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妖怪28 絡まれました。そして絡みました。

 換金を終えてカウンターを離れる少年。

 そして、それを目にしていた連中がそれまで座っていた席から腰を上げるのは同時のことだった。

 その意味を理解しながら少年は薄く笑い、口裂け女は怪訝そうな表情を浮かべる。

「ようよう兄ちゃん、随分儲かっているじゃねぇか」

「テンプレかよ」

 向かい合うのは一人。軽装の皮鎧をまとった大柄の男性だ。少なくともモヒカンではない。

 当然のことだが剣を腰に下げていても抜き払ってはいない。

「そんなに羽振りがいいなら俺に何か奢ってくれないか?」

「ぶち殺すぞ糞野郎」

「クロ君?!」

 思わず内心を語ってしまった少年に向かい合う男性も口裂け女も「お、おう」状態だ。

「なんか勘違いしてるかもしれねぇが、お前ら最近こっちに来ただろ?」

「それが何か?」

 改めて少年は目の前の男性に焦点を合わせる。

 自分よりは頭一つ大きく、体格はそれに応じた筋肉に覆われていた。

 短く刈った茶色の髪に鳶色の瞳。西洋人にも似た高い鼻梁でどこか愛嬌のある顔立ち。それが笑顔を浮かべながら左手を大きく広げる。

「そりゃあ、俺が毎日ここにいてお前らを初めて見たからだ」

「だから何なんですか?」

 少年の視線は冷ややかなものだ。明らかに不審者に向けるそれである。むしろ毎日いるなんて暇なんですか? と言いたそうである。

「情報が欲しくないかい?」

「情報?」

 当然欲しい。だが、その情報の方向性も重要である。そして、それに対する対価もだ。

「例えば予算に合わせた宿の案内や、初心者に合わせたおすすめの道具屋とかだな」

「それはありがたいですね」

 この世界初心者としてはどんな情報でもありがたかった。

「その対価は何ですか?」

「エール一杯でいいさ。銅貨五枚だ」

 言われるままにそれを渡すと男は立ったままおかわりを頼んで手にしたままのジョッキを飲み干してテーブルに置く。ちなみに木製である。

「おかわりありがとよ。それじゃいただくぜ」

 すぐに届いたそれをうまそうに喉を鳴らしながら一気に飲み干して息を付く。

「それで情報は?」

 その言葉に男性は笑顔を浮かべながら言った。

「ギルドの受付嬢に聞けば教えてもらえるぜ」

 その瞬間、酒場にいた荒くれどもがドッと湧いた。それこそ馬鹿にするような笑みや笑い声で場が満たされる。

「ああ、なるほど」

 そういうことかと納得し、受付嬢へとチラリと視線を向ければ、彼女等も口を押えて笑っていた。つまり、質の悪いいたずらであり、ギルド初心者に対する洗礼のようなものだろう。

「カレンさん行きましょう」

 少年はそう言ってギルドを出て行こうとする。

「く、クロ君、色々聞いていかなくていいのかしら?」

「必要ありません」

 ぐるりと回り一周を見回して、

「いきなり人を騙すような人や、それを知りながら笑っているような職員に聞くことなど一つもありません。次に案内されるのはゴブリンの住処かもしれないんですから」

 笑顔でそう言い放つ。

 そして、その瞬間、沸き立っていたギルド内の笑い声がぴたりと止む。

「兄ちゃん、それは俺がゴブリンだと言いたいのか?」

「ゴブリンは嘘をつきませんよ」

 言外にお前はゴブリン以下と揶揄したのだ。

 その意味に気づいた男は顔を真っ赤にして拳を振り上げる。

 その行為の意味を知った少年は笑む。

 刹那、

「クロ君、馬鹿なことやってないで外に出ましょ?」

 少年と男の間に割って入った口裂け女が拳と、その後に続くであったろう迎撃を事前に防ぐ。


「それに」


 そう言って受け止めた拳を握ったまま視線を男へと移す。マスクをつけてはいるが切れ長の眼差しと浮き上がる鼻梁は美しい女性を思わせる。だからこそ、男は侮るような笑みを浮かべるのだった。

「おいおい、そんな・・・あ、あああぁぁぁ、うがぁぁっ!」」

 そこから先は言葉にならなかった。

 細い手指に握られた拳が音と骨を鳴らして握りしめられる。それどころか押し込まれる力に耐えきれなくなった手首が、肘が、そして、膝を折るまでひざまずく。それは力。一方的過ぎる力の結果。何よりわかりやすかった。

