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妖怪5 〇シアではないようだ

「カレンが意識を失ってしまった! 何があった?! どうしたらいいんだよ!」

 と少年はパニックを起こしているが実際は彼女の感情が高ぶりすぎて意識を失っただけである。当然ながらそんなことは早々無い。

 とはいえ自覚のない己の行動も多少意識しなければ今後も同じことは起こるだろう。

 もっとも、自覚できるかは誰にもわからないが。ていうか無理でしょ。

 だからこそ、トラブルは起こる。異世界転生物なら尚更だ。


 カサカサ


 と視界の外で音が鳴る。

 その瞬間に少年は目を細めた。同時に体が適応する。

 五感のすべてを使って索敵を始める。

 視覚はそのままだ。

 聴覚は音を得る。

 地面に触れた指は振動を得る。

 嗅覚は匂いを知る。

 味覚は彼女の汗の味を知る。変態だった。


 口裂け女の体をゆっくりと横たえながら彼は立ち上がる。そして、鋭く右腕を振った時、その手には一本のナイフが握られていた。

 タングステン製の艶消しをされたそれは鈍く日光を受ける。

「うざいな」

 少年の目が細まる。

 同時にそれは飛び出した。

 草木を裂きながら飛びかかる飛び出す個体は大型犬を越えていた。

 しかし、少年はひるまず視界を向ける。まるで価値が無いものを見るように。

 走る一閃。

 それだけだった。

 物語のように首が飛ぶようなことはない。

 だが、飛びかかる影に対してなぞるように刃を走らせる。それだけで毛皮越しの動脈を裂いたのだろう。血しぶきをまき散らしながら巨体は地面に倒れのたうち回る。脳への酸素供給がなくなればどんな生物ですら生きようがない。

 しかし、それでも動く獣に少年は思う。

「固いな」

 ナイフはもろいものだ。研げば多少の改善はできるだろう。しかし、それができないならただの消耗品で、欠けては砕け散る産廃につながっていく。つまるところ、このナイフは今以上のパフォーマンスは期待できない。

 とはいえ、それ以外の戦闘方法もあるし、少年には心得があった。

「ナイフは解体用に使うしかないな」

 しかし、まだ音がある。

 周囲を歩き回る音がある。しかも複数体。

「ほんとうぜぇな」

 口裂け女に聞かせないような荒い言葉を吐きながら彼は周囲を見回す。

 同時にナイフを逆手に持ち直し、左手の平を開く。

「来い」

 刹那、二体の影が飛び出す。

 だが、正面はまっすぐに突き出された刃が眼下を貫き、振り返りながら振るわれた左手は突き出された前足を逸らしながら脇固め。当然、獣の関節が砕けて絶叫が上がるが、即座に立ち上がった少年はかかとを振り上げて、

「死ね」

 そのまま振り下ろした。


 名前が無かったが名前を得た少年は思う。

「ここは異世界だな」

 少なくとも日本にオオカミはいないはずだ。

 一応誘拐の可能性も考えていたが、どんな薬物であれここまで彼を拘束できるはずもなければ、必要な時間が足りていなかった。少なくとも移動圏内にオオカミはいない。

 某国の可能性もあったが国内ではつながりが無いはずだった。

 となれば異世界。

 少年は思う。

「最高じゃないか!」

 俺強ぇぇぇーーーーーーーーーーーーーとかは物語の中では楽しんでいる。

 でも、彼が目指すのはゆるふわ系。しかも、可愛い奥さんを求めるものである。間違ってもハーレム物ではない。

 そして、彼は見つけた。

「カレンさん。なんて可愛いんだ!」

 ある意味異常性癖だからこそ、可愛い嫁が見つかったのだ。

 日本では無理だった。なぜなら彼女は怪異だったからだ。

 異世界なら嫁になれるのはなぜかという異論は認めない。

 そして、少年は見つけた。

 己の伴侶を。

 まあ、その伴侶は失神しているが。


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