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妖怪24 フラグ祭り

「そんな?!」

 それは口裂け女にとって衝撃的な事実であり、少年にとって救いの言葉でもあった。

 そもそも、キスだけで子供ができるようであればハリウッドの映画は子作りマシーンである。

 とはいえ、義務教育を受けていない口裂け女は知識に偏りがあることも知らないことの理由の一つかもしれなかった。

 しかし、そんなことも知らないブラウン(仮称)は腕を組んでフンスと鼻を鳴らしている。

「いいですか? キスで子供ができるならこの世界は人であふれかえっています」

「ほ、本当なのブラウン?」

「それが事実なら私は三歳で妊娠しています」

「いや、それは年齢的に無理だと思う・・・」

 妙なところで常識的な怪異だった。

「でも、それ以外に子供の作り方なんて・・・」

 少年は安堵しながら思う。早くこの流れが終わってくれないかと。

 自分から作った流れなのに、そう思ってしまう元凶だった。

「カレンさんにはまだ早いです!」

「そん・・な・・・」

 そう言って膝をつき、少女に断言される大人の女だった。


 人間二人、人外一人、獣一匹で街道を歩きながら、少女が口を開く。

 ちなみに食事は草原の王者の眷属が狩った草原ウサギを少年がさばいて焼いて食べた。調味料が無かったので大しておいしくはなかった。しかし、奴隷少女だけは喜んでいた。

「まずこの国の名前からですがヤマタイ王国です」

「確実に関係者がいるな」

 余計な単語が加わってはいたが高確率で地球人、しかも、日本人が関わっている可能性が高かった。

「そして、女王はヒミコ様と言って、代々の王女が王位と名前を継承していくのです」

「ほぼ確じゃないか」

「何か言いました?」

「いやな確信があっただけだ」

 ただし、その日本人もしくは地球人が関わっていたとしても、それは現代なのか過去なのかはわからない。しかし、少なくとも関係者が起こした王国であり、それが続いているということだ。

「ヤマタイ王国の歴史は300年位前だと言われています」

 奴隷少女は一度言葉を切ってから、改めて続きを口にする。

「かつて、すべての人間、亜人、獣人、魔人のすべてを追いつめた『アンコール』を討滅したヒミコ様がこの地に建国したそうです」

 戻ってくる確信しかなかった。

「この地を早く去りましょう」

 そう言って口裂け女の手を取る少年だった。

「な、なんで?」

「いや、明らかに復活する予感しかないじゃないですか」

 ラノベ的にそれが魔王という呼称なら納得したかもしれないが、明らかに蘇りの予感をさせる名称だった。300年という期間なんて何の保証もない。むしろ、何らかの理由で300年を維持しているという嫌な予感しかなかった。

「このまま進んで村なり集落なりで情報を収集しますが、ろくな世界じゃなさそうですね』

「そうなの?」

「建国したのがこの世界でいう異世界人。そして、それと対立したのが同じく異世界人。アンコールなんて言う名前は冗談でしかないですよ」

 少年の知識はラノベからきているが、少なくとも言葉の意味だけを捉えるならそう間違ったことではないだろう。杞憂で済めばいい。しかし、無視もできないレベルである。

「ブラウン、他に情報はないか? 俺達は他の国から来たから情報が無いに等しい」

 正確に言うなら別の世界から来たのだが、言ったところで混乱させるだけなのでそんなことはしない。

「そう言われましても、私は奴隷なので読み書きもできませんし知識なんてものは・・・」

「奴隷制度に教えてくれ」

 それ以上に何も知らない少年達からすれば知はそのまま武器につながる。戦闘能力だけでは生きていけないのだ。

 だからこそ、一行は歩きながら現地での情報収集を継続する。

「奴隷には種類がありまして、一般奴隷と犯罪奴隷の二種類です。前者は私のように奴隷から生まれた子供や、誰かに売られて奴隷になった存在です。犯罪奴隷は文字通り犯罪を犯して罪を償うために奴隷にされた人達のことを言います」

「罪を償えば解放されるのか? 一般奴隷は解放されないのか?」

「罪に応じた金額を返済できれば解放されます。でも、大体が過酷な労働状況や戦場に駆り出されるのでほとんどの人が途中で死んでしまいます」

 大体そんなものである。むしろ、使い捨てることが前提なのだろう。少なくとも犯罪を犯した者が服役して更生できるような世界ではなさそうだった。

「一般奴隷の開放は、購入された金額の十倍の金額を購入者に収めれば解放されます」

「意外とまともなシステムだな」

 とはいえおまけがある。

「でも、正規の奴隷はそうですが、国の管理を外れた闇奴隷はそうではありません」

「書類上存在しなければ何をしてもいい奴隷ということか」

 少年は舌を鳴らす。

 胸糞悪い話だった。

 どんな世界でも底辺はいる。少なくとも隣を歩く少女はその底辺にされるところだったのだろう。

 とはいえ、同情はしない。そんなことをしたらきりが無いからだ。少年は善人ではない。そして、元の世界にいた時は少女に近い立場だったからこそ思う。

「最低限はやってやる。そこから先は自分で選べ」

「それはどういう意味で・・・」

 人三人と狼一頭で歩き続く街道に終わりが見える。

 風に流れる草木の風景が終わり、人造物と思われる壁のような物が視界に映った。

 その壁は高さだけでいうなら二メートルほどだろう。それが見据えた正面から左右に広がっている。その規模はわからないが視界の端から端までは埋まっている。

「クロ君、ようやく見つかったわね」

「そうですね」

 右に並んだ口裂け女に少年は微笑む。

「あの、私の扱いとの差が・・・」

「黙れ奴隷」

「差がひどい!」

 容赦のない少年だった。

「とはいえ」

 異世界人が一人。怪異が一人。奴隷が一人。獣が一匹。


『厄介事が起きる確信しかない』


 少年は静かに天を仰いだ。

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