「確かにあたしたちは新人かつカモにされたばかりね。けれど、ネギをしょってるわけでも食べられるつもりもないのよね」

 男のくぐもった悲鳴を聞き流しながら、紅の双眸が細まって周囲を見回し、最後に受付嬢に突き刺さった。

「ほら、言いなさいよ」

「な、なにが・・・」

 突然視線を向けられた受付嬢は困ったように声を漏らす。

「ギルド内で暴力はいけないんでしょう? 初心者が騙されるのを止めなかった受付嬢さん」

「それは・・・」

「ええ、わかっているわ。初心者への洗礼よね。でも、クロ君を殴ろうとしたのはやり過ぎよね」

「テメェもやり過ぎだ。その手を離しやがれ」

 男の仲間が席を立ち、それに合わせて複数の人影が立ち上がる。

「カレンさんこれ以上はやめておきましょう」

 少年は口裂け女の肩に手を置く。

「ゴブリンと違って魔石が取れません」

 これ以上イコール殺害だった。意外に死が身近にあった。

「クロ君がそういうならやめとくけど」

 口裂け女が握りしめていた拳を離した瞬間、男は声もなく崩れ落ちる。そして、ぐるりと顔を傾けると同時に口を開く。

「言っておくけど、治療費をよこせとか落とし前をつけろとか言うつもりがあるんだったら・・・あたしのクロ君に手を出そうとした落とし前つけてもらうからなぁ?!」

 眼光といいセリフといいもはや完全に悪役であった。テンプレの誘い受けの最上位である。むしろ彼等は被害者であったかもしれない。


「お前らおもしろいな」


 その声は受付の方から聞こえた。

 同時に少年の視線が引き絞られる。

 なぜなら、それまで全体に気配察知を行っていたにもかかわらず、その声が予想外だったからだ。つまり、少年の知覚外だったということだ。

 イコール、暗殺者である少年が殺されたかもしれないこと他ならない。

「おお、そこの少年もすごいな。視線だけで殺されそうだ」

 カウンターの向こうから歩いてくるのは身長180センチくらいの男性。ベージュのローブのようなものをまとっているが浮き上がる手足には程良い筋肉が浮き上がっている。

 二十代後半くらいだろうか。灰色の髪を後ろで縛ったその下にあるのは同じ色の瞳と精悍な顔立ち。美男子というよりは野性的な印象が強い。それが笑みを浮かべながら近寄ってきた。

「近寄るな」

 当然の警戒対象である。一方男性は二メートルくらいの距離を置いたまま立ち止まると、両手を広げて自分は無害であるとアピールする。

「先に名乗っておこう。俺はランスロット。このギルドのギルドマスターだ」

「それはご丁寧にありがとうございます」

 そう言ったのは少年だ。

「何の用ですか?」

「いや、うちのバカ共が失礼を働いたようなので様子を見に来たんだ」

 予想外の言葉に少年と口裂け女は訝しがる。なぜなら、くだらないいたずらを行ったのは個人であり、それを見逃した受付嬢も多少の問題があるのかもしれなかったが、それらも形骸化した洗礼のようなものである。それに対して腹を立てたというか牙を剥いたのは少年達の都合でしかない。

 そこに、ギルドマスターという責任者が介入する必要はないのだ。

「このままだとお前達この街から出ていくだろ?」

「すぐにとは言いませんが、生活の基盤が整ったら出ていきますよ」

 出ていく時点で整っていないのだが、装備が整い世界情勢を理解したらという意味である。

「悪かった。馬鹿共の変わりに謝る。だから、この街に居ついてくれないか?」

「言っている意味が理解できないわね。なんで初対面のあたし達がそんなことを言われないといけないのかしら?」

 口裂け女の言葉にランスロットとやらは肩をすくめる。

「いや、お前達強いだろ? 特にあんたA級クラスの実力があると見た」

 そんな言葉にギルド内がざわめく。

「登録したばかりの新米にそんな評価をしたら、今ここにいる古参に反感を買うのをわかって言っているのかしら?」

「冒険者は実力がすべてだ。お前さんが今さっきしたことがすべてだ。ちなみにそいつはB級だ」

 視線を下ろした先にいるのはいまだにガタガタ震えてうずくまる男の姿だ。

「強い冒険者は貴重だ。あんたたちならあっという間にランクを上げるだろ? だから、引き留めてるんだよ。なにより、変な仮面をつけてるがあんたは美人のようだ。粉をかけておくのは当然のことだ・・・」


「良かったな」


 言葉は最後まで言えなかった。

 なぜなら、音もなく、気配も無く、少年の手の平がランスロットの顔面を掴み取っていたからだ。

「お前は呼吸ができる。鼻を鳴らすこともできる。目でカレンを見ることができる。だが、そのすべてがこの手の中にある。先に言っておくが髪の色が同じだから姉と弟とかは言わせない。この人は俺の彼女だ。恋人だ。訳のわからない有象無象がしゃしゃり出てくるんじゃない。粉をかけるどころか気配が近づいただけで命の保証が無いことを知れ」

 とんだヤンデレ発言だったが、口裂け女は胸元に手を寄せてキュンキュンしているから放っておいていいようだ。

「すごいね少年。名前は?」

「登録したから調べればいい。それにカレンさんが呼んだ名前を聞いていないならそれはお前の注意不足だ」

「クロ君といったね。敬語はどこに置き忘れたのかな?」

「敬語と敬意というものはふさわしいものに向ける者だ。少なくとも今のお前に向けるものじゃない」

 少年は手を放して頭一つ上のランスロットに視線を合わせる。

「お前本当に面白いな」

「面白く思われるようなことをした覚えはない」

「今も全方向に視線というか気配察知を飛ばして警戒してるだろ? その歳ですごいな」

 言われるまでもなくその通りである。今の少年は全方向に襲われても対応できるよう神経を尖らせている。一番の警戒対象は目の前のランスロットではあるが。

「顔をつかんだ力は弱い。でも、速度というか動きがすごいな。斥候やその上位ジョブのようだ」

「余計な情報漏洩はケンカを売っている思っていいのか?」

 そう言えば力が弱いと思ってもらえるだろう。実際腕力は体格次第だが、それでも色々手段はある。矮躯でもリミッターを外せばどうとでもなるのだから。

「そうじゃない。俺はお前達と話がしたいんだ」

「初対面で騙すような人達とかしら?」

「人選が悪かったのは謝る」

 そもそも、と続けて。

「衛兵にいる奴から聞いたが、あんな巨大な魔獣をテイムするような奴等を放っておくわけがないだろうが」

 もっともな話であった。

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