ロザリンド6
あ、主人公ここだった。
前回じゃ、恰幅のいいおじさんが主人公になっちゃう。
公爵の前を辞した後、ちょっと一人にさせてもらった。
花の香りにつられて歩いていると、明るい中庭に出た。
ピンクや黄色の花が咲き乱れる見事な庭だった。
今の私の気持ちからしたら、皮肉なほどの明るさだ。
なんにせよ疲れきっていた私は花に囲まれたベンチに引き寄せられた。
「リリアナ!リリアナ!やっと会えた!」
座ろうとしたその時に突然横から知らない少年が抱きついてきた。
「いえ、人違いです。」
申し訳ないが、人違いだ。私はロザリンドであって、リリアナさんではない。
「え?すみませんでした!」
少年は驚いたように離れてくれた。
よく見るととんでもなくきれいな少年だった。
ふわふわのブロンドヘアにアクアマリンのような優しい青の目をしていて、まるで天使のようだ。
「いや、やっぱりリリアナだよ。あ、今は違う名前なのかな?」
少年は私をリリアナさんだと言い張った。
残念ながら私は生まれたときからロザリンドだ。
ニックネームすらリリアナだったことはない。
変な子だな。かわいいのに、もったいない。
「ねぇ、リリアナ。今の名前を教えて?あ、俺は今はアルフレッド・グリフィス。この家の次男になったよ。」
しまった!公爵家の子供だったか!
それにしてもあの貫禄のある公爵からこの天使ができるというのは遺伝子の不思議だ。
いや、よく考えたら色合いだけは似ている…かな?
他者を見下したような目だけが印象的であまり色合いを覚えてないや。
「私はロザリンド・フランクリンです。公爵のご令息とは気付かず、失礼いたしました。」
深々と頭を下げると、目の前の天使はにこやかに笑った。
「ロザリーって呼んでいいかい?」
なんだかフレンドリーに話しかけてくるが、初対面の子供とはいえ男性にいきなりニックネーム呼びされるのは抵抗がある。
ましてや婚約者が決まったところなのだ。
ウィル兄様に変な誤解もされたくない。
「いえ、フランクリン嬢と呼んでいただければ幸いです。」
しっかりと拒否を伝えると、なぜかグリフィス公爵令息の表情が急に陰った。
「そんなに他人行儀にしないでよ。俺がわからない?テオドールだよ?」
お前はアルフレッドではないのか!誰なんだ!
そもそも他人行儀も何も、初対面なんだから限りなく他人のはずだ。
「すみません、アルフレッド様…ですか?テオドール様ですか?ちょっとよく…何をおっしゃっているのかわかりません。連れを待たせているので、失礼します。」
ウィル兄様は部屋で書類整理をしているはずなので、特に待ってはいないのだが、とにかく一人になりたかった。
ただでさえイライラしている時に、訳がわからない次男に絡まれて怒り心頭だ。
急いで宿泊のために用意された自室に戻った。
泊まる以上、夕飯はあの公爵と食べなければならない。食べる前から胃が重たいが、それまでに頭を冷やす必要がある。
少しだけいいことと言ったら、子供は15歳を過ぎないと客人との晩餐には出られないので、明らかにそれ以下のアルフレッド様は参加されないことだろうか。
私のイメージではウィリアムは一見穏やかな腹黒でワカホリックです。ワカホリック感が出せなかった。