第27話 焦り
『今日、カフェ図書館でバスクラさんにお会いしましたよ。 おもしろい方ね』
自分のスマホじゃないから差出人が誰だかわからないはずのメッセージ。
でも、わかる。 この文体、そしてカフェ図書館。 これは、唯香だ。
だけど――。
『なんで唯香が大地に会ってるの!?』
『たまたまですわ。 それにしても、名前で呼び合ってるのかしら? 』
――いけない、大地って打ってる……。 これはもう、あたしの気持ちを唯香に話しておいた方がいいのか……。 でももし唯香が誠司さんと結ばれるのを諦めて大地のことが気になってるとかだったら……。
『メッセのときは、アカウントが『大地』だからそう言ってるだけ』
そんなルールがあったとしても唯香にやる必要なんてないんだから、言い訳になんて全くなっていない。
大地と菊野くんの呼称問題は早めに解決しておかないと、いつかボロが出そう。
『それで、なんであたしに?』
『これといったことはないのですよ。 以前、美咲と菊野さんが一緒に下校されているのを見たことがありましたので、仲がよろしいのかと思いまして』
『それはまぁクラスメイトだし、駅も一緒だしね。 あ、だから唯香も一緒だよ』
『そのようですわね』
大地ってばそんなことまで話してたの?
いつか駅でお会いするかもしれないですね、と送られてきて唯香とのメッセのやりとりは終わった。
なんで休みの日に会ってるの? 偶然って本当? わざわざあたしに伝えたのはなんで?
頭の中を疑問が次々と浮かび、ぐっちゃぐっちゃと引っ掻き回されている。 唯香はいじわるでそんなことをするような人ではないから、あたしが勝手に考え込んでるだけなんだと信じたい。でも……。
――もし、大地が唯香のことを好きだったら、あたしはどうしたらいいんだろう。
――もし、唯香が大地のことを好きだったら、あたしはどうするんだろう。
ハッと我に返ったとき、勉強をしていたはずの数学のノートには、自分の想いを溢した落書きで埋まっていた。
大地が好き。 なんで。 無愛想に見えて実は優しいの。
何度も助けてくれた。 車に轢かれそうになった時も。
あたしはどうしたいの? 大地に好きになってもらいたい。 唯香に取られたくない。 大地は誰が好きなんだろう?
せっかく大地と一緒に出かける日だというのに、目覚めはあまり良くなかった。 明け方に目が覚めたときさすがに時間が早すぎるとは思ったものの、昨日の考え事を思い出したら眠れなくなってしまった。
持て余した時間でスマホを見ていたら、とある記事が目に付いた。
『コンビニ店員がアイドルに恋をしましたが何か』
事務所の先輩である楠千歳さんが主演を務めている映画だった。
ある投稿サイトの小説が原作になっているみたい。 あらすじを読んでいると、あたしと大地のようにも見えてくる。
地味なコンビニ店員さんは大学生で、同じ大学に通う変装しているアイドルの子をたまたま助けることになった。 そこから秘密のやりとりをしたり、こっそりとデートをしたりしながら仲を深めていく。
アイドルは、他の芸能人やスポーツ選手なんかからアプローチを受けるも、全てを捨ててコンビニ店員のところへ向かう。
そのまま二人で貧乏生活をおくるかと思いきや、実は大企業の社長の息子が社会勉強のためにアルバイトをさせられていただけだった、という話。
評判としては、最後のどんでん返しが賛否あるみたいだけど、概ね好評といった感じ。 今日、スマホ買ったあと時間あったら大地を誘ってみようかな。
「ずいぶんと気合入ってるわね」
「そう? いつも通りだよ」
「そのニット、おめかししたいときにしか着ないじゃん」
「へっ? そう? 」
「あんた気づいてなかったの。 一体誰とおでかけかしら。 眼鏡だから学校の人でしょ? 」
やだ、もう。 なんでお姉ちゃんはいつもこんなにお見通しなんだろう。
「別にいいでしょ。 スマホ買いに行くだけだもん」
「さ、私も駅に偵察に行こうかしら」
「ちょ、ちょっと、ホントにやめてよ!? 」
「冗談よ。 予備校行くから駅には行くけどね」
「もう、冗談キツいよお姉ちゃん」
さすがに尾行まではされないと思うけど、油断ならない。 ちょっと時間は早いけど、もう出発しよう。 文房具屋さんに寄ってれば時間は潰せるし。
「いってきます」
「いってらっしゃーい。 彼氏によろしく」
「違うってば! 」
まだ待ち合わせには三十分ほどある。 さすがにまだ来ないだろうし、文房具屋さんをのぞいてみることにした。
この文房具屋さんは一階に学校で使うような事務的な文具、二階に万年筆や画材なども売っている。 あたしは、ここの二階が大好きだった。
試し書き用に置いてある万年筆を手にとって、さらさらっと『岬』と書いてみる。 半年以上名乗っているはずなのに、いまだにしっくりこない。
サインも小四のときに作ったのをアレンジしただけ。 そのサインを試し書きしてみる。 うーん、いまいち。 今度、原田さんに相談してみよう。
文房具屋さんにいると時間はあっという間に過ぎていく。 時計を見れば、もう約束の十分前になっていた。 名残惜しい気はしたけれど、店内の階段を降りて、駅前の噴水広場に向かった。
二分もかからずに広場についたけど、まだ大地は来ていないみたいだった。 目印になる時計のそばにあるベンチに腰掛けて、スマホでニュースを見ていた。 『typhoon』の記事もあったけれど、とても以前のような気持ちでは見られない。
次の記事を、と思った時にスマホがなった。 大地からのメッセだった。
『ごめんちょっとおくれめす』
遅れます、かな? 焦るようなこともないし、気をつけてきてくれればいいかな。 その旨と居場所をメッセで返して、またスマホの記事に目を落とす。
二、三個記事を読み終えたあたりで、肩がポンポンと叩かれた。
遅れるって言ったわりに早いね? と思って顔を上げると、そこに立っていたのは大地ではなく、クラスの委員長である倉田さんだった。




