妖怪20 草原の王者?
結局胸の高鳴りどころか暴走の収まらない口裂け女は一睡もできずに夜を明かすことになる。もっとも、怪談である彼女に睡眠が必要かと問われれば謎ではあったが、彼女は倦怠感をわずかながら感じているのであれば心と体を休める必要はあるかもしれない。
一方、少年も満足に寝られたわけではない。しかし、目を閉じ、脳と体を短時間ながら休ませているのだから最低限の休息をとることはできていた。
そして、完全に空気と化していた三人目。ブラウンという少女はいまだ熟睡していた。周囲に生え並ぶ草木が日よけになっているとはいえ呑気な少女であった。
「空気ごと消えていればよかったのに」
「クロ君起きたの?」
それまで無表情以下であった少年は、その言葉に満面の笑みを浮かべて体を起こした。
あからさま過ぎである。
「おはようございますカレンさん」
よく眠れましたかなんて、よく眠れていないことはわかっているのでそんなことは聞かない。
「もう少し休みませんか? 目を閉じるだけで少しは休息になります」
「結構よ。今更寝られる気がしない」
様々な意味を含んでいた。
「とはいえ、それこそ歌みたいね。異邦人だから」
「そんな歌があるのですか?」
「っ!?」
カルチャーギャップが激しいようだ。昭和仕様と平成仕様で。ちなみに名曲である。
「カレンさん?!」
突然落ち込む怪談にフォローにしようとする少年だが、落ち込む原因がわからない少年はどうしようもなかった。
しかし、少年は止まらなかった。
彼は彼女の肩に手を乗せて言葉を放つ。
「カレンさん教えてください」
「え?」
少年は微笑む。
「俺はこの世界のことよりも、カレンさんのことを知りたいです」
「な、なにを言ってるのよ!」
瞬間的に真っ赤に染まりながらなんとか言葉を返すがそれだけでしかない。
「と、突然知りたいとか言われても・・・何を?」
「それこそ、好きな歌や料理や趣味ですね。サバの味噌煮が好きなのは庶民的でいいと思いますよ」
些細なことすら覚えていた少年の言葉に口裂け女は、慎まやかな胸がトクンと来る。
「好きな歌なんて言われても大昔の歌しか知らないわよ」
「それがこの世界の流行になるかもしれませんね」
何とも前向きな少年だった。
しかし、風が吹く。そして、少年の表情から笑みが消える。
「クロ君?」
「鬱陶しいな」
「クロ君?!」
大丈夫と少年は言って立ち上がる。
「どうしたの本当に?」
少年は鼻を鳴らし、軽く首を振って周囲を見回す。その表情は冷たく鋭い。そして、口裂け女は普段とのギャップに胸をときめきながら不安を覚えるというアクロバティックを成功させる。
「ちょっとした有象無象がいるようです」
「何ならあたしが出るわよ」
「単なる駄犬のようなものですよ」
ブレザーを拾って草を拾い羽織る。それだけで少年の戦闘準備は完了だ。もっとも、メインウェポンはないが。
「こう見えてもあたしは強いのよ? そうね、河童よりは」
比較対象の強さがよくわからなかった。
「大丈夫です。カレンさんはそこのブラウンを守っていてもらっていいですか?」
一応空気のような存在にも気をかけてはいたらしい。
「これ、使う?」
カレンの差し出そうとする和傘を少年は首を横に振る。
「それはカレンさんが自分と彼女を守るために使ってください」
あくまで、彼女が優先であった。
「え、ええ」
「朝ごはんも必要です。速やかに戻ってきますよ」
そして、その言葉と同時に少年の姿が消えた。
文字通り消えたのだ。
音もなく、気配も無く。周囲の草木すら揺れなかった。それこそ、神隠しのように。
それは獣だ。グラスウルフと呼ばれは獣の上位種だった。
それは王だ。この草原に存在するすべての魔物の王だった。
多数の命を喰らい、この地の最強で王となった。
しかし、昨日の夜に仲間が戻らなかった。
仲間は増やせばいい。だが、一方的に狩られるつもりはなかった。
匂いは三つ。どれもが人間のものだった。
人間は弱い。時折強いものはいるが、王は生き延びていた。それだけの命を喰らい、それだけの経験を重ねていた。
しかし、自身を最強とは思っていない。それは獣としての本能だ。己より強い者を見た時は迷わず逃げていたからだ。それは空気であり匂いであり魔力である。不穏なものを感じれば王は逃げていた。だが、今回見つけた獣はそれを感じさせなかった。つまり、戻らなかった仲間を害した存在ではないだろう。
そう思った。
刹那、一つの気配が消えた匂いごと。
「っ!」
「狼か。まずいんだよな」
そして、現れた気配。
傍らに立つのは痩身の少年だ。しかし、王には区別がつかない。ただ、痩身の存在が傍らに立ったと理解した。だからこそ、咆哮することすらなく、命を奪うために身をひるがえして牙を剥いて襲い掛かる。
閉じられる牙は人間の首筋を切り裂いて・・・
「お前邪魔。山に帰れ」
切り裂く前に浮遊感。王は空を飛んだ。
「もしくは死ね」
着地と同時に衝撃。即座に身をひるがえし戦闘態勢をとるが、その目の前にそれはいた。
痩身の人間。強さなどかけらも感じられない。しかし、王を見下ろす眼差しはどこまでも冷徹だった。
それは王を王としてみていない。恐怖をたたえていない。
路傍の石を見るように感情が無い。
つまり、どうでも良いのだ。
王たる彼がいようとも、いてもいなくても関係ない。そういう眼差しをしていた。
「死ぬか?」
王には人間の言葉はわからない。
しかし、意味は伝わっていた。
彼とこのまま戦闘すれば死ぬだろう。そういう現実は伝わった。
だから、
「死にたいならこのまま・・・」
王としての意思を!! 貫くために・・・
「くぅーーーん」
速攻で尊厳を売り渡した。
物理的な戦闘パート入れたいんですけど、クロ君暗殺者だから正面からの殴り合いをしてくれないんですよ。クロ君すら作者の手を離れていく。どうしたものか・・・




