第一話 アンファング
「ここは…どこだ…」
気がつくと、どこかの家のベッドに俺はいた。右に窓はあるもののカーテンはなく、オレンジ色の光が直接布団に差していた。もう少し状況を理解しようとしたが、強烈な眠気と、今まで感じたことのない心地よさが俺を襲い、再び眠りについた。
「起きなさい。もう朝だ、早く起きなさい。」
俺は聞いたことのないしわがれた男性の声に起こされた。
「あ…はい…」
そういいながら目を開けた。
寝起きのぼんやりした視界に白髪でがたいのいい老夫が移る。
「具合はどうだ?」
老夫が顔を覗き込んできた。
「え、あ、はい。大丈夫です。」
そう俺が答えると、老夫は微笑みながら
「そうかそうか、それなら良かった。もう朝食はできているから早く食卓へ来なさい。隣の部屋だから。」
老夫は隣の部屋へと消えていった。
「ここはどこなんだ?あの日は魔法陣が起動して…吸い込まれて…うーん…」
そんなことを呟きながら辺りを見回す。すると、あることに気がつく。
「俺が好きな冒険系アニメに出てくるような内装してるって事は…異世界かここ」
なぜだかすんなり受け入れられた。
(そもそも魔法陣が書いてあったあのサイト、聞いたことなかったサイトだし。まぁ…これはこれで…あっちはつまらなかったし…あ、もういかないとなにか言われそう。)
心の中で呟きながら、隣の部屋のドアを開けた。その瞬間、いいにおいが鼻の中に充満した。隣の部屋には食卓にパンやベーコン、スープ、サラダなどが置かれており、そしてそこには老夫婦が居た。
「おはよう、坊や。よく寝れたかい?さぁ、早く食べましょう!」
元気のいい老婦人が挨拶してきた。
「あ、おはようございます。ありがとうございます。」
俺はそっけなく挨拶を返し、席に着いた。
「いただきます。」
全員が食べ始めたときに、老夫が質問してきた。
「昨日は驚いたよ、坊やが家の横の草むらに倒れていて。どうして倒れていたんだい?それと名前はなんて言うんだい?坊や。」
(倒れていたのは適当にごまかすか…あと名前か。本名名乗ろうか…偽名名乗ろうか…本名は浅岡公則だし、アーサーとか?でもこの名前は英雄名だしな…てか、なんで坊やなんだよ。俺はもう16だぞ。って、考えている暇はないな、間がありすぎると怪しまれる!)
「乗っていた馬車が何かに襲われて…そのとき両親は、体を引き裂かれて血を流していて…怖くて必死に逃げたのですが、力尽きて倒れてしまって…自分の名前はエルマーです。」
(あっちゃー!焦って奥にあった棚の本の作者名つい言っちゃった…)
一気に暗い雰囲気になった、少しの無言ののち老夫が
「そうなか…それは災難だったな…エルマー、帰るところはもうなかろう。どうかね、私たちの養子にならないかね?」
「いいえ、大丈夫です。もう自分は16で大人に近いので。がんばって強く生きます!あ、あと
呼び方エルでいいです!」
そう言い放った俺を老夫婦が見て、そして二人は目を合わせ笑った。
老夫は笑いながら俺に言った。
「おいおい、冗談じゃない。君が16?いやいや、どう見ても10歳前後ではないか!」
「え…?」
(は?え?理解ができない、なんだそれ。)
あっけに取られた表情の俺を見て、また笑い老夫がまだ寝ぼけているのではないのか?と言いながら玄関に鏡があるから見て来いというので急いで見に行った。
「はあああああああああ?????」
思わず叫んだ。老夫の言うように見た目が10歳くらいに見える。
「何で…ま、まぁ怪しまれたりするのは嫌だし、とりあえず寝ぼけていたってことにして…てか、この年齢だし養子になるしかないか…」
そう悟った俺は食卓へ戻り、
「やっぱり養子にしてください」
と老夫婦にお願いをすると、快く受け入れてくれた。さっきのことは寝ぼけていたことにし
ておいた。
こうして、浅岡公則ことエルマーの新たな世界と、新たな生活の幕が上がった。




