妖怪27 間に合わなかった
「やばい奴が来た」
衛兵の一人がそう呟く。
「さっきの三人組か?」
同僚が呑気そうだが衛兵は違う。
「冒険者ギルドに行くように仕向けたがあいつらはやばい」
なら、町に入れるなよと言いかけた同僚であったが衛兵の眼力に言葉を失う。
「あれ、暗殺者だぞ」
「は?」
「間違いなくステータスを偽装してる。あの年齢でレベルが1なんておかしいだろうが」
意外に有能だった衛兵であった。
「ならどうしたらいいんだよ?」
「ギルドに使いを出して監視させろ。姉の方も良くわからない。少なくともまともな存在じゃ無い」
「なら、ここで止めて何とかした方が良かったんじゃないのか?」
もっともな話である。しかし、
「俺達の許容量を超えてるんだよ。あいつの出した魔石のサイズはわかるか?」
「ゴブリン四体分だろ?」
ゴブリンは弱い魔物だと言われている。実際、成人男性が武器を持てば負けることはないだろう。
しかし、
「魔獣がいたとしても足手まといが二人もいる。しかも、弟はレベルが底辺だ。上手くやったにせよ、突っ込みどころが多いんだよ」
衛兵は息を付く。
「そもそも、凶手に突っ込んだ時、流れるように嘘をついたからな」
「え?!」
手品ではない。
凶手とは暗殺そのものだった。
「あいつはやばい。少なくとも俺とお前を殺せる手段と技術があった。それこそ、俺達が意識しないうちに奪うレベルでな」
衛兵は思う。
「冒険者ギルドと町長に馬を走らせろ。そして、A級冒険者のリオン・ボルティクールがその発言をしたということを記録しろ!」
偉い人間が衛兵なんぞするなと思った同僚であった。
まあ、色々な理由はあるらしいが。
「冒険者ギルドにようこそ!」
小説などで良く聞く言葉だった。
そして、向かい合って思う。
「会員登録でよろしいですか?」
「身分証明書はありませんが」
異世界人であるから当然のことである。
「こちらの書類に記入していただければ結構です」
少年と口裂け女は並んで書類を記入していく。口裂け女が生年月日の部分で躓いていたが。
「すみません、生まれた日がわからないんだけど?」
「今の年齢は大体どれくらいですか?」
「ろく・・・「十八です」
「わかりました。ありがとうございます」
少年のフォローにより問題なく進んでいく。
「ステータス登録はなさいますか?」
「今は結構です」
話を聞けば、ランク登録の際に必要になるという。現在の少年達は登録したばかりのEランク。ランクはE/D/C/B/A/Sの順で上がっていき、Cランクになる際にステータス登録が義務になるという。それこそ、個人情報とステータスの紐づけだ。低ランク時の登録不要は単純に死にやすいからである。ある意味無駄を省いていると言えるだろう。そして、少年としては万が一というか己がスキルのやばさを自覚しているので登録なんてするわけがなかった。
「それではこちらがギルドカードになります。紛失した場合、再発行に銀貨三枚が必要になりますのでご注意ください」
そう言ってカウンター越しから出されたのはクレジットカードサイズのプレートが二枚。それぞれを受け取りながら、この世界での存在証明を会得したことに感慨を得る。
「これであたしたちはこの世界の住人ね」
「そうですね。早速魔石を換金してご飯を食べましょう」
そう言ってそれの入った小袋をちらつかせる。
「すみません。魔石の換金はこちらでよろしいですか?」
「はい、結構です。大量にある場合は買取窓口に持ち込んでいただくこともありますが、魔石だけなら受付窓口で大丈夫です」
栗色の髪をした可愛らしい受付嬢はそう言って微笑む。内心はいつだって買い取り窓口に行ってほしいと思っているが、それこそルーキーには優しくするのだった。
「サイズ的には小さいですが結構な数がありますね。すみません、買取カウンターまで移動していただけますか?」
「はい」
といっても右にずれること数メートル。カウンターもつながったままだった。代わりに二十代半ばの男性が疲れた笑顔で引き継いでくれた。
「こんにちわ、私はゲオルドという。ギルドでの買い取りを担当している」
「よろしくお願いします」
そう言って渡した小袋の中身を物色するゲオルド。
「いつの間にそんなものを取っていたの?」
「魔物だけだったら結構殺しましたからね」
異世界物の小説を多少読んでいた少年は、その可能性を予想して殺した魔物の体を解体していた。ただし、あまりにもグロテスクだったので口裂け女に見えない場所でそれを行っていた。だから、彼女に気づかれることもなかったのだが。
「これはすごいな! ゴブリンキングの魔石かな?」
めったに見ないものを目にしたからこその興奮だろう。同時にギルド内がざわつき、少年の瞳がわずかに細まる。
ギルドのカウンターに併設して食堂兼酒場があるのだが、時間にかかわらず多少の冒険者が待機している。そして、今の発言は登録したてのルーキーが大金を持っているぞと言ったのと変わらなかった。
「そういう言葉は周りに聞こえないようにしてもらっていいですか?」
「あ、すまないね」
手遅れではあったが。
実際、今まで感じなかった複数の視線が向いていることを知る。
それこそ、異世界あるあるが起こってしまうではないか。
見る側では面白いかもしれないが、トラブルなんて望んでいない少年達からすれば余計なお世話だった。
ちなみに威嚇対象であるポチはブラウンと一緒に外でお留守番だ。
「小魔石が十五個で銀貨十五枚。中魔石が一個で銀貨五枚。大魔石が一個で銀貨十枚だ。魔石の等級が低いからこんな感じだけどどうかな?」
「魔石に等級なんてあるんですか?」
「うん、魔石というのは色と等級っていうのがある。種族によって色が変わったりもするんだけど、低等級のものは黒ずんでいて、高等級の物は色鮮やかなんだ。昔見た龍の魔石は光のない闇の中でも燦然と輝いていたよ」
明かりいらずのようだった。
もっとも、少年たちの持ち込んだ魔石は高等級でないにせよ、それなりのものだったらしい。
自身らがこの世界において無知であることは自覚していた。だからこそ、少年は問う。
「俺達はこちらに来てすぐの田舎者です。貨幣の価値を教えてもらってもいいでしょうか?」
「ん? そうだね。銀貨一枚で普通の宿に泊まれるよ。もちろん、一人頭でね」
つまりは銀貨一枚が一万円くらいかと当てをつける。
「簡単な食事なら銅貨五枚。銅貨十枚で銀貨一枚になる」
「そうですか、助かります。田舎では物々交換ばかりで硬貨のやり取りしたことなかったものですから」
そう言って苦笑しながら理解する。
つまり、少年達は三十万円くらいを手にしたということになる。
現実であれば小金持ちだ。しかし、この世界であればどうだろうか? 少なくとも向けられる視線はうらやましく思っているようなものではない。ここを出ればトラブルを巻き寄せる者のレベルだ。
そして、
「この後が楽しみですよ」
少年の唇が弧を描いた。
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