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妖怪12 草原の怪異

 近づくのは人間か獣。

 それだけであり、それ以下でしかなかった。

 つまり、狩るだけだ。

 これ以上簡単な話はないだろう。

 そして、少年は思う。

「面倒だ」

 悲鳴のようなものが上がったということは人間がいる。

 助ける必要があるかないか?

 少年は心の底から思う。見捨てようと。

 だが、となりの女性はそうは思わないだろう。

 今度も盗賊誘因の可能性もあるが助けようとするだろう。

 少年は思う。知覚する前に殺せばいいと。

 引きずり倒して連れ去ればいいのだ。

 しかし、

「誰か助けてぇぇぇーーーーーーーーーーーーー」

 演技には聞こえない声。

 演技だったとしても響かせる理由が無い。なぜなら、今の少年たちは己の痕跡を完全に絶っていたからだ。

 ならば、助けを求める声は迫真の演技ではなく現実のものだろう。

 とはいえ、先程の例もある。

「カレンさんどうしますか?」

「助けましょう!」

 即断であった。

 とはいえ、声の主が誰かもわからなければ、何に追われているのかすればわからなかったのだが、即断だった。

「っ」

 少年は苦笑する。自身であったならば聞かなかったことにするし、そもそも、助けるという選択をしなかったはずだ。しかし、口裂け女の一存で己の行動を決めてしまう自分がおかしくて仕方がなかった。

「それじゃあ行ってきます」


 草木の背が高く視覚なんて無いに等しい。そして、悲鳴の主は草木の向こうにいるようだ。

 だからこそ、五感を・・・特に聴覚を済まして少年は顔歩向ける。

「こっちか」

 飛び出す姿に戸惑いはなかった。

 左腕を前に出して草木が顔に当たるのを避けながら、その足が踏む速度は全力に近いものだった。

 つまり、それだけの確信があるということだ。

「案の定」

 聴覚に続き、嗅覚が反応する。

 獣臭いというか土臭い異臭。それの合間った独特の匂いと地面を叩く足音。

 少年はすぅっと目元を細めながら、握りしめていた手をそっと開いた。

 その瞬間、少年は消えた。

 文字通り消えたのだ。


 彼女は走っていた。

 全力で走っていた。

 追われていることを知っていて、追いつかれたら自身が終わることを自覚していた。

 なんでこんなことに?! 頭の中を駆け抜ける言葉はそれだけだ。

 盗賊に襲われ護衛を殺されて、それでも何とか逃げ延びて、その挙句に野良のゴブリンに追われていた。

 場合によっては盗賊に捕らわれていた方がましな未来だったかもしれない。とはいえ、犯された上で奴隷送りだったかもしれないが、それでも、ゴブリンに犯されて子供の量産袋にされるよりはましな未来だった。

 今も足音は聞こえている。そして、自身の体力が限界に近いことも自覚していた。

 だからこそ、

「あっ」

 躓いた爪先から、倒れていく視界が理解してしまう。

『あたし、ここで終わるんだ』

 同時に衝撃。

 顔から倒れることは何とか避けられたが、受け身を取ってあお向けになった彼女の視界に映ったのは、

「っ!」

 緑色の人型の獣。身長は150半ばで右手には木で形成されたこん棒。ぎょろりと濁った瞳に黄色く汚らしいギザギザの歯根。言うまでもなくゴブリンそのものだ。一体だけでもどうにかできないのに、それが三体もいた。

 ニタニタと種族が違ってもわかるような笑みに彼女は絶望する。死に対する絶望じゃない。孕み袋にされた上で先のない未来に対してだ。


「これだけか」


 刹那、音もなくゴブリンの一人が消えた。

 それこそ、音もなく。影もなく。


 ゴキン。


 そんな音がどこかで聞こえた。

「っ!」

 彼女の戸惑いに気づいたゴブリンが異変に気付いた瞬間、もう一体のゴブリンが消えた。悲鳴すら残さず、気配すら残さず。


 ゴキン。


 それは一種の悪夢だったかもしれない。怪談だったかもしれない。

 草原に潜む怪異。

 出会ったら最期、連れ去られてしまう何か。


「!!!!!」

 緑の獣が叫び、右手のこん棒を振り回して威嚇するが関係ない。

 なぜなら、


 ゴキン、ボキン、ガリ、ゴリ、ゴキン、ガリ、ゴキゴキ、バキン、バギ、ゴゴキン、バキリ。


 何かが砕ける音が周囲そのものから聞こえたからだ。

 そして、それだけの数の異形が周囲にいたことになるのだが、今は関係ない。背の高い草木に隠れていたそのすべてが命を散らしていた。

 こうなれば戸惑うのは異形達の方だ。

 一方彼女は草原に住む亡霊の怪談を思い出していた。

 それは背の高い草木に住まう人ならざるものだ。

 それは、己の領域に入り込んだものを音もなく攫うのだ。攫われたものがどこに行くのかは誰もわからない。だから、子供は大人に言われる。一人で草原に行ってはいけないよと。

 無論、それは言うまでもなくただの注意であり、現実では人や人以外の何かに害されるかもしれないからという補足が付くが、それでも、時折説明のつかない事実が発症し得ることもあった。

 それが現在である。

 サラサラと音を立てる草木に、目の前のゴブリン。

 もはや周囲に音は無かった。


「お前で最後だ」


 ヒュッと音が鳴ったかと思えば、ゴブリンの首がくの字に曲がって消えた。直後に聞こえたのは、

 ゴキン。

 という何かが砕ける音、それは確認するまでもなく、ゴブリンの命が消える音だった。


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