妖怪33 昔ひざに矢を受けてな
「いくつか条件がある」
そう言った少年にギルドマスターは薄く笑う。
「随分と前向きになってくれたじゃないかぁ」
「条件があると言っただろ」
小さく鼻を鳴らしつまらなそうにつぶやく。そして、続く言葉は、
「まずはこの世界の魔物の強さを俺達は理解していない。だからこそ、今すぐ乗り込んでコアの破壊なんて命知らずなら事はしない」
当然と言えば当然のことだ。なぜなら、少年はもちろん口裂け女もこの世界の常識をまるで知らない。多少の魔物を狩っていたとしても、その強さの基準が高いのか低いのかもわからないし、その強さの上限がどこまであるかもわからないのだ。ましてやダンジョンの奥にいる魔物がどれぐらいのグレードでどんなイレギュラーがあるかも知れてはいない。そんな状況で突撃するのは自殺行為と変わらない。
「ダンジョンとやらの詳細を資料で出せ。それに、一般的なダンジョン攻略の際に必要な人員、職業、ステータス、消耗品のリストだ。そして、スタンピードとやらが発生した際のダンジョン内の危険度の差異だ。こっちは予測値で良い」
「最初の方はなんとでもなるとして最後のは本当に予測値でしかないぞ?」
「構わない」
それと、と付け加えて。
「資料の確認をした後に偵察を行いたい。リストアップするから俺達に必要な物資を揃えてくれ」
「それくらいはお安い御用だな。とは言っても限度はあるからなぁ」
この世界に織田信長がいるのなら火縄銃くらいはありそうなものだが、少年が銃器に求める水準はオートマチック拳銃、対物ライフルにサブマシンガンくらいなものなので手に入れることは早々にあきらめていた。
「ついでに確認したいんだけど冒険者のステータスを教えてほしい。それこそ、Aランクの奴を」
「自分のを見たらどうだい?」
「ステータスオープン」
名前 黒
性別 男
種族 殺人者
LV:105
HP:50
MP:0
STR:35
AGI:450
VIT:5
DEX:555
INT:3
LUK:0
スキル
凶手LV:MAX 料理LV:1 裁縫LV:MAX 隠形LV:MAX 調合LV:MAX 解体LV:MAX 状態異常耐性LV:MAX
「なっ・・・」
提示されたステータスにギルドマスターが絶句する。そして、その隣に立つクリスタも同様だ。
「レベルや素早さ器用さは比較的高いが、こんなステータスであんなでかい口を叩いていたのかぁ」
少年が口だけ番長であることが判明した瞬間だった。まあ、少年自身も己のステータスが偏りすぎているうえに低いものなのだろうと薄々理解はしていたが。
「まあ、一応元Aランクのステータスを見せてやる。ステータスオープン」
名前 ランスロット
性別 男
種族 人間
LV:100
HP:1500
MP:600
STR:525
AGI:220
VIT:414
DEX:178
INT:110
LUK:150
スキル
剣術LV7 拳闘術LV5 盾術LV6 限界突破LV2 統率LV5 支援魔法LV1 強化魔法LV2 火魔法LV3
「お前がダンジョン行けよ!」
少年が思わず叫ぶステータス差であった。一部は少年が上回っているかもしれないが総合力で見たら圧倒的な負けである。無論、ステータスだけが全てではないのだが、それでも限度があるはずだ。
しかし、少年には気になる点があった。口にはしなかったが。
「カレン嬢のステータスもあまり変わらないのか?」
言われてカレンは少年に視線を向ける。それは教えて良いものかという確認だ。
そして、少年は頷く。
「ステータスオープン」
名前 カレン
性別 女
種族 人間?
