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妖怪17 眠れない時は

 人は睡眠を必要とする。

 怪談は睡眠を必要とするか否や?

『眠れない・・・』

 内心でそんなことを思いながら口裂け女は薄く瞼を開く。

「・・・・・」

 映るのは左ひざを立て右足を浅く伸ばした姿勢で目を閉じた少年だ。

 自身が睡眠を必要とするかすらわからないのに、こんな状況で寝ることが難しいことを改めて理解する。固い地面、慣れない状況。そして、自身の下に敷かれた少年のジャケットと、その布地から感じる彼の香り。思わず上着を鼻元に寄せようとして、

『あかん!』

 口裂け女は匂いフェチだった。


『カレンさん寝られてないみたいだな』

 少年は目を閉じながら傍らの存在を心配する。ちなみにブラウンと名付けられた少女は熟睡している。現地民補正と奴隷補正でこういう状況も慣れているようだった。ちなみに少年もこの状況を苦にしてはいない。つまり、怪談という人外が一番ストレスを感じているのだ。

 だからと言って声はかけない。それが尚更ストレスになってしまう場合があるからだ。

 流れる風にさざめく草木の音、時折聞こえる虫の音。肌に触れる涼やかに微風。

 寝床を除けばなんと快適な状況か。

 少年はそんなことを思いながら思考を巡らしていく。

『ブラウンが奴隷だったということは夕日の先に進んだどこかには奴隷を買う誰かがいるということだ。ただし、この世界で奴隷とやらがどういう立ち位置にいるのかがわからない。ラノベにあるような当たり前のものなのか、それとも非合法なものなのか? その内容によっては俺達の動き方も変わっていくな』

 進んだ先にあったのは非合法の奴隷ブローカーの集落でしたでは笑えない。そうだった場合、女性二人を連れた少年は間違いなくトラブルになるだろう。もっとも、トラブルになったとしても、ブラウンはともかく少年と口裂け女をどうにかできるとは思えなかったが。

『でも、武器の入手も必要だな』

 タングステンナイフが砕けたのでメインウェポンが無い状態だ。テグスや暗器はまだ残しているがあくまで予備でしかない。とはいえ、無いものねだりはできないので現地調達するしかないだろう。現状では周囲に伸びる草木くらいのものだ。まあ、そんなものを使うくらいならテグスで事足りるが代用品も必要だろう。

『室内戦闘ならともかく屋外戦闘は専門外なんだよな』

 暗殺者と言っても様々な仕様がある。少年の場合はコンクリートジャングルでの暗殺仕様。つまりは近接戦闘仕様だ。一応訓練は積んでいるがゴルゴ的なことは専門外だ。できなくはないが。

『まあ、この世界に狙撃銃があれば話は別だけどな』

 とはいえ、剣と魔法の世界だった場合、剣はともかくとして魔法はどうにもならない。少なくとも遠距離に対する対抗策が無かった。もっとも、少年一人であればなんとでもできる自信があったが。

 しかし、今は自分以外の誰かがいる。本来ならすべてを切り捨てて自身の線損を最優先するところだがそうもいかない。いや、正確に言うなら切り捨ててもいい人物はいるのだが、それを許さないだろうから現状を維持していると言ってもいい。口裂け女がいなければブラウンは速攻で見捨てられているはずだった。もっと正確に言うなら視界から外していたはずだ。

『まずは生活基盤だな。最悪ブラウンを売り払ってもいい』

 本当に最悪の思考をしていた。

 もっとも、ブラウンには選択肢が無いだろうが。


「クロ君」


「どうしました?」

 それまで思考を廃棄して、そのまま笑顔で声のもとに顔を向ける。

「眠れないのよ」

「慣れない環境ですからね」

 それだけではないのだけれどそれは少年にも口裂け女にもわからない。

「寝るっていう感覚がわからないの」

 口裂け女は怪異だ。現象と言ってもいい。

 現象は発生するものだ。つまり、そこに起床と睡眠はない。

 言い換えるなら現象の発生が起床であり、その終わりが睡眠である。

「どうしたらいいのかしら」

「眠れない夜は誰にだってあります」

 瞼を開けて少年は笑う。

「クロ君は寝ないの?」

「寝てましたよ」

 瞼を閉じれば睡眠。少なくとも脳が視界という情報をシャットアウトして休むことができる。

「でも、カレンさんは眠れないみたいですね」

「うん」

 そんな受け答えがどこか可愛らしく感じられた。

 幼い子供のような言葉だったからだ。

「わ、笑わないでよ」

「笑っていませんよ」

 そういって少年は口裂け女と同じように背を地面に下す。

「い、良いの?」

「状況は把握しているので」

 鼻を突くのは緑の匂い。そして、傍らの女性から感じるほのかの香り。

「また言いますけど良い匂いですね」

「!!!!!!」

 間近の顔が真っ赤に染まる。少年はそれを嬉しく思う。

 殺人者として生きてきた。

 この先の未来なんていつかろくでもない死に方だけをすると思っていた。

 実際、その通りだっただろう。組織の良いように使われて良いように死ぬ。それが少年の役割だったのだから。

「でも」

 彼は今幸せを感じていた。

「好きな人ができた」

「!!!!!!!!!」

 

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