妖怪14 あかん
少年は思う。
この世界が異世界であるのは間違いないと。
しかし、少年はともかくとして、口裂け女が実体を持って移動してきたのは想像外だった。
そして、異世界の異形やその他もろもろは想定の範囲でしかなかった。
少なくとも、自身の能力が通用するならなんとでもなるとも思っていた。
もっとも、彼のオタク部分が俺つえぇぇーーーーーーーを少し期待していたのだが、よくよく考えればそんなもの無くても、なんとでもなるなーと異世界への期待を自分で台無しにしていた。
だって、魔物に盗賊に苦労しなかったからだ。
もちろん、人外の能力を持っているような化け物はいるかもしれない。
しかし、彼は暗殺者だった。現代の暗殺者だった。そんな人種は真正面から戦うような愚かなことはしない。つまり、俺つえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーは成立しないのだ。
「まあ、いいか」
そして、完全の少女に視線を落とす。
「立てますか?」
「わ、私は・・・」
ちなみに返事が無ければ速攻で見捨てる予定だ。
少年が必要としているのは口裂け女であり、それ以外は些事でしかない。
「立ち上がれないなら・・・」
「クロ君ーーーー!」
「助けますよ」
心の中での手の平返しがひどかった。
「大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫そのものです」
多少文法がおかしかったが、笑顔で振り返る少年の表情に口裂け女は胸を押さえてcuncunしているようだ。痙攣して悶絶する仕草が不自然なのにリアルだった。
「あ、あなたは・・・」
「カレンさんの言葉を遮るな」
遮ってすらいないのに理不尽だった。
「あ、あたしはカレンよ。く、クロ君の彼女よ!」
いつの間にか天元突破して彼女になっていた。そして、彼女は自分の発言を思い出し、慌てて否定する。
「そ、そうじゃないわ?!」
「違うのですか?」
問う少年。
「違わないわ!」
即座に否定の怪談。言葉の切れ間からのマッハであった。そして、異世界カップルが刹那で成立した瞬間だ。まあ、本格的に自覚はしばらくかかるだろうが。
「は、はあ・・・」
少女はとまっどっているが当然だろう。少なくとも、この状況を理解できるのだとしたら人外の精神である。
「それで、彼女は誰なのかしら?」
口裂け女の軽い嫉妬を含めたジャブ。
「知りません。現地の人間で盗賊やゴブリンから逃げていたようですが興味ありませんね」
情報収集すらする気が無いようだった。
「そういえば、あの緑の化け物は・・・」
「みんな逃げていきましたよ。俺たちが来たから警戒したのかもしれませんね」
最大警戒でも生き残れる気がしないほどだった。というか全滅していた。
「わ、わたしは・・・」
「無理はしなくていい。辛いことを思い出さなくてもいいんです。だから、早く逃げてください」
少年は邪魔者を排除しようとしていた。割とえげつなく。
「で、でも・・・」
「ここにはまだゴブリンがいるかもしれない。ここは俺達に任せて逃げてください」
少年がすべてを殺戮しました。
「クロ君」
「なんですか?」
振りかえる少年に口裂け女は諭す。こちらは完全なる善意で。
「彼女は不安なのよ。なら、助けてあげるのがあたしたちの仕事よ」
「カレンさんがそういうならその通りですね」
少年の曇りのない笑顔に口裂け女は顔を赤くして背け、半裸の少女はこれ以上ないほど胡散臭いものを見る目をしていた。
「あなたの名前を教えてくれない?」
口裂け女が問うと、少女は首を横に振る。
「私は奴隷なので名前はありません」
「奴隷?」
口裂け女はもちろん、少年には覚えの遠い言葉だ。少なくとも現代に奴隷はいない。つまり、奴隷の概念がわからないし、彼ら彼女の作法がわからない。
「奴隷には名前が無いの?」
「奴隷にされる前には名前がありました。でも、奴隷になると名前が無くなるのです」
何を言っているのかわからない。
しかし、彼女からしたら当然のことのようだった。
「名乗ってはいけないということ?」
「奴隷契約で名前が名乗れなくなっています。だって、消耗品に名前を付けたらきりがないじゃないですか」
「っ」
少年が小さく舌打ちする。しかし、それは誰の耳にも届かなかった。そして、彼女がそれを当然のこととして受け入れていることに腹を立てていた。
「ふむ。なら、あたしは君を何て呼んだらいいのかな?」
「番号とか記号でいいですよ?」
「なら、新しく名付けてもいいのかしら?」
「暫定的な呼び名という意味なら構いません」
言われて二人は少女を見る。
栗色の髪を肩まで伸ばした小柄で細い少女だ。日本人とは違う白い肌に少し高くすっきりとした鼻。神と同じ色の瞳で愛くるしい印象の少女だ。
口裂け女の思った印象はリスのように可愛らしいであり、少年の感想はどうでも良いだった。ある意味恋愛ゲームの中では好意がカンストしていた。無論、口裂け女に対して。そして、補足しておくが、少年は人間だ。多少、異常性癖があるだけで。
「なら、あなたはハ〇太郎ね」
「あかん」
思わず関西弁になった少年だった。
「カレンさん、別の名前にしましょう」
有無を言わせない眼力があった。
「そ、そう? なら、ブラウンなんてどう?」
「素晴らしいネーミングセンスですね!」
毛色を現す素晴らしい犬猫の名付け方だった。しかし、少年は否定しない。どうでも良いからだ。
「私もそれでいいです」
意味を理解できないとはいえ健気な少女だった。
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