのまま寝息をたて始めたのだった。
「……こいつ、そのまま寝やがったな」
家に着くと、着の身着のままでベッドに埋もれているイブを発見した。
シーツが汚れるから風呂には入れと言ったのに。
「……おい。風呂には入れと言ったよな?」
うつぶせでベッドに倒れているイブを揺り起こす。
よくこの体勢で寝られるものだ。
「すぴー」
しかし、イブはいっこうに起きる気配を見せない。
というか、すぴーってなんだ。
「おい。イブ。
聞いてんのか」
今度は強めに体をゆする。というか、ほぼ肩を持って持ち上げている。
「ぐーすか」
……こいつ。ガチ寝してやがるな。
「……さて、イブはよく寝てるようだし、一人でパンケーキでも焼いて食うか」
イブから手を離してキッチンへと向かう。
「おはよう」
「……都合のいい耳だな」
うつぶせの状態から、逆再生のようにベッドから飛び起きてくるイブ。
軽くホラーなんだが。
「うまうま、うまま!」
「……食ったら風呂入れよ」
「うま!」
それは返事なのか?
「うま!」
そうか。
結局、家にあった材料でパンケーキを作らされ、それに舌鼓を打つイブさん。
俺が手ぶらで帰ってきたことに気付いてさえいない。
まあ結局、夕飯は食べていなかったしちょうどいいか。
「ふぬむっ。そういや、さっき階段上ってる途中でじいちゃんとすれ違ったなり」
「じいさん? まあ、このアパートはじいさんばあさんばかりだからな。そんなこともあるだろ」
それなりに年季の入った建物だからな。
「なーんか、あのじいちゃんの匂い、どっかで嗅いだことあるんやけど、どこやったかねー」
「匂い?
まあ、このアパートの住人なら知っていてもおかしくはないだろう」
イブは動物並みに鼻がいいから個人の判別が匂いでつくのだろうか……。
「んー、そういうんじゃなくて、なんかつい最近?
あの臭い匂い……でも、その時よりも臭くはなかった? ような?」
「……あんまりお年寄りに臭いとか言うなよ。失礼だぞ」
「いんや、なんか香水的なやつよ」
「!」
その話。少し前にも聞いたな。
たしか、観衆に事情聴取している時にもイブはそんなことを……。
「……イブ。さっき、老人とすれ違ったと言ったな」
「うむ」
「それはつまり、その老人は階段を降りていったということか?」
「うむ。イブさんはおねむで階段頑張って上がってたゆえ」
「……」
このアパートの住人に老人は多いが、警察官である俺が住んでいることに心強いと安堵するような普通の老人たちだ。
そして、今は夜。一般的に夕飯を食べるには遅いと思われるような時間帯だ。
そんな時間に、階段を降りていた? 外出するため?
このアパートに住む老人に、こんな時間に出掛けるような者はいないはずだ。
徘徊癖のある者もいないし、ほとんどの住人がこの時間にはすでに就寝していることは把握している。
おかげで俺が深夜に動きやすいのだからな。
「ジョセフ?」
「……」
つまり、あのショッピングセンターの観衆の中にいて、かつ俺たちよりも早くここに来て、そして俺たちが帰ってくるまでこのアパートにいた老人ということだ。
「……イブ。家に入るときに扉は確認したか?」
「んー? うむ。ちゃんとドアノブかちゃしたで?」
「……そうか」
部屋への侵入確認の細工はそのまま。
部屋には侵入されていない?
いや、あるいはそれさえ看破されたか?
「……」
少し調べるか。
食事の途中だが立ち上がり、周囲を調べ出す。
「ジョセフ?」
「そのまま食べていていい。おかわりもやろう」
「でかした!」
イブにはこのままおとなしくメシを食っていてもらう。
盗聴器の類いがないとも限らないからな。
「……無いな」
一通り部屋の中を調べたが、監視カメラも盗聴器も何もない。
それどころか部屋のものの配置は一ミリも変わっていない。俺が朝に見た時と比べて変わっていたのはイブが触れたであろう所のみ。
それはつまり、
「……ここにいたということか」
ここはあのショッピングセンターからそう遠くない。
あれだけの爆発と建物の倒壊。ここまで振動が来ないはずがない。
つまり、部屋のものが一ミリも動いていないというのはおかしい。
置物の向きがズレていたり、観葉植物の葉や土の具合が変わっていたり、必ずどこかに変化があったはずだ。
なのに、完全記憶能力を持つ俺でもそれらが動いていないと断ずることが出来るほどに、それらの変化が修正されている。
俺と同系統の能力?
いや、時間軸がおかしい。
ものの配置を直すには俺が部屋を出てから、爆破による振動が起こるまでの間にここに来ていないといけない。
だが、その老人はショッピングセンターの観衆としてそこにいて、そのあとにここに来た。
ならば、奴が見たのは振動でものが動いたあとの部屋。
その前の状態に戻すなど……、
「……っ」
ゾクリと、嫌な悪寒が全身を襲う。
居た、ということか。
あの場所が爆破される前に、すでにここに!
「……」
だとすると、あのショッピングセンター爆破テロはもしかしたら老人にとって想定外の出来事。実行犯から知らされていなかった?
発生前にここに居て、爆破が起きたことでその様子を見に行き、そのあとでここに戻った?
そして、部屋から出たあとに家に戻ってくるとイブとすれ違った。
そう考えると納得がいく。
問題は、そいつがここで何もしていないことだ。
……いや、そうじゃない。
もし、その老人が俺と同じ完全記憶能力を持っているのなら、何かを見つけてもその痕跡すら残さずに元に戻すことなど容易。
……とはいえ、ここに銀狼に繋がるものがあるわけではない。
多少、武器は多めに置いてあるが、それも銀狼対策として個人的に収集しているという推測の域を出ない。
だが、油断できないのは確か。
何か一つでもピースがあれば、俺イコール銀狼という答えにたどり着かれる。
「あ、ほうひや」
「!」
イブがパンケーキを頬張りながら思い出したように口を開いた。
「あのじいちゃん、なんかすごい丁寧だったはむ」
「丁寧?」
「はむはむ。なんや、はむ。私にも礼儀正しい、はむ。なかなか出来たヤツ、はむ」
「……食べながら喋るな」
「はむはむ」
「……」
……礼儀正しい……老紳士か。
なるほど。
紳士、ね。
「厄介な奴が現れたな。まず最初に狩らなければならないのは、そいつか」
追い詰められる前に、こちらが狩りに出よう。
そっちが俺を獲物と思うなら、お前たちこそが獲物なのだと解らせてやらなければ。
おまけ
これは、ジョセフが着の身着のままでベッドに倒れているイブを発見して、パンケーキをエサに起こすまでの詳細。
「……おい。イブ。さっさと起きろ」
「むにゃぐー」
「おい。寝息のつもりか」
「ぐーすかぴーひゃら」
「……お前、それホントに寝てんのか」
「むにゃむにゃ。ジョセフ……」
「!」
「イブさん腹へり。早く帰ってきて……むにゃ」
「……」
「……もう、一人は……ぐーすぴー」
「……ホントに寝てるようだな」
ジョセフはイブの目元に光った雫をそっと拭ってから、パンケーキ云々の文言でイブを飛び起きさせたのだった。
その日のパンケーキはいつもよりクリーム多めだったことは、イブには気付かれていないようだった。