第66話 菊野家
新章突入(?)
画面に映る写真を見て、勝手にニマニマとしてしまう。 カラオケから出た後、最後にバイバイする直前に撮った写真。 西陽に照らされて、顔が赤いのはよくわからない。 大地と二人の初めての写真。 せっかくだから、今度印刷して飾っておこうっと。
それからの数日は、あたしはイベントがあったし、大地は部活で会えなかった。 それは、そうよね。 互いに春休みが休みじゃないんだもの。
そんなことはわかってる。 でもでも、あたしだって少しも時間取れないわけじゃないんだよ。 駅で、ちょーっとだけ話すだけだっていいの。 ほんの数分でも。
「それにしたってさぁ、メッセくらい送ってくれたっていいと思わない? ねぇ、コメちゃん」
そう言いながらベッドの上でコメちゃんのお腹をうにうにといじくる。 コメちゃんはそのつぶらな瞳で、わかるわかる、と言ってくれてるような気がした。
そんなあたしの声を聞いていたかのように、スマホがピロンと鳴いた。 ガバっと起き上がってスマホを見てみると、大地の名前が映されていた。 ホントに聞こえちゃったかな。
『今度の金曜日は休みだったよな? ウチに来ない?』
『うん。 オフだから大丈夫』
『それじゃ、また連絡するよ』
『うん』
すごいあっさり! 業務連絡なの!?
大地って、付き合っててもあっさりした感じなのかな。 もしそうだとしても不思議ではない。 だって、もともと不愛想だもんね。
こうして迎えた今日、 杏果ちゃんにリビングに通されて話をしていると、今日こうして招かれた理由がわかってきた。
最近の大地は態度が妙に生ぬるく、へらへらと笑っていることが多かったんだそうだ。 特にテレビを見ている時。 どうやら杏果ちゃんはそれでピンときたらしい。
大地は直接的に付き合い始めたことを話してはいないみたい。 それでも勘付く杏果ちゃんは流石としか言いようがない。
「兄貴がこんな綺麗な人を彼女にして連れて来るとは思わなかったなぁ」
「綺麗だなんて。 あたしなんか地味なだけだし」
「まさか。 眼鏡かけてても綺麗なんだから、コンタクトにしてメイクしたらめっちゃモテそう」
なんて鋭いんだろう。 とても大地の妹とは思えない。 実は、その姿でアイドルやってます! 口が裂けても言えないけど。
「お世辞でも嬉しいな。 でも、あんまり目立つの好きじゃないから」
「えーっ、そんなこと言わないでやってみましょうよー」
「こら、おきょん。 そのへんにしとけ」
二階から降りてきた大地が助け舟を出してくれた。 はぁ、助かった。 杏果ちゃんは相変わらず押しが強い。
あたしの顔を見るなり二階に上がっていた大地は、イルカもといサメのぬいぐるみを手にしていた。
「ほら、サメ」
「えーっ、ホントだ。 こう見せられると、言い返せないなぁ」
「そのぬいぐるみ、美咲さんのプレゼントだったんだ。 ガラにもないもの持ってると思ったら」
そこまで杏果ちゃんが言ったとき、大地がしまった、という顔をした。 それが『千春』からのプレゼントだってすっかり忘れてたみたい。
「そ、そうだ。 これ美咲が持っててくれよ。 ほら、カワウソのぬいぐるみと一緒にさ」
「やだ、なにプレゼント送りあってたの!? ラブラブじゃん」
「ああ、もう! わかったわ。 サメちゃんはうちの子と一緒に置いておくね」
「お……おう」
杏果ちゃんに圧倒されて、二人してタジタジ。 こうやって今日の予定も決められたんだろうね。
「じゃ、美咲さんが持ってきてくれたシュークリーム出すねー」
杏果ちゃんは嵐のように喋ったあと、キッチンへと向かっていった。 ようやく大地との二人の時間が訪れた。