LV:15
HP:255
MP:0
STR:100
AGI:258
VIT:110
DEX:157
INT:0
LUK:MAX
スキル
怪異LV:MAX 長剣LV:1 近接戦闘LV:1 華道LV:1
「おかしいなぁ・・・カレン嬢のステータスもそこまで高いものじゃない。さっき潰されてたBランクの奴も腕力だってステータス上もカレン嬢を越えているはずなんだよなぁ」
「そんなのあたしの知ったことじゃないわよ」
「ただ、レベルが低いから伸びしろがあるという意味では今後に期待できるんだけどねぇ」
その言葉から行くと、高レベルながら低ステータスの少年は限りなく伸びしろが無いように感じられる。もちろん、少年自身はそのことに気づいているが気にしていない。ちなみに大器晩成型という可能性を自身が排除している。そんな奇跡はありえないと。
「クロ君を馬鹿にしたわね?」
「そんなつもりはないかなぁ。ステータスの強弱はあったとしても彼は尖った部分があるし、スキルの内容によってはステータスもレベルも覆るんだよねぇ。ちなみに俺はダンジョンに潜るのは無理かな? ステータスは高いかもしれないけど古傷で左の膝が壊れてる。長時間の戦闘は無理なんだよねぇ」
ダンジョン攻略は時間がかかるということなのだろう。そうなれば故障者は半ばから足手まといになってしまう。だからこそ、街にいる冒険者に声をかけているのだろう。
「それにしてもずいぶん口調が変わってるな」
「クロ君ほどではないね。偉い立場だから人の前では偉そうな態度にするようにはしてるけどねぇ」
見た目も態度もだらけた中年である。
「それで、このステータスを見た後でも俺達を引き留めるつもりか?」
「当然。少なくとも君達はステータスだけに縛られない何かがあるようだからねぇ。というかクロ君は暗殺特化のスキル構成に良くわからないのが混じっているけど、カレン嬢は俺も見たことのないスキルを持っている。詳細鑑定してみない?」
その言葉にカレンは首を横に振る。
「こんなステータスだのスキルだの良くわからないものに自分を左右されたくないわ」
カレンからすれば現代の異世界物のようなゲームのようなステータスやスキルなど常識外のものだ。彼女が信じるのは体感したものと体験した出来事だけだ。
「でもさ」
ギルドマスターは言う。
「君達異世界人の力を見せてくれないか? 相応のお礼はするよぉ?」
「視線が鬱陶しいな」
少年が呟く場所はギルドの練兵場。わかりやすく言うとギルドの訓練場の一角だ。訓練場と言ってもギルドの外にある柵に囲まれたグラウンドのようなもの。周囲には各々の冒険者が武器をぶつけあったり、魔法使いが的に魔法を放っている姿が見受けられる。
そして、距離を取って向き合うのはギルドマスターであるランスロット。その右手には木剣とミドルタワーシールド。こちらは金属製だ。
一方、少年の見た目は無手。防具もなく学生服姿のままだ。
「武器は良いのか?」
人の目があるからなのか若干言葉遣いが厳めしい。
「一応色々持っていますよ。非殺傷の物ばかりですけど」
こちらも人の目があるので丁寧口調に戻っていた。色々と面倒くさい奴等であった。
とはいえ、人の目があるのも事実である。実際、ギルドマスターが武器を手にして練兵場に立っているのだ。目立たないはずがない。
「てっきりカレン嬢の方が相手すると思ったんだけどな」
「カレンさんが毛ほどの傷を負ったらスタンピード以前にこの街が滅びますよ」
とんだとばっちりだった。
「ちなみに俺にステータスブースト系のスキルはありません」
「それなら一瞬で終わると思うんだが」
「俺が負けたら街から出て良いですか? カレンさんを置いていくならとか言ったら皆殺しですよ」
「この街が滅ぶ選択肢しかないんだが」
知ったことかと言い捨てる。ブラウンと草原の王者は同じ場にいても蚊帳の外であった。
「まあいいです。始めましょう」
「ああ」
向かい合う距離は二メートルほど。ステータスを含めても一瞬で詰まる距離だ。
「クロ君がんばれーーー!」
そして、響く口裂け女の声援。
「はいっ!」
刹那、両者は動く。
クロの暗殺者と剣が交差した。




