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妖怪4 キャンディー食べる?

 怪異とは何か? それは文字の通り怪しく異なるもの。人ならざるものである。

 場合によっては幻想種とすら思ってもいいだろう。

 そもそも、口裂け女に関しては特に歴史の浅い都市伝説に過ぎない。

 しかし、ネットすら存在しなかった当時にもかかわらず、瞬く間にそれは広がり誰しもが知り、恐怖するおとぎ話となっていった。場所によっては独特のオリジナリティーが発生し、特有の個性も得ていたケースがある。


「ということはカレンが沢山いるということですか?」

「少なくともあたしはあたししか知らないかな」

 存外に情弱な口裂け女だった。

「そもそも、私以外の怪異はあまり見たことが無いかも」

 ボッチの怪異は恐怖でしか何かとかかわりあうことができなかったらしい。

「あ、でも、時々地縛霊とか怨霊とかと話したりしたわ!」

 話の内容は知りたくなかった。

「さすがカレンですね!」

「て、照れるわね」

 照れる要素が皆無だった。

 しかし、と思い出したように周囲を見回す。

 場所は先程と変わって、街道のようなものにたどり着いてはいる。とはいえど道は舗装されていないし軽自動車がぎりぎりすれ違える程度の道幅しかない。そして、浅く固められたわだちが印象的だった。

 街道以外に見えるのは腰の高さくらいまで生えた雑草とパノラマの先にある山脈、青い空。そして、燦々と日差しを叩き付ける太陽である。気温はまさに夏。クロウは速攻でブレザーを脱いで腰に巻いていた。当然ネクタイも着脱済みである。無論、頭には巻いていない。酔っ払いではないのだ。

「カレンは暑くないんですか?」

 クロウは人間であるからこそ額に汗をかいている。しかし、口裂け女はマスクまでしているのに汗をかいたような様子もない。背中まで伸ばした黒い髪に赤色の濃いワンピースは熱を集める要素はいくらでもあるのに彼女は平然としていた。

「暑いって感覚がわからないからね」

 そもそも生物ですらなかったのだ。

「カレンは無敵ですね!」

「無敵よりも素敵になりたいわね」

 面白いことを言えとは誰も言っていなかった。

「カレンは素敵ですよ!」

 そして、デレろとも言っていなかった。

「・・・まあ、この世界ではどうかはわからないのだけれど、あたしの体は怪異だから暑さとか寒さとかは感じられないのかもしれないわね」

「え、でも」

 彼はおもむろに彼女の手を握った。

「ふぁっ!」

 思っていたよりもゴツゴツとした手指の感触に驚くよりも先に恥ずかしさを感じた。

 見下ろす視界には不思議そうに彼女の手に触れる少年の表情が見えた。

「でも、ちゃんと触れますよ」

 そして、ニコリと彼は笑った。

「っ!!!!!」

 だから、口裂け女はのけぞった。鼻の奥に何かが迫りくる予感がした。そして、耐えた。

 口裂け女はこの時改めて思う。

『年下に告白された上にあたしの年齢ってガチで犯罪じゃない?』

 怪異の割には常識的なことを考えていました。

『歳はともかくとしてヒールはいているからあたしの方が身長高いし、特徴のない顔って実は整っているのよね。それにどこか幼く見えるし・・・って学生だものね』

 対して年齢不詳の都市伝説はどちらかといえば大人びていた。身長高いし。

「それじゃ進みましょう」

 なぜか、彼は握ったままの手を放してくれなかった。そのまま歩きながら口裂け女は思う。

 あたし手汗やばくない?!

 知ったことかと誰かが思った。


 歩くこと一時間。

 少年は思う。

 この世界は何かという疑問はとっくに投げ捨てている。カレンと話しながら手をつなぎながら、それ以外の現象と予想を照らし合せ続けている。

『気候や気温、酸素の有無やその他もろもろは日本と変わらないみたいだけど、それ以外が一切不明だ。道があるという時点である程度の文明は存在するんだろうけど、その程度が未開の蛮族なのか文明人なのかは不明だな。でも、道幅は一定ということはそれなりと考えてもいいだろう。しかし、これが本当に異世界転移なのかも怪しい。せめて夜空であれば星の位置から大体の場所を算出できるんだけど』

 以外に色々考えていた。とはいえ、決定的な結論に至るまでには情報が不足していた。

 一方、少年に手を握られたままの口裂け女は、手汗をにじませつつ指から伝わる感触と情報に脳髄がパンク寸前だった。お互いに一方通行過ぎる男女である。

『さて、食糧は最悪どうでもなるとして、水分が問題だな。まあ、これも何とかなるんだけどカレンはその点どうなのだろう? さすがに彼女に無理はさせたくはないな。手持ちの道具は大したものは持っていない。水の確保はビニールで何とかなるけど』

 以外にサバイバル経験が豊富のようでした。

「カレンは食事をしないのですか?」

 そんな言葉に彼女は考え込む。

「そういえば食事した記憶が無いわね・・・」

 怪異だから当然であった。

 むしろ、その記憶があったらマッハで質量保存の法則が突破である。

「今は空腹を感じますか?」

「ないわね。あなたはどうなの?」

「俺もないですね。三日三晩喰わなくても平気なように訓練しているので」

 ちなみに二日食べていない。訓練ではなくブルーレイに金を使ったため資金が尽きたのだ。ちなみにそのブルーレイの内容はまだ目にしていない。

「そんなの健康に悪いでしょ?!」

 常識的な怪異だった。

「それならこれを食べなさい」

 言って口裂け女はつないだ右手をそのままに、包装紙に包まれた何かを差し出した。手汗はそのままに。

「これは?」

「飴ちゃんよ」

 彼女の都市伝説は関東のはずである。そして、左手に握っていた和傘はどこかに消えていた。都合のいい話である。

「ありがとうございます」

 少年は受け取りながら、彼女の顔を見上げてにこりと笑う。

「ピッ!」

 刹那、口裂け女の背筋がこれ以上ないほど伸びきった。変な声が出たかもしれないが彼女はそれどころではない。己が好ましいと思っていた少年がこれ以上ないほどの笑顔を向けてくれたのだ。存在するかも疑わしい脊髄に電撃が走り、思わずうずくまりそうになってしまう。しかし、そんなことをしてしまえば彼は心配してしまうだろう。

 だからこそ、口裂け女は渾身の力で体幹を保持し続ける。気が緩めば即座に崩れ落ちながらマウントを取ってしまうレベルで。

 そんな思考も知らずに少年は受け取った飴ちゃんを受け取った手で剥きながら口に入れる。そして、再び笑顔。

「おいしいです」

「ぴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 口裂け女が壊れました。手汗の量がやばくなりました。

 立ち止まってしまった口裂け女はガクガク震えます。

「カレン大丈夫ですか?!」

 驚いた少年は手を握ったまま正面に回り込んで肩をつかみます。無論、ドアップでのぞき込むのです。

「ぱびっ!」

 そして、彼女の意識は識閾値を越えてブラックアウトした。

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