本当に欲しいクリスマスプレゼント
12月、彼女と付き合い始めて半年が経つ。
クリスマスがすぐそこまでやって来て、街も俺も浮き足立っている。
「なぁ、クリスマスプレゼント、何が欲しい?」
驚かせたい気持ちはあるし、驚く顔を見たいという気持ちもある。
サプライズはきっと楽しいと思うが、絶対にがっかりはさせたくない。
すぐ浮き上がろうとする足を地にしっかり着けて、ここは慎重に、確実に行きたい。
「うーん。何だろう?」
ちょっと困ったような表情を浮かべる彼女は俺の初めての彼女で、自慢じゃないが、めちゃ可愛い。
眉を少し下げて、俺に微笑んでくる。
……やっぱり自慢で、めちゃめちゃ可愛い。
「坂本さんの、好きなものとか、欲しいものとか」
「じゃあ、山下くんの好きなものとか欲しいものは?」
直球の質問だったが、速攻でそのままストレートコースに返された。
俺の欲しいもの、君の全てが欲しいです……とはさすがに言えない。
「お揃いのものとかは?」
自分の口から自然に出た言葉を脳内で反芻しながら、まるで女子の発想みたいだと、失敗したかもと急に顔が熱くなる。
「……うん! いいの? 凄く嬉しい! どうしよう、何にしよう?」
良かった、セーフ。
さすが、女子っぽい発想は女子の心を掴むらしい。
彼女はきらきらな瞳を俺に向け、うきうき楽しそうな表情になって、欲しいものを考え始めた。
彼女は地味ではないけれど派手でもない。
ブランド嗜好はなく、キャラクター物なども特には持っていない。
慎ましやかで、現実的で、実用性や機能性を重視する。
将来はきっと素敵なお嫁さん(俺の)になるに違いない。純白のウエディングドレスか白無垢かは悩むところだが、両方を着ることは出来るのだろうか?
「あのね、考えたの」
彼女が希望したプレゼントは、ペンケースには必ず入っているだろう、毎日使うかもしれない文房具だった。
「ボールペン?」
「うん、で……あのね、お互いの、名前を入れてもらうのはどうかなぁって思うの」
俺が彼女にプレゼントするのが「TIAKI」と名前が入ったボールペン。
彼女が俺にプレゼントするのが「MINORI」と名前が入ったボールペン。
一見お揃いだが、実はお互いのものを交換しているようにもとれる。
一足も二足も早い結婚指輪のような……いや、その前に婚約指輪か?
そうと決まれば善は急げと、2人でさっそく商店街の文房具屋に向かった。
店主の親父さんに確認すると、クリスマスまでには間に合うと言ってくれた。
お揃いのボールペンを買い、各自の名入れを頼んだ。
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街にはクリスマスソングが流れる。
商店街の中に教会があるからだろうか、どこからか讃美歌も聴こえる気がする。
すぐそこまでやって来ていたクリスマスは更に近付いて、あっという間に前日、イブになった。
彼女を家まで迎えに行って、2人で文房具屋に向かった。
店主の親父が店の奥から小さな紙袋を2つ持って来る。
緑の包装紙に赤いリボンでラッピングされた商品を確認し、それぞれが紙袋を受け取った。
「紙袋、持とうか?」
荷物というほどの大きさではなく、しかも軽いのだが、やはり男として、一応は聞いておく。
「ううん、大丈夫、ありがとう。あのね、ちゃんとね、私から山下くんに渡したいなぁって思うから」
恥ずかしそうに頬を桃色に染めて答えてくれた。
客観的事実として、俺の彼女はめっちゃ可愛い。
彼女の家まで戻って、彼女の部屋にお邪魔する。
一緒に宿題をするという口実という名の現実のもとに、今までにも何度か家に上がらせてもらったことがある。
どきどきしながらもほとんど無言に近い感じで、いつも馬鹿みたいに大真面目に勉強していた。
遊びで、は今回が初めてで、何をどう喋るのが正解なのか、訳が分からなくなりそうになりながらも、せめてチューくらいは是が非でもしたいと願ってしまう。
「あのさ、宿題……どこまでやった?」
「うーん、まだあんまり。でも今日は……クリスマスの、お祝いしよ?」
そう、今日は一緒に彼女とクリスマスを祝う為に彼女の部屋にやって来たわけで、勉強目的ではないわけで、彼女が目的ではないわけで、でもあわよくば彼女が目的なわけで、でもまずはクリスマスを祝う必要があるわけで。
「お待たせ。昨日の夜に焼いたんだけど、ちょっと焦げちゃった」
彼女がお盆を手に部屋に戻って来て、クリスマスのお祝いが始まる。
「「メリークリスマス」」
シャンメリーを入れたグラスで乾杯して、ケーキを焼いた話を聞いたり、毎年のお互いの家のクリスマスの過ごし方を話したり。
「プレゼント、交換しよっか」
お互いがお互いに、同じ紙袋を差し出す。
「ふふ、くすぐったい感じがするね」
「だな。プレゼント、ありがと」
リボンをほどいて、紙を破かないように丁寧にテープを剥がす。リボンも包装紙も、2人で過ごす初めてのクリスマスの記念だからと、また女々しいことを考えながら、箱からボールペンを取り出した。
「おー、すげぇ。ちゃんとMINORIって書いてある」
彼女の名前が入ったボールペン、しかもぱっと見は彼女とお揃い。
インクは無くなっても交換が出来ると言われたので、一生涯使い続けようとこっそり心に決めている。
「ね、山下くん。あのね、もう1回、文字を読んでほしいな」
「?、MINORI?」
「!、もう1回!」
「……実里?」
「もっと……もっと呼んでほしいな」
名前を呼ぶ度に彼女がはにかみながら、嬉しそうに笑うから、何度も何度も名前を呼んだ。
「なぁ、実里は、読まないの?」
「え、だって……恥ずかしいもん」
ここに断言する、俺の彼女はめっちゃめっちゃ可愛い。
何度も何度も彼女の名前を呼んで、読んで読んでと拝み倒して、押し倒したいのをどうにか堪えて……下の名前で呼んでくれた時の感動といったら!
今日という日に誓って言おう、俺の彼女はめちゃんこ可愛い。