prologue
夢の余韻がすごい。
同じ夢ばかりこれで三桁になる。
夢の内容はいつも違うがひとつだけ共通点があった。
見知らぬ人が現れて訳の分からないことを話すのだ。
「うっ、エバン? 誰だよそれ……」
ジエンは無言で辺りを見渡した。
アルカナのD4棟の寮。
成績の低い生徒に与えられる部屋は古く粗末だ。家具は机とベッドのみで、部屋の広さは足を伸ばして横になることですらきつい。
「……はぁ」
悲しいことだ。やり遂げられると思っていたが違った。今の成績は学年ランキング162人のうち162位でビリ、なんの才能もない。
自信があった剣術さえも残留マナで廃人になってだめになった。
「エバン……エバン」
頭から離れない名前。僕の名前ではないが確か本で見たことのある人物だ。
ダダダッ!
理由もわからないまま走る。肉のついた体はすでに息切れしているが止まれない。
「あっ……見つけた」
[エバンクロー偉人伝]
なぜ思いつかなかったんだ。誰か分からなければ調べればいい。しかも、偉人伝があるくらい有名な人物なら……。
本は約800ページにも及ぶ叙事だった。訳も分からず連れ出された図書館。いつもなら、数ページで飽きてしまうほど退屈な内容だったが。
「……あ」
約5時間。ジエンは座ったままその場で本を読破した。
本が面白くて? そんなはずはない。
[ランク8ゲート 魔王城デモ二アック撃破。]
[そうしてエバンは3区域のゲートで剣神の弟子になる機縁を得た。]
[代替不可能な業績。]
ジエンが本を読み進めるほどに明らかになっていく事実のためだった。
「本当だったのか」
夢の中で人々が必死に探していた人物はエバンクローだった。
100年前。5人のメンバーでランク8撃破という空前絶後の記録を残したエバンクロー……。
攻略の最後で魔王との戦闘により生涯を終えてしまったが。
だからこそ神話になって英雄という雅名がついた大英雄。
あの英雄は。
「なんで今更思い出すんだよ」
ジエン。
彼の前世だった。