妖怪9 人というものの価値と意味
評価ありがとうございます!
たった一日で生まれた物語ですがお楽しみください!
「まあ、色々言いたいかもあるかもしれないけど大丈夫かしら?」
なぜか口裂け女が盗賊に襲われたらしい少女に声をかけていた。
「ひっ!」
マスクの概念が無い世界の住人からしたら長身で赤づくめで和傘という意味不明なものを持っていたら不審人物一直線でしかないだろう。止めなかった少年の正気も疑われるがあえて止めなかった可能性も捨てがたい。
「わ、私はカレンよ!」
「は、はい」
うずくまる少女に対して和傘を肩に担ぐ口裂け女。完全にヤンキーとそれに怯える女学生の姿でしかない。しかし、どこか得意げな表情は自分の名前を名乗れたからだろう。どうにも器の小さい怪異だった。
「生き残りはあなただけ?」
「わかりません」
少なくとも少年の知覚以内には昆虫以外の生命体はいない。だからと言ってそれを口にはしない。
「あなたはどうしたいの?」
「死にたくないです」
シンプルな発言ではあったが、それは口裂け女も少年も同様の現実でしかなかった。むしろ、生きるための現在進行形と言ってもいい。なぜなら、口裂け女と少年は異世界転生物にありがちなボーナスを受け取っていないのだ。着の身着のまま、食糧なんて持っていない。わかりやすく言うと遭難者と大して変わらない。
ということに思い至り、口裂け女は肩を落とす。
「私達も死にたくないよ・・・」
いきなりクライマックスだった。
「あれ? 私助かったんじゃ?」
少女の瞳に涙が浮かびます。救われたと思った直後の絶望ならそんなものでしょう。
しかし、少年が声を発します。
「少なくとも食い物はありますよ」
彼が手にしているのは汚らしい革袋だ。その中から出てくるのは干し肉のようなものや携帯食料モドキだ。口裂け女は口にするかと問われれば断じて否である。だって、干し肉紫色のカビが生えてるし。
「クロ君食べたらだめだよ?」
「間違っても食べませんよ」
それを少女に提供する鬼畜であった。
ともあれ向き合った少女の衣服は破られていたので、別の衣服を提供しようにも視界にあるのは虐殺された人々であり、それ以外はすべて草むらの奥に消えていた。そして、ここにある以上に凄惨な死体となって。
「食事は提供しよう。衣服は提供できないけれど」
「紫色の食事は結構ですが衣服が欲しいです」
速攻で対立した意見だったが、そこで初めて口裂け女は少女の見た目を記憶する。
栗色の髪を肩まで伸ばした可愛らしい女の子だった。年の頃は十代半ばくらいだ。
「あ・・・・・」
口裂け女は気づく。
気づいてしまう。
少年は十代なのだ。
恐らく同じ十代なのだ。
しかし、口裂け女は違う。
アラサーとかアラフォーとか言うレベルじゃない。場合によっては対象外とされてしまう。その場合の定義すら不明だが、彼女にとっては重要なことらしい。
「あ、あたしのことは気にしなくていいから、彼と話をしてて。わたしはっ私は大丈夫だから!」
そう言って逃げるようにして・・・ぶっちゃけ口裂け女は逃げた。コンプレックスの結果である。
「あ、あの・・・」
そして、少女はおどけるようにして少年に縋りつく。
「わ、私、怖くて・・・」
「チナマグセェヨ」
「え?」
「俺と同じ人殺しの匂いだ。臭いんだよ」
その瞬間、胸をかき抱いていた少女が少年を押し倒す。
「それでこうなるのがお望み?」
そこにおびえるだけの少女の姿はなかった。むしろ、舌なめずりをる妖艶な姿があり、見上げる少年の視線はどこまでも冷淡だった。
「盗賊物でよくある話だよな。助けた相手が実は盗賊だって」
「人足を集めなきゃいけないのは面倒ね」
つまり、彼女を含めての盗賊だったようだ。彼女は助けを求める生餌であり、引っかかったのは少年と口裂け女だっただけの話だ。実際襲われた人々はいるのだろう。しかし、それはとっくに命を奪われていて、少年たちは間抜けでしかなかった。
でも、
「良かったよ」
「何が?」
マウントを取られた少年が笑う。
「カレンがここにいなくて良かった」
「っ!」
少年は笑う。それこそ蛇のように笑う。口元を横に広げて舌をなめずって笑う。
「だって、見られたら嫌われるかもしれないじゃないか」
なぜ、と問うことすらできなかった。
まずは両目が潰された。潰された眼球の感触を感じるよりも先に体を引き倒された。そして、痛みに悲鳴を上げる前に喉を潰された。呼吸すらままなかった。
そして、見えない視界が暗くなっていくことを自覚しながら少女は、
グシャリという音を最後に意思を終えた。
「クロ君?」
時間をおいて帰ってきた口裂け女の視界にいるのは少年だけだ。そして、少年は満面の笑顔歩浮かべて彼女を迎えた。
「彼女はどこに行ったの?」
「逃げた家族を探しに行きましたよ」
「そっか」
少なくとも口裂け女の知覚できる範囲にはいない。
「でも、可愛い女の子だったじゃない」
「そんなことないですよ」
そういった少年の手は口裂け女の体を包む。
「ふぃっ!?」
硬直する身体を愛おしそうに包み込む。
「こここここここここここここここここここここここここここ」
顔を左右で交差しながら少年は思う。
『異世界も面倒くさいな』
そして、舐める。
「ひゃっ!」
舐めとった首筋は塩の味がした。
え? 昨日の夜に思いついて今も書いてるだけですよ?




