氷雨の温もり
冬の雨は好きですか?
――――冬の雨は好き。冬は苦手だけど、雨の日だけは少し嬉しくなる
さめざめと降る雨の雫たちが、冷え冷えとした空気を振り撒いていく。少女は澄んだ冷気を逃さないよう目一杯息を吸い込む。胸に刺すその冷たさを心地よく感じながら、止むことのない氷雨を渡り廊下から眺めていた。すると、呆れまじりな苦笑とともに、頭の上から大きめのコートが被せられた。
寒いのはほんとだめみたい。冬の雨の匂い、大好きなんだけどな
彼は処置無しといった風に肩を竦めていた。けれど、立ち去ることもなく、少女のそばに寄り添うだけであった。言葉はないが、ときおりひどく心配そうな眼差しを彼女に向ける。
はーいはい、わかりましたよ。もう教室に戻るから
優しく、柔らかい目線に耐えきれなくて、咄嗟に彼の手を掴み、引っ張っていこうとした。とたん、触れた手の火傷しそうな熱さに気づく。驚いて手を離そうとするが、逆に手を取られ、両の手で包み込まれた。熱を移すように触れてくるその仕草に、温度差のわけは自分にあると悟る。
君も冷たくなっちゃうよ。でも、ありがとう。すごく嬉しいや
彼は温もりをしっかり伝えるように、きゅっと更に手を強く握った。照れたように顔を逸らし、横顔を見せる様子にこちらはもっと嬉しくなる。ぶかぶかのコートなんてなくても、ぽかぽかと暖かい。
――――冬の雨は好き。冬は苦手だけど、雨の日はすごく嬉しくなる