妖怪15 私なんでここにいるんだろ
口裂け女は思う。
「どうしたらいいんだろ」
いきなり異世界に飛ばされて、いきなり戦うことになって、今更どうしたらいいんだろうという疑問は当然のことだった。
見回す先にあるのは草原だけ。地平にの先に見えるのは背の高い山だけだ。歩く先には集落のようなものはあるかもしれないが、現時点では大自然が広がるだけだった。
「そうですね。少なくとも俺達にはこの世界の常識も道順もわからないですからね」
少年の言う通り行き当たりばったりで戦闘をしただけで何もわからない。
つまるところ、
「ブラウン」
少年は出会ったばかりの少女の名を呼ぶ。
「な、なんでしょうか?」
「そう、怯えなくて結構です。あなたはここ周辺の地理に理解はありますか?」
ここ周辺の生まれでないとしても、この世界の生まれではない少年と口裂け女よりはましのはずだった。
「わ、私は・・・馬車に乗せられてここまで運ばれたので何とも・・・」
「ちっ」
何とも使えない奴隷だった。
「クロ君舌打ちはよくないわ」
「申し訳ないブラウン」
速攻の手の平返しだった。
「とはいえ、指針を決めないといけませんね」
少年は空を見上げる。
まだ日は高いが無駄に時間を過ごせばそれだけで追いつめられることになる。なぜなら彼ら彼女らは人間か怪談であり、生身なのだ。少なくとも野生動物のように過ごすことはできない。
少なくとも、地べたで寝泊まりできるようなスキルは・・・少年にしかない。
「クロ君どうしたらいいかしら?」
「こういう場合は踏みならされた道を歩くしかないですね」
アマゾンのジャングルならともかく、奴隷を含めて生きる世界なら道は存在するだろうし、人の住む場所もあるだろう。
「街道のようなものもありました。まずはそこを目指して歩きましょう」
奴隷の少女を連れて彼女等は歩く。そして、背の高い草木の果てに再び街道までたどり着く。ただし、それを先に目指すのか戻るのか、その選択肢は重要だ。
「このまま進むわよ!」
「そうしましょう」
現地人の意見を全く聞く様子が無かった。
「あ、あの・・・」
「なんですか?」
その瞳は果てしなく冷たかった。
「い、一応・・・」
「駄目よクロ君。女の子には優しくしないと」
「すみませんブラウン。何を言いかけたのか教えていただいてよろしいですか?」
さわやかな笑顔が逆に胡散臭かった。
「私達、いつも夕日に向かって運ばれてたんです」
青春に向かっていたのかもしれない。
「つまり、夕日の先に町や村があるということですね」
あまりにも当然のことかもしれないが太陽は空にある。なんというか真上にある。
ということは今現在の時点では前にも後ろにも進めない。
「なら、太陽が傾くまで休むしかないわね」
そういって口裂け女は街道沿いの草木を足で踏んで倒すと、そのまま座ろうとするが少年がそれを止める。
「カレンさん、服が汚れます」
そっと敷かれるハンカチ。そんな気遣いに口裂け女の鼓動が高まる。
「でも、ハンカチが汚れちゃう・・・」
「俺の汗で汚れてるから申し訳ないですね」
むしろ、それを吸いたい!
そんなフォルテッシモ(月島)心を隠しながら腰を下ろす。しかし、ワンピースの裾が地面に触れることに気づき、巻き上げようとしたところで、
「あかん!」
なぜか関西弁の少年がその手を止めた。
「ど、どうしたのクロ君?」
「見えちゃいます」
「なにが?」
少年は顔を真っ赤にしながら手の平で顔を覆っている。
「パ、パンツが見えちゃいます」
「っ!」
口裂け女は慌てて裾の下をたくし上げる。
「今はパンツじゃなくってショーツって呼ぶのよ!」
どうでも良いことだった。
「ご、ごめんなさい」
「い、いいわよ、クロ君なら」
そんな桃色の空気を醸し出しながらこの世界の少女は思う。
「・・・私なんでこんなところにいるんだろ」
この世界の住人でしかないからだった。
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