第25話 女四人寄ればかしましい
ちょっと短いです。
大地とのひとコマが終わった後は、バンドの準備ができるまで少しトークでつなぎ。
アドリブでのフリートークにしていたけど、話題はやっぱりバスクラリネットになった。
「ハルってバスクラリネット好きだったの? 」
「うん、好きだよー。 だってさっきのコーンスープのCMもバスクラリネットだし」
「会場のみなさん、コーンスープのCM知ってる方〜手を挙げてー」
アキちゃんの呼びかけに客席のほとんどから「はーい」といった声とともに手が挙がった。
「わっ、すごい! 」
「いっぱい見てもらえてうれしい! 」
「もっと買ってほしい。 そしたらもっとお給料もらえる」
「ちょっとフユ打算的っ! 」
いつもの夏冬コンビの漫才に会場が沸いた。
その時、アキちゃんからスタンバイの指示が出た。 それと同時にMCが入る。
「それでは、準備ができましたので次の曲に行きましょう! 」
あたしは、客席から見ると右側の立ち位置。 つまり、バスクラの前に位置する。
そしてこの『恋のシーズン』は、客席に背を向けた状態から歌い出すから、吹奏楽部のみんなの方を向いている。
というわけで、右手を掲げたポーズのまま、目の前にいる大地と視線がぶつかった。
モールでは見られていることを意識し過ぎちゃったけど、もうあの時のあたしとは違う。 今日は自分でできる最高のパフォーマンスをしよう。 でも、楽しく!
大地には、その思いを込めて、『一緒に楽しもうね』と、口パクで伝えた。 ウインクはオマケ。
さあ、今日も全力で歌って、踊ろう!
今日の三曲はあっという間だった。 単純にお客さんの人数が多かったこともあるけど、凄まじい盛り上がりたった。
アンコールも予定通り一曲やって終わりだったけど、あたしとしてはもっとやりたかったくらい。
控室に戻ってきたあとも興奮はしばらく冷めなかった。 アキちゃんもパタパタとうちわを仰ぎなから「すっごい楽しかったね」と、興奮気味に話していた。
原田さんからの評価も上々で、会心の出来と言ってよさそう。 みんなそれぞれソロで活動する場面も経験して、一段レベルアップしたみたいだね、とのこと。
「いやー、今日はいい一日だった。 大地くんにも会えたし」
「まだ言うのね、それ」
「だってぇ、ハルってどっちかっていうと男の人苦手じゃない? そのハルが心を奪われるんだから、気になるじゃない」
むぐ、と声が詰まる。 よく一緒に行動してるだけあって、ナツはやっぱりよく見てるね。
「それで、一番大好きな『バスクラリネット』か。 あんな場面で告白紛いなこと言って」
「告白? 」
「だから、『大好き』って」
「違うよアキちゃん。 あたしホントにバスクラリネット好きだもん。 楽器の好みを聞いたところで告白だなんて誰も思わないよ? 」
「……」
アキちゃんは、ナツやフーちゃんと顔を見合わせていた。 あたし変なこと言った?
「ハルちゃんって天然だっけ」
「うん、そうね」
「まあ、時々」
「ちょっとみんな聞こえてるわよっ」
女三人寄ればかしましいと言うけれど、ついツッコんでしまうあたしも、かしましいうちの一人よね。
今日はこのあと、あたしは『売れっ子×駆け出し ミックスインタビュー』の企画のために都心へ移動。 ナツは明日のグラビア撮りで伊豆へ前乗り。 フーちゃんはゲームの実況配信が入ってて、アキちゃんはアツシさんのレコーディング見学。 みんなそれぞれ予定が入ってるから別行動になる。
原田さんと小野寺さん、それに他のスタッフさんも交えて今後の予定を確認したところで、仕事のスマホにメッセが入ってきた。 メッセをくれそうな人はここに集まってるはずだから、誰だろう?
『コンサートお疲れさま。 よかったら学校案内するけど』
お誘いのメッセをよこしたのは大地だった。 横から画面を見ていたナツがニヤニヤとこっちをみる。
『ごめんね。 今日はこの後別の場所でイベントがあって。 また今度! 』
『(スタンプを送信しました)』
続けて、パンダが土下座しているスタンプを送る。
ちょっと貸してみ、とスマホを奪われた。 手早い動きで何やら操作し始める。
――やばい。 何か変なこと送ろうとしてないでしょうねっ。
慌てて取り戻そうとすると、ナツはスマホを耳に当てた。 メッセの返信じゃなく、通話をしようとしていたらしい。 いやいやいや、ダメでしょ!
「あ、大地くん? 夏芽でーす。 演奏よかったね。 ところで、私に推し変する気ない? 」
「ちょっとナツ! 返しなさい! 本気で怒るよっ! 」
「ひー」
「んもうっ! もしもし大地? 相手にしないでよ! 聞いてる!? 」
受話口からは、フンと鼻で笑ったような声が聞こえた。
――どういう意味よ。




