鬼子母神
ぶりぶりセクシー忍者
息子の通う大学へ、その道中は賑やかなもんだわ。
若いのはどいつもこいつも雰囲気は垢抜けてるわ、でも中身はまだ子供だね。
その中でもスーツ来てる奴はそいつらを見て何だか……おや?懐かしがってるのかい?たった十年や二十年長く生きた程度で生意気だね。
しかし、ここは本当にここは……騒がしいね!どいつもこいつもピーピーと!1人1人は恐らく大してデカイ声は上げてないんだが何分、人の数が多い。なるほど、田舎だの都会だのどうでも良かったが、こうして来てみれば分けて考えたくなる気持ちも分かってきたよ。
───っと!「どこ見て歩いてんだい!!肩の上に載ってる立派なモンはかぼちゃか何かだったのか!!目ン玉くらい前向けて歩きな糞ガキ!!」 ケータイに釘付けで突っ込んできた馬鹿を怒鳴りながらひっぱたいた。年寄りに余計な体力使わせんな!
人が多い、その中にもあんな奴が紛れ込んでるんだから!……助広は大丈夫だろうかね。
そんな事を考えていた矢先、騒がしくも都会らしい雰囲気の中で、
突然、山の中で慣れ親しんだ感覚。
山の中の、これは……誰かが別の誰かを狙う視線、か?物騒な奴もいて当たり前か。
身構えた直後、轟音!!!
炎が!!雷が!!そして、人が……凍りついていく。物の例え、じゃあないんだよな。
身体が上手く動かない。荷物は置いてきたんだが……、年は取るもんじゃないね。
身体を反転して目に入ってきたのは……すっとぼけた顔して固まってる20近そうなガキだった。
呑気そうな顔に、何でか旦那の姿がちらついて仕方がない。
思わず右手を奪って走り出し……何で自分で動こうとしないんだい!!こんな婆やに引かせる気かい!?
そういやあのうすらトンカチも、死ぬ最後まで呑気にしてたんだっけかね。
こんな時に限ってそこまで似なくて良いだろうに。お陰で今すぐ逃げなきゃならんのに、手を離す気になれない。シメるぞ。
再三怒鳴ってやっと自前の足っこをせかせか動かしてくれた。だが、頭は働いてなさそうだね。
周りの若いのらは、どいつもこいつも、無事な奴等は凍りついた様に動かないもんだから、見かねて怒鳴り付けたらやっとこさ動き出した。
ガキ一人引っ張っていくだけでも辛いのにさ!
息は上がり、久しくかかなかった汗が滲む。まぶたの閉じる頻度は上がり、その度に自慢の息子の影がチラつく。
全く!アイツは俺なんぞよりずっと上等なオツムしてんだから!無事に決まってるんだ!
そうだろう?助広……。
─────────
頭、頭もそうだが胸が、それに足腰も痛ぇ……クソが。
適当な所まで来たと、そう感じた途端にへたりこんだ俺を、あのガキが喫茶店に連れ込んだ。(色のある文脈だが、アイツはガキで俺はババアさ。残念だったね?ん?)
隣に座るガキは……俺の背中を擦りながら周りを見渡してる。
気遣いが出来るのも周囲を探る事を忘れないのも花丸あげたいが、……オツムは未だに動いてないね、なら零点だ。
努めて息を整えながら、"今日の予定"に頭を巡らした。
さて、まず警察だ消防だ救急車だの、呼び掛ける声が多数。だが……電話が通じない?なるほどな。
ああ、合点が行ったよ。アイツらの目、そして動きにね。
ガキを怒鳴り付けて立たせ、身繕いをして店を出た。……隣の席の飲み物を横目で見てる。喉が渇いたのか?だが飲んでる暇は無いよ。
どうやって逃げるのか、奴等の手段も目的も馬鹿な俺には分からない。
だが、逃げる糸口はある。アイツらの"動き"だ。
山には色んな"動き"がある。狐に猪に蜂に兎に熊に、たまにネコも見かけたっけ、そこに人。各々に違った立場があって、だからこそ"動き"も違う。
熊が人を追う動き。
人が熊を追う動き。
狐が兎を追う動き。
兎がネコから逃げる動き。
熊が蜂を見つけた動き。
アイツらの"動き"は……、人が兎を追う動き、だ。
サタンバリケードぶりっ子