第38話 横眉怒目
ウチの高校はつい数日前が終業式だった。 でも、今日まで学校があるところも多いみたい。 その一人がアキちゃんだった。 そのおかげで今日のクリスマスパーティと仕事が重複せずに済んだ。 ありがとうアキちゃん。
お気に入りのブラウスにカーディガンとスカート。 それにバレッタで髪を後ろにまとめれば準備オッケー。
お姉ちゃんはデートだということでもうとっくに出かけたし、お母さんもお仕事に行ってしまった。 戸締りをしてあたしも出かけることにしよう。
待ち合わせ場所である駅の入り口についた時、まだ大地はいなかった。 ここから見える人気のケーキ屋さんには行列ができていて、やっぱりというか、カップルばっかりだった。 歩いている人たちも若い男女の組み合わせがほとんど。 腕を組んだり、手を繋いだりして歩いている。 いかにクリスマスの前日といえど平日の昼間だから、もう終業式を迎えた学生が多いんだと思う。
人間観察を始めて数分、待ち合わせ相手がやってきた。 タートルネックにブーツ、こないだメッセで提案したコーデをバッチリ着こなしてきてる。 こないだ一緒に映画行った時よりも気合が入ってる感じ?
大地もこちらに気づいたようで、小走りで近づいてきた。
「お待たせ、寒いところごめんな」
「ううん、いま来たところだよ」
待ち合わせの常套句で返す。 そして、大多数のカップルがそうしているように、彼氏役を務めてくれる大地と腕を組んだ。
「おい、美咲、どうした」
「今日は彼氏、でしょ? かっこいいよ、大地♪」
大地の顔が少し赤くなったような気がする。 すると、大地は驚くべきことを口にした。
「美咲も――可愛いよ」
――!!
まさか大地の口からこんな言葉が聴けるなんて。 しかも素のときに。 うれしくて思わず下を向いてニヤニヤしてしまった。
「――ありがと」
大地の方は見られなくて、下を向いたまま呟いた。
北口のバス乗り場に向かうと目的のバスはもうそこに待っていて、乗り込んだ途端に出発した。
二人席に並んで座っていたけれど、このまま降りないでどこかへ行ってしまいたい。
――どうかな? なんて思いながら大地を見たらちょうど大地もこちらを見て、バッチリ目が合っちゃった。 大地の方が恥ずかしそうに目をそらすもんだから、あたしは景色を見るふりをしてその横顔をずっと眺めていた。
大地がこちらを見ては目をそらすという行為を何回か繰り返したころに、目的のバス停に着いた。 ここから歩けば十分もかからないうちに唯香の家に着く。
大地はあまり馴染みのない場所なのか、キョロキョロと辺りを見回しては、大きな家に驚嘆していた。 確かにこの地域は古くからの地主さんが多く、由緒正しいといった表現がよく似合う家が並んでいる。
その中の一軒、北条と表札が掲げられた家の前までやってきた。 いつ来ても大きい家だこと。
チャイムを鳴らすと、唯香らしき人の返答があり、程なくしてすぐ脇の扉が開いた。
サンタの帽子を被った唯香が顔を出す。 何をやっても可愛い美少女はこれだから困る。 とはいえ、唯香もちょっと浮かれてる?
