妖怪32 スタンピード
「そもそも、なんでスタンピードが起こるってわかるんだ?」
と少年。
「ダンジョンの上層から中層にかけて極端に魔物の数が減っている。時々狩りすぎて同じようなことが起こることもあるが今回は数か月以上それが続いているから確実なんだよなぁ」
「その割には街全体にそんな危機感が無いように見えたのだけれど」
口裂け女の言葉にランスロットは頷く。
「ダンジョンが街の外にあるからだな。この街を取り囲む壁があるから安心してるんだが、ダンジョン内にいる魔物の中には壁を破壊できるような奴や乗り越えたり飛び越えたりできる種類がいるんだよ。そして、今の世代の人間はそういう魔物の恐怖を知らないんだなぁ」
「つまりスタンピード自体が久々なのか」
「俺がギルマスになってからは初めてだねぇ。ちなみに前回は三十年前だ」」
それだけの期間が開けば危機管理能力の停滞も理解できる話だった。しかし、ギルドマスター自身が残り少ない期間で危機が迫るというのに何もしていない事実が理解できなかった。
「残り一月の根拠とあとなんで何もしていないのか聞きたいんだが」
「ダンジョンの上層階に高レベルの魔物が現れたんだ。斥候ではなく先頭を切るリーダーだね。すぐに階層を降りたようだけど、魔物の階層移動は本来ならあり得ない」
理屈は通っているがノーガードでいる理由が無い。
「各支部に増援を頼んでいるけど高ランク冒険者は簡単に移動させられないからねぇ」
「だから、あたしたちを鉄砲玉にしようってことかしら?」
セリフがどこか昭和ぽかった。とはいえ、意味合いは言葉の通りだ。
「その比喩はわからないけど強い冒険者には街に残ってほしいのですよ」
とはクリスタ。彼女は言葉を続ける。
「出てくる魔物の量にもよりますが、私が物心ついた時、この街にはガレキばかりで立派な壁もありませんでした。しかし、父や祖父の話を聞けばスタンピードが起こった当初は、今の街のように立派な防壁があったそうです」
クリスタの年齢は見た限り二十代前半くらいだ。つまり、それだけの月日を得て今の形を取り戻したのだ。そして、今過去と同じことが起ころうとしている。
つまり、
「逃げますか」
「逃げるの?!」
突っ込んだのは口裂け女だ。
「いやだって無理ですよ。ステータス見ましたよね? 俺一般人並みに弱いですし、カレンさんがいたところで個は倒せたとしても群れは倒せませんよ」
草原の王者・・・ポチも同様だしブラウンは一般人以下の能力しかない。
「その、個を倒してほしいんだよなぁ」
ランスロットの言葉に少年が眉を顰める。
「ありがちな話しだけど、スタンピードの核を倒せば収まるってやつか?」
「そうそう。そこまでのお膳立てはするからボスキャラとかいうのを倒してほしいんだよ」
「まるでゲームだ。くそったれなゲームだ」
そして、少年は言う。
「そんなものお前達だけでやれ」
「君の意見はそうだったとしても「お前の理由にカレンさんを挟むならこの場で皆殺しにしてもいいんだぞ。そもそも、俺達にこの街の危機を救う理由はない」
村の人に世話になった。町の人に世話になった。そういう過程が無いからこそ言える言葉だ。極端な話し今の少年には失って困るものはない。それは縁であり情であっても。失って困るものは何もない。
「あのね、あたしが善人のように語ってくれてるけど、あたしの優先するのはクロ君よ。それにブラウンとポチね」
それ以外はどうでも良い。とは言わないが優先順位は決まっている。
「ならばどうでしょう」
「何が?」
「私達が了承の結果のメリットを示しましょう」
その言葉に少年と口裂け女の肩がびくりと震える。
「まずは金貨での報酬を・・・」
「却下」
金銭はそこまで重要ではない。なぜなら、魔物討伐で金を稼げると知ったからだ。
「家を用意しましょう」
「宿屋で十分だろ」
クリスタは首を横に振る。
「宿屋のグレードによっては盗難すら発生します。ですが高級宿は一泊の代金は今のあなた達の収入では不可能でしょうね」
「なら何なのよ?」
「一戸建ての住居を提供します。街の中心街から離れますが庭付きで二階建て。新婚にはピッタリではないでしょうか?」
「しししししししししししししし新婚なんて・・・」
即座に顔を赤くする口裂け女にクリスタは顔を寄せる。
「声を出しても誰にも聞かれませんよ?」
「っ! pppぴーーーーーーーーーーーーーーー!」
ぼふんと頭の上で何かが爆発する口裂け女。少年は隣に座る彼女を抱き寄せて間近のクリスタに視線を飛ばす。
「都合の良い部分だけを切り取って言うな。言葉を重ねるだけお前等の信用度が底無しに下がっていることを自覚しろよ」
少年が言っているのはクリスタの言っている条件の物件のグレードが低いことを指している。
つまり郊外。街の中心から遠い不便な場所ということだ。
「郊外なのは認めますが良いところですよ。周りの土地を買ってしまえば好き放題できますし」
国の直轄領と違って街の中の土地の所有は市民に任せるシステムらしい。届け出は必要そうではあるが。
「動物も奴隷も所有できますよ。屋敷の室内は多少の手入れは必要ですが」
「・・・・・」
少年は考える。
拠点は必要だ。しかし、ここである必要はない。
だが、ここ以外に移動する手間と、移動した後に拠点を手に入れるための手段だ。
スタンピードの脅威を理解できていない。しかシ、ギルドノマスターまでもが勧誘に来るレベルだ。生半可なことではない。
ならば、
なかなかキュンキュン展開が書けません。でも、この物語の基本はいちゃつきなのでそれを頑張って書きたいです!




