第50話 二等辺三角関係
わちゃわちゃ回。
「美咲、チョコ作るの手伝ってーっ」
バレンタインの一週間程前に、友紀に泣きつかれた。 山田くんにあげるチョコをどうしようか悩んでパンクしちゃったみたい。 涙目でかわいい。
「普通に買ってあげるんじゃダメなの? 」
「だって彼氏だよ!? 義理じゃないんだよ? 機械が作ったようなのじゃダメなんだよ!! 」
「わ……わかったよ」
「日曜日とかは? 」
「え……と、日曜日は、レッスンがあるなぁ。 あ、でも夕方からなら? 」
「うん、それでいい! それでいいから! 」
「ちょ、ちょっと友紀っ」
ということで半ば強引に決まった夕方の予定のおかげで、事務所の人たちが行くスイーツバイキングに行けなくなってしまったの。 ああ、あたしのケーキたち……。
ただ、それのおかげで少し終わりが早くなったのは、怪我の功名だったかも。
友紀と駅で待ち合わせして、駅ビルに入ったの製菓材料店を覗いてみると、やはり手作りバレンタイン的なコーナーがあった。
「何を作るか考えてるの? 」
「いやー、それが私に出来るか悩み始めたら決められなくって」
「ここらへんにあるやつなら、何でも大丈夫だと思うよ」
「美咲はどうすんの? 」
あたしはどうするんだろうな。 チョコレートケーキかなぁ。 でも学校で渡せるレベルとなると……。
「ブラウニーかな」
「はい! 先生! 」
「先生って……」
「ブラウニーって難しくないの? 」
「順番に混ぜて焼くだけだからね。 温度さえ間違えなければ。 とにかく材料買って、ウチまで行こっか」
「うんうん」
大地が好きだって言ってたあのチョコレートケーキは、確かクルミが入ってたっけ。 それなら、ヘーゼルナッツも合うかな。 よし、買ってこう。
友紀は、材料がワンセットになってるのをあーでもない、こーでもないと言いながら悩んでいたけど、なんとか決まったみたい。
同じく駅ビルに入ってるお店でラッピング用の袋やリボンも買って、マンションに向かった。
テーブルの上を片付けて、材料を並べていく。 友紀のセットはなかなか便利で、チョコレートや上白糖、薄力粉なんかが計量済みで袋に入っていた。 卵とバターを用意したら、あとは混ぜるだけじゃない。
湯せんでチョコとバターを溶かしたら、溶いた卵を流し入れてかき混ぜる。 ほんのり暖かくて、甘い香りが漂ってくる。
お砂糖、ふるった薄力粉を混ぜたら、刻んだヘーゼルナッツを入れてもう一混ぜ。
オーブンに余熱を入れ始めたら、さっきの生地を型に流し込む。 準備が出来たら、オーブンに投入して25分。 あとは待つだけ。
「え? 終わり? 」
「うん」
「簡単じゃん」
「そだよ。 最初に言ったじゃない」
「あははー。 でも美咲と一緒に作れて嬉しかったん♪ 」
紅茶をいれて話をしていたら、30分なんてあっという間。 表面の焼け具合も良さそうだし、このままちょっと冷まそう。
部屋を見たいという友紀の要望にちょっと迷ったけど、別に困るものはないか、と招き入れた。
「わー、思ってたとおり質素? 」
「どんな風に思ってたのかしら? 」
「あはは。 普段大人しめだしさー。 服、これだけ? 」
友紀は全身鏡の横にあるハンガーラックを指差して言った。 それはクローゼットに入らない分だけ。 冬服はかさばるから。
「ううん、クローゼットの中にもあるよ」
「見ていい? 」
「う……ん、いいけど荒らさないでね? 」
「わかってるっ……て……。 なにこの量!? 」
夏過ぎから秋にかけて、雑誌やブランドとのコラボ企画でいただいた服がいっぱいあるんだよ……。 趣味じゃないの持っていってもらいたいくらい。
かといってあげるのもちょっと違うし、今度フリマにでも出してみようかな。
友紀はあーだこーだ言いながら、服を合わせては鏡を見ている。
「ねぇ、友紀ってさ。 山田くんとどうやって、――その付き合い始めたの? 」
「うーん、流れ? 」
何よその答え! 全然わからないじゃないの。
「流れって……」
「あ、でも向こうがね、言ってくれたんだよ。 俺の彼女になる気ある? って」
「どこで? 」
「んと、学校でやってた試合の応援に行った帰り。 何回か行ってたんだけどさ、北高との試合に負けちゃったあと、ね」
「そうなんだ。 なんだかんだで距離を縮めてたのね」
「ふっふっふ。 クリスマスは間に合わなかったけど、初詣には間に合った、って感じ? 」
そう話す友紀はとても幸せそうで、とても眩しく見えた。 全身から愛されてるオーラが出てる。
「それでね、それでね。 こないだ、初めてキスしちゃった。 学校で」
「ひゃーっ。 どこでどこで? 」
「屋上につながる階段のとこっ」
「大胆! 誰もいなかったの? 」
「そりゃあ確認したってば」
はぁ、キスかぁ。 マンガとかドラマの世界の話かと思ってたけど、もう同級生がそういう歳なんだ……。 なんかドキドキしてきちゃった。
「それで、美咲の方はどうなのよ? 」
「えっ? 」
変な声が出た。
んっと、どう答えたらいいのかな。 あたしは大地が好きで、大地は『千春』が好きで……。 三角関係、というか二等辺三角関係かしら。
「大地とは、えっと〜三角……」
「さんかく? 」
ちょうどその時、玄関でガチャリと音がした。
「ただーいまー。 あれ、なんかいい匂いするー」
「あ、お姉ちゃん帰ってきた」
「そんな時間? ブラウニーどうなったかな? 」
「もう冷めてきたかもね。 見に行こっか」
リビングには、帰って来たお姉ちゃんが鼻をピクピクさせて嗅ぎ回っている姿があった。 犬みたい。
「ちょっと、何してんの」
「だってー、帰ってきたらいい匂いするじゃな〜い? バレンタインの準備かな? 」
「お邪魔してます」
「あら、お友だち? いらっしゃいませー。 上手くできた? 」
「これからよ。 ほら、どいて。 着替えないとでしょ」
「はいはい」
ブラウニーに目をうつすと、焼きたてよりも少ししっとりとした雰囲気で、うまいこと落ち着いてくれたみたい。 型から取り出してナイフで端っこを少し落とした。
はむ。 ――うん、美味しい。 ナッツは香りもいいし、いい感じにアクセントになってる。
友紀にもナイフを渡して、同じように少し味見。 分けてもらったブラウニーはあたしのよりもちょっと甘いけど、お店の材料ならこんなもんなのかな?
「おいひー」
「うん、これなら上出来ね。 あとはデコるならデコってラッピングすればオッケーだね」
「ありがと美咲〜」
「うんうん、さすが美咲。 美味しい美味しい」
「ちょっとお姉ちゃんなに食べてんの!? 」
いつの間にか着替えて出てきたお姉ちゃんを尻目に、友紀は簡単なデコレーションとラッピングを施して、ウキウキしながら帰っていった。
さてと、残った生地でもう一回焼こう。 今度は溶けにくいチョコチップでも入れてみようかな。 第2弾を思案しながらキッチンに戻ると、お姉ちゃんがエプロンをして待ち構えていた。
「先生!お願いします! 」
「えぇ……」
また教えながらやるのかぁ。 一人でやる方が楽なのに。




