妖怪22 キスとこうのとり
本日三回目です。ご注意ください。
吾輩の名はポチである。
意味は分からないが果てしなく屈辱的な思いがある。
主人は人間である。
意味が分からない。
草原の獣の王として、ここまで屈辱的な思いをしたことはない。
しかし、反旗を振り返せば我は即座に殺されるだろう。
それをなすのは人間。そう、痩身の人間だ。かよわい人間でしかない。
なのに、吾輩は圧倒された。正確に言うなら転がされただけだ。ダメージもそこまでなかった。
だが、見下ろされる視線が交わった時に思った。
あ、吾輩殺される。と。
空を飛ばされた理由はわからない。しかし、それだけで理解した。
これは人間の形をしながら人間あらざるものと。
吾輩は思わず腹を見せて命乞いをしていた。そんなことをするくらいなら素直を命を差し出せばいい。そう思っていたのにも関わらず。
この生き物には殺されたくなかった。少なくともまともに殺してもらえない。そう思えた。
だから、
「うん、良い乗り心地ね!」
「それは良かったです」
人間のメスを二体背に乗せて歩いていた。
おかしくないか? 吾輩は狼である。地を駆けるものである。草原を駆け抜けるものである。
しかし、今は現状に甘んじていた。
草木のない大地を歩きながら二つの重み。
辛くはないが納得がいかない。
「余計なことを考えたら殺す」
言葉はわからないがニュアンスはわかった。それだけで体が震えそうになってしまう。吾輩、草原の王だったのに。
「クロ君も乗る?」
「遠慮しておきます」
痩身の男も軽そうだから乗せても構わないのだが、正直距離を取ってほしい。なぜなら、常に命の与奪をつかまれているような感覚が離れなく、それが事実なのだろう。
そして、何より、吾輩の背の前側にまたがる女は何なのだ? 人間の形をしているが内包しているものは人間どころではない魔力の塊だ。どちらかといえば瘴気に近いがそれでも吾輩の中にある魔石が反応している。これは化け物だと。
そんなものに乗られている吾輩はどうなってしまうのだろう?
「クロ君?」
「どうしました?」
「本当に名前はポチでいいの?」
そんな問いかけに少年は微笑む。
「カレンさんの考えた名前なら何でも素敵だと思いますよ。畜生には過ぎた名前ですらと思いますが」
まったく何も考えていない肯定に獣は少し体を震わすが少年はシカトした。
「でも」
少年は言う。
「カレンさんとの子供には名前をしっかり考えてあげたいですね」
「こっ!」
口裂け女はのけぞりながら獣の毛を握りしめた。そして、獣の体も突然の痛みにのけぞった。
「こここここここ子供なんて早すぎる!」
パニックを起こす口裂け女だが内心はドキドキだ。
『クロ君との子供ですって? 手をつなぐだけでCUNCUNしちゃうのに、その先なんて考えられないわよ!? だって、子供を作るってことはキスするってことでしょ? そんな破廉恥なことしたことも見たこともしたこともないわよ!!』
口裂け女の保健体育は中学生以下のようだった。
ちなみにキスで子供はできません。
「そうですね。二人の時間が沢山ほしいですから」
「っ」
出会ったばかりの二人である。それこそ知り合うための時間は必要だろう。そして、一人の少女と一匹の獣は背に乗りながら乗せながら気まずい雰囲気を感じていた。なんというかできる少女と獣である。
「何ならこの先にある何かにブラウンを売りましょう。そして、ポチを素材にして売り払いましょう」
「っ!」
「?!」
前者は驚愕。後者は恐怖でしかなかった。
「だめよ。どちらも大切な仲間なんだから」
「冗談ですよ」
絶対に冗談ではなかった。
だからこそ、少女は掴んでいた口裂け女の体をぎゅっと抱きしめたし、獣は歩く動作を更に平穏なものにした。
「ああ、安心していいですよ。俺はカレンさんの嫌がることはしませんから」
「く、クロ君にされることに嫌なことなんてないわよ」
「顔を見られるのが嫌なのに?」
クスリと笑う少年に口裂け女は顔を赤くして反論する。
「クロ君が恥ずかしがるようなことを言うからでしょ!」
そして、むしられる獣の毛。正直痛いと思っていた。
「すみません、カレンさんが可愛くって」
「ぷっ!」
むしられる毛の量が増えました。ポチは痛みマックスだった。でも、体の動きを最小限にするのは健気だった。
「未来の話は楽しいですね」
少年に言われてそれぞれが思う。
『クロ君との未来。お嫁さんになってここここここここここここここここここここ子供ができて安心安全の子育て生活』
子供ができることは確定らしかった。彼氏彼女になったばかりなのにも関わらず気の早い話である。しかし、明確な幸せの形としてわかりやすかった。まあ、子作りに至るまで苦労しそうではあるが。
『私の未来?! まずは自由の身になってお金を稼いで家を持って素敵な旦那様を見つけて・・・』
わかりやすい未来予想図ではあったが奴隷の立場ではなかなか難しい未来だった。
『吾輩は・・・』
獣はさっさと開放してくれれば。それだけでしかなかった。
「今すぐにとは言いませんが、キスはしたいですね」
少年がそう言った瞬間、
「で、でも、キスをするのはまだよ!」
「駄目ですか?」
「駄目に決まってるでしょ!」
口裂け女の叫びに少年は驚く。
「な、なんでそんなに怒って・・・」
「大切なことだからよ!」
それは少年も知っていたからだ。しかし、そこまで彼女が怒るとは思っていなかったからだ。
何より、
「女の子はキスしたら子供ができるのよ!」
その瞬間、世界が凍った。
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評価が多いと口裂け女のキスが早まるかもしれません。




