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* * * * *


組手授業。

ジエンは客席の隅っこに座っていた。

今日は誰と勝負するんだろう。

アルカナの組手は元々修練より命を懸ける戦闘に近かったのを教育目的に変えたものだ。

昨日の組手は意味のないものだった。弓と戦うだなんて相性が良すぎる。

ジエンが腰に佩いた学生用の木剣を触った。

魔道具が禁止されているため、使用できる武器は弓、剣、ガントレット、鉄槌など、武闘派の武器だけだった。

戦闘と関係がなかったり、魔道具が元素といった良能を扱う場合は組手授業をする意味がなくなるため作られた規則だった。

今日は剣とか槍と戦いたいけど…

ジエンが獲物を探しているあの時。ぶらつく歩き方で誰かが入ってきた。

「セイバーは完璧じゃないといけない。」

組手授業の教授、カシェンが言った。カシェンは度をとても自由過ぎる人だった。

くたびれた服装で髪の毛はちゃんと手入れしていないロングヘア。

それをセルフィスが指摘すると、カシェンが「髪を切る代わりに俺を首にしてください。」と言った事件はアルカナで有名だ。

「俺には一つ哲学がある。セイバーは油断してはいけない。何度も言うが、セイバーは完璧じゃないといけないのだ。」

ゆっくりと話を続けていたカシェンは自分の耳をかいだ後、それを口で吹いた。

「そしてセイバーは色んなことにに付いて詳しくないといけない。つまり、頭も体も世界レベルでないといけないのだ。その理由は。」

カシェンが親指で首を切るふりをした。

「そうじゃないと死ぬんだから。」

カシェンはどこで持ってきたのか分からない折り畳み式の椅子を取り出した。彼の足首は調子が悪かった。

「セイバーの死は市民にも同僚にも迷惑なことになる。だから油断するな。仮にこれが練習だとしても組手はいつも実践のようにやれ。特にこの授業が初めての学生たちは気を付けるように。」

カシェンの言葉が終わるやいなや、準備が整った学生たちが試合場に出てきた。

「学年ランキング110位のモエン。72位ラテカに対決を申し出ます。」

「承諾します。」

対決を申し出てそれを受け入れる学生。

試合場はフットサル競技場ぐらいの大きさで、合計5つの競技場があった。参加できる学生数は10名。それなのにカシェンは遠くからも上手く学生たちをコーチングした。そして次の出番が来た。

「学年ランキング37位デーブン。学年162位ジエンに対決を申し出ます。」

デーブンの一言に客席がざわざわし始めた。

B洞の寮とD洞の寮。

37位と162位はアリとオオアリクイの差があった。学生という身分のせいで見た目は似ているように見えるかもしれないが、実力は天地ほどの差があった。

「組手の目的はトレーニングだ。お前がビリと戦って実力向上に繋がるのか?」

誰よりもその事実をよく知っているカシェンが目を細めて問いかけた。

そうすると、デーブンが組手授業に参観した70人の学生たちを見回しながら話した。

「その逆です。俺が学べることはありません。でもあいつは学べることが多いと思いませんか?教授。」

「ふっ、そうだ。打たれ強さも鍛えられるしな。」

デーブン輩が客席でくすくすと笑った。

そんなあざ笑いにもジエンの表情は変わらなかった。カシェンはジエンの無表情を恐怖だと思った。

「危険すぎる。それにランキングが50位以上も違う相手と戦って試合中に怪我をしてもアルカナで責任を取らない。」

カシェンが試合場の出口に指を刺した。そこには赤い文字で規則が書いてあった。

「入り口にも書いてあるぞ。ぶっちゃけ体が不自由になっても治療費など出ないってことだ。それは自慢が原因の事故だから。それでも対決をしたいのか。」

「やります。」

ジエンは相変わらず余裕だった。

以外の答えにカシェンはもう好きしろって感じで手を振った。

「君たち2人は実力の差が激しい。ジエンラッシェル、俺はちゃんと警告したぞ。」

「実力の差が大きいならきっと何か学べるものがあるはずです。」

ジエンの言葉にデーブンが笑い出した。

「教授。見てくださいよ。本人がやると言ってるじゃないですか。よく見とけ。」

デーブンは目の前にいる男が誰だか知らなかった。記憶を取り戻した以上、ジエンはもうジエンじゃなかった。

今剣を持っているのは剣神と仰がれ、27歳で剣の頂点に立ったセイバー。ジエンは複雑な感情のままデーブンを見た。

これがセイバーを志望している人なのか?

エバンの記憶の中にあるセイバーは固い壁だった。力を持って皆を守る防壁。

なのに、今目の前で暴れている暴れん坊は壁より凶器に近かった。

「はぁ…好きにしろ。本人が良いと言ってるし…フィールドのセッティングは?」

もう全てが面倒くさくなったカシェンの口調。

デーブンが短く返事をした。

「砂漠。」

「ルールは?」

「降伏宣言にします。」

デーブンの話が終わると、床が砂に変わった。このテクノロジーはゲートの未知を日常に再現したもので、一般人は理解することすら難しい1エリアの科学が取り入れられていた。

「おい、良い体してるな。それで自身が湧いてきたのか?」

デーブンの挑発にジエンは答えないまま木剣を振り回した。

ブーン。

剣を振り回すとジエンは心が楽になった。

- 試合場3番。ジエンラッシェル。デーブンストム。入場。

まもなく試合場に固い機械音が鳴り響く。

- 始まる3秒前。

「そういえば、残留マナのせいで苦労したらしいな。」

デーブンはジエンにだけ聞こえるぐらいの小声で話していた。

- 2秒前。

「むしろ良かったな。俺はお前みたいなやつと同じ学校に通いたくなかったからさ。」

- 1秒前。

「プライドも責任感もない賤民らがよ。」

デーブンの言葉に賤民出身であるカシェンの表情が曇った。

観衆たちの視線が彼らに集まるこの状況。

デーブンには勝ち負けに対して心配していなかった。悩んでいるのはどんな手を使って勝つか、それだけだった。

たった1分で泣きながら降伏を叫ぶようにしてやる。

- スタート!

氷のような雰囲気の中、ジエンとデーブンの対決が始まった。


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