「相変わらずパワフルだね」
「――すまん。 あと連絡も遅くなってごめん」
「あ、ちゃんとわかってくれてたんだね。 彼女のことほっぽらかしてー。 なんて? 」
「いや、なんか恥ずかしくてさ。 あと、仕事中だったら悪いかな、なんて思ったり」
「出られない時は電源切ってるから大丈夫だよ。 でも、あたしも意地張ってないで連絡するね」
「なんだよ、意地張ってたの? 」
「だってー、あたしばっかり気にしてるみたいで悔しかったんだもん」
「そうだったのか……。 俺、なんか色々考えちゃったよ。 ごめんな」
そう言いながら、大きな手か頭にポンと乗せられた。
「ほら、そこのバカップル、準備できたよー! 」
キッチンから罵声が飛んできた。
テレビを見ながら、シュークリームを頬張った。 カスタードと生クリームが両方入ってるから、おトクな気分。 テレビの再放送を見ながら、のんびりと甘さを味わっていた、その時だった。
ガチャガチャ。
玄関で解錠の音が聞こえる。 これはまさか――。
「ただいまーっ」
「ただーいまー」
声の主はまさに予想通りで、この家の家主であった。
大地の方を見るも、俺は知らないとばかりに首を振った。 それは杏果ちゃんも同じだったようで、手のひらで額を抑えていた。
「あら、美咲ちゃん! いらっしゃい! 」
「ご無沙汰してます。 またお邪魔してます」
「いいのよいいのよ。 もしかして毎日来てる? 」
「いえいえ、まさか。 先日お会いした時以来ですよ」
「なんだ、可愛い子連れてきて! 大地! 誘拐してきたんじゃないだろうな」
「んなわけねーだろ! 親父じゃあるまいし」
こないだも急なことで驚いたけれど、今日はまさかお父さんまでいるなんて。 一気に緊張が高まる。
「あ、あの、あたし春山美咲と言います。 その、大地さんとお付き合いさせていただいて……」
「なにーっ!? 大地、お前俺を騙そうったってそうはいかんぞ」
「何で騙す必要があるんだよ。 ちょっと落ち着け! 」
自己紹介は最後まで喋らせてもらえなかった。 でもこの賑やかな感じの中で大地は育ったんだなって思ったら、それを見ることができてちょっと嬉しかった。
「ああ、恥ずかしかった。 うるさい親ですまんな」
「ううん。 告白シーンをドラマ仕立てでやらされてるのは面白かったけど」
「あれ、なんで美咲は参加してないんだよ」
「だって恥ずかしいじゃん」
「ひでえ」
思わず笑いが漏れた。 大地の家にいるときから、どれだけ笑っただろう。 心から笑いあえるこの関係に心地よさを感じる。
でも、それもあと数分。 駅が見えてきてしまった。
「ねぇ、大地」
「ん? 」
「今度は、ウチに遊びにきてね。 ちゃんと、サメちゃん飾っておくから」
「わかった。 楽しみにしとく」
「うん。 それじゃ、ここでいいよ」
「なんで? もうすぐそこ駅じゃん」
「うん。 だから――」
駅まで行ったら人が多いから、キスとかしたら恥ずかしいじゃん。 誰が見てるかもわかんないし。
繋いでいなかった反対側の手で、大地の手を握った。 それと同時に大地の視線も捕まえてから、目を閉じた。
おニブさんの大地もわかってくれたのか、5秒くらい経ってから一瞬だけ唇に柔らかさを感じた。
「それじゃ、おやすみなさい。 メッセ待ってるね! 」
「ぉぅ」
声ちっちゃ! でも恥ずかしいから、そのままバイバイ。 北口に抜ける時に一旦振り返ったら、大地はまだキスしたあとの体勢のまま立っていた。 最後にもう一度手を振って、マンションに向かった。
ちょっとペース落ちてしまうと思いますが、引き続きお楽しみいただけると嬉しいです。




