妖怪13 お前を殺す
「クロ君!」
口裂け女の目の前から少年は消えた。それこそ音もなく気配も無くだ。
彼女は彼をライトストーカーをしていたから知っている。
少年はまともな存在ではないということを。
でも、それを知っているということを表面化をしない。
なぜなら、彼に嫌われてしまうかもしれないという可能性があるからだ。
まあ多分、何があっても嫌われないとは思うが。
とはいえ、少年が消えた後に口裂け女は思う。
「心配ね」
cuncunとは別の意味で。
むしろ向かい合う存在の心配を心配してもいいレベルである。
なぜなら、ほぼ、武装もない状態で、誰かを助ける。何かを殺すという事象を起こそうとしているのだ。無謀な突撃なら止めるべきだろう。
しかし、少年はそうではなかった。
ライトストーカーはそれを知っているから止めなかった。
そして、
「オマエハナンダ?」
「ああん?」
鼻を突くのは獣の匂いだ。
青臭く言葉にできない獣臭。生臭く喉の奥すらも突き、吐き気を催すものだ。
加えて血の臭いまでまとわりついているなら尚更だ。
ズシンと、
足音が聞こえた上でそれは現れた。
背の高い草木を越えた巨体。
緑の肌と長い耳、それに体格に見合った筋肉と手にした大剣。少なくとも身長は200はあるだろう。
それが口裂け女の目の前に現れた。
「言葉がしゃべれるの?」
怪談とモンスターの会話である。
「コンニチワ。ハジメマシテ。ワタシハイイゴブリンデス」
「そう、初めまして」
直後に振るわれる大剣。
口裂け女は身を低くしてそれを回避する。
「新しい挨拶ね」
基本的に口裂け女は口裂け女でしかない。ただの怪談だ。超人ではない。そもそも、人ですらない。そこに戦闘能力の有無はない。
どこぞのなにかを何とかしたが、それはそれであり、それでしかない。
「どうしたものかしら」
手には和傘もとい直刀はある。
口裂け女自身、どこまでできるのかがわからないのだ。
だって昨日まで霊体だったし。
だが、
「あんたを放っておけばクロ君の所に行くのよね?」
「コンニチワ、ナカヨクシマショウ」
振り上げられる大剣。
「そうね」
口裂け女は笑う。それこそ、口の端まで広げて笑った。いや、裂きながら笑った。マスクの端から見える歯茎を晒しながら笑った。
轟音。
振り下ろされた大剣は口裂け女を直撃していた。その上で加味された衝撃は大地を震わせ粉塵を舞わせていた。しかし、本来なら両断した上で、大地に突き刺さるだけだったはずだ。だが、粉塵は舞った。つまりは、受け止められたという事実があった。
そして、
「私の知り合いにぬりかべっていうのがいるんだけれど」
舞う噴煙の中からそれは言った。
「あれは私が全力で殴っても切りつけても傷一つつかなかったわ」
赤い衣装が見える。それ以上に赤い瞳が爛々と輝いていた。
その瞳が緑の巨体をなぞる。甘く握った左手が大剣を掴み取りながら。
「あんたはどうでしょうね!」
刃を抜くまでもない。和傘ごと振るう力のままに叩き付けた。
轟音。
空気が震えた。
そして、目の前から巨体が消えた。
同時に、何かが地面に叩き付けられて飛んでいく音が届いた。
「ったく、大入道とケンカした時より雑魚いわね」
やぺぇやつとケンカしていた。
とはいえ、音の原因は今もバウンドしている。
「どうしたものかしら」
止め自体はどうでもいい。いつでもどうでもできるからだ。
とはいえ、彼女が考えるのは少年のことだ。
「コンニチワ。ハジメマシテ」
そして、さらにそれは現れた。
身長で言えば300を越えていた。言うまでもなくゴブリンであり、チャンピョンとかキングとか付くレベルの化け物だ。そして、それはキングだった。なぜなら、王冠をかぶっていたからだ。
もっとも、口裂け女には関係ない。
「さっき失礼なのがいたけれど、同じなら同じように片すわよ」
少年の力が視覚の外から襲う人の力なら、口裂け女の力は現実から乖離した人外の力だ。少なくとも物理的にかなわなかったとしても、怪談という領域に持っていけるのだから。
だが、
「テメェがクロ君の所に行くことを認めない」
振るわれるのは刃。突き刺さるのは地面。
闘争の気配すらなくそれは終わる。
左右に分かれる王冠と、ねばりつく臓物が音を立てて落ちていく。
口裂け女は直刀の血油を払いながら思う。
「一体逃がしたわね」
そして、バウンドしながら逃げた一体。
俗にいうホブゴブリンだ。
「ワタシハイイゴブリンデス」
そういうと助かる時もある。だから、その言葉を吐いていた。
だから、
「俺は良いやつも悪いやつも殺してきたよ」
黒い影がその頭部をつかんだ。
力は強くない。
しかし、ゴブリンは死の色を見た。
黒い影はそれこそ、口の端まで裂けるような笑みで、
「お前を殺す」
直後にゴキリという音が聞こえてゴブリンの意識は消えた。
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戦闘描写ばかりですみません!
リリーナすみません