「いらっしゃい。 あなたたちが最後よ。 茜も麗奈も、誠司さんももういらしてるの」
「みんな早いね。 誠司さんも無事に来られて良かったじゃん」
「ふふっ。 美咲もね」
唯香があたしの後ろに立っている大地へと目線をずらした。
玄関でブーツを脱いでいる間に、大地へ誠司さんのことを話しておかなきゃならないことを思い出した。 リビングへ続く長い廊下で大地に耳打ちする。
「大地、ひとつだけ。 唯香が慕ってるのはいとこさんなの。 他の人は知らないから、口を滑らせないでね」
「おう」
唯香はリビングの入り口でこちらを伺っている。 小声で承諾の意を示す大地を待って、リビングへと歩みを進めた。
「あれ、美咲まで彼氏連れ〜? 」
「マジ!? バリウケる! ウチいきおくれやん」
久しぶりに聞いた茜と麗奈の声はすごいハイテンション。 あたしたちが来る前に盛り上がってたのかな。
ざっと見回すと知らない男性が一人。 この人が茜の彼氏さんかな。 ちょっとチャラついてる感じ。
久しぶりにお目にかかった誠司さんに会釈して、ソファに座っている麗奈の隣に腰掛けた。 大地へ小さく手招きして、あたしのそばに来るように促す。
勝手がわからない大地はキョロキョロとしながらもあたしのそばにやってきた。
「それでは皆さま揃いましたし、準備ができましたらまずは乾杯しましょうか」
「はい、こちらをみなさん持って」
誠司さんと唯香がまるでシャンパンのような液体が入ったワイングラスを配り歩く。
「スパークリングアップルジュースですよ。 流石にアルコールというわけにはまいりませんからね」
疑問は唯香が先に解決してくれたので、二つ受け取ったうちの一つを大地に渡した。
「それでは、乾杯」
「かんぱーい」
「乾杯! 」
ベルを鳴らすようなガラスの音がいくつも響き渡った。 そのうちの一つがあたしと大地。 何気なく目が合ったけど、自然に笑えた。
「ウチみんなの彼氏知らんっちゃけど。 教えちゃらん? 」
「そうですわね。 ご存知ない方もいらっしゃるし自己紹介でもしましょうか」
みんなの同意が得られたところで、唯香が口火を切った。
「北条唯香です。隣は、誠司さん。 私の大切な人です」
おお、言い切ったね唯香。 でもいとこであることはやっぱり秘密なのね。
「誠司です。 大学生なので、皆さんよりはすこし年上かな」
3年ぶりくらいだけど、以前から大人っぽかった誠司さんは、より男らしさを増して大人の男性といった雰囲気を醸していた。 前は唯香が隣にいても妹っぽさがあったけど、いま見たらとても入り込む隙間のない完璧な美男美女カップルになっていた。
「ウチは、麗奈ね。 ウチだけ彼氏おらんけんウケるっちゃけど。 小学校まで福岡におったんよ」
麗奈は中学の時に引っ越してきて、いきなり学年トップの成績を叩き出した。 そこから一度も首席の座を譲ることなく中学校を卒業した。
この強烈な博多弁や金色に近い茶髪からは、まさか全国トップクラスの学業成績だなんて想像もつかない。
「じゃ、次私ね。 私は、茜。 それで、こっちの彼氏がショージ先輩。 2年生でサッカー部のエース♪ 」
「ウッス」
麗奈の自分だけ独り者といった趣旨の発言から想像したとおり、チャラついた人は茜の彼氏さんだった。
雑誌のインタビューでご一緒したtyphoonのアキラさんを思い出して腰が引ける。 茜ってちょっと悪い感じの人が好きだったもんね。
最後に残されたあたしたちの自己紹介の順番がきた。 さて、大地をなんと紹介すべきかな。
「あたしは美咲。 それで、こちらが大地。 よろしくお願いします」
彼氏、と言えなかったところがあたしの弱さか。
「えっと、大地です。 吹奏楽部でバスクラリネット吹いてます」
「プッ、お前男のくせに吹奏楽部なん? 女目当て? 」
なっ!? なにコイツ!
大地が部活でどれだけ頑張ってるのか知りもしないで。ひっどい!
「ちょっとショージ先輩!? 」
「なんだよ、茜だって思うだろ? 」
思わないわよっ! もう、この人嫌い。
一言文句言ってやらなきゃ気が済まない。
「美咲」
「――っ」
発しようと思った言葉は、大地に気勢をそがれて口にすることはできなかった。
何で止めるのよ。 ポッと出てきた奴にあんなこと言われて悔しくないの!? そう思って大地に目で訴えかける。
それでも大地は、穏やかな表情を崩さなかった。
「美咲、わかってる。 ありがとう」
あたしの気持ちをわかっていて、そこまで言うのなら、あたしが言えることは何もない。
辛うじてできたのは、握られた手を強く握り返すことだけだった。
期間があいてしまい、失礼しました。
繁忙期、というやつです。




